婚約破棄までの大切なプロセス

ごろごろみかん。

文字の大きさ
上 下
42 / 66

よんじゅーいち

しおりを挟む
「早速だけど、お願いごとがあるの」

「シャルロット様?」

アメリアが小さく私に呼びかけた。
私はそれに目だけで答え、店主と思われる青年に声をかける。

「奥に通してちょうだい。アメリアはここで待っていて」

店主の青年を慎重に見つめながら言うと、彼は少し私を眺めた後にこりとまた微笑みをひとつ浮かべた。どうしたって胡散臭さを感じる。

「かしこまりました。では、お嬢様、こちらへ」

「シャルロット様、私は……」

アメリアに呼びかけられ、私は短く返した。

「ここで待っていて。すぐ戻るわ」

実際、すぐ戻れるかは不明だけど。
青年に連れられ奥に向かうと突き当たりに扉がひとつあった。青年は何の躊躇もなくその扉のノブを回す。金色のノブ………。これはおそらく金だわ。庶民にはとてもじゃないが手が出ないもの。それをあちこちにあしらった金具といい、ノブといい。やはりこの店が例の『金を積めばなんでもする店』で間違いないだろう。

「……どうぞ」

青年に声をかけられて室内に入る。
静かで、だけどどこか厳かな雰囲気を感じる。あちこちにアンティークの品が見受けられる。どれもお高いのだろう。掘られた紋様などよく見れば名高い巨匠のものだと分かる。ものによっては私と使っているものとおなじアンティークの品すらあった。
とてもじゃないがただの個人店の一室ではない。貴族でもここまで金をかけられる家は少ないだろう。
部屋に入り、ぱたん、と扉が閉まる音を聞く。振り向くと、青年は恭しい手つきで椅子を引いていた。だけど私はその椅子に触るつもりは無い。私はすぐさま彼の顔を見て言った。

「早速だけど、ロティア通り三番地に一番近い道筋と、あと裏口から私を出して欲しいの」

「ロティア通り?」

青年は私に言われて目を丸くしたが少しして目元を和らげた。私の言いたいことがわかったとでも言いたげな顔だ。
ロティア通り三番地とはメゾネリアから一番近い通りだ。この店に来て、わざわざロティア通り三番地を指定するわけアリ客。それだけで察せられるというものだろう。

「なるほど。………かしこまりました。では、お代の方を」

話が早い。
私は懐に忍ばせていた金貨を三枚とるとそれを近くにあったこれまた高そうなテーブルに置いた。
カチャン、という金特有の音がする。
青年は少しだけ意外そうな顔をした。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...