36 / 71
レジナルド・リームヴ
掴み取る正解
しおりを挟むーーー…………それを、あなたが言うの?
ーーーなんで、今更会いに来たの?私を笑いに来たの?無様な私を見て、楽しかった?
ーーーあなたは今、きっと。とーっても幸せなんでしょうね!羨ましいわ。私が喉から手が出るほど欲しがった幸福を、あなたは、あなたたちは手に入れたってことなのでしょう?
ーーーふふふふふ。ねぇ、これで満足?
そうやって、狂ったようにリリネリアは笑っていた。最初、レジナルドは呆然としていた。リリネリアが何を言い出したのかよく分からなかったからだ。だけど、よくよくリリネリアの言葉をかみ砕けば、どこかおかしいことにすぐ気がついた。そもそも、会話が噛み合わっていない。
今更私を笑いに来たの、とリリネリアは言っていた。
そして、レジナルドが幸せになっていると信じて疑っていなかった。リリネリアはこうも言っていた。リリネリアが喉から手が出るほど欲しがった幸せを、レジナルドが掴んでいると。いや、レジナルドたちが掴んでいると。そう信じて疑っていないようだった。
しばらく驚いて黙っていたレジナルドであったが、元来レジナルドの記憶力はいい。そうでなければ王太子など務まらない。短い間で持ちえた事実とリリネリアの言葉を照合する。
ーーーリリネリアは、僕が幸せになると知って、婚約破棄した………?
そうであれば、話の筋は通ってくる。リリネリアの支離滅裂に思えた言葉も、納得がいくものだった。確か、リリネリアと婚約破棄してすぐ結ばれた婚約は、他国の王女ーーー。今は妃であるリリーナローゼとのものである。リリネリアはそのことを言っている………?リリーナローゼとの婚姻に踏切った理由は同じリリィであったから、というとてもでは無いがリリーナローゼに聞かせられるものではないものだった。だけど、リリーナローゼとの婚約はレジナルドが気づいた時点で既に結ばれたものだったのだ。
レジナルドはリリネリアと別れたあとも黙って考えていた。リリネリアはレジナルドがリリーナローゼを好きだと思っている………?だとして、それはなぜだ………?あの頃、今から十二年前。あの凶悪な事件が起きるその時まで、レジナルドはリリネリアが好きだったし、それは今も変わらない。それはリリネリアも知っているはずだ。
言葉は少なかったけど、確かにレジナルドはリリネリアを想っているような仕草や動作をしていた。彼女の髪に花びらがつけば優しくそれを取ってあげたし、まだ年幼い彼らは抱き合ったり口付けたりはしなかったけど、その代わりレジナルドはよくリリネリアの髪に触れていた。贈り物だって良くしていた。誕生日のパーティは必ず一緒にいたし、よく手も繋いでいた。あの頃に誤解されていたとは考えにくい。それに、もしレジナルドが隣国の王女をすきだとリリネリアが思い込んでいたら、あの時もっと関係はギクシャクしていたはずだ。今はともかく、昔のリリネリアは取り繕うことなどできなかった。まだ8歳の少女だったのだから。
「誰かに入れ知恵された、か…………」
ぽつりと呟いたそれは、しかし何よりも確信めいたものがあった。言ってから、その可能性が非常に高いと感じた。そもそもレジナルドもリリネリアと会話をしたのは実に十年以上ぶりだったからだ。お互いの会えない間に周りのものが何がしかの吹聴をしたのであれば、全てに納得がいく。
一番可能性が高いのは公爵家だろう。
リリネリアが王族に嫁ぐ資格を失ったと判断して婚約破棄に踏み切ったのかもしれない。その可能性は非常に高いだろう。そう思うと、レジナルドは胃の腑から混み上がるような強い衝動を感じた。ちょうど、強い蒸留酒でも流し込んだような気分だった。
「………そうだとして」
もし、そうだったら、レジナルドはどうするのだろう。今まで築いてきた公爵との信頼関係など砂の山のようにあっさりと消えていくのを、既に感じていた。リリネリアが生きているのを、あの人が知らないはずがない。そして、それは国王も同じーーー。
それに、リリネリアは婚約破棄に同意したようには見えなかった。いや、それに不服はなさそうだったが、しかしそれを恨んでいるようにも見えた。私には得られなかった幸福を、レジナルドたちは持っていると彼女は言っていた。この場合のあなたたち、がレジナルドとリリーナローゼであれば話の筋は通る。自分とは婚約破棄して、捨てておいて。あなたは幸せになるのかと、そう詰ったのだろう。恐らく、その意味合いが強い気がした。
目の前がチカチカするような脱力感に襲われた。レジナルドは王都行きを決めた。ひとりで向かうのは危険だというエレンをリリネリアの元に置き、自分は数名の騎士を引き連れて帰途につく。逸るような、臓腑が掴まれたような感覚がぬぐえなかった。
30
お気に入りに追加
3,440
あなたにおすすめの小説
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
旦那様、私は全てを知っているのですよ?
やぎや
恋愛
私の愛しい旦那様が、一緒にお茶をしようと誘ってくださいました。
普段食事も一緒にしないような仲ですのに、珍しいこと。
私はそれに応じました。
テラスへと行き、旦那様が引いてくださった椅子に座って、ティーセットを誰かが持ってきてくれるのを待ちました。
旦那がお話しするのは、日常のたわいもないこと。
………でも、旦那様? 脂汗をかいていましてよ……?
それに、可笑しな表情をしていらっしゃるわ。
私は侍女がティーセットを運んできた時、なぜ旦那様が可笑しな様子なのか、全てに気がつきました。
その侍女は、私が嫁入りする際についてきてもらった侍女。
ーーー旦那様と恋仲だと、噂されている、私の専属侍女。
旦那様はいつも菓子に手を付けませんので、大方私の好きな甘い菓子に毒でも入ってあるのでしょう。
…………それほどまでに、この子に入れ込んでいるのね。
馬鹿な旦那様。
でも、もう、いいわ……。
私は旦那様を愛しているから、騙されてあげる。
そうして私は菓子を口に入れた。
R15は保険です。
小説家になろう様にも投稿しております。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
恋した殿下、あなたに捨てられることにします〜魔力を失ったのに、なかなか婚約解消にいきません〜
百門一新
恋愛
魔力量、国内第二位で王子様の婚約者になった私。けれど、恋をしたその人は、魔法を使う才能もなく幼い頃に大怪我をした私を認めておらず、――そして結婚できる年齢になった私を、運命はあざ笑うかのように、彼に相応しい可愛い伯爵令嬢を寄こした。想うことにも疲れ果てた私は、彼への想いを捨て、彼のいない国に嫁ぐべく。だから、この魔力を捨てます――。
※「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
悲劇の悪役令嬢は毒を食べた
桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
【本編完結】
悪役令嬢は
王子と結ばれようとするお姫様を虐めました。
だから、婚約破棄されたのです。
あくまで悪いのは悪役令嬢。
そんな物語が本当かどうか。
信じるのは貴方次第…
コンラリア公爵家のマリアーナは、
ロザセルト王国の王太子のアレクシスの婚約者。
2人は仲つむまじく、素敵な国王と国母になられるだろうと信じられておりました。
そんなお2人の悲しき本当のお話。
ショートショートバージョンは
悪役令嬢は毒を食べた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる