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最終章

欲しかった言葉 /リリネリア

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(私は、レジナルドに。私を、覚えてて欲しかった…………)

そう。そうなのだ。多分。それが一番すとんと胸に落ちた。私のことなど忘れたと言わんばかりの彼に、傷ついた。私を忘れた彼を憎く思った。あの時の、八歳のあの時の選択はきっと正解だった。だけど、それにはあまりにも言葉が。時間が足りなかった。私は、レジナルドに切り捨てられた。それが、きっとすごく悲しくて。怖かった。

八歳のあの時の感情がそのまま固まってしまって、時間の経過とともにきっとそれは、憎悪に形を変えた。

だけどそれは張りぼてで、ただの見せかけだった。私の感情は八歳のあのころから変わっていない。

ずっと、ずっと。私は、悲しいだけだった…………。

揉み合いになって、彼女が私の髪を掴んだ。もみくちゃになる。ナイフが目の前をきらめく。銀色の光だ。
不意に、鋭い声が地下に響いた。

「彼女に触れるな!もう一度言う、彼女は私、レジナルド・リームヴ………この国の王太子である私の、大切な人だ!!下手なことをしてみろ。死より辛い思いをすることになる!!」

その言葉に、女性の手が止まった。
私の手も、止まった。その瞬間を見逃さず、少し離れたところにたちながら私たちを見守っていたガディアスさんが女性に駆け寄ってその手からナイフをはじき飛ばした。すぐさま女性の手が拘束されて、私は開放された。
解放されてなお、私は自失していた。今、レジナルドはなんて…………?呆然としているのは私だけではなかった。女性を拘束したガディアスさんも、女性も、周りの人間はみな驚いたような顔をしていた。でも、その中でも私が一番、ビックリしていた。
やがて上の方から物々しい音が聞こえる。鎧の音だ。

「制圧しゅーりょー。怪我人は手当するから、早く地下からあがってきてくれるかな」

エレンの声だ。その声にみながハッとしたように動き出す。だけど私は。私だけは。その場に足が縫い止められたように動けなかった。

私を抜いた六人の人達が地上に上がる。女性は項垂れていて、その手は震えていた。彼女には何か理由があったのだろうか。不自然な程に震えていて、声が上擦っていた。きっと、本意じゃなかったのだろうなぁ………。そう思っている私の前に、見慣れた、見慣れぬ、白金の髪が見えた。地下は灯りが少ないから、薄暗い。彼の。レジナルドの髪は銀色のようにも見えた。

「………遅れて、ごめんね」

それは、あの日。
八歳のあの日に。欲しかった言葉だった。







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