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001 異・異世界転生?
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俺の人生を言うならば、まさに平凡という言葉をさらに重ねた、平々凡々と表現するのが最適だった。
勿論趣味もあったし、楽しみがなかったわけではない。
だが基本的には、
朝起きて、仕事に行き、上司にこづかれ、夜眠る
この繰り返しであった。
「すいまっせんでしたぁぁぁぁぁぁ」
見渡す限りの白の世界、美人の横で少女が俺に向け土下座していた。
二人とも揃いの金髪、まるで姉妹のような見た目だ。
何か謝られるようなことをされたのだろうか、と最後に残る記憶を探ってみる。
確か営業成績が悪いと朝一で怒鳴られた俺は、それを挽回しようといつもの倍の取引先を回っていた。
道中、連日の残業の疲れが蓄積していて非常に眠かったのを覚えている。
居眠り運転でもしてしまったのだろう。
「ここは、天国か? ということは俺は死んだんだな」
「違うんです。いえ、なんというか、現世と冥界の狭間のような場所というかなんというか」
「あまり変わらないように思うのだが。なんで俺はその子に謝られてるんだ?」
「それがですね、ちょっと女神界も人手不足というか、女神手不足といいますか」
美人は女神と口走った。
つまり俺は今女神に謝られているということであり、それは通常考えられないことだった。
「この子も一応女神なんですけど、ちょっとそそっかしいところがありまして」
「はぁ、そそっかしい? そうですか」
どうやら話を聞くと俺は誰かと勘違いされてここに呼ばれてしまったらしい。
つまり本当はしんでいなかったのだが、間違ってしんだことにされてしまった。
正直な話、怒りたかった。怒鳴りたかった。
けれど、涙と鼻水とよだれで可愛い顔をぐちゃぐちゃにしているのを見た瞬間、その気持ちはしなしなとしぼんでいった。
「で、俺は一体どうなるんですか? 天国にいけるなら、まぁ、いいですよ、仕方ないんで」
確かに俺は、生前上司にののしられていたようにドジで要領も悪い。
だが人様に迷惑をかけるようなことを一切していないのは断言できる。
天国や地獄が本当にあるのなら、天国に、いや、せめて穏やかな世界に連れて行ってほしかった。
しかし美人の顔は浮かない。俺の中に言いようのない不安が生まれていく。
「それが……斎藤さんは死んだけど死んでないというか、死んでないけど死んだというか……。
言いにくいのですが、天国にも地獄にも行き場所はないというか」
「なっ……」
あんまりな言葉だった。本当にあんまりだ。
涙が目から滲む。俺が一体何をしたというのだろうか。
「ごめんなさいっ、本当にごめんなさいっ」
女の子は泣きじゃくり再度頭を擦り付けた。
生きていたころにこれ程までに誰かが泣いてくれたことはあっただろうか、いやない。
「分かった、いいよ、小さい女神さん。どうせ生きてても大していいことはなかっただろうしな」
口では言いつつも本当はつらかった。
斎藤孝志36歳独身。既に両親は他界し、友達も少ない。
見た目もよくはないし、貯金もあまりない。
それでも日々を精一杯生きてきたし、この先結婚したり子供ができたりといった希望も残されているんじゃないかと思っていた。
「そんなことはありませんっ。私は本当は知っています、斎藤さんが誰よりも優しいんだってことを」
見られていたのか? そんな風に思うよりも、誰かがちゃんと俺のことを見てくれていたという事実に感動した。
「ありがとう、その言葉だけで十分だよ。んで、俺は一体どうなるんですか?」
「ええ。死にゆく先に行き場がない以上、あなたの魂を虚無へと落とし輪廻の鎖を断ち切って消滅させるしかないでしょう」
「……」
ある程度の覚悟を決めた俺だったが、その言葉を聞いた途端言葉を失っていた。
生まれ変わることも天国へ行くこともなく存在が消滅するだなんて。
死んだ体だというのに動悸が激しくなるのを感じた。
「そんなっ……。ど、どうにかならないんですか? 流石に、それはあんまりなのではないでしょうか」
「ですが……」
「シェンファ姉さま、問題を起こした私が言うのもなんなんですが、彼を異魂縛転生させるのはどうでしょうか?」
転生。俺の知る限りではそれは生まれ変わりという意味。
気になった俺は尋ねかけてみることにした。
異魂縛転生とは、俺の記憶や精神なんかを別の魂に移し替えて転生させるという通常行われない処方。
魂が別のものになるなんて正直言って気持ちが悪い。
だが俺の魂の消滅は決定事項でありそれしか方法がないという。
ならダメ元でもそれにすがるしかない、というのが彼女たちの考えである。
「斎藤さんが異魂縛転生でもいいとおっしゃるなら」
聞けばまだ他にも問題がある。
生命の始まりとして生まれ変わるには器がないという話なのだ。
つまり女神様がこしらえた人形のような体に俺は転生することになる。
正直嫌だった。だが他に方法がないのだから仕方がない、そう言い聞かせるしかなかった。
そして俺は地球には転生できない。
あの世界では俺という情報が削除され再現することができないのだそうだ。
つまり別の世界。異世界転生することになる。
「異世界転生か……。小説かなんかで見た覚えがあるな。なんかチー……特別な能力なんかを貰えたりするのだろうか?」
俺が見たことのある小説では女神様にチートを貰って快適な生活を送ったり、モンスターを倒して無双なんかをしていたのを覚えている。
もしそんなことがあるならばこの転生も悪くない。
「ええ。多分に想像してらっしゃるような力を使うことはできるのですが……」
女神が作る肉体。それ自体がどうやらチートであるらしく、割と万能に色々なことができるらしい。
しかし女神様の顔は暗い。
「この異魂縛転生それ自体が、本当は通常おこなうことのない緊急措置なのです。
簡単に言いますと、バレてしまえば斎藤さんの魂はやはり消滅することになります」
「……つまり?」
「その力を使うところを誰にも見せてはいけないということなのです。但し、ある程度の知能を有している生命体に限りです」
虫や魚なんかには見られても平気だが、人間はおろか動物やモンスター(やはりというかいるらしい)にも力を使うところを見られてはダメという。
見られた瞬間、女神の身体は光塵となり、俺の魂は消滅し永久にもどることはない。
「その上申し訳ないのですが……」
女神の作った肉体は人間のものとは違う。どちらかといえば神の形代に近い。
それは神が不測の事態において地上に降りるときに使うもの。
神様が人間界に直接影響を及ぼすことがないのは同じ理由だという。
そしてその体を保つには徳が必要なのだ。
簡単に言えば人間にとって善い行いをし続けなければいけないということ。
「その力を隠しきったまま世界を救う英雄になってみてはいかがでしょうか?」
なんて簡単に言うのだが。そんなことが可能なのだろうか?
もっとも俺に選択肢はなかった。女神の言葉に頷いて覚悟を決める。
そんなわけで俺は力を誰にも見せてはいけない上で、世界の英雄様にならないといけないという、なんだか訳のわからない転生をすることになったのだった。
勿論趣味もあったし、楽しみがなかったわけではない。
だが基本的には、
朝起きて、仕事に行き、上司にこづかれ、夜眠る
この繰り返しであった。
「すいまっせんでしたぁぁぁぁぁぁ」
見渡す限りの白の世界、美人の横で少女が俺に向け土下座していた。
二人とも揃いの金髪、まるで姉妹のような見た目だ。
何か謝られるようなことをされたのだろうか、と最後に残る記憶を探ってみる。
確か営業成績が悪いと朝一で怒鳴られた俺は、それを挽回しようといつもの倍の取引先を回っていた。
道中、連日の残業の疲れが蓄積していて非常に眠かったのを覚えている。
居眠り運転でもしてしまったのだろう。
「ここは、天国か? ということは俺は死んだんだな」
「違うんです。いえ、なんというか、現世と冥界の狭間のような場所というかなんというか」
「あまり変わらないように思うのだが。なんで俺はその子に謝られてるんだ?」
「それがですね、ちょっと女神界も人手不足というか、女神手不足といいますか」
美人は女神と口走った。
つまり俺は今女神に謝られているということであり、それは通常考えられないことだった。
「この子も一応女神なんですけど、ちょっとそそっかしいところがありまして」
「はぁ、そそっかしい? そうですか」
どうやら話を聞くと俺は誰かと勘違いされてここに呼ばれてしまったらしい。
つまり本当はしんでいなかったのだが、間違ってしんだことにされてしまった。
正直な話、怒りたかった。怒鳴りたかった。
けれど、涙と鼻水とよだれで可愛い顔をぐちゃぐちゃにしているのを見た瞬間、その気持ちはしなしなとしぼんでいった。
「で、俺は一体どうなるんですか? 天国にいけるなら、まぁ、いいですよ、仕方ないんで」
確かに俺は、生前上司にののしられていたようにドジで要領も悪い。
だが人様に迷惑をかけるようなことを一切していないのは断言できる。
天国や地獄が本当にあるのなら、天国に、いや、せめて穏やかな世界に連れて行ってほしかった。
しかし美人の顔は浮かない。俺の中に言いようのない不安が生まれていく。
「それが……斎藤さんは死んだけど死んでないというか、死んでないけど死んだというか……。
言いにくいのですが、天国にも地獄にも行き場所はないというか」
「なっ……」
あんまりな言葉だった。本当にあんまりだ。
涙が目から滲む。俺が一体何をしたというのだろうか。
「ごめんなさいっ、本当にごめんなさいっ」
女の子は泣きじゃくり再度頭を擦り付けた。
生きていたころにこれ程までに誰かが泣いてくれたことはあっただろうか、いやない。
「分かった、いいよ、小さい女神さん。どうせ生きてても大していいことはなかっただろうしな」
口では言いつつも本当はつらかった。
斎藤孝志36歳独身。既に両親は他界し、友達も少ない。
見た目もよくはないし、貯金もあまりない。
それでも日々を精一杯生きてきたし、この先結婚したり子供ができたりといった希望も残されているんじゃないかと思っていた。
「そんなことはありませんっ。私は本当は知っています、斎藤さんが誰よりも優しいんだってことを」
見られていたのか? そんな風に思うよりも、誰かがちゃんと俺のことを見てくれていたという事実に感動した。
「ありがとう、その言葉だけで十分だよ。んで、俺は一体どうなるんですか?」
「ええ。死にゆく先に行き場がない以上、あなたの魂を虚無へと落とし輪廻の鎖を断ち切って消滅させるしかないでしょう」
「……」
ある程度の覚悟を決めた俺だったが、その言葉を聞いた途端言葉を失っていた。
生まれ変わることも天国へ行くこともなく存在が消滅するだなんて。
死んだ体だというのに動悸が激しくなるのを感じた。
「そんなっ……。ど、どうにかならないんですか? 流石に、それはあんまりなのではないでしょうか」
「ですが……」
「シェンファ姉さま、問題を起こした私が言うのもなんなんですが、彼を異魂縛転生させるのはどうでしょうか?」
転生。俺の知る限りではそれは生まれ変わりという意味。
気になった俺は尋ねかけてみることにした。
異魂縛転生とは、俺の記憶や精神なんかを別の魂に移し替えて転生させるという通常行われない処方。
魂が別のものになるなんて正直言って気持ちが悪い。
だが俺の魂の消滅は決定事項でありそれしか方法がないという。
ならダメ元でもそれにすがるしかない、というのが彼女たちの考えである。
「斎藤さんが異魂縛転生でもいいとおっしゃるなら」
聞けばまだ他にも問題がある。
生命の始まりとして生まれ変わるには器がないという話なのだ。
つまり女神様がこしらえた人形のような体に俺は転生することになる。
正直嫌だった。だが他に方法がないのだから仕方がない、そう言い聞かせるしかなかった。
そして俺は地球には転生できない。
あの世界では俺という情報が削除され再現することができないのだそうだ。
つまり別の世界。異世界転生することになる。
「異世界転生か……。小説かなんかで見た覚えがあるな。なんかチー……特別な能力なんかを貰えたりするのだろうか?」
俺が見たことのある小説では女神様にチートを貰って快適な生活を送ったり、モンスターを倒して無双なんかをしていたのを覚えている。
もしそんなことがあるならばこの転生も悪くない。
「ええ。多分に想像してらっしゃるような力を使うことはできるのですが……」
女神が作る肉体。それ自体がどうやらチートであるらしく、割と万能に色々なことができるらしい。
しかし女神様の顔は暗い。
「この異魂縛転生それ自体が、本当は通常おこなうことのない緊急措置なのです。
簡単に言いますと、バレてしまえば斎藤さんの魂はやはり消滅することになります」
「……つまり?」
「その力を使うところを誰にも見せてはいけないということなのです。但し、ある程度の知能を有している生命体に限りです」
虫や魚なんかには見られても平気だが、人間はおろか動物やモンスター(やはりというかいるらしい)にも力を使うところを見られてはダメという。
見られた瞬間、女神の身体は光塵となり、俺の魂は消滅し永久にもどることはない。
「その上申し訳ないのですが……」
女神の作った肉体は人間のものとは違う。どちらかといえば神の形代に近い。
それは神が不測の事態において地上に降りるときに使うもの。
神様が人間界に直接影響を及ぼすことがないのは同じ理由だという。
そしてその体を保つには徳が必要なのだ。
簡単に言えば人間にとって善い行いをし続けなければいけないということ。
「その力を隠しきったまま世界を救う英雄になってみてはいかがでしょうか?」
なんて簡単に言うのだが。そんなことが可能なのだろうか?
もっとも俺に選択肢はなかった。女神の言葉に頷いて覚悟を決める。
そんなわけで俺は力を誰にも見せてはいけない上で、世界の英雄様にならないといけないという、なんだか訳のわからない転生をすることになったのだった。
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