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レジナルド・リームヴ
進む勘違い
しおりを挟むレジナルドはリリネリアの感情を推し量ることが出来なかった。なぜ、リリネリアは死んだことにしたのだろう。
彼女はなぜ、ずっと別邸に住んでいたのだろう。
そして、ふと思い出す。リリネリアの態度だ。リリネリアは恐らく、レジナルドが自分の元婚約者だと気がついているだろう。あんなに何度もリリネリアであるかと尋ねたのだ。
そしてついに、彼はリリネリアに『リリィ』と呼びかけた。その時のことから、彼女もまたレジナルドが彼だと気がついているだろう。
だけど彼女の反応は、良好とはとてもではないが言えないものだった。むしろ、その逆である。もう関わらないでほしいと言わんばかりの態度。もしかして、とレジナルドはある推測が浮かんだ。
(別邸に移ったのはーーーいや、自分が死んだことにしたのは、リリネリア自身の意思…………?)
そうであれば、全てに納得がいった。
あの、リリネリアの構わないで欲しいと言わんばかりの態度。レジナルドにリリネリアか、と聞かれて否定したあの時の様子。
リリネリアからしたら、もうリリネリアでいること自体をやめたいのかもしれない。
だからこそ、自分をエリザベートと名乗ったのかもしれない。だけど、それはなぜなのだろうか。なぜ、リリネリアはリリネリア自身を捨てたのだろうか。それも、自分を死んだことにまでしてーーー。
絡まった糸は、なかなか解けそうにない。
聞きたかった。尋ねたかった。なぜ、ずっと別邸にいたのかと。なぜ、死んだと偽ってまでレジナルドとの婚約を破棄したのかと、聞きたかった。約束したはずだ。あの薔薇園で、ふたりは未来を誓ったはずだった。それを、リリネリアは忘れてしまったのだろうか。大切にしていたのはレジナルドだけで、リリネリアはさほど思い入れはなかったのかもしれない。思い返してみれば、リリネリアは当時七歳だった。七歳であれば記憶も朧気だろう。彼女からしたら絵本の話の方が大切で、薔薇の数の意味など、ただの世間話のひとつに過ぎなかったのかもしれない。
(ーーーだけど、そうだとして)
それでも、このままではいけない、とレジナルドは思った。父王に問いただすのは簡単だ。
だけど父王が本当のことを言うかはわからないし、場合によっては回答は不可と一刀両断されてしまうかもしれない。情報について規制されれば、さすがにやりにくくはなる。レジナルドの持つ影は優秀だからそれくらいで動けなくなることはないが、それでもやりにくさは増すだろう。まだ、時は早い。父王に聞くにせよ、それは今ではない。今は下手な行為をするべきではない。それにまずーーー自分にはそれより先に、しなければならないことがある。
レジナルドはまず、リリネリアと話す必要があると思った。彼女が何を考えているのか、今何を考えているのか。過去、何があったのか。どうして死んだことになり、婚約破棄に踏み入ったのかーーー。
だけど今のリリネリアに、過去の話を持ち出すのは難しいだろう。
リリネリアは少なくとも、彼女はリリネリアではないと言い切っている。リリネリアであることを嫌がっている。加えて、彼女は未だに酷く傷ついている。十年の時が経てもなお、彼女はあの時の事件に苛まれているのだろう。そんな彼女に、なぜ名を捨てたのかと、過去の話を聞くのは酷だろう。
あの日。リリネリアの身に何が起きたのか分かっている。それは記録が文字として残されているから。きっと、いや間違いなく。
彼女は深く傷ついたのだろう。男が全て嫌いになってしまったのかもしれない。
だから、レジナルドとの婚約も破棄したのかもしれない。あの公爵が娘にそこまで甘くなれるかは分からないが、しかし今でさえリリネリアの男性恐怖症は酷いものだ。事件後はもっと凄かっただろう。
それを見て、公爵も納得したのかもしれない。今のリリネリアに、王太子の婚約者を務めるのは難しいと判断したのかもしれない。どこか、引っかかる。だけど、分からない。少ない手がかりでは導き出せるものは少ない。少なくとも、王都に戻らなければ膠着状態は続くだろう。
だけどこの街に来たのはたただのお遊びではない。自分に課された仕事をこなさなければならない。それを終えねば、王都には戻れない。それに、リリネリアとも話をしたい。
まずは、何はともあれそこからだろう。
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