25 / 71
レジナルド・リームヴ
進む勘違い
しおりを挟むレジナルドはリリネリアの感情を推し量ることが出来なかった。なぜ、リリネリアは死んだことにしたのだろう。
彼女はなぜ、ずっと別邸に住んでいたのだろう。
そして、ふと思い出す。リリネリアの態度だ。リリネリアは恐らく、レジナルドが自分の元婚約者だと気がついているだろう。あんなに何度もリリネリアであるかと尋ねたのだ。
そしてついに、彼はリリネリアに『リリィ』と呼びかけた。その時のことから、彼女もまたレジナルドが彼だと気がついているだろう。
だけど彼女の反応は、良好とはとてもではないが言えないものだった。むしろ、その逆である。もう関わらないでほしいと言わんばかりの態度。もしかして、とレジナルドはある推測が浮かんだ。
(別邸に移ったのはーーーいや、自分が死んだことにしたのは、リリネリア自身の意思…………?)
そうであれば、全てに納得がいった。
あの、リリネリアの構わないで欲しいと言わんばかりの態度。レジナルドにリリネリアか、と聞かれて否定したあの時の様子。
リリネリアからしたら、もうリリネリアでいること自体をやめたいのかもしれない。
だからこそ、自分をエリザベートと名乗ったのかもしれない。だけど、それはなぜなのだろうか。なぜ、リリネリアはリリネリア自身を捨てたのだろうか。それも、自分を死んだことにまでしてーーー。
絡まった糸は、なかなか解けそうにない。
聞きたかった。尋ねたかった。なぜ、ずっと別邸にいたのかと。なぜ、死んだと偽ってまでレジナルドとの婚約を破棄したのかと、聞きたかった。約束したはずだ。あの薔薇園で、ふたりは未来を誓ったはずだった。それを、リリネリアは忘れてしまったのだろうか。大切にしていたのはレジナルドだけで、リリネリアはさほど思い入れはなかったのかもしれない。思い返してみれば、リリネリアは当時七歳だった。七歳であれば記憶も朧気だろう。彼女からしたら絵本の話の方が大切で、薔薇の数の意味など、ただの世間話のひとつに過ぎなかったのかもしれない。
(ーーーだけど、そうだとして)
それでも、このままではいけない、とレジナルドは思った。父王に問いただすのは簡単だ。
だけど父王が本当のことを言うかはわからないし、場合によっては回答は不可と一刀両断されてしまうかもしれない。情報について規制されれば、さすがにやりにくくはなる。レジナルドの持つ影は優秀だからそれくらいで動けなくなることはないが、それでもやりにくさは増すだろう。まだ、時は早い。父王に聞くにせよ、それは今ではない。今は下手な行為をするべきではない。それにまずーーー自分にはそれより先に、しなければならないことがある。
レジナルドはまず、リリネリアと話す必要があると思った。彼女が何を考えているのか、今何を考えているのか。過去、何があったのか。どうして死んだことになり、婚約破棄に踏み入ったのかーーー。
だけど今のリリネリアに、過去の話を持ち出すのは難しいだろう。
リリネリアは少なくとも、彼女はリリネリアではないと言い切っている。リリネリアであることを嫌がっている。加えて、彼女は未だに酷く傷ついている。十年の時が経てもなお、彼女はあの時の事件に苛まれているのだろう。そんな彼女に、なぜ名を捨てたのかと、過去の話を聞くのは酷だろう。
あの日。リリネリアの身に何が起きたのか分かっている。それは記録が文字として残されているから。きっと、いや間違いなく。
彼女は深く傷ついたのだろう。男が全て嫌いになってしまったのかもしれない。
だから、レジナルドとの婚約も破棄したのかもしれない。あの公爵が娘にそこまで甘くなれるかは分からないが、しかし今でさえリリネリアの男性恐怖症は酷いものだ。事件後はもっと凄かっただろう。
それを見て、公爵も納得したのかもしれない。今のリリネリアに、王太子の婚約者を務めるのは難しいと判断したのかもしれない。どこか、引っかかる。だけど、分からない。少ない手がかりでは導き出せるものは少ない。少なくとも、王都に戻らなければ膠着状態は続くだろう。
だけどこの街に来たのはたただのお遊びではない。自分に課された仕事をこなさなければならない。それを終えねば、王都には戻れない。それに、リリネリアとも話をしたい。
まずは、何はともあれそこからだろう。
51
お気に入りに追加
3,600
あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる