悪役令嬢は鼻歌を歌う

さんごさん

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ヒロイン3

白百合寮

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 入学式の後のホームルームを終え、寮に向かって歩く。

 この学園には二つの女子寮があって、私が入るのは白百合寮だ。
 もう一つの寮は赤薔薇だそうだ。

 私は赤い薔薇よりも白い百合の方が好きなので、白百合寮を割り当てられて良かったかもしれない。

 どういう基準で白百合と赤薔薇を割り当てているのかは分からない。
 名簿を渡されたが、爵位でもなければ派閥でもない。

 私は政治のことは苦手で、派閥とか言われてもよく分からないけれど、周囲の人の話では派閥も関係なく割り当てられているという話だった。

 白百合寮はどんなところだろうと思いながら、寮を目指して歩く。

 周囲にも私と同じように歩いている人がいて、たぶん彼女たちも白百合寮の新入生なのだろう。
 入学式には寄り道して遅刻してしまったけれど、今度は寄り道せずに辿り着く。

 白百合という名前から、白くて綺麗な建物を想像していたけれど、頭の中のイメージとは相違して、白百合寮の建物は茶色かった。

 木造建築なので最初から木材の色が茶色かったのだろうけど、古びていて、くすんだ色に染まっている。
 いったいどれくらい前に建てられた建物なのだろうか。

 玄関は大きく開いていた。
 校舎の玄関と似ていて、下駄箱がずらりと並んでいる。

 左右の壁に、百には満たないくらいの下駄箱があった。

 この学校の生徒数は二百に満たないくらいで、女子が半分、寮が二つあるので更に半分と考えると、多すぎるくらいだ。

 下駄箱には名前が書かれていて、私の名前が書かれているところを開けてみると、上履きが入っていた。
 先に来ていた使用人のアルティナが、前もって入れておいてくれたのだろう。

 靴を履き替えて上がりかまちを上がると、そこは広いホールになっていて、隅っこにある椅子に、たくさんの使用人が腰かけていた。

 女子寮は原則として女性しか入れないので、全員女性だ。
 私が入って来たのに気づいたのか、使用人たちはちらりを私を見ると、興味をなくしたように視線を逸らす。

 その中で一人、立ち上がってこちらに向かって来るのがアルティナだ。

「お待ちしておりました、お嬢様」

 そう言って私のカバンを預かる。

「ただいま……?」

 初めて来る場所でそう言うのが正しいのかどうか分からなくて、首を傾げる。
 アルティナは特に気にした風もなく、私を先導して歩き出す。

 ホールの先の通路には、階段と受付のような物がある。
 ここに受付があるということは、ここまでは男性でも入って良いのかもしれない。

 アルティナは受付にいた女性に私が到着したことを告げると、そのまま階段を上がっていく。
 私の部屋は二階にあるらしい。

 一、二、三……。
 数えながら登ると、全部で十二段の階段だった。

 そういえば、男爵令嬢のサラさんが、白百合寮の階段は夜中になると十三段に増えるという話をしていたけれど、今度確かめてみようか。
 学園の七不思議の一つらしい。

 残りの六つは知らない。

 階段を登り切り通路を歩いて行くと、左手に扉が並んでいた。
 白百合の意匠のアンティークな扉に、プレートが嵌められていて、手前から順番に201、202、203と並んでいる。

 私の部屋は204で、アルティナが鍵を開けて入った。

「うわぁ、広い!」

 部屋は広かった。
 男爵家の私の部屋よりもずっと広い。

 物がないというのもあるけれど、走れてしまうほどだ。
 思わず部屋の中でスキップをしてしまう。

「あはは! 広いよ、この部屋!」

 ウキウキしながらベッドに飛び込む。

 ぼふっ! と沈み込む柔らかい感触も、家にある私のベッドよりも上等なものであることを主張していた。

「…………お嬢様?」

 押し殺したようなアルティナの声にハッとして振り向くと、コメカミに血管が浮いているような気がした。
 私は顔に笑みを貼り付けたまま固まる。

 これは、怒られるやつだ。

 慌ててベッドから起き上がり、服装を整えるが、アルティナの目つきは変わらない。
 どうにかこの場から逃げられないかと試みるが、アルティナが入口に陣取っているせいで成功しそうになかった。

「あはは、あははは……」

 笑って誤魔化そうとしたが……。

「そこにお座りください」

「アルティナ? その、ね……?」

 どうにか怒りを鎮めてもらおうとするが効果はなく……。

「そこにお座りください」

 平坦な声で繰り返された。

「はい……」

 頷いて示された椅子に座る。
 アルティナは声を荒げて怒ることはない。

 けれどそれから小一時間、淑女とは何かと説明されるのだった。


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