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006 酒の肴にイケメンを

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 べリスの街、とある酒場にて。

 タカシを宿屋へと案内した後、リゼは飲み友達である女性ミクルと酒を交わしていた。
 リゼとは対照的に一点の乱れもないブロンドの長髪を垂らし、琥珀色に染まるグラスに口をつける。

「空いたパーティーを埋める仲間、見つかったのね」

「おおぅ、そうなんだよ! しかも、イケメンだ! んでな? 童貞の両刀使いなんだよ、あっははは」

 タカシが危惧した通り、まさに酒の話のネタにされていた。
 だが知らぬが仏であり、幸いタカシの耳に届かない。

「何それ? 意味不明じゃない?」

「ごめんごめん、ま、揶揄うと面白いんだよな。初々しいっていうかなんていうか」

 タカシの実年齢は36なので、リゼよりも一回り以上歳を重ねている。
 外見と女慣れしていないその様子に、自分より年上だなんて微塵も思ってはいなかった。

「へぇ、ちょっと興味あるね。イケメンで初々しいか……全然趣味じゃないけど」

「あんたはうちのジェスターやサンダーみたいなゴリゴリ系が好きだもんな! 何がいいのやら、むさいだけっしょ」

 ジェスタ―とサンダーというのは、リゼのパーティーメンバーなのだろう。
 誘われた以上タカシもいずれ会うことになるのだが、それはまたの機会だ。

「ふっ、りーちゃんは見た目と違っておこちゃまよねぇ。あの包み込むような逞しさと厚い胸板の良さが分からないなんて」

 人それぞれ趣味は違う。
 見た目からなら逆でありそうなものだが、この二人に限ってはそれはあてはまらないようだ。
 リゼは血のように赤い液体をグイと飲み干して見せた後、激しく嗚咽を漏らす振りをした。

「うげぇぇぇ。ないないっ! そんなに欲しいなら、のしつけくれてやるっての!」

「え、ほんとにっ? 二人のこともらっちゃっていいの!?」

「あ、いや、まぁ、実力は確かだし……それにあんたとは合わないだろうに」

「まーね。はー、なんで戦士なんかになっちゃったんだろ。好みのタイプにお近づきになれるかと思ったのに、パーティーの需要が摩擦するなんてねぇ」

 ミクルは空になったグラスを揺らしながら、ほぅと息をついた。
 ジェスターもサンダーも似たような職種であり、同じパーティーを組むとバランスが非常に悪いのだ。

「あれ、そういえば噂のイケメン君の職業ってなに?」

「……無職」

「ごめん、今なんて?」

「何の職業にも就いてなかった。つまり、無職ってわけ。育て甲斐があるってもんよ」

 腕を組みながら、うんうんと頷いているリゼを見て、ミクルはあきれるように手を広げた。

「え、えぇぇ、あっきれたぁぁ。魔法使える人か回復できる人か、そのどっちかを探すって言ってたじゃない。
 それがよりにもよって何の職業にも就いてないだなんて……顔だけで選んじゃったんだね」

「何の職業にも就いてないからこそ、いろんな可能性がある、そう思わないか?」

「物は言いようだよね。確かにそうかもしれないけど、駄目かもしれないじゃない。
 それに、もしそうだったとしても一から育てないといけないってことよね。サンダーはともかくジェスターは怒るんじゃないの?」

 リゼのパーティーにおいてリーダーはジェスターと呼ばれる男だった。
 以前はヒーラーが加わった4人であったが、結婚して所帯をもつと宣言し抜けてしまったのだ。
 現在のパーティーは前衛が3人というバランス悪。
 そこで仲間がそろうまでパーティーとしての仕事を中断していた。
 当然のことながら身入りは激減する。
 この上で、さらに人ひとり育てる時間が欲しいと言えば、リーダーが激怒するのもやむを得ないことかもしれない。

「んー。そうなんだけどさー。逃がしたくなかったんだもん」

「も、もんって……。ヒーラーのカズマさんが抜けるって言った時も、思いっきり殴り飛ばしてたじゃないの」

 リゼはその時のことを思い出していた。
 激怒したジェスターがそれ以上暴行を加えようとするのを止め、なだめすかすのに骨を折った。
 こういうところがあるからゴリゴリ系は嫌なのよ、そんな風に思ったのは割と最近の話だ。

「その時はオレが止めるって。何があってもな」

「りーちゃんなら大丈夫だと思うけどさ、その子は殴られたらしんじゃうかもよ」

「むぅ……」

「ってかさ、何歳なんだっけ?」

 ミクルに尋ねられ、年齢を聞いてなかったことに気付く。
 タカシの外見を頭の中に浮かべつつ呟いた。

「そういえば聞いてなかったなー。んー多分成人したてって感じだったと思う」

「私たちの少し下って感じなのね。年下かー、年下はないかなー」

「いやいや、あんたにはあげないから」

「ふぅ~ん。でもさ、無職っていうからもっと若いのかと思ってた。よくここまで生きてこれたね」

「あ、それ! オレも思った! 最初武器も防具ももってなくてさ、しかも記憶はないっていうの!」

 ミクルは細く切り整えられた眉根を寄せてみせた。
 やはりというかタカシの言葉は異常極まりないことだったのだ。
 しかも町の外からやってきたというのが拍車をかける。

「怪しいね。なんか秘密があるんじゃない? 例えば……実は人間じゃなかったりとか!」

「いやいや、んなわけ……。確かに人間離れした顔だったけど、まさか、な」

「それかもんのっすごい力を隠し持ってたりするかもよ? 素手で外からきたって、何もなかったらふつう死んでるよね」

「タカシが……ものすごい力を?」

 その後もタカシの話を酒の肴にきゃっきゃと二人は言い合っていた。
 当然ながらここまで色々なことを言われてるなんて夢にも思っていない。
 無職の荷物持ちと言ったことが、逆に疑惑を生んでいたことを彼は一人知らなかった。
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