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最終章
あなたが好きなのは /リリネリア
しおりを挟む「…………………あなたは、王太子なのよ…………!?」
「………そうだね」
「いずれ、国王になるの!!そんな人が、なんで、なんでっ…………!!」
「………リリィは、どうしたい?リリィは、僕が嫌い?憎い?死ねというのなら、そうする。だけど、リリィは違うよね。少なくともーーーあなたは、それに苦しませられてきたんじゃない………よね?」
私が死ねといえば躊躇なく死ぬというレジナルド。きっとその言葉は嘘じゃない。嘘じゃないと分かってしまう。レジナルドは冗談でこんなことを口にする人じゃない。それに、嘘を言う人でもない。こんな場面では特に。だからこそ、分からなくなってしまう。何がしたいの。
どうして。
どうしてそこまで。
「どうして………………どうして、そこまで、するの」
あなたも、被害者なのでしょう?
被害者という言葉は違うのかもしれない。だけど、少なくともレジナルドは悪くない。なのに、どうしてそこまでするの。
私の。私なんかのために。私は面倒臭い女だ。厄介な女だ。
こんな事故物件、普通の男なら忌避する。それを。
それをなぜレジナルドはーーー。
「愛してるからだよ」
ひゅ、と息を飲んだ。顔を上げる。涙で濡れた視界に、レジナルドが映った。ぼんやりと揺れる視界で、私は泣きたくなった。いや、もう泣いているのか。その胸にすがりついて、訳もなく泣きわめいてしまいたかった。それはきっと、八歳の時に叶わなかったことなのだろう。そう思うと。あの時の感情が蘇ってきた。十年を経て、私はまたあの時の少女になり下がろうとしていた。
「…………………………」
「………リリィ。今日は混乱しているだろうし、また日を置いてーーー」
「ねえ!」
思わず、声をはりあげていた。レジナルドは一瞬びくりとしたものの、浮かしていた腰をまた下ろした。私は俯いたまま、レジナルドに話しかけた。手をぎゅ、と握る。私の望みなんて、分からない。もし。万が一私がレジナルドのそばにいたいと言って、それが叶うのか。私は、私は。レジナルドのそばにいたいのだろうか?分からない。でも、私だって。私だってそれなら。ずっとーーー。
薔薇園での約束を、果たしたいと、思っていたのに………
「あなたは今後、どうするの」
「どう………って?」
「リリーナローゼと離縁して、どうするのよ。あなたは王太子なのよ?ゆくゆくは国王になるの。なんで離縁なんてしたの。ううん、離縁してどうするの。妃は。あなた、まさか誰も娶らないとか、そんなこと言わないでしょ」
レジナルドは先程私を愛しながらほかの女を愛す真似はできない、と言っていた。だけどそれを許さない立場ということは私自身が一番よくわかっていた。レジナルドはそう言っても、きっと周りは許さない。王太子に妃がひとりもいないなんてありえない。国王になったらもっとだ。独身で生涯を終える国王なんて聞いたことがない。そもそもそうなったら世継ぎはどうするのだ。子供は。跡継ぎは。私が黙って聞いていると、レジナルドが笑うのが気配だけでわかった。思わず、顔を上げると、やはりレジナルドは笑っていた。そして目が合うと、小さく「ごめんごめん」と謝られた。なぜ笑われているのかわからない。私はレジナルドを睨んだ。彼は滲む苦笑を浮かべて、やがて口を開いた。
泣きたいような、喚きたいような、悲しいような、嬉しいような。よくわからない感情。ああ、これは子供の八つ当たりに似ている、と思いあたった。
「そうだよ。そのつもり。僕は、生涯あなた以外の女性は妃に迎えない」
「は…………。そんなの、許されないってことくらいあなたも知ってるでしょう。無理よ、そんなの」
私がせせら笑うように言うと、しかし私よりもしっかりと考えていたらしいレジナルドは、僅かに首を傾げて笑った。
まるでそれが、幼い時のそれに似ていて。今だけは、私とレジナルドは十年前に戻っているような気がした。
強気で、いつも偉そうにしていた私に、それを宥めながら私の無鉄砲な提案を具現化しようと頭を悩ませるレジナルド。突拍子もないことを言って無理だと言う私に、いや出来るかもしれない、なんてお兄さんのような顔をしたレジナルドがいて。
あの日を不意に思い出した。
あの、薔薇園でのひと時を。幼い私はあの薔薇園が好きだった。匂うような薔薇の匂いも、レジナルドの優しい笑顔も嬉しかった。
大好きだった。
大好きだったからこそ…………失われて、悲しかった。
ショックだった。
泣きたいくらいの絶望を味わされた。
想いが深ければ深いほど、その苦しみは想像を絶するもので。
「僕が男色家だと噂を流せばいい」
「…………………はぁ?」
不意に言ったレジナルドに、今度こそ私は彼の頭を心配した。
男色家?
レジナルドが?
男色家………ってあれよね。男性が、好きな男性…………。
同性を愛する男性のこと。
それが、レジナルド?うまく結びつかないが、そういえば彼は男性からも受けが良かったのを思い出す。
混乱した思考がさらに混乱を呼び、私はそっと彼に話しかけた。
「えっ…………と。レジーは男性がすき………なの?」
「僕が好きなのはリリィだけだよ。男も女も関係ない」
「ああ、そ…………う」
あっさりと私が好きだと告白され、思わず口ごもった。
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