すれ違いのその先に

ごろごろみかん。

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紐解きが待っていて

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だってレイルはヴィヴィアナ様が………。

私が混乱していると、不意にレイルが起き上がった。そして、私に手を伸ばしてくる。その表情は、いつも通りだ。いつもの、レイルだ。
私は戸惑いながら起き上がろうとして、自分の状況に気がついた。夜着が腰元まで落ちている。とっさに胸元を覆うと、レイルがふ、と笑った。

「大丈夫だよ。もう酷いことはしない。………乱暴にしちゃってごめんね。………リーフェ、俺が嫌い?」

「え…………?」

「嫌いなら、そうと言って。俺の全てはリーフェなんだ。そのあなたに言われれば、さすがの俺も諦めがつく。だから、そうなら言って欲しい。じゃないと俺はまたきみに酷いことをーーー今の比じゃないくらいのことをしそうだ」

私は全く状況が読めなかった。

ーーーレイルってヴィヴィアナ様がお好きなのではないの?

これではまるで、私に愛を乞うてるみたいだ。そんなこと、あるはずがないのに。
私はぐ、と手を握りしめてレイルを見た。レイルはどこか諦めた瞳をしている。何か、勘違いしている。私は一言一言噛み締めるようにレイルを言った。

「私はっ…………私は!レイルが好き…………っ。さっきからずっとそう言ってる!レイルの方でしょう!?ヴィヴィアナ様が好きで、彼女と結ばれたいのでしょう!」

「は?いやだからそれは……」

「もう何回言わせるのよ!私だって傷つかないわけじゃない!私だってレイルと、あなたと。未来を歩んでみたかった!だけど、あなたが。あなたがそう言ったから………!だから私は…………!」

「待って、リーフェ、言ったって何?」

レイルが焦ったような様子で聞いてくる。それに私ははっとして自分の失言を知った。
あの時のことはレイルは知らない。書庫室での話を聞いたことを、私は彼に言ってないのだから。盗み聞きをしてしまった。それを、彼に言ってしまった。盗み聞くような真似するつもりはなかったのに、結果的に私はそうしてしまったのだ。品のない行いをしたことに思わず視線を逸らす。しかし言った言葉は戻らない。レイルは私の肩にそっと触れると、視界に揺れる赤髪を耳にかけた。

「リーフェ。教えて。………言ったって、何?」

「それは…………」

「俺はきみに、何かしたかな。リーフェを不安にさせるような、困らせるようなことを言った?………あの女と勘ぐられるような……こと、を」

不意にレイルの言葉がきれる。私が思わずレイルを見ると、レイルは少し驚いたような顔をしていた。何度か瞳を瞬かせると、やがて彼は「もしかして」と切り出した。
私はレイルに何を言われるか分からず、思わず息を詰める。

「あの時か」

「え…………」

「リーフェ、この前お昼前に俺の執務室まで来たよね?」

「あっ………えっ……と」

「だけど、その時俺は執務室にいなかった。…………書庫室にいたんだね?」

「…………」

どうやらレイルは思い出したらしい。
私は、レイルがヴィヴィアナ様をすきだと知っている。そしてレイルは、先程の私の発言からここ数日の行動を思い返していたのだろう。
そして、思い出したのだと思う。書庫室で、彼女への愛を叫んだ時のことを。
レイルはどこか困ったような声で呟いた。

「それはまた………すごいタイミングだね」

ーーーその声音に、私はまた、胸が締め付けられた。

困らせてしまった。言うつもりはなかったのに。私は傷ついていない。大丈夫。だから、気にしないで欲しい。そう思って、私はレイルの瞳を見た。彼の瞳はやはり困惑ーーーいや、迷うように揺れていた。純度の高い宝石のような瞳だと思う。私は、微笑みを浮かべて彼に告げる。

「いいの。レイル。私は本当に大丈夫だから。だから、気にしない」

「リーフェはその後は聞かずに、執務室を出たんだね?」

で、と続くはずの私の言葉はしかしレイルによって遮られた。私が思わず目を瞬かせると、レイルはどこかとろりとした笑みを浮かべていた。そして、私の肩に額をのせるとため息をついた。

「なるほどね。最近リーフェの様子がおかしかったのはそのせいか。………良かった」

「よかっ………た?」

レイルの思考についていけなくて、私は思わず彼の言葉を繰り返した。

「嫌われた訳じゃなくて、良かった」

ぽつりとレイルが何か呟いたが、しかしそれは小さすぎて上手く聞き取れない。

不意にレイルは体を起こすと、私を見た。その優しい色の瞳に性懲りも無く私の胸がはねる。
レイルの手が私の背中に回る。優しくその手は私の背に触れたかと思うと、いきなりぐっと引き寄せられる。突然のことにバランスを崩した私はレイルにもたれかかるようになり、そしてレイルはそのままベッドへと寝転がった。自然と、私はレイルに抱き抱えられたまま倒れることになる。

「きゃっ…………」

「俺が好きなのはあなただけだよ」
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