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1章

おにぎり

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 お米が炊けるまで暇だと言ったら、クリスが大道芸を見せてくれた。

 大道芸というよりは、魔法を使ったショーとでもいった方が良いだろうか。

 火の魔法で小さな花火を打ち上げてくれたり、水の魔法で噴水が出来たと思ったら、その水がにょろにょろと蛇のように動いたり。

 唐突に周囲が見た事のない町並みになったと思ったら、霧がブワッと漂って来て視界が悪くなり、カバの大群が私の周囲をぐるぐると回った。

 最後の方は幻影魔法らしいけれど、どこぞのテーマパーク顔負けの臨場感に、私は全力で拍手をした。


 そうこうしていると時間が経っていたようで、お米が炊けたとスケルトンが呼びに来た。

 スケルトンは喋れないので、炊けたら来るように言ってあっただけだが。

 おにぎりを握って持って来て貰うことも出来るが、炊き立ての新米を見たいのでキッチンに向かう。

 みんなで固唾を呑んで鍋と向かい合う。
 誰もそんなに緊張してないけれど。

 鍋の蓋を開けてもらうと、もわっと湯気が立ち上り、ツヤツヤのお米が姿を現した。

 おー、ちゃんと炊けてる。
 美味しそう。

 早速おにぎりを握ることにする。
 スケルトンが。

 私はおにぎりを握るのが得意ではないし、好きでもない。
 だから任せたのだけれど、握れるのか少し心配になった。

 何せスケルトンの手は骨だ。
 骨の手でおにぎりを握るのは難しいだろう。
 隙間からポロポロとこぼれてしまいそうだ。

 心配して聞いてみると、スケルトンは手袋を出して来た。
 茶色っぽい、薄い手袋だ。

 それを装着するスケルトン。

 おー、なんか人間の手っぽくなった。
 こういう時のために作ってあったの?

 それ、何で出来てるの?
 モンスターの腸?
 腸ってあれでしょ?
 うんち入ってるやつでしょ?
 汚くないの?

 ウィンナーとかも腸で作ってある?
 言われてみればそうだね。

 腸を表面にして、中に樹脂を塗って厚みを出してる?
 あ、ほんとだ。

 もっと薄いビニール手袋みたいな感じかと思ったら、表面の腸が薄いだけで、樹脂で厚みが出来てるんだね。

 でも感覚ないでしょ?
 握れるの?
 おー、上手上手。

 具はいいのか?
 うん、とりあえず塩おにぎりでいいや。

 数?
 そうだなぁ、二つ!
 出来た!

 あっという間だったね。

 それじゃあ早速食べてみよう。
 食べるの私だけなんだけどね。

 はむっ!
 もぐもぐ……。

 ほろほろと口の中で解れる。
 握り具合完璧だね。

 おにぎりって握ったことあったっけ?
 私が食べたいって言った時に何度か握った?

 それでこんなに上手に握れるって凄いよね。
 おにぎりの天才だよ。

 美味しい。
 美味しいけど、うーん、なんかパサパサするね。

 握り具合は完璧なんだけどさ、お米がね。
 でも村で買ってきたのよりは大分いいかな。

 この世界のお米って、日本のと比べるとパサつくんだよね。

 クリスのチートじみたハイテク技術をもってしても、日本の米には敵わないか。
 魔力を込めたら野菜が美味しくなるような単純な造りだったら良かったんだけどね。

 どっかにコシヒカリの種でも落ちてないかな?
 あきたこまちでも良いけどさ。

 お米が手に入ったから、何を作ってもらおう?

 お米に合う食べ物ってなんだろう?
 ふりかけ?
 鮭瓶?
 明太子食べたいな。

 豆腐、納豆、味噌汁。
 大豆が必要だね。

 醤油とか味噌とか、調味料も作れるし。

 確か畑には大豆がなかった。
 この周辺ではあんまり食べられてないのかな?

 どうにか大豆が手に入らないか、クリスに頼んでおこう。


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