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紐解きが待っていて 2
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「え?…………え?」
私は思わず聞き返してしまった。
だけどすぐに言葉が口をついてでる。
「でも、あの、ヴィヴィアナ様のことは、」
「もうその名前は口にしないで欲しいな。いくらあなたの口からでも聞きたくない」
「…………」
レイルは私の髪を優しく撫でると、とても困ったような、弱ったような顔をしていた。サラサラの髪が重力に従いベッドの方へと流れている。そのせいで、いつもは隠れている白い額が目に入り私は思わず俯いた。こんな時なのに、レイルに胸をときめかせている場合ではない。加えて、レイルはヴィヴィアナ様が好きなのだ。私がこうしていることは、彼女への裏切りなのではないだろうか?
私はレイルへの想いを自覚する度に身を切られるような罪悪感を感じていた。レイルは私の髪を撫でながら、諭すように言った。
「彼女のことは愛していないよ」
「え…………」
思わず顔を上げる。
レイルと視線が交わり、彼はぐっと背中に回した手には力を込めた。その反動で思わず私はレイルの胸に飛び込む形となった。レイルの香りがする。レイルはいつも、落ち着く、ラベンダーに似た香水を使っている。私が好きな匂いだ。この香りを嗅ぐといつも落ち着く。でも、今ばかりは違った。レイルの香りはいつもと同じなのに、今の状況は全くいつもとは違う。焦りのあまり思わずレイルの胸に手を着くと、しかしそれより強く抱きすくめられた。
レイルとの距離が失われ、思わず私は身をよじった。
「嫌がらないで。ちゃんと聞いて、リーフェ」
「でもっ………あの、苦しいわ、レイル……」
「それでも。ちゃんと聞いて。………俺が好きなのはリーフェだよ。彼女のことは愛してーーーと言うより、そういう対象にない」
「えっ………と?」
私はレイルの腕に抱かれたまま固まった。そういう対象にない………?だけど。だって、レイルはヴィヴィアナ様がお好きだと………。
私が困惑していると、レイルはため息混じりに答えた。
「リーフェはあの時、多分俺があの女をすきだと言ったところだけ聞いたんだと思う。だけど、その後に続きがあるんだよ」
「続き…………?」
「………あー、クソ。何言っても言い訳にしか聞こえないよな。……だけどリーフェ、信じて。俺はリーフェしか愛してないし、きみ以外を愛せる自信が無い。そもそもこの十年、きみだけを見ていた。………本当だよ」
「ちょ、ちょっと待って、レイル。十年?それに………あの、続きって?」
私はレイルの腕の中でモゾモゾ動きながらようやく顔を出した。レイルは私と視線が絡むと、すぐさま頬に口付けを落としてきた。ぴくりと体が否応なく跳ねる。
「俺はあの時、腹が立ってたんだ。テオバルトーーーあいつまで、俺の気持ちを疑うようなことを言うからな。俺をずっと見てきたあいつに、あなたへの想いを勘ぐられるなんて冗談じゃない。何のために俺がこの十年動いてきたと思っている?」
「………?」
「テオバルトは俺があの女をすきだと思っているようだから、その通りのセリフを吐いてみただけだよ。それで、『これで満足か』……みたいなことを言った。俺も結構、腹に据えかねてたんだろうな。ずっと好きだったきみとようやく結婚できたと言うのに、くだらない話ばかり蔓延して。ようは、テオバルトに当たった」
「え、ええ………と、ごめんなさい、レイル。私、あんまり理解できてなくって………えっと、つまりレイルはヴィヴィアナ様が好きではないということ……なのよね?それで、私を………?」
レイルの流れるような言葉は頭にとどめる前に次の言葉が入ってきて、理解する時間が圧倒的に足りなかった。
しかも、レイルはヴィヴィアナ様が本当は好きではない?あの時の会話には続きがあった?混乱する私が要領の得ない言葉を返すと、レイルはふ、と息で笑った。
私は思わず聞き返してしまった。
だけどすぐに言葉が口をついてでる。
「でも、あの、ヴィヴィアナ様のことは、」
「もうその名前は口にしないで欲しいな。いくらあなたの口からでも聞きたくない」
「…………」
レイルは私の髪を優しく撫でると、とても困ったような、弱ったような顔をしていた。サラサラの髪が重力に従いベッドの方へと流れている。そのせいで、いつもは隠れている白い額が目に入り私は思わず俯いた。こんな時なのに、レイルに胸をときめかせている場合ではない。加えて、レイルはヴィヴィアナ様が好きなのだ。私がこうしていることは、彼女への裏切りなのではないだろうか?
私はレイルへの想いを自覚する度に身を切られるような罪悪感を感じていた。レイルは私の髪を撫でながら、諭すように言った。
「彼女のことは愛していないよ」
「え…………」
思わず顔を上げる。
レイルと視線が交わり、彼はぐっと背中に回した手には力を込めた。その反動で思わず私はレイルの胸に飛び込む形となった。レイルの香りがする。レイルはいつも、落ち着く、ラベンダーに似た香水を使っている。私が好きな匂いだ。この香りを嗅ぐといつも落ち着く。でも、今ばかりは違った。レイルの香りはいつもと同じなのに、今の状況は全くいつもとは違う。焦りのあまり思わずレイルの胸に手を着くと、しかしそれより強く抱きすくめられた。
レイルとの距離が失われ、思わず私は身をよじった。
「嫌がらないで。ちゃんと聞いて、リーフェ」
「でもっ………あの、苦しいわ、レイル……」
「それでも。ちゃんと聞いて。………俺が好きなのはリーフェだよ。彼女のことは愛してーーーと言うより、そういう対象にない」
「えっ………と?」
私はレイルの腕に抱かれたまま固まった。そういう対象にない………?だけど。だって、レイルはヴィヴィアナ様がお好きだと………。
私が困惑していると、レイルはため息混じりに答えた。
「リーフェはあの時、多分俺があの女をすきだと言ったところだけ聞いたんだと思う。だけど、その後に続きがあるんだよ」
「続き…………?」
「………あー、クソ。何言っても言い訳にしか聞こえないよな。……だけどリーフェ、信じて。俺はリーフェしか愛してないし、きみ以外を愛せる自信が無い。そもそもこの十年、きみだけを見ていた。………本当だよ」
「ちょ、ちょっと待って、レイル。十年?それに………あの、続きって?」
私はレイルの腕の中でモゾモゾ動きながらようやく顔を出した。レイルは私と視線が絡むと、すぐさま頬に口付けを落としてきた。ぴくりと体が否応なく跳ねる。
「俺はあの時、腹が立ってたんだ。テオバルトーーーあいつまで、俺の気持ちを疑うようなことを言うからな。俺をずっと見てきたあいつに、あなたへの想いを勘ぐられるなんて冗談じゃない。何のために俺がこの十年動いてきたと思っている?」
「………?」
「テオバルトは俺があの女をすきだと思っているようだから、その通りのセリフを吐いてみただけだよ。それで、『これで満足か』……みたいなことを言った。俺も結構、腹に据えかねてたんだろうな。ずっと好きだったきみとようやく結婚できたと言うのに、くだらない話ばかり蔓延して。ようは、テオバルトに当たった」
「え、ええ………と、ごめんなさい、レイル。私、あんまり理解できてなくって………えっと、つまりレイルはヴィヴィアナ様が好きではないということ……なのよね?それで、私を………?」
レイルの流れるような言葉は頭にとどめる前に次の言葉が入ってきて、理解する時間が圧倒的に足りなかった。
しかも、レイルはヴィヴィアナ様が本当は好きではない?あの時の会話には続きがあった?混乱する私が要領の得ない言葉を返すと、レイルはふ、と息で笑った。
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