公園の少女

こたつみかん

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三話

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 翌日、図書館は休みだというのに、僕はマユに会うために公園に行った。

「……あ、お兄ちゃん!」

 遊び相手を見つけたのがよっぽど嬉しいのか、マユは僕が現れると、ぱっと明るい顔になって、子猫のように寄り添ってくる。

「ねえねえ、今日はゲームしよう!」
「ゲーム? どんな?」

 マユの提案で、この日はゲームをすることになった。
 地面に線を引いて陣地を取り合うという、僕もよく知っているゲームだった。
 
 そして、いつものようにマユと別れる時間になったとき、いつもよりもいっそう淋しそうにしていたマユが言った。

「……お兄ちゃんの家に行きたい」

 びっくりした僕は、もう一度聞き返そうかと思った。いくら名残惜しいからといって、見ず知らずの……しかもこんな若い女の子を部屋に連れ込むなんて。

「それは駄目だよ、自分の家に帰らないと」
「いいの……お兄ちゃんの家に行きたいの」

 正直言って、僕は困っていた。ただでさえ僕みたいな男と、マユみたいな子が一緒にいるのは怪しい。
 いまこうしてる間にも、マユの両親に怒鳴りつけられるんじゃないかって、気が気じゃないというのに……。

「ねえ、いいでしょう?」

 マユはいつものポーズ――両手を後ろで組んで、ちょっとだけ傾げた顔でこっちを見上げる――をして、悪戯っぽい笑顔を浮かべておねだりをしてきた。
 その表情は、僕が何を考えているのかを見透かしているみたいだ。

「駄目だったら、お母さんが心配するよ」
「大丈夫だよ、そんなの」
「大丈夫なことないって」

「……マユのことを置いてっちゃうの?」
「置いてくも何も……ダダをこねないでよ」
「…………」

 マユの表情はくるくると変わる。
 さっきまではねだるような顔だったのに、今は泣き出しそうなくらいに悲しそうになっている。
 
 僕は、そんなマユを見ていると――それだけじゃないのは確かだけど――このままマユを突き放すことが出来なくなってきた。


「ね、シャワー浴びていい?」

 部屋に入った途端、マユは僕のベッドの上を飛び回ったり、あちこちの物をいじったりし、しまいにはシャワーなんてことを言い出した。
 公園での泣き顔と、アパートに向かうときのおとなしさが嘘のようだ。

「……何だって?」

「シャワー浴びたい」
「どうして? そんなの自分の家で……」

「もお、そんなのいいじゃん。あ、ここだ」
「あ! おいおい、勝手に……」

「お兄ちゃんも一緒に入る?」
「な、何言ってんだ……ったく、分かったよ、好きにしろよ」
「やったぁ!」

 マユは楽しそうに歌を口ずさみながら服を脱ぎ終えると、シャワーを浴び始めた。

 僕は何か落ち着かない気分だった。何かいけないことしているようで、ベッドに座っている間もそわそわして仕方がない。

「ねえねえ! リンスが無いよー?」
「……え、何だって?」
「リンスー!」

 確かリンスはまだ残ってたはずなんだけど……すっかりマユのペースに乗せられている僕は、溜息まじりに返事をした。

「まだあるでしょ? ちゃんと見たの?」
「えー? 何ー?」
「だから、リンスはまだあるはずだって」
「よく聞こえないよー」

 そりゃあシャワーを浴びてたら聞こえやしないだろう。
 僕はやれやれと頭を掻きながらシャワールームに近づいていった。

「だからぁ、シャンプーの奥に…………な!」

 シャワールームの手前に来た瞬間だった。
 突然にガラス戸が開いたかと思うと、裸のマユが僕に抱き着いてきたのだ。あまりのことに、僕はどうすることも出来ないでいた。
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