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カツオフィレの猛威

冥王、狼と犬と犬にアンデッド。

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 スケルトンの群れに対峙するユカリ達の攻防が続く中、俺は残った馬車とコベソ達を護衛の為残っている。妻のペルセポネは、龍角族のミミンの角が心配なのでユカリ達と共に向かったが、戦闘には参加していない。
 御者とトンドは、馬達の世話と馬車の手入れをしているが、トンドは俺と共にユカリ達の戦闘を眺めていた。

「あまりにも多すぎないか、スケルトン」
「街の人使えばあれぐらいの数になるのでは?」
「ドロシン、マナラで見てきて街人は、ほぼゾンビになった傾向が高い、骨だけならわかるが、武装したスケルトンなんぞ……」
「まぁ、良いのでは? そんな事考えずともユカリ達が倒せば……」
「そうですが……」
「あくまで予想だが、ブラックワイルドボアを倒した所がこの近くだったと思うが。 その時死んでいたヤツらじゃないか?」

辺りを見回し、納得し頷いているコベソは、ハッとし何か思い出した顔をしだす。

「そういえば、気になってたんですがねぇ」
「何んだ?」
「魔王バスダトの鎧とか兜とか何処かに行ったんだろうかと」
「あぁ、それか。 それなら俺が、持っている」

 コベソの前に置かれる黒く禍々しい鎧を、鑑識眼を使って何かブツブツと言い出すコベソは、何やら考えて俺に告げてくる。

「これ、貰っても?」
「あぁ、俺が持ってても意味無いしな。 それにコベソなら有効活用出来るのではないか?」
「まぁ、お易い御用ですな」
「あと、このミノタウロスの角も渡しておく」
「おお、これはレッドミノタウロスの角……」
「ブラックとあと一体のレッドの角は、ペルセポネが持っているが」
「是非、頂きたいと」
「言っておこう……」

 コベソと会話していると、ユカリ達は順々にスケルトンの数を減らしている。

「まさか、あの武器を持ったスケルトンが、ブラックワイルドボアの時に埋めたカツオフィレの兵士の死体だったなんて、あの時やっておけば……」
「今更、何言っても遅いが、ユカリ達に取ってはレベル上げにもなるし、アンデッド討伐の経験にもなる、一石二鳥ではないか」
「そうですね……」
「会頭!! ちょっとっ、車輪直すの手伝ってくださぁい」
「おうっ」

 大きく膨れたお腹を揺らしながら、呼んできた御者の元に駆けていくコベソは、息を切らしている。
俺は、ユカリ達をペルセポネに任せコベソの後をついて行くが、やはりここはあのブラックワイルドボアが出てきた所に近い。そして、突如現れ飛んで行ったドラゴンも気になる。

――――ドラゴンなんて自分の世界では空想の存在、そしてファンタジーの代名詞でもあるし、あと下から見ただけでは、トカゲの腹に羽が付いてたかとしかわからん。何ドラゴンなのか気になるのだ。更に言えばドラゴンを倒して『ドラゴンスレイヤー』等呼ばれるのも悪くない。

 そんな考えを抱きながら俺は、コベソとトンドに御者達の作業している近くにいると一人の御者と共にいたトンドが声を荒らげる。

「おいっ、おい!! 来たぞぉっ」
「犬! 狼!! 違う違うっ。 コボルトだっ!! コボルトぉっ」

 戦いの騒音を聞き取ったのか、人の匂いを嗅ぎ付けたのか、魔物の群れがやってくる。
 二足歩行のガタイの良い犬のコボルトを始め群れの中に牙を剥き出しにし血眼になっている狼ワーウルフが、混じっている。
 だが、御者の一人が発見する。

「お、おいあれっ!! オルトロスじゃないか!?」
「オオオオッオルトロスだァっ!!」

 御者達とトンドにコベソは、その言葉を聞き慌てて馬車の後ろに入るとコベソは、俺に「たたた頼みますっ」と言い残している。

――――オルトロス……。たしかケルベロスと兄弟の双頭の犬。でも実際本当のオルトロスがいる訳ではあるまいし、どこかの誰かが双頭の犬の魔物の事をオルトロスと呼んだんだろうな。

 俺は、コボルトが引き連れる群れを目を凝らしてオルトロスがいるのかを確認する。

『ん? 双頭の……二つ頭の……あぁぁ』

 俺の目に映ったオルトロスは、実際ワーウルフに跨っているコボルト。
 この二体何故か同じ顔に見えてしまう。

――――普通、狼と犬似ているようで似てないだろ!!狼に似ている犬種もいるが、それでも大抵狼は、わかるだろ!!

 御者が、相当慌てていたのはわかるが、混乱をさせるのはやめようと言いたい。
 聴こえてくるコボルト達の何か言っている言葉と吠えてくるワーウルフ。その二種の魔物の声が、混じっている。
 ハルバードを持ち迎え撃つ俺は、迫るコボルトの群れに向かって歩き出す。

『バァッオォオオォ!!』
『ガァッウゥゥゥ!!』

 垂らしているヨダレが左右に揺れコボルトを乗せたワーウルフが、こちらに向かってくる。

 ハルバードの柄を少し握り締める。

 六体のワーウルフがヨダレを撒き散らすほど高く跳び俺に襲いかかるか、ハルバードで薙ぎ払う。

 ボタッ、ボタッボタッボタッボタッボタッ……。
 ドドスドスドスドスドスドス……。

「うぎゃぁぁあああぁぁ」
「げぇえぇえっ!!」

 俺の後方で馬車に隠れていたトンドと御者の悲鳴が、聴こえた。

――――そっちにワーウルフ、コボルトが行ってない筈だが。

 振り返らずに足元にある首を失い横たわって痙攣しているワーウルフ。その地面は赤い血で敷き詰められる。
 残りのワーウルフも牙を光らせて同じように襲いかかってきたが、既にそいつらも横たわるワーウルフの胴体と共に地面を血で染めている。
 すると、またトンドと御者の叫び声が聴こえるが、今度は合わせてコベソのも聴こえていた。

――――うるさい……。二人は人間、人族の死体も見てるし、そんな犬いや狼の死体で叫ぶなよ。

 ピクピクとしてワーウルフの死体が、徐々に赤く染まるのを見ていたコボルト達が、少し後退りする。その後ろから『ガルルルルルルルゥゥ』低い唸り声が聴こえた方を俺は目を凝らしてその魔物に目が止まる。

「おい、あれはっ。 コボルトライダーだっ!!」
「おめぇもしかして……オルトロスとあれ見間違いじゃねぇかぁっ!!」
「いや、居たって!! 二つ頭のっ」

 御者が、ワーワー騒がしくし言い合っているが、そこにコベソの一言でピシャリと止まる。

「おめぇら騒ぐなっ。 ハーデスさん、こっち頭、頭ぁぁっ」

――――頭? あぁ、俺が斬り落としたこの狼の頭があって気色悪いって事だろ?

 コボルトライダーに切羽詰まらせているコボルトだが、俺との間にあのワーウルフの死体で躊躇しているのを裏目に俺は騒ぐコベソへ視線を動かすと、俺の脳裏にその光景が入った瞬間、数回瞬きをする。

――――気色悪い……。 気色悪すぎるだろ……。

 ワーウルフの頭が、口をパクパクしながら飛び跳ねているのだ。すると、俺の耳に何か地面を這うような物音が聴こえその方向に目をやると、死んで倒れていたワーウルフの胴体が足を震えながら立ち上がって首の切断面から残りの血を噴き出している。
 そして、雄叫びを上げ迫ってくるコボルトと吠えるコボルトライダーのワーウルフ。
 俺の目には、コボルトライダーの奥に紫色の靄を発している四足歩行の魔物が目を光らせて俺を睨んでいる。

――――アンデッドになった? ゾンビのワーウルフだな。奥のあれがそうさせているのか?

 俺はハルバードを一振で、コベソ達の前で上に飛び跳ねているだけのワーウルフの頭をまるで風船を破裂させるかのよう全て粉砕する。
 そのまま駆け足で、ワーウルフの胴体のみを数体突き刺しては地面に叩きつけ、斧の部分で切り刻むと、血は出し尽くしたみたいで、吹き出る事無いが、内臓や細かな肉片があたりに散りばめられる。
数十体のワーウルフの胴体や頭部が肉片と化し、俺はその上を跨ぎ、詰めてきていたコボルトの群れに一振。三体のコボルトを薙ぎ払い胴体を斬ると、手を振り上げ襲いかかってくるコボルトにハルバードで突き刺しそれを振り回し残りの五体を跳ね飛ばす。
 咆哮するコボルトライダーに押されたのか……否、その声に何か鼓舞する物がありそうだ。
 胴体を着られた三体は、もがき苦しんでも腕を動かし、突き刺した二体も刺した部分を手で抑え俺に向かってこようと足を引きづっている。そして、跳ね飛ばした五体もよろよろに成りながら迫ってくる。

「ふぅ……」

 一息つく俺は、軽く踏ん張って胴体を斬ったコボルト二体の頭上から頭を踏みつけると、ハルバードの穂先で突き刺し、更に踏み潰し破裂させる。
 もう一体も同様に転がる目玉を他所に、突き刺した三体を四肢と頭が胴体を一瞬の内に切断させる。

――――ちょっと面倒くさいな。

 神力を少しハルバードに流し、残りの五体を突き刺しては破裂、斬っては破裂と軽々と破裂させアンデッド化させないようにしていくと。
 辺りには血と肉片で地面を覆ってしまった。
 だが、怯むことの無いコボルトライダーは、三体。更にその奥にいた紫色の靄を発生させている双頭の犬オルトロスが、『ガルルルルルルルゥゥッ』と低い唸り声を上げると、合わせてコボルトライダーも吠え、俺に威嚇し間合いを詰めてきていた。
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