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レジナルド・リームヴ

掴み取る正解

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ーーー…………それを、あなたが言うの?

ーーーなんで、今更会いに来たの?私を笑いに来たの?無様な私を見て、楽しかった?

ーーーあなたは今、きっと。とーっても幸せなんでしょうね!羨ましいわ。私が喉から手が出るほど欲しがった幸福を、あなたは、あなたたち﹅﹅は手に入れたってことなのでしょう?

ーーーふふふふふ。ねぇ、これで満足?

そうやって、狂ったようにリリネリアは笑っていた。最初、レジナルドは呆然としていた。リリネリアが何を言い出したのかよく分からなかったからだ。だけど、よくよくリリネリアの言葉をかみ砕けば、どこかおかしいことにすぐ気がついた。そもそも、会話が噛み合わっていない。

今更私を笑いに来たの、とリリネリアは言っていた。
そして、レジナルドが幸せになっていると信じて疑っていなかった。リリネリアはこうも言っていた。リリネリアが喉から手が出るほど欲しがった幸せを、レジナルドが掴んでいると。いや、レジナルドたち﹅﹅が掴んでいると。そう信じて疑っていないようだった。
しばらく驚いて黙っていたレジナルドであったが、元来レジナルドの記憶力はいい。そうでなければ王太子など務まらない。短い間で持ちえた事実とリリネリアの言葉を照合する。

ーーーリリネリアは、僕が幸せになると知って、婚約破棄した………?

そうであれば、話の筋は通ってくる。リリネリアの支離滅裂に思えた言葉も、納得がいくものだった。確か、リリネリアと婚約破棄してすぐ結ばれた婚約は、他国の王女ーーー。今は妃であるリリーナローゼとのものである。リリネリアはそのことを言っている………?リリーナローゼとの婚姻に踏切った理由は同じリリィであったから、というとてもでは無いがリリーナローゼに聞かせられるものではないものだった。だけど、リリーナローゼとの婚約はレジナルドが気づいた時点で既に結ばれたものだったのだ。
レジナルドはリリネリアと別れたあとも黙って考えていた。リリネリアはレジナルドがリリーナローゼを好きだと思っている………?だとして、それはなぜだ………?あの頃、今から十二年前。あの凶悪な事件が起きるその時まで、レジナルドはリリネリアが好きだったし、それは今も変わらない。それはリリネリアも知っているはずだ。
言葉は少なかったけど、確かにレジナルドはリリネリアを想っているような仕草や動作をしていた。彼女の髪に花びらがつけば優しくそれを取ってあげたし、まだ年幼い彼らは抱き合ったり口付けたりはしなかったけど、その代わりレジナルドはよくリリネリアの髪に触れていた。贈り物だって良くしていた。誕生日のパーティは必ず一緒にいたし、よく手も繋いでいた。あの頃に誤解されていたとは考えにくい。それに、もしレジナルドが隣国の王女をすきだとリリネリアが思い込んでいたら、あの時もっと関係はギクシャクしていたはずだ。今はともかく、昔のリリネリアは取り繕うことなどできなかった。まだ8歳の少女だったのだから。

「誰かに入れ知恵された、か…………」

ぽつりと呟いたそれは、しかし何よりも確信めいたものがあった。言ってから、その可能性が非常に高いと感じた。そもそもレジナルドもリリネリアと会話をしたのは実に十年以上ぶりだったからだ。お互いの会えない間に周りのものが何がしかの吹聴をしたのであれば、全てに納得がいく。

一番可能性が高いのは公爵家だろう。
リリネリアが王族に嫁ぐ資格を失ったと判断して婚約破棄に踏み切ったのかもしれない。その可能性は非常に高いだろう。そう思うと、レジナルドは胃の腑から混み上がるような強い衝動を感じた。ちょうど、強い蒸留酒でも流し込んだような気分だった。

「………そうだとして」

もし、そうだったら、レジナルドはどうするのだろう。今まで築いてきた公爵との信頼関係など砂の山のようにあっさりと消えていくのを、既に感じていた。リリネリアが生きているのを、あの人が知らないはずがない。そして、それは国王も同じーーー。

それに、リリネリアは婚約破棄に同意したようには見えなかった。いや、それに不服はなさそうだったが、しかしそれを恨んでいるようにも見えた。私には得られなかった幸福を、レジナルドたちは持っていると彼女は言っていた。この場合のあなたたち、がレジナルドとリリーナローゼであれば話の筋は通る。自分とは婚約破棄して、捨てておいて。あなたは幸せになるのかと、そう詰ったのだろう。恐らく、その意味合いが強い気がした。

目の前がチカチカするような脱力感に襲われた。レジナルドは王都行きを決めた。ひとりで向かうのは危険だというエレンをリリネリアの元に置き、自分は数名の騎士を引き連れて帰途につく。逸るような、臓腑が掴まれたような感覚がぬぐえなかった。
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