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レジナルド・リームヴ
ちぐはぐな父子
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レジナルドはひとつ、リリネリアに贈り物をしたが果たして彼女はそれを使ってくれるだろうか気になった。少しやりすぎたと自覚はあったが、リリネリアに似合うものと考えたら一からデザインを考えていた。レジナルドの想いは重い。純愛なんて綺麗な言葉では片付けられない。それは、執着に近かった。やっと見つけたリリネリア。彼女のために拵えたネックレスは、発注から何から特に気合いを入れてしまった。恐らくそのことは既に国王にも報告がいっているだろう。それを聞いて彼はどう思うだろうか。今までてきとうな、と言ったら言葉は悪いがそれなりの品を渡していたリリーナローゼに、突然愛の告白でもするのかと勘ぐるだろうか。
それともリリネリアと再会を果たしたことを既に知っているだろうか。
レジナルドは断頭台にのぼるような気分で王の執務室へ向かった。そしてーーーこの国の王に。自分の父親に、問いただした。思った以上に冷静な声が出た。
「リリネリア・ブライシフィックのことについて、お聞きしたいことがあるのですが」
そう言うと、第四十六代国王ーーーガシフィット・リームヴはその髭を指で撫でつけた。それは父が動揺した時にするくせだと、レジナルドは見抜いていた。
「突然何の話だ?」
「彼女と私の婚約破棄を無理に断行した理由は何ですか」
「…………なんの話をしている?」
「隠し立てはしないでください。私は、私の持てる手を使って事情を把握しています。この度はあなたの弁護が聞きたくてーーーいや、あなたの意見が聞きたくて王都まで戻ってきました」
あえてレジナルドが全て知っていると言わんばかりに言うと、国王はしばらく黙っていた。そして、やがて深いため息をつく。
「もう、頃合かとは思っていた…………」
呻くような声を出し、国王は席を立つ。既に侍従は席を外している。予めレジナルドが人払いをしていた。レジナルドと国王の機密話はよくある事だったから、特に怪しまれず侍従を追い払うことが出来た。
国王は立ち上がり、レジナルドに背を向けた。外を降る新雪を眺めながら彼が口を開くのを待つ。
その背中を見て、レジナルドは意外にも冷静に、今なら殺せるとなんとなしに思っていた。もちろん実行はしない。だけど、易々とその背を見せた父王にも、なにかか考えがあるのだろうと察する。どうやら父王は深い罪悪感を抱いているらしかった。
「あの子がダメだと申し立ててきたのはブライシフィック公爵だ」
「……………」
「リリネリアは、あの子は…………本当に可哀想な子だったな。事件後、目が覚めてからは男を全く寄せつけなくなった」
「……………」
レジナルドが掴んでいるのはリリネリアが別邸で療養していたこと、彼女の男性恐怖症は目も当てられないほどであったこと。そして、十三歳になってからは別邸を出て辺境の地で暮らしていたことなど、事実のことしか分かりえない。王家と公爵家でどう言った話し合いがあったかまでは分からないのだ。
「公爵がな……………言ったんだよ。あの娘に王太子妃は無理だ、と」
「ーーー」
それを、公爵が勝手に決めるのか!と既のところでレジナルドは叫びそうになった。それを堪えたのは、強い力で拳を握ったからだ。指に着けた指輪がギリギリと肌にくい込んで既で理性を取り戻す。
「ちょうどその時、お前に思ってもみない縁談が来ていた。……………リリーナローゼ妃との縁談だ」
「それで…………リリネリアを死に葬ったことにして、私に妃を娶らせようとしたと?」
乾いた声が漏れる。いっそ笑えてしまったらどんなに楽か、と思った。レジナルドの嘲笑うような声に、国王は外に降り積る雪道から視線を外した。真っ直ぐに、親と子の視線が交わった。
「レジナルド。私は、お前に謝罪することは無い」
「…………」
「何より、お前はそれを望んでいないだろう。………あの頃、あの判断が、一番だったと今でも私は思っている。お前はあの子に会ったのなら分かるだろう。あの娘には、とてもではないが王太子妃はーーー」
「それを決めるのは私であって、あなたではない!!」
限界を超えた口から、咆哮のような声が漏れた。我慢しろと、強く強く握りしめた手のひらからは指輪がくい込みすぎていて血が滴っていた。涼やかで落ち着いた王太子とは思えない、荒らげた声が口から飛び出すのを、レジナルドさ抑えようがなかった。国王はレジナルドのその様子に僅かに目を細めて、そして、告げた。
「お前がーーーお前が、リリーナローゼ妃と夜を共にしないのは、それのせいか」
「何を……………仰ってるんです?あなたが、そうさせたんでしょう。陛下。あなたには分からないでしょう。私の苦しみが、悲しみが。何よりも大切にして、守ろうと思ったものを無残に散らされ、挙句見舞いを拒否されているあいだに彼女が死んだ。そう告げられた私がどう思ったか、あなたは考えたことがありますか?」
それともリリネリアと再会を果たしたことを既に知っているだろうか。
レジナルドは断頭台にのぼるような気分で王の執務室へ向かった。そしてーーーこの国の王に。自分の父親に、問いただした。思った以上に冷静な声が出た。
「リリネリア・ブライシフィックのことについて、お聞きしたいことがあるのですが」
そう言うと、第四十六代国王ーーーガシフィット・リームヴはその髭を指で撫でつけた。それは父が動揺した時にするくせだと、レジナルドは見抜いていた。
「突然何の話だ?」
「彼女と私の婚約破棄を無理に断行した理由は何ですか」
「…………なんの話をしている?」
「隠し立てはしないでください。私は、私の持てる手を使って事情を把握しています。この度はあなたの弁護が聞きたくてーーーいや、あなたの意見が聞きたくて王都まで戻ってきました」
あえてレジナルドが全て知っていると言わんばかりに言うと、国王はしばらく黙っていた。そして、やがて深いため息をつく。
「もう、頃合かとは思っていた…………」
呻くような声を出し、国王は席を立つ。既に侍従は席を外している。予めレジナルドが人払いをしていた。レジナルドと国王の機密話はよくある事だったから、特に怪しまれず侍従を追い払うことが出来た。
国王は立ち上がり、レジナルドに背を向けた。外を降る新雪を眺めながら彼が口を開くのを待つ。
その背中を見て、レジナルドは意外にも冷静に、今なら殺せるとなんとなしに思っていた。もちろん実行はしない。だけど、易々とその背を見せた父王にも、なにかか考えがあるのだろうと察する。どうやら父王は深い罪悪感を抱いているらしかった。
「あの子がダメだと申し立ててきたのはブライシフィック公爵だ」
「……………」
「リリネリアは、あの子は…………本当に可哀想な子だったな。事件後、目が覚めてからは男を全く寄せつけなくなった」
「……………」
レジナルドが掴んでいるのはリリネリアが別邸で療養していたこと、彼女の男性恐怖症は目も当てられないほどであったこと。そして、十三歳になってからは別邸を出て辺境の地で暮らしていたことなど、事実のことしか分かりえない。王家と公爵家でどう言った話し合いがあったかまでは分からないのだ。
「公爵がな……………言ったんだよ。あの娘に王太子妃は無理だ、と」
「ーーー」
それを、公爵が勝手に決めるのか!と既のところでレジナルドは叫びそうになった。それを堪えたのは、強い力で拳を握ったからだ。指に着けた指輪がギリギリと肌にくい込んで既で理性を取り戻す。
「ちょうどその時、お前に思ってもみない縁談が来ていた。……………リリーナローゼ妃との縁談だ」
「それで…………リリネリアを死に葬ったことにして、私に妃を娶らせようとしたと?」
乾いた声が漏れる。いっそ笑えてしまったらどんなに楽か、と思った。レジナルドの嘲笑うような声に、国王は外に降り積る雪道から視線を外した。真っ直ぐに、親と子の視線が交わった。
「レジナルド。私は、お前に謝罪することは無い」
「…………」
「何より、お前はそれを望んでいないだろう。………あの頃、あの判断が、一番だったと今でも私は思っている。お前はあの子に会ったのなら分かるだろう。あの娘には、とてもではないが王太子妃はーーー」
「それを決めるのは私であって、あなたではない!!」
限界を超えた口から、咆哮のような声が漏れた。我慢しろと、強く強く握りしめた手のひらからは指輪がくい込みすぎていて血が滴っていた。涼やかで落ち着いた王太子とは思えない、荒らげた声が口から飛び出すのを、レジナルドさ抑えようがなかった。国王はレジナルドのその様子に僅かに目を細めて、そして、告げた。
「お前がーーーお前が、リリーナローゼ妃と夜を共にしないのは、それのせいか」
「何を……………仰ってるんです?あなたが、そうさせたんでしょう。陛下。あなたには分からないでしょう。私の苦しみが、悲しみが。何よりも大切にして、守ろうと思ったものを無残に散らされ、挙句見舞いを拒否されているあいだに彼女が死んだ。そう告げられた私がどう思ったか、あなたは考えたことがありますか?」
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