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リリネリア・ブライシフィック
話し合いたいこと
しおりを挟む「離して!!離してぇっ………!!」
金切り声が零れた。こんなに騒いでいるのだ。階下のガーネリアに聞こえてないはずがない。いや、そもそもどうしてガーネリアは来ない?なんでここにレジナルドがいるの?!怖い。怖い。怖いーーー!!
「リリィ!落ち着いて、お願いだから…………!」
なら早く離してよ!!なんで、なんで私を抱きしめているのーーー!!
ベッドの上で、男ともみ合っている。その恐怖をレジナルドは知らないだろう。レジナルドは知らないのだから。何も、知らないのだから。私が何に恐怖しているのかも、何が怖いのかも。何に脅えているのかも。何が悲しいのかも、この男は知らない。お綺麗な顔をして、綺麗なことしか知らない王太子様。そんな彼を少しでも傷つけたら私の溜飲は下がるだろうか?違う。違う。そんなことがしたいんじゃない。だって。だって私は………………
「……………………」
やがて、私は黙った。先程まで振り回していた手も足も動かさず、ベッドの上で正座している。レジナルドは私が大人しくなったのを見て、ほっとしたようにその手を離した。腹が立つ。面白い。悲しい。苦しい。悲しい。ぐるぐるとお腹を駆け巡って、爆笑してしまいそうだった。堪えなければ笑い声を飛ばしてしまいそうだ。
そしてそのまま、身をこの窓から投げられたらどんなにいいだろう。
ーーーああ、私は狂っている
それをはっきりとわかった瞬間だった。
「落ち着いた?………急に触れて……触ってしまってごめん。部屋に入ったことも、悪かった。本当にすまなかったと思ってる」
「…………………」
「………ガーネリアさんから薬をもらってきたんだ。エリザベートが貧血だと言っていたから、これを持っていってほしいと……」
「……………………何が、したいの」
小さな、小さな声が漏れた。それでも私は俯いたまま聞いた。視界に入るのはレジナルドの近衛服だった。胸をつくような悲しみと苦しみと息苦し差にとらわれて、私は呼吸を忘れた魚のように喘いだ。
「何が。何が、したいの…………今更。いまさら、なのに………」
「…………リリィ」
小さな、戸惑うような声が聞こえた。それを聞いて、私は思わず顔を上げた。
そしてーーー息を飲む。
「あなた………その、顔………」
何を言おうとしたのか分からない。だけど勢いのまま何かを口にしようと思ったそれは、あっさりと喉奥にしまわれた。代わりに、私に見舞われたのは思いがけない驚きだった。
レジナルドの綺麗な顔に引っかき傷が何本か残り、しかもその頬は赤く熱を持っているようだ。
「それ、私、が…………」
「ん?ああ………。大丈夫。気にしないで。それより、薬を飲んだ方がいい。いきなり押しかけてしまって悪かった。水も貰ってきたから。………飲めそう?」
その言葉に、思わず頷いてしまった。素直に首を振ったのは、恐らくレジナルドのその傷のせいだ。真っ白な頬が、おそらく私の爪によって傷つけられ、赤い線を残している。その頬は私が叩いたのだろう。赤く、熱を持っていた。
呆然とそれを見ていると、レジナルドはベッドを降りて床にころがっている小瓶と処方剤のようなものを手に取った。それは間違いなく、ガーネリアから渡されたものなのだろう。レジナルドはその紙袋から薬剤を取り出して私に手渡してくる。小瓶も一緒だ。小瓶には液体が入っていて、おそらくこれは水なのだろう。私にそれらを差し出したレジナルドは、だけどすぐになにかに気づいたようにそれらをベッドの上に置いた。目の前に置かれたそれを凝視していると、レジナルドが話し出す。
「………急に上がり込んで、本当にすまなかった。だけど、エリザベート。………いや、リリネリア。僕はあなたと、どうしても話したいことがあった」
いつもなら、一も二もなく断っていただろう。だけど今の私は泣き疲れて、しかもレジナルドに傷を負わせたことによって半ば自失していた。呆然としている私に、レジナルドは言葉を選ぶようにしながら言葉を重ねた。
「…………きみが、ブライシフィック家を出たのは、きみ自身の意思?」
その言葉に、今度こそ息が止まったかと思った。
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