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人体模型は青く染まる(3)

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 というところにいきついた。
 だからわたしは、今まで以上に梶原先生の授業を真面目に受ける。
 紫水晶とイルミネーションのいたずらから一週間が過ぎ、月も変わった。
 七月はプールの授業も増えるし、夏休みに向けての準備もあるから、なんとなく忙しい月でもある。
 そんななか、七月の全体の理科倶楽部の活動が行われた。
 夏休みの理科の自由研究のテーマを決めようというもので、先生がどのような研究があるのかを教えて、自分でできそうなものを選ぶという感じ。
 わたしは重力についての自由研究がしたいなぁと思って、先生の話を聞いていた。
 本当にあの日以降、穏やかな活動日が続いている。
 だけど、そうは問屋とんやおろさない。そうやってわたしたちを油断させていたにちがいない。

 プールの授業は、六学年の二クラス合同で行う。そんな日は、給食が終わると少し身体からだが重く感じる。
 カーテンの向こう側からは、じりじりとした日差しを感じながらも、エアコンのそよそよとした風が、眠りへと誘う。
 それでもグループ学習にしてくれるから、なんとか眠気とたたかって五校時目の授業をやり終えた。
「「「さようなら」」」
 みんなで帰りのあいさつをすると、となりの二組からも「さようなら」と聞こえてきた。どうやら今日は、一組も二組もほぼ同時に終わったようだ。
 二組の教室からのほうが理科室へは近い。わたしがリュウジくんと一緒に理科室へ向かおうとすると、前には二組の三人の姿があった。
 ランドセルの脇には水着入れを引っかけている。
「プールの授業があると、身体が重くなるよね」
 わたしがリュウジくんに向かって言うと、リュウジくんも気だるそうに「そうだね」と答える。
 リュウジくんは、体育が好きではないようだ。理由は、疲れるから。
 それに引きかえ、わたしは体力作りのために走ったり筋トレをしていたりするから、どちらかというと体育は好きな教科である。
 先に歩いている二組の三人が、理科室の後方のとびらを開けた。
 三人の姿が理科室へと吸い込まれてすぐに「ギャー!」と、コトミちゃんの悲鳴が聞こえた。
 わたしとリュウジくんは『廊下は走らない』という校則をやぶって、ランドセルをガコンガコン鳴らしながら理科室へと向かった。
「どうしたの?」
「イッチャァアアアン!! わたしのもっくんがぁああああああ!!」
 コトミちゃんがひしっとわたしに抱きついてきた。
「何かあった?」
 コトミちゃんの悲鳴を聞きつけた山口先生も、前のとびらをガラッと勢いよく開けて入ってきた。
「先生……人体模型が、汚されています」
 いつだってリュウジくんは冷静である。
「あぁ……またぁ?」
 それが先生の本音なのだろう。いや、そう思っているのは山口先生だけじゃない。
 また、理科室内で悪質ないたずらが起こったのだ。
「コトちゃん。これ、絵の具だと思う」
 人体模型からは、絵の具の独特のにおいがただっている。
「拭けば、キレイになるよ」
 コトミちゃんはいつだってわたしを励ましてくれた。だから、今度はわたしがコトミちゃんを励ます番だ。
「なんで、もっくんが青い絵の具で染められているの? なんで青? 静脈じょうみゃく? 静脈なの?」
 静脈かどうかはわからないが、人体模型は青色の絵の具によって汚されていた。
「山口先生。これも写真に撮っておいてください。それから教頭先生に報告を。ボクたちは、人体模型をきれいに掃除してます」
 はぁ、と山口先生が大きくため息をついた。
「先生、よっぽど教頭先生が苦手なんですね」
 キイチくんがニヤニヤとする。
「そうやって、先生をからかわない」
 ビシッと言った先生は、スラックスのポケットからスマートホンを取り出す。
「先生。絵の具はまだ完全に乾いていないようように見えませんか?」
 カシャッ――
「そうね。榎木君の言う通りかも」
 カシャ、カシャ――
「とりあえず、こんなもんかなぁ」
 そう言った先生は、スマートホンをポケットにしまいこんだ。
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