冥王さま、異世界に憧れる。~現地の神からいきなり貰った勇者スキルが全く使えない冥王とその妻は破壊神!?~

なまけものなのな

文字の大きさ
上 下
123 / 173
聖国と帝国と金色の勇者

冥王、神ならではの深読みに目的を見定める。

しおりを挟む
 今俺達は、コベソ達の護衛として聖国の兵士に連れ去られたヒロックアクツ商事の従業員で猫系の獣人のシャルルを連れ戻す為、グランウェスという街に向かう。
 兵士に連れ去って行く所を目撃していた人がいたと、捜索していた従業員達の調査で分かる。

「まさか、白昼堂々と」
「ええ、聖国の兵士となると連行されても、周囲から見たらやましい事無いですし」
「でも、兵士だからといって聖職者では無いはず,そうじゃない?」
「そこです、そこなんです。 聖国、それに聖王に仕えている者全て聖職者レベルが、この国の人達の見方なんです」

 事の発端をコベソから聞いている俺とペルセポネは、止まる馬車の外で魔物と戦うユカリ達を眺める。
 コベソ達の護衛は俺達の仕事という役割だが、今回はユカリとリフィーナ自ら出てきた魔物と戦うと言い出してきた。
 戦う姿を見ているペルセポネが、呟く。

「そりゃ張り切らないとね。 救出する時も戻る時もやられまくってたし」
「勇者キンジョウに睨まれて怯え、あのベットファミリーには押されまくって惨敗」
「ハーデスは、出てこなったじゃない」
「状況が状況だ、いきなりヤツらを殺して実はユカリ側が悪かったら……俺としては問題ありの存在だ」
「それもありかもよ」

 俺の言葉に微笑するペルセポネは、冗談とほのめかしている。
 倒した魔物を解体し終わったユカリ達が戻り俺達は、先へと進む。
 日中は馬車を走らせ魔物が出ればユカリ達が戦い、日没は馬車を止め休む。そんな日が続き、七日程でグランウェスに着く。

 街に着くと手続きをするトンドが戻り、衛兵に笑顔でそのまますんなりと中に入る。

「向こう側も少し前に着いたそうだ」
「向こう側? シャルルを乗せた奴らか」
「あぁ、勇者達に聖王と聖女が来たと話していた」
「普通、王が城を空けるか? いや空けるとなると……」


 コベソとトンドは考えを話し合っているが、俺はその内容よりもこの街の光景に目を奪われる。
 露店や商店が並び人通りの多く活気があり、建物に関してはこれまで見てきた街と差程変わらない。   
 一言で言えばランドベルクにあった城塞都市ローフェンの街のようだ。
 街を囲む高く分厚い壁もそうだが、一つだけ俺が目にしたのは街の中心にある六つの高くそびえる塔。その塔は、何かを囲むように建たれ、塔から塔へと橋が掛かかっている。

「ダンジョンの街グランウェス。 やはり活気があるな。 冒険者達がいるし帝国との流通も盛んだしなぁ、ウチも何か……」
「コベソ、先ずはシャルルだ」
「おっそうだ。 この活気に満ち溢れた街で商人の腕が鳴るが、シャルルを連れ戻してからだな」

 コベソの浮かれた顔を見て頷くも呆れ顔をするトンド。
 そんな中、一つの大きな倉庫を構える商店にたどり着くと俺とペルセポネは、そこにいた従業員達に誘導され部屋に案内される。

「会頭からで。 本日は、体を休めてくださいと」
「久々の天井のある部屋で寝れるわ」
「だが、あのシャルルという獣人はどうする?」
「相手側の動向が、不明ですので調査結果が入り次第動くそうです」

 会釈をして無表情で去っていく従業員を気にせず、俺たちは部屋に入り休む事にした。


 一夜明け、俺のペルセポネは目を覚まし従業員の案内でコベソ達のいる部屋に入る。
 一礼して部屋から出る従業員。
 真っ白で大きな窓が並び、長机と複数の椅子がある部屋でコベソとユカリ達が既に座って待っている。

「こんなときではなければ、グランウェスの倉庫や製造所を見せたいんだが……」

 コベソは、申し訳なさそうにし座るよう手を差し伸べ俺とペルセポネは、部屋に入って近くにあった椅子に腰掛けると、コベソが腰を上げ俺達の顔を見回す。

「シャルルを救出するのは少し待ってて欲しい。 それよりも……」
「ちょっと。 救出しないなんてどういう事?」
「そうですわっ」
「違う。 今すぐにでは無く、今はまだ救出するのは懸命ではないという事」
「話が見えない。 ユカリとアホ……リフィーナを救出して直ぐに出てきて、ゆっくりと休む事も出来ずにほぼ七日、全く訳がわからない」
「そ、そうっ。 アホは余計だけど、ペルセポネの言う通り」
「コベソ。 七日経って状況が変化したのか、もしくはこのグランウェスで何かあったかという感じがするな」
「そうですハーデスさん。 シャルルが無事なのは確認済みで常に状況の連絡があるので」
「で、何よ。 もしかして私達にダンジョンに入れっていうの?」

 リフィーナが、腕を組みながら鋭い目線をコベソに飛ばすと縦に首を振るコベソ。

「どういう状況か分かりませんわ。 何故私たちがダンジョンに潜らないと行けないのですか?」
「第三の魔王と魔族が撤退し帝国としては……」

 コベソが状況を話す。

『魔族と戦って軍事力を付けた帝国が、聖国との同盟破棄をしようとしている。 そこで急ぎ帝国と話を付けるためこのグランウェスに向かったというのが聖王メイガザスと聖女アルダー』

 更に勇者キンジョウの話に入る。

『魔族と交戦中に身勝手な撤退をした勇者キンジョウと賢者アオヤギに勇者としての存在を認めないと声明し、人族の神エウラロノースに祈願。
帝国はどこから聞きつけたのか死亡したと神託があった勇者ユカリの生存を知り、帝国は勇者としてユカリを掲げる。
そこで聖女アルダーが、エウラロノースに進言し勇者キンジョウと賢者アオヤギの戦闘経験向上とレベルアップを目論む』

 真剣な目でコベソの話を聞いているユカリ達。
だが、ユカリの口を開く。

「でも、私。魔王を倒したと言っても殆どがペルセポネさんやハーデスさんで、死にかけた魔王にトドメを刺しただけに過ぎない」
「何言っているのですか!! 魔王にトドメを刺しただけでも凄いですわ」
「そうよ。 普通剣刺したって死にやしない」
「むー。 勇者だけ、魔王倒せるの」
「ユカリもだけどフェルトやリフィーナにミミン。 みなペルセポネと練習しているのだろう」
「四人は戦闘経験あるんじゃないの。 求めるのは更に強い魔物と力ね」
「あぁ、この俺もそれは共感。 ユカリ達勇者パーティーは、このグランウェスのダンジョンにて勇者キンジョウ達に負けない位、レベルアップをお願いしたい」
「で、シャルルはどうするの?」

 締めくくろうとしていたコベソに、ペルセポネが突っ込む。

「むむ、帝国お抱えのあの商会に一泡吹かせば、帝国は同盟を再締結するだろう」
「意味分かりませんわ」
「このグランウェスというダンジョンの街を手離したくない商人と冒険者ギルドがあるって事だ。 勇者であるユカリが冒険者ギルドに在籍している」

 悩みだすユカリ達を他所に、ペルセポネは欠伸をしている。

「まぁ、魔王魔族を退けた帝国と、二度も魔王を倒した勇者。 その猛者がどの国にいるかって事ね」
「勇者キンジョウよりも強く二度も魔王を倒した勇者。 その勇者が帝国を敵対視したら、帝国としてはどうするか? 攻めてくるか、同盟を維持するか。 人族同士の戦争は普通、有り得んだろう」
「ええ、そうですわ。 人族同士の争いエウラロノース様が認めてないのですわ」

 フェルトの口調が強いが、俺とペルセポネの言葉に納得するユカリ達だが、リフィーナの疑問が飛ぶ。

「でもなんで、帝国のなんて言う名前か分からない商会が挟んでくる?」

 その問に黙ってしまっているコベソは、間を置いても口を開こうとしない。そこで俺が。

「簡単だ。 支援しているヒロックアクツ商事の商品が優れている。 帝国さま、ウチと取引しませんかと言うのをコベソは、画策しているんだろう」

 ユカリ達の視線を一気に集めるコベソは、ゴクリと喉を鳴らす。
 更に俺は口を開く。

「そして帝国と取引成立してしまえば、シャルル解放を聖国側へ求められる。 だが聖国側が解放をしなかったらコベソの一言でユカリは帝国側に付くとどうなるか……」
「勇者は神エウラロノース様の意思ですわ。 つまり聖国は、エウラロノース様への背信した事……ですか?」
「コベソが考えているのは、人族同士の争いを無くし、神に背くこと無くシャルルを奪い返す事だ」

 俺の言葉に目を丸くするユカリ達。

――――コベソお前も何故目を丸くしている?

「そこまで考えていたの。 コベソなのにぃ?」
「あ、あああああぁぁ当たり前じゃないかぁぁっ」

 驚きを隠せない程の声を荒らげるリフィーナに挙動不審な動きをしているコベソ。

「つつつつつまりじゃ。 君達はダンジョンに入る許可を冒険者ギルドに行って取ってもらい、ダンジョン到着階の記録を伸ばして貰う事じゃ」
「分かった!!」

 椅子を倒す勢いで立ち上がるペルセポネが、満面の笑みをしている。

「ちょっと」

 リフィーナの言葉をかき消すかのようにペルセポネは、ユカリに近づき両手で手を握りあう。

「ユカリ、ダンジョン最深部まで目指すわ」
「え、えぇ」

 にこやかな微笑みのペルセポネ。
 引きつった顔をするユカリ。
 その光景をみて羨ましそうな顔をするミミン。
 ペルセポネを先頭にユカリ達は、この部屋から出ていくと、椅子に座り項垂れるコベソ。

「コベソ本当の事言わないと伝わらないぞ」
「ええ、ですが、ハーデスさん」
「なんだ?」

 困り果てているコベソ。

「本当の事……。 ユカリ嬢ちゃん達を支援していたウチの商品が凄いと、ただ商圏内でアピールしたいだけでした」

 俺はコベソの言葉に眉をひそめるが、更にコベソは言葉を付け足してくる。

「アピール出来たら、シャルルを奪い返す交渉が出来るとしか考えて無かった……」

 コベソは、疲れ果てたのか机に顎を乗せてボヤく。

――――もしかして、俺の勘違いなのか?いやあの言葉や表情に仕草を見てれば、そう思うだろ。

 俺は、項垂れるコベソを見ながら席をたち部屋を出ようとする。

「コベソ、頑張れよ」

 言葉を残しペルセポネ達の後を追う。
 後にした部屋からコベソの泣き崩れる音がしたのは言うまでもない。

――――これは仕方がない事、ハッキリと言わないコベソが悪い。だか、勘違いが項を制した。その証拠にユカリ達も納得し目的が出来たし、コベソの活躍に期待しよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~

月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。 目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。 「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」 突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。 和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。 訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。 「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」 だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!? ================================================ 一巻発売中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...