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偽りの朝
しおりを挟む「ぁ………ア」
朝、目が覚めて声を出すとなかなかに枯れていた。昨日は明け方まで抱かれていたのを思い出す。
ーーー夢の時間は終わってしまった。
残されたのは、現実のみ。
声を静かに出していると、不意に後ろからグッと抱き寄せられた。見なくてもわかる。レイル様だ。
レイル様。わずかな間といえど彼を敬称なしで呼び、そして気安く話していた感覚は消えない。しばらくは違和感が付きまとうだろう。だけどそれでいい。それが、私と彼の正しい距離感なのだから。
だからーーーもう少しだけ。あと少しすれば、あなたは本当に幸せになれるから。私ではなく、あなたの思う方と、きっと幸せになれる。
「ん………リーフェ?」
「レイル………」
今、彼を敬称で呼ぶのは不自然だ。話をするのから、夜がいい。私はそっと彼のすべすべの腕を取り、額に押付けた。
とても幸せだった。幸福だった。そうだと信じ、浸れるほどには。私には、彼の本物の愛は得られなかったけれど。だけど仮初の安寧と、優しさを彼はくれた。それで十分だ。それで十分じゃないか。それ以上を望むのは、我ながら欲深い。元々私のものではなかった人だ。私には過ぎた人だったのだ。元々、私とは縁がなかった人。だけど何の偶然か、たまたま、色々なことが重なって彼の妃になれただけ。
【棚ぼた妃】ーーー。まさにその通りだ。この婚姻は色んな不運と不祥事が重なって巡ってきただけのもの。急ごしらえて取り繕われた婚姻だったのだ。それなのに、私は彼と思いあっていると。そう信じきってしまっていた。なんて愚かだったのだろう。自分のことしか考えていなかった。
「もう起きる?俺はまだ、もう少しこうしていたい」
レイル様の声は少し掠れていた。寝起きだからだろうか。その甘い声が嬉しくて、切なくて、悲しくて、胸が痛くなる。本当に。本当に好きだったの。だけど、好きだからこそーーー幸せになって欲しい。
「私も………。でも、レイルは忙しいんじゃない?政務が立て込んでいるのでしょう?」
嘘か本当か分からない言葉を口に乗せると、レイルが唸るのが聞こえた。それと同時に、ギュ、と彼の腕に強くだきしめられる。
「んー………そうなんだけど。だけど今は、リーフェの方が心配だから。………昨日から、どこかおかしいよね?何かあった?」
不意に、優しい声に尋ねられる。私は言葉に詰まって、それでも、なんでもないふうを装って寝返りを打った。彼の瞳と目が合う。海色の、キラキラした瞳だ。朝の眩しい光に照らされて、彼の瞳は夏の海のような色をしていた。
「………あのね、あの。ひとつだけ、わがままを言っていい?」
視線を合わせて言うと、レイルは少し驚いたように瞬きをしたが、すぐにふわりと笑んでくれた。その笑みに胸が甘く締め付けられる。寝乱れたレイルは髪がいつものようにセットしておらず、どこか無防備に見えた。
「何?何でも俺に言って。リーフェのために出来ないことはないよ」
「それなら………あの。今日は早く戻ってきて欲しいの」
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