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レジナルド・リームヴ

確かめなければ

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その日の視察会議はあまり頭に入らなかった。我ながらこれでいいのかと思うが、しかし手に残った髪飾りが思考回路を乱していく。こんなに気になるのは何故だろうか。決まっている。彼女があまりにもーーーリリネリアに似ているから。それしかない。
彼女がリリネリアでないとはっきり分かれば、諦めもつく。分からないから。本人かもしれない、と僅かな希望を持っているからこうも気になってしまう。
レジナルドは宿に入ると、ベッドに転がって瞑想していた。だけどやがて、行動を決めてむくりと起き上がった。

ーーー確かめなければ

そうしなければ、いつまで経っても気になるだけだ。それに、手元にはちょうどいい言い分もある。レジナルドは起き上がると、そのまま部屋を出てエレンの部屋に向かった。エレンの部屋を訪ねようとするとほぼ同時。部屋が内側から開けられた。

「あれっ、どうしたんスか」

「…………お前はまた女ひっかけに行くのか」

エレンの今から外出するというあからさまな様子に、僅かに声が低くなった。こいつもいい加減落ち着けばいいのに、と思うがそれはレジナルドが言えた話ではない。レジナルドに言われたエレンはにぱっと景気のいい笑みを浮かべると手で卑猥なサインを作った。

「ちょーっとしけこんでくるだけッスよ」

「悪いが、それは後回しにしてくれ。僕は行くところがある」

「えっ。殿………ルドも遊ぶんスか?意外ッスね。あれか。ハメ外したくなっちゃいました?しかしまあ、勿体ないッスよねー。あんな美人さん嫁に貰っといて………」

「エレン。余計な事言ってないで早く行くぞ。遅くなる」

「へいへーい」

エレンの軽い返答を聞きながらレジナルドは宿を出た。向かう先は、ひとつ。エリザベート営む薬屋である。エリザベートが薬屋を営んでいるということは視察会議の合間に知った。なんだかんだちゃっかり情報入手していることから最初から尋ねる気だったのだとわれながら苦笑する。

ーーー確認するだけ。それだけだ

あの時路地裏は暗かった。だから、分かりにくかった。十年経ってもあまり変わらないあどけない顔に動揺しただけだ。明るいところで見ればきっと違う。生い立ちを聞けば、きっとリリネリアではないと分かる。彼女はリリネリアによく似た別人だ。そう思い込むようにしながら町外れにあるというリリネリアの住む家まで向かった。エレンはその道を歩きながら、あ、と声を出した。

「昼間の金髪娘ちゃんのとこ行くんスか?」

「………………エリザベートさんのところだ」

「エリザベート!そうそう、確かそんな名前。へぇ、意外。ルドはああいうのがタイプなのか。そりゃローゼちゃんとは随分タイプが違………」

「エレン。口を慎め」

いつものエレンの軽口だとわかっていたが、知らずうちに声に出していた。いつもより固い口調できつく言い止めたレジナルドに、エレンも少し驚いたような顔をしていた。ああ、これじゃダメだろうとレジナルドは己に思った。あまりにも動揺しすぎだ。
あまりにも感情のブレがありすぎだ。王太子として、王族として、感情を乱すことは許されない。いつだって余裕を持たなければ。レジナルドは小さくため息をついて感情を整理すると、言い訳のように言葉を重ねた。

「………忘れ物があったから、届けるだけだ」

「へぇ………」

エレンはそれきり黙ってしまった。何のへぇ、なのか分からないが、鋭いエレンだ。おおよそ勘づかれているのだろう。レジナルドはそのことに頭を悩ませながらもようやく目当ての家の前へとたどり着いた。
二階建ての一軒家やらしく、一階も二階も明かりがついてる。レジナルドが一歩前に進み、ドアを三回ノックする。しばらくして、女性の声があった。

「はぁい。………どちら様ですか?」

ドアを開ける前に誰何の声が掛かる。随分用心深いな、と思いつつ昼間の彼女の様子を思い出して納得する。しかし、今の声は昼間の彼女とは少し違うようなーーー。
そう思いつつ、レジナルドは答えた。

「本日から長期滞在する騎士のルドです」

「騎士………様ですか?」

扉の向こうから困惑した声が聞こえ、ようやく扉の鍵が外れた。きぃ、と蝶番が僅かに軋む音がして、現れたのはエリザベートではない。
ふわふわとしたボリュームのある赤毛をひとつに纏めた、緑色の目をした女性だった。






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