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しおりを挟む「あの、少しいいですか?」
3回目ともなると、いつどのタイミングで話しかけられるかも理解してくる。そして、今日はこの日だったのかとすぐに思い出す。目の前には少女がいた。彼女の名前はシアという。ミドルネームはないらしい。彼女は突然この世界に訪れた異世界人ということで、国に保護されている。
肩につくかどうかという長さの黒髪に、黒曜石のような瞳。彼女を見ると芋づる式に嫌な記憶がよみがえって、眉が寄りそうになった。ぐ、と拳に力を込めて耐える。
ダメだ。ここで、おかしなことをしては。私は、まだこの世界では生きている。まだ、私は何もしていない。どうやら、この世界は私が死ぬ一年前にやはり戻っているようだった。ちょうど、私が死ぬ一年前だ。
穏やかな春の日差しが降り注ぐ中、私は目を細めた。
「何か御用でしょうか?シアさん」
つとめて優しく、敵意はないですというふうに装う。なんて言ったって私の死因、全部彼女だから。
全部彼女が理由で私、死ぬので。二回目の毒杯事件も、恐らく彼女だろう。死んでしまったのであくまで推測になってしまうが、多分間違っていない。
私がにこやかに言葉を返すと、小柄な彼女はやや上目遣いになって言った。
「あの、今週末みんなで遊びに行くんです。良かったらシャーロットさんもどうかなって」
「………いえ、私は結構です。皆さんで楽しんでください」
答えると、目の前の彼女は驚いた顔をした。そして、困ったようにいう。
「え、そんな。私、みんなにシャーロットさんも来るって言っちゃったんです。ね?行きませんか?」
なんで勝手に言ってんのよ。
そう思うが、なんとか言葉を飲み込んだ。彼女の言うみんな、とは取り巻きのことだろう。彼女の周りにはいつも男が沢山いる。そして婚約者も彼女に好意を寄せる男の一人だ。
一回目、私は彼のことが好きだった。好きで好きでたまらなくて、なんとか両思いになりたかった。努力は怠らなかった。美容にいいというクリームを塗り、老化させにくいという魔法術を磨いた。体型維持にだって気を使ったし、髪の毛一筋とるにしろ、咎められないよう気をつけた。立派な令嬢であるように。立派な淑女であるように。花のようであれ、蝶のようであれ。マナー本に書いてあることをそのまま体現するように私は励んだ。
「ごめんなさい。どうしても、その日は無理なの」
その日じゃなくても無理だけど。
私が眉を下げて謝ると、少女は悲しげな顔をした。うわ、これはまずい。
私は慌てて言い繕った。本当は彼女の機嫌をとるなんてごめんだ。本当は彼女の顔色を伺うなんて嫌だ。
だけど彼女に敵視されるのは、この学園ではいきにくすぎる。彼女はたくさんの取り巻きを従え、そして男女ともにその人気は高い。分け隔てなく接するのがフランクで良い、と評判だった。公爵令嬢たる私にも普通に話しかけ、遠慮はしない。一部の貴族派からはよく思われていないが、そのトップに君臨する王太子がそれを許容しているので、みな何も言わない。
「………そうですか。なら、良いです」
冷たく言い捨てた彼女は、呼び止めるまもなく姿を消した。息を吐く。これは、ダメだったかしら。まるで難易度の高いテストを受けているような気分で、つい木にもたれかかる。
一度目は、彼が好きすぎて、好きが故に暴走した。彼女ーーーシアの、悪態をついて、嫌味も沢山言った。困ればいいと思って階段から突き飛ばしたこともある。胸をこがすような焦燥と悪意と、ドロドロした何かが混ざって、あの女が悲しんでるのを見て胸がスッキリした。だけど、すぐにまたモヤモヤが胸をおおった。私の好きな人、最愛の人があの女に構ったからだ。あの女が落ち込むと、みんなして思い悩んだような顔をする。そして、私を敵視する。針のむしろのような狭い箱庭で、私が吊られるのは自然のどおりだった。
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