29 / 71
リリネリア・ブライシフィック
お可愛い顔
しおりを挟む「動くな!!今憲兵を呼んだ!!」
聞き慣れた声がすぐ後ろから聞こえてきて、ほっと私は人知れず息を吐いた。そして、ずっと触れていたピストルからようやく手を離す。後ろを見れば、見慣れた赤毛が目に入る。
「ガーネリア………」
「大丈夫です…………大丈夫?エリザベート」
後ろを振り向くと、心配そうな顔をしたエリザベートと目が合う。その赤い瞳に映る自分は、どこか覇気のない顔をしていた。血の気が抜けた顔は青白いが、泣きそうではなかった。それが全てを物語っているのだろう。
「大丈夫。でも、」
そこまで言った時、狼狽えたような野太い声が上がる。
「な、なんだお前!!それに憲兵だって!?」
「怯むな、あっちはただの女だぞ!!さっさとずらかるぞ!」
残りの男は3人となっていた。2人は既に店の外に折り重なるように倒れているし、これ以上最悪なことは起こらないように思えた。
ガーネリアは私の前に立つと、その手にいつの間にか剣を握っていた。それは出刃包丁やナイフといった護身用のものではなく、騎士が身につけるようなそれだ。
ガーネリアは剣が使えたの………?
今までも何度かこういったことがあったが、それでもガーネリアが剣を握るところは見たことがなかった。多少驚きながらもそちらを見ているが、しかしガーネリアはこちらを見ない。
「動くなよ…………。動いたら、その瞬間お前の喉笛にこの剣を突き立ててやる」
ガーネリアが鬱蒼とした声で呟く。部屋の空気が凍る。背も高く、すらりとした背格好のガーネリアが低い声でそういうと、実に様になった。小柄で、背が低く覇気のない私とは大違い。
ガーネリアのようにたりたい、とかガーネリアに憧れをもちはしないが、その格好良さには惚れ惚れするものがあった。そして、ふと思う。どうして私なんかのために、という感情だ。いや、私のため、というのは語弊がある。私などの護衛に駆り立てられてしまったガーネリアは不幸だ。こんなに才のある彼女がこんな僻地で埋もれるのは申し訳ないと純粋に思った。
「はい、ほーかーく」
一触即発ーーーというより、蛇に睨まれた蛙のような男たちと、ガーネリアの固まった空気を動かしたのはそんかのほほんとした声だった。
見れば、壊れた扉のそばに男性が2人立っていた。ふたりとも青年で、見覚えのある顔だった。一人はエレン、と呼ばれた騎士だ。そして、もう一人はーーー。
「エレン、こいつらはまとめて近衛の詰所まで送れ。脅迫の常習犯だ」
「はいよっと。あっちの残りふたりはどうする?」
「すぐ終わる」
そういうと、金髪の青年ーーーレジナルドは、私とふと視線を合わせた。そして、短く笑った。いや、苦笑した?どこか苦々しく笑った彼は、そっと剣の柄に触れると、男たちを見た。その目には、先程の穏やかな微苦笑はない。ただ冷たい、剣刃のような瞳が男たちを貫いていた。
「さて。わざわざ抜く必要も無いか。婦女子への脅迫及び暴行未遂………かな?現行犯でこのまま牢送りにしてやろう」
「なっ…………なんなんだお前たちは!だいたいその服…………近衛!?」
流石に近衛の騎士服は分かっていたらしい。憲兵よりも位も高く、力も強い、近衛騎士。なぜ近衛騎士がこんな辺境の地にいるのかわからないらしい目の前の男は慌てたように店内のあちこちに視線をやるが、しかし助けになるものなど何ひとつとしてない。ふと遅れてその目が私を捉えるが、しかしすぐ前に立つガーネリアにまた意識を捕われる。おそらく私を人質にすれば切り抜けられるか考えたのだろう。だけど私の前にはガーネリアが立っている。私を捕まえようてしてもそれより早く、おそらくレジナルドに倒される。そう瞬時に判断できただけの思考力は残っていたらしい。
「くっ、クソ。この………!」
「おい、ゼルファ。どうするんだよ………!」
男がもう1人の男に話しかけた。どうやらゼルファ、と呼ばれたその男の方に決定権があるらしい。男はじっとレジナルドを見て睨みつけているが、レジナルドは先程から表情が変わらない。
「はっ。お高く止まってんなぁ、流石近衛騎士どだ!どーせ近衛騎士っつっても内実はお高く止まった坊ちゃんたちの集まりだろう!!お前もその可愛い顔で随分と可愛がられたんじゃないか!?騎士隊は意外と腐敗してると聞くしな!!」
「おーおー、言われてんぞ、ルド」
レジナルドの後ろに控えたエレンが呆れたように笑う。男の下衆な発言にレジナルドは一瞬眉を寄せたが、しかしまた先程と変わらない表情で短く告げた。
「言いたいことはそれだけか?」
「そんなお可愛い顔した坊ちゃんに何ができんだよ!こちとら生まれてからずーっとこのくそ汚い世界で生きてんだ!!お前らなんかーーー」
そう言って、ゼルファとよばれた男が唐突に走り出して。一拍置いて、置いてかれた形になる男が慌ててその後をおう。バカ正直にどうやら男は店の外をめざしたらしい。
だけどその前には、レジナルドが立っているわけで。なるほど、レジナルドをたかがどこかの坊ちゃんと見下して男たちは強行突破をするつもりらしい。
レジナルドはその外見から誤解されやすいが、幼い時からよく剣を握っていた。女顔が少しコンプレックスなんだと昔苦く笑っていたのをふと、本当に脈絡もなく。思い出してしまった。
55
お気に入りに追加
3,595
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

助けた青年は私から全てを奪った隣国の王族でした
Karamimi
恋愛
15歳のフローラは、ドミスティナ王国で平和に暮らしていた。そんなフローラは元公爵令嬢。
約9年半前、フェザー公爵に嵌められ国家反逆罪で家族ともども捕まったフローラ。
必死に無実を訴えるフローラの父親だったが、国王はフローラの父親の言葉を一切聞き入れず、両親と兄を処刑。フローラと2歳年上の姉は、国外追放になった。身一つで放り出された幼い姉妹。特に体の弱かった姉は、寒さと飢えに耐えられず命を落とす。
そんな中1人生き残ったフローラは、運よく近くに住む女性の助けを受け、何とか平民として生活していた。
そんなある日、大けがを負った青年を森の中で見つけたフローラ。家に連れて帰りすぐに医者に診せたおかげで、青年は一命を取り留めたのだが…
「どうして俺を助けた!俺はあの場で死にたかったのに!」
そうフローラを怒鳴りつける青年。そんな青年にフローラは
「あなた様がどんな辛い目に合ったのかは分かりません。でも、せっかく助かったこの命、無駄にしてはいけません!」
そう伝え、大けがをしている青年を献身的に看護するのだった。一緒に生活する中で、いつしか2人の間に、恋心が芽生え始めるのだが…
甘く切ない異世界ラブストーリーです。

王女を好きだと思ったら
夏笆(なつは)
恋愛
「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。
デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。
「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」
エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。
だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。
「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」
ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。
ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。
と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。
「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」
そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。
小説家になろうにも、掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる