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レジナルド・リームヴ

ホクロの位置

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びくりと一番大きく反応したのはエリザベートだ。なにかに怯えるように肩を震わせ、ガーネリアが驚いたようにレジナルドを見る。後ろのエレンの反応は伺えないが、恐らくガーネリアと似たような反応をしているのだろう。咄嗟に出た言葉だが、撤回する気はなかった。レジナルドは真っ直ぐにエリザベートを見て聞いた。

「…………違うなら、言って欲しい。きみは……………リリネリア?」

馬鹿げたことを言っているのはよく分かった。だけど、聞かずにはいられなかった。どくりと心臓がなる。万が一、もしも本当にリリネリアだとしたら自分はどうするのだろう。いや、万が一?そんなのはありえない。だって、リリネリアは死んだ。
いるはずがない。リリネリアの生まれ変わりだったら?何か自分には思いつかないようなことが起きて、リリネリアが生き返ったのだとしたら?そんな突拍子もない、普段ならくだらないと一笑に付すような考えすら頭に浮かんでくる。よっぽど自分も混乱しているのだろう。それでも、言葉を撤回する気にはなれなかった。じわりと握った手に汗が滲む。
リリネリアーーーに似た少女はじっもレジナルドを見ていたが、やがて薄い笑みを浮かべた。それは嘲笑のようにも、自嘲するようにも見えた。

「いいえ。私はエリザベートです」

「そ…………う」

乾いた声が口から漏れた。そうだ。当たり前だろう。何を考えていたんだ自分は。レジナルドは重苦しくなった息を吐き出した。
エリザベートにそう言い切られて、少しだけ気が軽くなったのは事実だった。エリザベートは真っ直ぐに、レジナルドを見ていた。どこか穏やかで、ともすれば見守るような、優しいーーーいや、憐れむような瞳。

「もう、お帰りになってください」

そこで、ガーネリアがきつい口調で挟んだ。レジナルドの持っていた髪飾りを奪うように取ると、そのまま厳しい視線を投げかけてくる。

「これは確かに受け取りました。なので、お引取りを」

「………だってさ、ルド。帰ろうか?」

エレンが意見を聞いてくる。レジナルドはそれを見ながら、ふと、エリザベートの手元に視線が向いた。両手を前に回して手を重ね合わせて立っているそれは、淑女の立ち方としては完璧だ。町娘であるはずのエリザベートにしては、振る舞いがやはり洗練されている。
エリザベートとリリネリア。違うはずの人間なのに、なぜか引っかかる。それに、あれはーーーーレジナルドの見間違えでなければ。レジナルドはがーにそっと目配せすると、一言断った。

「失礼」

「は!?いやっ………あの!なんですか!?いい加減にしてーーー」

ガーネリアの横をさっと通り抜けたレジナルドは、突然家の中に入り込んだ。無礼なことだとはわかっているし、紳士としての振る舞いではないということも重々承知している。だけど今は、何においても確認したいことがあった。エリザベートはレジナルドの行動を不審に思ったようで、訝しげな視線を投げかけてくる。レジナルドはエリザベートの前に立つと、またひとつ断りの文句を置いて、彼女の手を取った。

「少し、ごめんね」

「ーーー!」

レジナルドがそっとエリザベートの手を持ち上げた瞬間。声にならない掠れ声がエリザベートから漏れた。そして瞬く間もなく、その手が勢いよく振り払われた。

「いやっ…………!!」

掠れた、上ずったような切羽詰まった声。取り繕ったような色はなく、ただただ狼狽えるような焦りと恐怖と焦燥が混ざりこんだような悲痛なそれ。
エリザベートはレジナルドの手を思いきり振り払うと、取られた左手を庇うように右手で覆った。

「エリザベート様!!」

ガーネリアが叫び、そしてすぐさま後ろから風を切るような気配を感じた。すぐさまレジナルドが横にずれると、そこにガーネリアの手刀が入り込んでくる。どうやら彼女はただの同居人ではないらしい。女性にしてはキレのあるその拳は、そこらの男であればすぐさま昏倒させただろう。
それに今、ガーネリアは『エリザベート様』と呼んだ…………?どこか、おかしい。違和感が混ざり合う。ピースはあちこちに転がってるような気がするのに、それを上手く組み立てられない。
何よりーーー。

(親指の付け根、に………ホクロがあった………)

そう、レジナルドが確認したのはそれだった。エリザベートの左手の親指にはホクロがあった。ホクロがあること自体は珍しくない。だけど、親指の付け根、というピンポイントにあるのは珍しすぎる。そして、それはリリネリアもそうだった。リリネリアと同じ位置にホクロのある彼女ーーー。見た目も、表情も、声も、似ているーーー。
レジナルドはエリザベートを真っ直ぐに見つめながら混乱していた。エリザベートの顔色は悪い。喉からか細い声が漏れていた。


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