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リリネリア・ブライシフィック

優秀な彼女

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「あら。どうして?贖罪のためだからって、そんな嘘はつかなくていいのよ?別に私、あなたをーーー」

「リリィがいない日常で、幸せなんかない」

恨んでないわ、と。そう言おうとした言葉は、レジナルドの声によって遮られた。静かな、だけどしっかりとした声で、彼は告げた。

「…………………ふぅん?」

なんだか、面白くなってくる。この、かっこつけた言葉を言っていい気になっている男の本心はどうすれば暴けるだろうか。
どうせ、そうやって言うことによって私が許すことを願っているのだ。彼もまた、私がいなくなって辛かったと。自分から追い出しておいて、いざ私がいなくなったら悲しかったと、そう後付けの理由のように彼は言ってるのだ。

………ふふ、おもしろーい!

私は少女のように笑いたくなった。だけど、それはあまりにも品がなくて。いや、無様でみっともないから、やめておいた。ふふ、と小さく笑みをこぼすのに留めておく。

「流石、王太子様。そうやって帳尻を合わせるんだわ」

「………?リリィ、何を………」

「私から何もかもを奪っておいて、自分も被害者ヅラするんだもの。ああ、ごめんなさいね。あなたは何も悪いと思ってないのだもの。被害者ヅラ、なんておかしいわね。紛れもなく、あなたはただのーーーただの、何かしらね?ああ、人の上に立つもの。………なのに、ね?」

レジナルドが訝しげに私を見る。私は愉快で仕方なかった。楽しかった。私の今の感情は、よく分からない。怒りとか、そんな綺麗なものじゃないと思う。もっとぐちゃぐちゃで、汚くて、歪んだなにかだ。ヘドロの方がまだマシかもしれない。
私はしばらくベッドの下に放り出した足を何回かぶらぶらとさせていたが、それに反してレジナルドは難しい顔しているだけだった。

ーーー何か、言い訳でも探してるのかしら?

別にそんなの、聞きたくもないけど。私はやがて、自分が随分子供っぽいことをしていることに気がついた。こんなの、ただの八つ当たりだ。今気づく。これは綺麗な感情ではないと考えたけれど、それは何よりも簡単だった。これは八つ当たり。きっと、そう。私はため息混じりに告げようとした。

ーーーもういいわ、と。

そう伝えようとしたのだ。だけどその時、レジナルドもまた、何か言おうと口を開きかけーーー。その合間に、控えめなノックの音が響いた。
それはおよそ異様な空間にいた私たちを日常に戻す音で、私はハッとしてそちらを見た。そうすれば、外から声が聞こえてきた。

「歓談中失礼いたします。ルド様を呼んでくるよう、エレン様から申しつかりました」

ガーネリアの声だ。それに一気に私は冷水をぶちまけられた気分になって、目を少しだけ閉じた。そして淑女に相応しくない足をそっと引き寄せて、ベッドから立ち上がる。
扉を開けると、不安そうな顔をしたガーネリアと目が合った。私はちらりとガーネリアを見てから、レジナルドに視線を移した。レジナルドは相変わらずむずかしそうな顔をしていた。

「…………呼んでますよ」

短く言うと、レジナルドははっとして私を見た。そして何か言いかけてーーー階下から男に呼ばれた。

「ルドー、急いでくれ。奴らが服毒自殺をはかった!!」

その言葉にレジナルドは階下を鋭く見た。そして、レジナルドはそのままそちらに向かおうとして、立ち止まった。
一度、私を見てからレジナルドが短く言う。

「エリザベート。多分、僕たちには圧倒的に会話が足りないんだ。………また、来るから」

そう言って、レジナルドは階下へと向かった、正直、もう来なくていいと思った。私はそれを無感情に見つめながら、そばにたつガーネリアに声をかけた。我ながら、表情同様無機質な声だった。

「あの人を、部屋に案内したのはあなたね?」

「………申し訳ありません。私は、憲兵に呼ばれていてーーー。あの後すぐ、エレン様が戻ってきて、事情聴取のために私が呼ばれました。ですが、エリザベート様のお加減がよろしくないようでしたので」

「御託はいいわ。勝手なことをしないで」

「………はい。すみません」

恐らく、ガーネリアはこう言いたかったのだろう。私に薬を届けたかったけれどすぐに憲兵率いたエレンが戻ってきた。場の状況を聞きたいと憲兵に告げられ、ガーネリアは私に薬を持ってくることができなかった。その代わりに、レジナルドを向かわせたのだと。だけどそれだけではないだろう。明らかに違う理由が存在する。

私はため息を漏らした。ガーネリアがどこまで私とレジナルドのことを知っているのかは知らないが、それは要らぬお節介というものだ。もっと言うと、余計なお世話。これは私とレジナルドの問題であって、というより。他人にとやかく言われることではない。私は階下に続く階段の手すりを何度か指でとんとん、と打ち付けてガーネリアに言った。

「あなた、クビよ」
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