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23 思いがけない情報に、不安で心が締め付けられるほど苦しいわたしの隣……ナディアの顔が綻んでいますわ

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 王都アヴァロン――――王都の城壁を潜り目に入る綺麗な街並みと活気のある人々そして、この街を見下ろす高い塔が幾つもある城。
 ついに着いたわ。私のアイリス……それは勇み足だわ。まだだけど、早く一目でもいいから会いたい。だけど、焦りは禁物。
 白の勇者アイリスは、この王都の何処かにいる。それは赤の勇者グレンから貰った確かな情報。
 そして、分かるの――――アイリスが王都にいるって事は、どこかの貴族のアホな男どもが、寄って集ってアイリスと見合いを持ち掛け、ほぼ連日のようにアイリスを困らせている。
 アイリスは勇者なのよっ。世界を守る勇者なのに、この世界の貴族共は何を考えているのかっ! 魔王やその配下である脅威な敵が現れたた途端に、アイリスを引っ張り出し現地に向かわせ、何も起きなければ、可憐なアイリスに近づこうと色目を使ってくる。 
 その脅威になる敵に対抗する力を付けなければならないのにって――――そうそう、女神さまもアイリスパートの時めっちゃくちゃキレてたし、私もキレてましたわ。
 それを思い出してしまう王都の景色。
 あぁアイリス――――早く会ってその苦しみから解放させて上げたいわっ。
 
 眺める王都の街並みを後に、私とナディアはこの王都アヴァロンの冒険者組合へと中に入る。
 私達は、商隊と乗合馬車の護衛という依頼を受け王都にたどり着いた。道中、私達の他に2つのパーティーも同じ依頼を受け同行していたわ。
 1つのパーティーは5人組の男だらけ、ほんとナディアに色目を使ってきてその度にナディアはイラついていたわ。そしてもう1つはこれまた5人組でリーダー以外は女性、しかも女性はリーダーである男にべっとり。視界に入れないようにしてたわ。
 そんな事よりもナディアが、冒険者組合の壁に貼られた大きな記事に目を通している。
「だからなのね。歩哨の兵や守衛が沢山いたし、さらに警備が手厚だったのね」
「へっ、そうなの?」
「マリベル――――王都に来た事って……」
「そんなのぉ、かなり昔よ」
「それなら、今と昔は分からないわね。多くなった原因はこれよ」
 ナディアの指は、壁に貼られた記事を指さしてくる。
 私はその記事に目を通しその内容に『ふーん』と流してたけど、一瞬にして私は愕然とする。
「これって――――四魔将……アイミアヤフに出現って!」
「魔王の配下……四魔将よっ。いても立っても居られない」
「そこじゃないっ! 四魔将が現れたってことはっアイリス……勇者たちはもう、アイミアヤフに向かっているんじゃないのぉぉっ!」
 記事を睨み尽くす私の後ろから男性の低い声。
「うむ、もうそろそろ交戦という話があるな」
 突如掛けられた声に驚く私と平然とするナディアは、その声の方へ振り向く。ムッキムキの筋肉を見せびらかそうとする動きをする中年の男性が、真っ白な歯を見せながら笑っている。
「私は、この冒険者組合の所長をしているデイビス・ブォルビア。筋肉美を持つ人と言えばこの俺だっ」
「……」
「……」 
 沈黙よ沈黙。ザワつく室内なのに私の周りだけ、やけに静か……いや音すら無い、まさに沈黙。
 腕を上げたり、足を組み替えたりと膨れ上がる筋肉を見せてくる冒険者組合の所長デイビス・ブォルビアが、白い歯を見せながら口を開く。
「国から支援の話が合ってだな。その貼り紙みているヤツらに声をかけているところだ……どうだ話を聞くか?」
 願ってもない事だわ。アイリスの向かった領地は分かるが、魔将との戦場なんて、現地行かなきゃ分からないもの。
 だけど、ナディアはなんと思うか?
 ナディアの様子を伺うと、口角を上げ頷いてくる。
「是非!」
「よし、そう来なくてはなっ」
 腕の筋肉をピクピクと動かして笑顔になる所長デイビス・ブォルビアに案内され一室に招かれる。
 
 少し豪華で大きめのソファに座る私とナディア。テーブルを挟んで向かいに座る所長デイビスは、1枚の紙を出してくる。
「これは、つい先ほど国王宛てに届いた魔将と勇者の戦いの状況だ」
 その言葉を耳にしながら私は、アイリスの状況を知りたい一心で書かれている文字に目を通す。
 なにこれ……。えっ?
『勇者四人とも負傷あり』と『魔将の強さ凄まじく勇者四人歯が立たない……応援を』
 私の目にこの一文が飛び込んでくると同時に慟哭が激しく、いてもたってもいられなくなり立ち上がると、私の動きを止めるナディア。
「マリベル。落ち着きなさい」
「ああ、君が慌てること無いだろ」
「早く行かないとアイリスがっ……アイリスがぁっ」
「だから、落ち着け!! 君が白の勇者とどんな関係か知らんが、先ほど速報がきて、勇者は持ちこたえているそうだ」
 怒鳴る所長デイビスの言葉に我に返ると、そのまま腰を抜かしたかのように再びソファへもたれ掛けるように腰を下ろす。
 すると、軽く咳払いをする所長デイビスは、その視線をナディアに移し低い声を発する。
「その紺色の髪に特徴のある剣の柄。ランク【B+】のナディア・フルハイムだな」
「ええ、でも今は既に家名は……」
「すまない――――」
 失言だったのか所長デイビスは頭を下げる。
 なに? ナディアに名字? フルハイムって知らないわ。でも兄のグリフや姉のシエンを見てたら佇まいが貴族のような……今ではそんな感じに思えてきたわ。
「私と知って声を掛けてきたということ?」
「冒険者ランク【B+】の君が、まさかこの王都にいるとは。すまぬが勇者達を助けにむかってほしい」
「まぁマリベルは行く気満々だし……これは行くしかなさそうね」
 横目でチラッと私の顔を見るナディアに『行くわ』とアピールしているのが効果があったようだわ。
「そう言ってくれるとありがたい。この王都にランク【A】と【B】の冒険者が在籍しているが別の依頼で出払っているんだ。よりによってこんな時にいないとは」
「そこに運良く【B+】の私がいた……と」
「そうだ。勇者パーティーは殆ど【B】のランクなのだが、魔将相手にこの状況だ」
 眉間にしわ寄せて険しい表情の所長デイビスは、出した紙をしまいながら白の勇者アイリスに関わる話をし出す。
「唯一救いなのが、白の勇者アイリスのパーティーメンバーである1人、剣士カイン・アルフォーリスがいる」
「カイン・アルフォーリス?」
 男の名前……に不快な気分だわ。アイリスが男と共に旅をしているって。頭の中ではわかっているのよ女神様のところで見てたもの。でも現実で耳にすると――――良い気分はしないわね。
 そう不快な顔をする私の表情をみてデイビスは苦笑いをするが、私の横でナディアがソワソワしだす。
「カインさ――――カイン・アルフォーリスが白の勇者アイリスと共に」
「ああ、それに――――」
「マリベル!!」
 デイビスの言葉を遮って私に詰め寄るナディアは興奮のあまり私を押し倒しそうになる。その状況を目にするデイビスは「そういう事は余所でやってくれ」と小声で言ってきた。
 ナディアにはその言葉が届いていませんわ。それほどカイン・アルフォーリスに何かありそうですわ。
「早速、行きましょ。勇者アイリスの元へ、マリベルも賛成でしょ。賛成しかない」
「さ賛成よ。賛成しか無いけど……なんでそんなに行きたいの?」
「私たち行きます!!」
 私の質問は?
 猛烈な勢いで腰を上げ前のめりになるナディアは、所長デイビスに了諾の意思をつげる。
「おぉ、その心意気、確かに受け取ったっ。移動手段やら話を詰めていくぞ……」
 何かを発しようと口を開くとすぐさま阻止してくるナディアに圧され、所長デイビスとナディアは魔将討伐応援の話をしている。
 やはり、カイン・アルフォーリスは、何かありそうですわ。それよりもアイリスどうか無事でいて……。
 私は心の中で祈りつつ、今後の行動について所長デイビスとナディアの話を頭にたたき込んでいた。
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