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第二章~魔王討伐計画始動~

第77話~異世界転移したら女になって私の書いてる小説の世界でした~

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「いらっしゃいませ。お席に御案内いたします」
 エントランスの扉を開け入店すると、待ち構えていた黒服が席に私達を案内してくれた。<臨時休業>と書かれた紙が扉に張られていたが、店内は普通に営業しているようにしか見えない。
 黒服に案内されたのは十番テーブルだった。
・・・・えっ。四人なのに団体テーブル?
 十番テーブルは団体向けで八~十人の御客様に対応出来る、店で一番大きなボックス席だ。
「じゃあ、私は着替えてくるから」
 美香が私達に声を掛けると、質問をする間もなくバックルームに向かってしまった。
 席に案内を終え一旦下がった黒服が戻って来た。
「紗季ちゃんです」
 黒服の横には紗季が立っていた。
「紗季でございます」
・・・・いったい、何なの!?
 動揺する私を完全にスルーして、紗季は私の横に座ると、
「御飲物はどういたしますか?」
 完全に接客モードで接してきた。
「では、テネシーウイスキーのボトルをお願い。飲み方はストレートで」
 こういう時の七海は強かった。私と同じで訳のわからない混乱に襲われているはずだが、普通の客を演じきっている。
 紗季は横で待っていた黒服に注文を伝えた。
「十番さん。ボトル頂きました」
 黒服はコールをするとボトルの準備に向かう。
「・・・・彩美、気が付いてるかい?」
 七海が念通で話掛けて来た。
「・・・・えっ!?」
「・・・・フロアをよく見て」
 横目でフロアを流し見する私だった。
「・・・・あっ、店内にいる御客様・・・・全員・・・・私の懇意な御客様!?」
「・・・・気が付いたね。これは何か仕込まれてるから、流れに身を任そうね」
 流石の七海だよ。動揺で取り乱していた私と違い、フロア全体を入店と同時に把握してるとか。
 ボトルが届き、紗季が琥珀色の液体を満たしたロックグラスを私達の前に置く。
「紗季ちゃんも、御好きなドリンクをどうぞ」
 私が声を掛けると紗季が驚きの発言をした。
「では、私もストレートで頂きます」
 キャストグラスに琥珀色の液体を満たす紗季だった。
・・・・紗季ちゃん。ストレートとか大丈夫なの?
「乾杯」
 紗季のグラスが整うの待っていた七海がグラスを軽く掲げる。私と七海、アークは当然だが一息でグラスを飲み干したが、紗季も一息で飲み干し私は驚きを隠せなかった。
「そんなに驚かないでよ。徳さんに鍛えられたから・・・・それよりね・・・・メネシスから、お帰りなさい。帰りを楽しみに待ってたよ」
・・・・えっ、なんで紗季がメネシスを知ってるの!?そして、私達がメネシスから帰って来たのを・・・・なんで紗季が知っているの!?
◆◆◆◆◆◆◆◆
 死鬼を倒してキャバクラ跡地から通りに出た私達だった。
「さて、少し飲んで帰るか」
 早い時間に食事を済まし暗くなると同時に死鬼狩を始めたので、まだ二十時前だった。七海の提案に美香が手を上げて応えた。
「いい店を知ってるから行こうよ!」
「なんか新しい店で面白い所でも出来たのかな?」
「いいから!着いて来て!」
 七海の質問をスルーした美香が先陣を取り歩みを進める
・・・・あれ?二丁目に向かってるよね。
 美香の案内で、花道通りから明治通りに出て靖国通りを渡る。仲通りに入り少し歩くと・・・・
「はい!到着ね」
・・・・えっと、これ。セブンシーの入ってる雑居ビルでは!?
「えっと・・・・」
 七海ですら反応に困っている。
「ほら、いくよー!」
 私と七海の戸惑いも気にせずに、美香はエレベーターの呼ボタンを押した。
・・・・もしかしたら、別の階に新しいお店が入ったのかな?
 そう考えた私だったが、エレベータに乗り込んだ美香が二階のボタンを押すのを見て完全に混乱に陥った。
・・・・二階はワンフロアでセブンシーしかないよ!?
 エレベータの扉が開くと・・・・そこには、「MixBar SEVENSEA」と大きくロゴがデザインされた見慣れた扉がある。この時間であれば明るく光っているはずの営業中を示すドア横の電光看板が消えている。
 そして…扉には「臨時休業」と書かれた紙が貼り付けられている。だが、扉越しに営業中の店内と変わらないBGMや話し声が薄くだが聞こえてくる。
「さあ、入ろうよ!」
 美香が私達に声をかけて来た。
◆◆◆◆◆◆◆◆
 完全に仕込みだ。だが、それはいいけど‥‥なんで、紗季がメネシスを知っていて・・・・それも受け入れているの!?
 激し過ぎる混乱で私の視界がグニャグニャに溶けていく。
・・・・無理だよ‥‥なにが・・・・どうなって・・・・理解出来ないよ‥‥
 先史代とか人とか関係ない。理解を逸脱した出来事が私の意識を破壊する。
「おっ、彩美ちゃん!異世界新婚生活は順調かい?」
 よく知った、安心感を与えてくれる声が韜晦寸前だった私の意識を現実に引き戻してくれた。
「上田さん!」
 正常な視界を取り戻した私の目に映るのは、黒服に連れられた常連の上田の姿だった。
「上田さんです」
 黒服がキャストをテーブルに着けるときの口調で上田を紹介した。上田の両脇には新人君の二人が座った。
「メネシスでの新婚生活は楽しんでるかい?」
・・・・おーい。上田さんに会話の流れを捕まれてるよー。まあ、今日は蝶じゃないからいいか。
「彩美さん。ぼ、ぼ、僕は応援してます。お店を引退してでもメネシスを守りたい気持ち!」
 新人君の一人がガチガチになりながら伝えてくれた。

「えーっと。なんで、上田さんも・・・・新人君も・・・・紗季も・・・・メネシスを知ってるの?」
 私の質問に紗季がスマホを取り出し画面を私に見せた。画面に映っていたのは投稿小説サイトの私のマイページだった。
「これを読んじゃったから。読んだ瞬間に理解・・・・違うかな。感じたって表現が正しいかな・・・・彩美ちゃんは物語の世界に・・・・」・・・・なにこれ?私の小説を読んだら・・・・今の状況を把握。もう、訳が本当にわからない。
「美香ちゃんが静香さんとね。アニメの話題かなんかで盛り上がって話してると思って会話に入ったらね‥‥」
 二人は私の物語に関して話していた。紗季は私が物語を書いていた事に興味を持ち、美香に掲載先を教えて貰った。帰宅後に私の物語を読み始めた紗季は不思議な感覚に襲われた。
 なぜか、「この物語の世界に彩美ちゃんと七海さんは暮らしてる」と直感で感じた。
「紗季ちゃんが俺にも掲載先を教えてくれて、読んでどう感じるか聞きたいってね。俺も読み始めたら二人はメネシスにいる。としか思えなくてね」
 上田がメネシスを知っている理由を教えてくれた。

「性転換でなくて、実は女体化だったには驚いたけどね」
 続けて上田が話した内容に私は動揺を隠せない。
「えっ。私の女体化とか私は物語に紡いでないよ」
 紗季が再びスマホを取り出すと、物語に贈られた一件のコメントを見せてくれた。
<著者は物語の世界に旅立ちました。その後の世界を私が紡ぎます>
 コメントには別の物語へのリンクが張り付けられていた。紗季がリンクをタップすると・・・・「異世界転移したら女になって私の書いてる小説の世界でした~無敵チート以外のご都合主義がない大変な世界~ 著者:さいび」と表示された。
・・・・えっ!?
「なにコレ!?」
 私が驚きの声を出してしまったのと対照的に、なにか納得した表情の七海だった。
「すまぬが、美香の指名をお願い出来るかな」
 紗季が黒服を呼んで、美香の指名を伝える。美香が来るまで紗季は第一話をスマホに表示して私に見せてくれた。そこには私がメネシスに転移してからの日々が紡がれていたのだ。
「なんだコレ?さいびって誰なんだ!?」
 私がスマホの画面に集中していた間に、ドレスに着替えた美香が席に着いていた。
「彩美の漢字を音読みにするとね」
 美香が私の問いに答えてくれた。
「彩が<さい>で、美が<び>・・・・ええ!」
・・・・私はメネシスに行ってからは物語は紡いでないよ!
「美香。そろそろ種を明かしてくれないかな」
 七海が笑いを堪えた表情で美香に願った。
「彩美ちゃんがメネシスから戻って来た時に聞いた話をね、なんで彩美ちゃんが転移したかの謎解きをしようと、忘れたり、間違えたりしないようにPCでメモをしてたの」
 紗季や上田を含めて私の物語を目にした人達の中で何人かが直感で私達がメネシスに居る事を感じたと聞いた美香は、私の物語の続きを書く事を決めた。
「謎解き用にメモしていた記録があったので、あとは彩美ちゃんの文体を真似て物語風にしたんだ」
「じゃあ・・・・<さいび>って美香なの!?」
「うん。何も知らずに読めば彩美ちゃんの物語への二次創作に見える様にしてみたんだけど‥‥あっ、ペンネームは彩美ちゃんから貰ったよ」
「続きが急に掲載されて驚いた俺達だったけど、読んだ瞬間に間違いない現実が綴られていると感じてしまった」
 上田が私の女体化を知っていた理由を教えてくれた。
「私も同じで・・・・でも、こんなに彩美ちゃんのことを七海さん以外で理解している人は誰?って考えたら美香ちゃんしか思い浮かばなくてね。それで美香ちゃんに聞いちゃったの」
「紗季ちゃんから聞かれた時に感じたんだ。もう伝えてもよい刻が来たってね」

「それで、この仕込みだったのかな。今、店内にいる御客様とキャスト達は紗季や上田さんと同じなのかな」
 七海は私より先に真相に辿り着いて、色々と考えていたみたいだ。店内を改めて見ると、キャストも黒服を含めたスタッフも普段の半分位の人数しか出勤をしていないことに気が付いた私だった。
「うん。今、店内にいる御客様、キャスト、スタッフもね、彩美ちゃんの物語を読んで私や静香さんにメネシスに二人がいるのではないか?と、話をしてくれた人だけだよ」
・・・・あっ!?
 ある事に気が付いた私は改めて店内を確認する。
・・・・やっぱしだ。キャストやスタッフも私と仲が良くて、閉店後一緒にご飯いったりしてる人達だけだよ。

「よっ!久々のガイアを楽しんでるかい?」
「金田さん!金田さんも・・・・」
 私達が十番テーブルに通された意味がわかった。今日は私がテーブルを周るのでなく、御客様がこのテーブルに順次来る仕立てだと。
「ああ。宇美から彩美ちゃんが物語を書いていた話を聞いてね、読んだ瞬間に何かを理解したよ。ただ、いつも一緒に来ていた安田は物語を読んでも何も感じなかったな」
・・・・なんだろう、物語に選ばれる基準でもあるのかな?
「ふふふふふ。答えは出てるじゃないか今日のメンバーを見れば」
 七海がヒントをくれた。
「あっ。本当は御客様は公平な目線でみなきゃなんだけど、今日いらっしゃるお客様は別れるのが本当に寂しいと思っていた人達だ。キャストやスタッフもね」
・・・・もしかして、これも<世界>が無理やり異世界転移させた私へのお礼なの?
「多分あってるよ。<世界>が私達が全て終えたあとに帰れる場所を用意してくれたんだな」
まったく、七海は私の考えていることを御見通しだ。

「御帰り彩美ちゃん」
「タカちゃん!」
 タカちゃんは空いてる席に座ると、キャスト陣も話に夢中で空になっていたグラスに酒を用意し始めた。
「本当に物語には驚いたけど、なんか彩美ちゃんと七海さんならで納得出来たよ」
 全員の酒が準備出来たので乾杯だ。
「みんな!ありがとう!・・・・その・・・・その・・・・」
 やばい。言葉に詰まってしまった私だった。
「全て終え、彩美と必ず戻って来る。乾杯」
 七海が私の紡げなかった言葉を紡いでくれた。
「乾杯」
 十番テーブルだけでなく、店中の御客様やスタッフが杯を掲げている。
・・・・帰って来れる。嬉し過ぎて実感がわかないよ。
「何年でも何十年でも二人の帰りを楽しみに待ってるよ。シャンパンを入れる小遣いを貯めてね」
 上田の言葉が本当に嬉しい私だった。

 そこからは他の御客様やキャストも十番テーブルを訪れ、私達と色々な話をした。
「そういえば。彩美さんの横の女性はアークさんですか?」
 上田の連れてる新人君の一人が気が付いたみたいだ。
「はい。アークの幻体シュヴェでございます。よろしくお願いいたします」
 アークは答えると同時に、問うた新人君横の椅子に転移をした。
「ああ!凄い!本当に転移した!」
 大興奮の新人君だった。
・・・・シュヴェもサービス精神が凄いね。
「いや驚いた。感じ信じていたが実際に目で見ると驚くばかりだな」
「近藤さん!」
「俺も、ありがたいことに選ばれたみたいでな」
・・・・近藤が選ばれたのは嬉しいけど。近藤がWeb小説を読んでる姿が想像出来ないよ。
「こら、その笑みは何を考えているかわかるが・・・・俺だって彩美ちゃんの書いた物語で無ければファンタジーなんて読むことは絶対なかったからな」
 私の洩れてしまった笑みから近藤は察しったみたいだった。
「近藤さんね。彩美ちゃんの物語から異世界物にどっぷりでね。なんか面白いのはないかって、いつも聞いてくるんだよ」
「おい美香ちゃん。俺の稼業に響くから内緒にしてくれよ」
「ははははは。でも近藤さん。嬉しいよ。私の物語が始まりで異世界物に興味を持ってくれたのは」
「物語に書かれていない部分を補完したくて、他の異世界物に興味がでたのだが。読んでいたら楽しくなってしまったよ」

 それからも、代わる代わる多くの方がテーブルに来てくれた。
「さて、異世界から里帰り中の御二人に一仕事お願いいたします」
 なんかウキウキ声で静香がマイクを使ってアナウンスを入れた。
 ホールの中央のボックス席が移動されて、結婚式をした時と同じ八十センチ位の正方形で、高さ十五センチ位のケーキがテーブルに置かれていた。
・・・・これはサービスタイムかな?
 七海と一緒にケーキの前に行くと静香がアナウンスを続ける。
「では、御二人で異世界式のケーキカットをお願いします」
 七海と顔を見合わせて笑ってしまった。
・・・・感じても本当に信じるのに必要なこともあるね。
「金乃剣よ」
 私の手に金乃剣が現れると、ホールのアチコチから声が上がった。
「本当にバングルが剣になるんだ!」
「うわー。本当に本当だったんだね」
「これは凄いぞ」
 しばらくしてホールが落ち着くと、七海も剣を抜いた。
「銀乃剣よ」
 七海の手に銀乃剣が現れた。
・・・・さて、準備はいいね。
 私はテーブルを真下から蹴り上げるが、テーブルに足先が触れた瞬間に蹴りを止める。テーブル越しに伝わった蹴りのエネルギーでケーキだけが天井近くまで跳ね上がった。
 その横を駆け抜けながら私はケーキを数センチの幅で何回も斬り裂く。私が駆け抜け終えると、別方向に七海が駆け抜け同じように数センチの幅で何回も斬り裂いた。
 再び私がテーブルに先程度と同じ蹴りをいれると、今度は皿が中に舞った。落下するケーキを受け止めた皿は、天井近くまで上昇をして落下をはじめる。落下を始めた皿を私は受け止めてテーブルに戻した。
 皿には数センチ角で賽の目に斬られたケーキが乗っている。
「剣よ、ありがとう」
 私と七海が剣を納めると、ホールは歓声に包まれた。
「うわあ!剣筋が見えなかった」
「綺麗に賽の目に切れてる」
「本当に魔法と剣の世界なんだ」
 歓声が落ち着くと静香がアナウンスを入れた。
「ありがとうございました!見事な異世界式のケーキカットでした。二人に改めて拍手!」
<パチパチパチ・・・・>
・・・・まあ実際に見て貰うには、こんなサーカスみたいなことも面白いね。
「では、御二人のカットしたケーキは順次テーブルにお届をいたします」
 静香のアナウンスでサービスタイムは終了した。

 十番テーブルに戻る途中に宇美がやってきた。手に持っていたフルートグラスを私達に宇美が差し出した。
「お疲れ様でした。物語と美香ちゃんの続編で色々と知ってはいたけど、実際に見ると凄かったよ」
 私と七海は受け取ったグラスを軽く掲げると一息で飲み干した。
・・・・久々のシャンパンは美味しいね。
「大ママ、彩美ちゃん・・・・その・・・・全部済ましたら絶対に帰って来てね!私も頑張って、それまでにはお店出してるから!」
「うん。絶対に帰って来るよ」
「宇美の店で働くのは楽しそうだな」
 飲み終えたグラスを宇美に渡すと、私達は十番テーブルに戻った。私達が席に戻ると、シュヴェが瞬間着せ替えショーを披露していた。
「おっ、その服装は物語の中のままだな」
 近藤の目がキラキラと輝いて子供みたいで可愛いよ。こんな近藤を見れるなんて不思議な気分だ。
「美香。灰皿もらえるかな」
 美香から灰皿を受け取った私はタバコを咥えた。火を着けようとする紗季を制して、指先の火でタバコに火を着けた。
「凄い!本当に指先から火が出たよ!」
 背を仰け反らして驚く紗季だった。
「あれ?美香が見せた事ないの?」
「異世界のこけら落としは彩美ちゃんってね」
・・・・なるほどね。美香なりに気を使ってくれていたんだね。

 私は手の平の多重空間から空間拡張ポーチを取り出した。
「おお!本当に何もない手の平から出て来るんだ」
 新たにテーブルに訪れた常連客が驚いて目を見開いている。
 指先の火を出して手を上げ黒服を私は呼んだ。
「うわわ!本当に指先の火が!!」
 やって来た黒服の恵子が驚きの声をあげた。
 私はポーチからメネシスで常備している酒瓶を何本かテーブルに並べた。
「これが赤ワインで、こっちが米酒。これは白酒ね。あと、これは麦火酒だよ」
 いつ冒険に出る事になるかで、酒のストックは大量にある。私はポーチから店内の全員に行きわたる本数を出した。
「皆様に御試飲を頂ければ。あっ、酒瓶だけは異世界の物なのでガイアに残せないから、必ず回収をお願いね」
「わかりました空きビンは必ず回収しますね」
 何回かに別けて酒瓶を恵子がカウンターに持って行くと、マキがアナウンスを始めた。
「メネシスのお酒を彩美ちゃんが差し入れてくれました。飲んでみたい方は御客様、キャスト問わずカウンターまで受け取りに来てください」
 マキのアナウンスが終わるとホールの全員がカウンターに並びだした。メネシスの酒が入ったグラスをホールの全員が受け取るのを確認したマキが、アナウンスを入れる。
「では、大ママと彩美ちゃんに乾杯!」
「乾杯」
 ホールに皆の声が響く。
「うわあ!この麦火酒って美味しいけどスピリタス並だよ」
「米酒も美味しいけど度数高いね」
「この白酒!ガイアでも売ってないかな」
 メネシスの酒に対する皆の感想がホールに溢れた。

 私は恵子を呼ぶと、少しだけお願いをした。しばらくすると、マキのアナウンスが流れる。
「彩美ちゃん達が皆様に<力>を少しだけ御見せしたいとのことです。ホール中央にご注目ください」
 私は七海と美香を連れ、ホール中央にボックス席を移動して出来たスペースに行く。そこにはテーブルに並べられたメネシスの酒瓶があった。三脚のテーブルに数本ずつに別けられて並べられた酒瓶を前にした私は・・・・
・・・・ここまで私の物語を愛してくれる皆にサービスだね。
 私は翼を背中に出し大きく広げる。
「あれは!メネシスで大魔導士の証の翼!?」
 ホールから聞こえる声を背に、続いて七海と美香が金色に輝く翼を出し広げた。
「・・・・」
 ホールにいる皆が二人の金色に輝く美しい翼に見惚れ言葉も無い状態だ。
「魔法結界」
 この程度の遊びなら失敗はないが、万が一に備えて私は魔法結界を張る。
「鬼火」
 中央のテーブルに並べられた酒瓶に、私は鬼火を放った。テーブルの酒瓶は鬼火が命中した場所から闇の炎に焼かれ消えて行く。
「輝玉」
 七海と美香が両サイドのテーブルに輝玉を放った。輝玉の命中した酒瓶は光輝き、光の粉となり霧散して行った。
「結界解除」
 全て終えた私は結界を解除した。
「俺達、彩美ちゃん推しで大正解だったな。自分の目でみなきゃ、こんなの誰も信じない」
「ぐぬぬぬ。これは彩美ちゃんには絶対叶わないよ‥‥彩美ちゃんの初出勤の日から、わかっていたけどね」
 ホールから色々な声が聞こえて来た。
「そこの三人を怒らすと酒瓶と同じ運命が待ってるから、気を付けるんだよ」
 静香がネタ満載のアナウンスを入れて来た。
・・・・いや、悪人以外に使わんから。
 ネタに真面目に答える私の心中が、今の刻の楽しさを示したのかもしれない。

 テーブルに戻ると、美香が小声で話掛けて来た。
「ルシファーの件は伝えていいのかな?」
 皆、私の物語を知ってるなら会いたいはずだ。話に気が付いた七海が私に頷いたので、私は美香に頷いた。
・・・・ルシファーなら夜の蝶も完璧に熟せるよ。
 美香が静香の元に行き、何かを話している。
「おっとぉ!特報が入ったよ!なんと、日付は未定だけど来週に一日限定でルシファー様が臨時キャストで入ります!」
 静香が美香からの聞いた内容を、面白くアナウンスした。
「えっ!ルシファー様に会えるのか!?」
「来週は毎日通わないとだな」
「えっ。ヤバくない。ルシファー様と一緒に店に立つとか!」
・・・・これはルシファーのピンク封筒は間違いないかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
 その後は、皆で記念集合写真を撮影した。美香の仕込みで私と七海はメネシスの冒険者服だった。
「マキさんにお願いしてたんだ。出勤前にマンションに寄って二人の服を持ってきてねって」
 七海と並んで中央で剣を抜き構えた姿は、事情を知らねばコスプレにしか見えない。集合写真を撮り終えたあとは、完全にコスプレ撮影会と化してしまった。七海と私は要望されたポージングをしたり、個別に撮影を希望する御客様やキャスト達との撮影会だった。
・・・・こんな刻が来るなんてね。本当に事実は小説より奇なりだね。
 ちらっと七海の顔を覗くと、いつもの営業スマイルでなく素の笑顔で楽しんでいた。
 撮影会も終わり、七海と私は着て来た服に着替え直した。それから、しばらく宴は続いたが・・・・
「さて、名残惜しいですが浮世の時間も終わりが近づいてきました。皆様、お見送りの準備をお願いします」
 静香のアナウンスで御客様、キャストが二列に並びエントランスに向かう人の道が出来た。七海と私は差し出される手と握手をしたり、応援の声掛けを頂きながらエントランスに向かった。
 エントランスの扉前まで辿り着いた私達は振り向きホールを見渡す。ホールに並ぶ御客様やキャストの中には涙で見送ってくれてる人もいた。
・・・・メネシスに転移した刻は不安しかなかったけど‥‥こんなに幸せな刻を過ごせる日が来るなんて。
「全てを終え、二人で皆様へ御報告に必ず戻ってきます」
 七海が挨拶をすると一礼した。
「引き続き美香の紡ぐ物語を愛読お願いします。そして、全ての因果を紐解き解決させ、必ず二人で帰ってきます」
 私も挨拶をして一礼をすると、ホールは盛大な拍手に包まれた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふへぇ~楽しかったけど疲れたよ」
 マンションに戻った私と七海はシャワーを終えると、ソファーでテネシーウイスキーを飲みながら、気持ちのクールダウンをしている。
 シュヴェは「少し夜の街を散歩してくるね」と、店を出ると人混みに消えていった。
・・・・気を使ってくれたのかな。
「完全に予想外の展開だったもんね」
 七海も興奮が抜けないのか声が少し弾んでいる。
「全て終えたら・・・・帰ってこれる・・・・」
 ガイアの摂理を意図も簡単に曲げてしまう力を持ち、不老の私達がガイアに定住するのは難しい。だが、一時と言えガイアに戻れば居場所がある。こんな妄想すらしていなかった状況に、私も七海も興奮が抜けない。
 私達は会話をしながらスマホを片手に美香の紡いでいる物語を読んでいる。
「私より文才が豊かだよ」
「そうか?彩美のは彩美の味があっていいけど」
 メネシスでの全てを美香に話している訳ではないので、脚色や想像の挿入ストーリーがあったりはするが、メネシスに転移してからの私の生活や状況を理解するには十分な内容になっている。
・・・・私の物語で感じた人以外は二次創作としてでも十分楽しめる内容だね。
「あっ。気が付けば四時だ!明日は道場だったね」
 時間に気が付いた七海が、明日の予定を思い出して少し慌ててる。美香の物語に没頭してしまい時間の経過をわすれていた私達だった。
「物語の続きも気になるけど、今晩は寝ようか」
 私は七海に声を掛けると、七海の手を取りソファーから立ち上がりベッドルームへ向かった。

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 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

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