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004 リゼさんとの出会い
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べリスの街は円型に広がる外壁で囲まれた水源豊かな町だった。
敷地は広大であり、40000人ほどの人々が暮らしている。
碁盤目状に整地された街並みの中に水路が通っており、そこから引かれた水源で農作物はおろか、果樹園すら作られていた。
といっても、コル〇ナさんに聞いた知識であるので、実際にそれを見たわけではない。
西洋の街並みのような光景に目を奪われていた俺だったが、実際に歩いてみたいと足を踏み出した。
活気があり、人々の生活水準が低くないのが分かる。
そしてちらちらと感じる俺への目線。
現世ではそんなことがなかっただけに、新鮮に感じられた。
辺りを興味深く見ながら、色とりどりの果実が並ぶ市場へと差し掛かろうとしたころ、赤髪の女性に突如話しかけられる。
「おい、見ない顔だな? この町は初めてか?」
「え! あ、はぁ。さっき着いたばかりで」
すらりと伸びる細身の体躯に厚みのある唇。
露出の多い服装から惜しげもなくはだけさせている胸元。非常に目のやり場に困る女性だ。
彼女は遠慮する様子もなくジロジロと俺の全身を眺めまわす。
「ふぅーん、見る感じ一人だよな? 名前は?」
「さ……」
「さ?」
「いや……」
俺の名前は斎藤隆志。それは異世界転生をした今でも変わりはしない。
しかし、斎藤です。と答えていいのかどうか迷った。
明らかに日本人離れした外見は俺だけではなく、周りも同じなのだから。
コル〇ナさんに聞こうかとも思ったが、挙動に怪しいところが出てしまうかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。
そんな風に考えているうち、女性は俺のことを訝しむようにのぞき込んできていた。
「男だろ! さっさと言う! ちなみにウチの名前はリゼって言うんだ。赤髪のリゼって言えばこの町だと結構通ってるんだぜ?」
女性に先に名乗らせてしまうなんて失礼な気がしたが、今は非常にありがたかった。
苗字ではなく名前で。タカシとリゼでは違和感があることは否めないが、許容範囲だと思いたい。
「俺の名前はタカシです! リゼさん、有名なんですね」
だがどうみてもアイドルや女優のような姿格好ではない。
いくつも携えた短刀や、そのしゅっと伸びる手足から予想されるしなやかな動き。
おそらくは冒険者かなんかで、実力者ということなんだろう。
「はっ、あんま見んなよな」
「す、すみませんっ」
リゼさんの言葉に俺は思わず腰を折った。
確かにジロジロと見すぎていた気がする。
だが顔を少し赤らめ、鼻頭をポリポリとかくその姿は嫌がっているようには見えない。
おそるべし女神の身体。そういうことにしておこうか。
「それで、ええと、いったい……?」
とりあえずなぜ話しかけてきたのか知りたい、そう思い問いかけた。
カモを騙そうと思って近づいてきたといった理由だったら、すぐに逃げねばならない。
「少々頼りなさそうだがお前うちのパーティーに入れ。いや、もう決めた!」
「え……ええっ!? そんないきなり
強引な物言いだった。
だが俺にはわかる、彼女は嘘をついていたりするわけではないと。
ならばこの誘いはありがたいのかもしれない。
一人では救世主になんかなれないのはわかっていたからだ。
「なんだよ、嫌なのか? 他にあてがあったりすんのかよ?」
「いえ、ありません。右も左もわからなくて」
「んじゃ、決まりだなっ! んで、お前何ができんだ? 見たとこ武器も防具もなんにもないけどさ」
俺に何ができるのか、それをしばし考える。
武器や防具といった手前、彼女が聞きたいのは冒険者としての仕事ということなのだろう。
戦士なら剣を振り、魔法使いなら魔法で相手を倒す。僧侶ならヒールで仲間を回復する。
詳しいことは分からないんが、ゲーム的なイメージだとこんな感じだ。
勿論、俺にはそれら全ての経験はない。
だが。この身体だ。やろうと思えばなんでもできるのは確信している。
問題はそれがバレてはいけないということ。
おそらくであるが剣を振っても、魔法を使っても、通常起こりえないことが起こる気がする。そんな気がする。
そもそも魔法を使うのを見られてもいいのだろうか? コル〇ナさんに尋ねると、否、ということだった。
「何もできません!」
「へ!?」
「剣を振ることも、魔法を使うこともできません。そ、そうだ! 荷物持ちくらいなら」
「荷物持ちぃ!?」
リゼさんは口を大きく開き驚きを露わにした。
流石に荷物持ちはまずかっただろうか。
しかし、他に思いつくことがなかったのだ。
「ごめんなさい。ええっと、やめときますか?」
リゼさんは顎に手をあて、少し考える様子を見せる。
「いや……かまわねー。オレがいろいろと教えてやるよ。ちなみに職業はなんだ?」
「職業? サラ……じゃなくて、ええと」
言いかけて口ごもる。
当然であるがサラリーマンといっても何の意味もないと思ったのだ。
彼女が聞きたいのはやはり、先ほど考えた戦士や魔法使いといったそういうたぐいの話なのだろう。
勿論、女神です。なんていうわけにもいかず、コル〇ナさんに問いかけると、何の職業にも就いていない、と教えてくれた。
「無職です!」
「無、無、無、無職ぅぅぅ!? ちょっ、おまっ」
リゼさんは再度大口を開けて間の抜けた声をあげたが、俺はそれを笑ってみてる事しかできなかった。
敷地は広大であり、40000人ほどの人々が暮らしている。
碁盤目状に整地された街並みの中に水路が通っており、そこから引かれた水源で農作物はおろか、果樹園すら作られていた。
といっても、コル〇ナさんに聞いた知識であるので、実際にそれを見たわけではない。
西洋の街並みのような光景に目を奪われていた俺だったが、実際に歩いてみたいと足を踏み出した。
活気があり、人々の生活水準が低くないのが分かる。
そしてちらちらと感じる俺への目線。
現世ではそんなことがなかっただけに、新鮮に感じられた。
辺りを興味深く見ながら、色とりどりの果実が並ぶ市場へと差し掛かろうとしたころ、赤髪の女性に突如話しかけられる。
「おい、見ない顔だな? この町は初めてか?」
「え! あ、はぁ。さっき着いたばかりで」
すらりと伸びる細身の体躯に厚みのある唇。
露出の多い服装から惜しげもなくはだけさせている胸元。非常に目のやり場に困る女性だ。
彼女は遠慮する様子もなくジロジロと俺の全身を眺めまわす。
「ふぅーん、見る感じ一人だよな? 名前は?」
「さ……」
「さ?」
「いや……」
俺の名前は斎藤隆志。それは異世界転生をした今でも変わりはしない。
しかし、斎藤です。と答えていいのかどうか迷った。
明らかに日本人離れした外見は俺だけではなく、周りも同じなのだから。
コル〇ナさんに聞こうかとも思ったが、挙動に怪しいところが出てしまうかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。
そんな風に考えているうち、女性は俺のことを訝しむようにのぞき込んできていた。
「男だろ! さっさと言う! ちなみにウチの名前はリゼって言うんだ。赤髪のリゼって言えばこの町だと結構通ってるんだぜ?」
女性に先に名乗らせてしまうなんて失礼な気がしたが、今は非常にありがたかった。
苗字ではなく名前で。タカシとリゼでは違和感があることは否めないが、許容範囲だと思いたい。
「俺の名前はタカシです! リゼさん、有名なんですね」
だがどうみてもアイドルや女優のような姿格好ではない。
いくつも携えた短刀や、そのしゅっと伸びる手足から予想されるしなやかな動き。
おそらくは冒険者かなんかで、実力者ということなんだろう。
「はっ、あんま見んなよな」
「す、すみませんっ」
リゼさんの言葉に俺は思わず腰を折った。
確かにジロジロと見すぎていた気がする。
だが顔を少し赤らめ、鼻頭をポリポリとかくその姿は嫌がっているようには見えない。
おそるべし女神の身体。そういうことにしておこうか。
「それで、ええと、いったい……?」
とりあえずなぜ話しかけてきたのか知りたい、そう思い問いかけた。
カモを騙そうと思って近づいてきたといった理由だったら、すぐに逃げねばならない。
「少々頼りなさそうだがお前うちのパーティーに入れ。いや、もう決めた!」
「え……ええっ!? そんないきなり
強引な物言いだった。
だが俺にはわかる、彼女は嘘をついていたりするわけではないと。
ならばこの誘いはありがたいのかもしれない。
一人では救世主になんかなれないのはわかっていたからだ。
「なんだよ、嫌なのか? 他にあてがあったりすんのかよ?」
「いえ、ありません。右も左もわからなくて」
「んじゃ、決まりだなっ! んで、お前何ができんだ? 見たとこ武器も防具もなんにもないけどさ」
俺に何ができるのか、それをしばし考える。
武器や防具といった手前、彼女が聞きたいのは冒険者としての仕事ということなのだろう。
戦士なら剣を振り、魔法使いなら魔法で相手を倒す。僧侶ならヒールで仲間を回復する。
詳しいことは分からないんが、ゲーム的なイメージだとこんな感じだ。
勿論、俺にはそれら全ての経験はない。
だが。この身体だ。やろうと思えばなんでもできるのは確信している。
問題はそれがバレてはいけないということ。
おそらくであるが剣を振っても、魔法を使っても、通常起こりえないことが起こる気がする。そんな気がする。
そもそも魔法を使うのを見られてもいいのだろうか? コル〇ナさんに尋ねると、否、ということだった。
「何もできません!」
「へ!?」
「剣を振ることも、魔法を使うこともできません。そ、そうだ! 荷物持ちくらいなら」
「荷物持ちぃ!?」
リゼさんは口を大きく開き驚きを露わにした。
流石に荷物持ちはまずかっただろうか。
しかし、他に思いつくことがなかったのだ。
「ごめんなさい。ええっと、やめときますか?」
リゼさんは顎に手をあて、少し考える様子を見せる。
「いや……かまわねー。オレがいろいろと教えてやるよ。ちなみに職業はなんだ?」
「職業? サラ……じゃなくて、ええと」
言いかけて口ごもる。
当然であるがサラリーマンといっても何の意味もないと思ったのだ。
彼女が聞きたいのはやはり、先ほど考えた戦士や魔法使いといったそういうたぐいの話なのだろう。
勿論、女神です。なんていうわけにもいかず、コル〇ナさんに問いかけると、何の職業にも就いていない、と教えてくれた。
「無職です!」
「無、無、無、無職ぅぅぅ!? ちょっ、おまっ」
リゼさんは再度大口を開けて間の抜けた声をあげたが、俺はそれを笑ってみてる事しかできなかった。
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