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1章

村長

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 そう言えば馬って置いてきちゃって良かったの?

 村の入り口の柵の所に絆を縛り付けて来たけど、盗まれたりしない?
 貴重品なんだよね?

 道中で襲われるならともかく、村の中で盗むような人はいない?
 盗んだらすぐに特定されるし、貴族から物を盗んだとなれば殺される?

 そっか。

 盗まれないならそれで良いんだけど、私、戸締まりは何度も確認しちゃうタイプだから、ちょっと心配にはなるよ。

 村長さんの家は想像と違ってボロボロだった。

 村長っていうくらいだから、村で一番偉い人なんだろうに、こんなにボロボロの家に住んでいるのだろうか。

 他の家よりも若干大きい気はするのだけれど、それだけで、何度も補修を重ねて継ぎ接ぎになったような家が、村長さんの家だった。


「村長! 村長!」


 私たちを案内してくれたおじさんが、ドアをノックして村長を呼ぶ。

 村長は村長って呼ばれてるみたいだ。

 ドアを開けて出て来たのは、お婆さんだった。
 腰が曲がって、顔に深い皺の刻まれたお婆さんだ。

「何の用だい?」と魔女のように掠れた声でおじさんに聞く。

 この人が村長さんなわけではないようで、「村長にお客さんだ」と私たちの方を視線で示す。

 私とクリスの姿を見たお婆さんは、「これは……」と目を見開いて驚く。

 やっぱり貴族に見えるのだろうか。

 そして、貴族が訪問するのは本当に珍しいのだろう。

「お待たせしてすみません」と言いながら頭を下げる。

 頭を下げているのだろうけれど、最初から腰が曲がっていたので、傾斜が少しきつくなって戻った感じだった。


「どうぞおあがりください」


 そう言って促され、私とクリスは村長の家に入っていく。

 客間に通され、座って待つ。

 村長の家だけあって、来客用のソファはあるみたいだったけれど、安っぽくてボロボロな、カチカチのソファだった。

 まあ、お城の備品と比べるのは間違っているだろう。

 お婆さんはお茶を出して、村長を呼びに行った。
 あのお婆さんは村長の奥さんなのだろう。

 そう言えばクリスは、この村には来たことがなかったの?

 なんかみんな余所余所しい感じだったけど。

 遠い?
 そうなの?

 まあ、馬で半日以上掛かってたからね。

 どこの村でも手に入る物に差はないから、わざわざ遠い村に行く必要がなかった?

 うん、まあ、そうだろうね。
 大きな町でもなければ、売ってる物にそんなに違いはないだろうし。

 クリスの場合、近くの村に行商人の知り合いがいて、その人に町の物を取り寄せてもらってたみたいだから、他の村でない物を探すより、その人に頼んだ方が手っ取り早かったのだろう。

 ってことで、この村に来るのは私だけじゃなく、クリスにとっても初めてのことだったらしい。

 何故村に来ただけでいきなり村長と話すことになってるのか。

 ちょっと面倒臭いなと思いながらも、ジャーキーを齧って待つ。

 このお茶まずいね。
 城のお茶は美味しいけど、あれって高級品なの?

 畑ではお茶は作ってなかったはずだから、取り寄せてるんだよね?

 なんか今まで普通に暮らして来たけど、私の生活ってめちゃくちゃお金が掛かってるんじゃない?

 こうしてこの世界の村に来てみて、初めて実感するよね。

 大きな町とかならここよりはもうちょっと生活水準高いだろうけど、お城での暮らしと同じ暮らしをしようと思ったら、かなりお金が掛かると思う。

 そう思うとちょっと申し訳ない気持ちになっちゃうよね。

 私はただ楽しんで暮らしてるだけなのに、想像以上のお金を使って養ってもらってたんだもん。

 感謝して拝んでおこう。
 なむなむ。

 クリスが成仏しちゃうといけないから、なむなむはやめた方がいいか。

 ほどなくして、村長さんが現れる。
 腰は曲がってないけど、足に力が入らないのか、小刻みに震えている。

 なんか今にも死にそうなおじいさんだね。

 何歳くらいだろう?

 九十歳くらいに見える。

 長生きは良いことだよね、うんうん。


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