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第387話 冒険者達は語る。クマちゃんと仲間達。説明する赤子。

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 現在クマちゃんは、お菓子の国になくてはならない『しせちゅ』の『せちゅめい』をしている。



 リオはクマちゃんを抱え、たくさんの『パペちゃん』を『クマちゃんカードケース』にしまうと、カフェ妖精達に感謝を伝え、海底風ラウンジへ戻った。
 仲間達、ついでに冒険者達に完成品を見せてやるために。
 もこもこの愛で心が広くなった彼は『食べんのもったいないから全部家に飾ろ』計画を中止にしたのだ。

 こんなに美味しいお菓子、独り占めとか絶対ダメだよね――と。
 クマちゃんが一度作ったものならば、カフェ店員妖精クマちゃん達も同じものが作れる。
 そのことを思い出さなければ彼の心は狭いままだっただろう。

 宝石で彩られた海底、といった雰囲気の超高級ラウンジへ足を踏み入れると、リオはなぜか、盛大な拍手で迎えられた。

「感動しました……!」
「リオさん……!」
「まさかあのリオさんが……!」

「うっ、ううっ……良いとおぼいばず……!」

『何が』の部分をはっきり言わなかったり号泣していたりで非常に気持ち悪い。

 しかし十年以上冒険者をしているリオにとって、陽気な冒険者達が鬱陶しく絡んでくることなど『まぁまぁよくある事』である。
 きっと、高位で高貴なお兄さんからもらった『産地が不明で人間用かどうかも定かではない酒』を飲み、ベロベロに酔っぱらっているのだろう。

『水球風水あめちゃんモニター』はすでに姿を消していた。
 中継が終わると自動で片付けられる、『撤収機能ちゃん付き』な超高性能魔道具の話をする者は、何故かひとりもいなかった。


「おかえり、クマちゃん。リオ」

 南国の美しい鳥が、涼やかな声で出迎えの挨拶をする。
 が、外見に似合わず超大雑把な男ウィルは冒険者達がリオに絡む理由を説明しなかった。

「クマちゃ……」
『るーくちゃ……』

 クマちゃんがルークに手を伸ばす。

 リオは「えぇ……」と嫌そうにしながら、大事な我が子を魔王の手にもふ……と返した。
 彼の可愛いもこもこは無口で無表情で何を考えているのかさっぱり分からないルークが大好きなのだ。
 返さなければもこもこ愛護団体からの集中攻撃を受けるだろう。

「…………」

 ルークはにこりともせず、もこもこを指先でくすぐったり湿ったお鼻にふれたりしていた。
 しかし、クマちゃんにはそれで伝わるらしい。「クマちゃ、クマちゃ」と彼の手にしがみつき、おでこをぐいぐい押し付けている。非常に猫っぽい動きだ。

 リオは気付かなかったが、このときルークは微かに目を細めていた。
 クマちゃんにはそれだけで、大好きな彼の言いたいことが理解できた。
『楽しかったか?』『良かったな』
 そうやっていつも、クマちゃんを優しく見守ってくれているのだ。

◇  

「美味しい……!! このクリーム、すっごく新鮮な牛乳の味がする……! わたしの心にも、確かに生まれました……!」
「こっちの濃厚なクリームはイチゴのソースと組み合わせると旨味が一段と上がりますね……。この赤色のソースがつまり、温かで情熱的な……」
「このケーキの部分のしっとり感、きめ細やかな舌触り、甘味、ふんわりとした、それでいて確かな卵の味……。これがふたりの……。優しい……。あ……目から涙が……」

「冷たくない生クリームが一瞬温く感じるのにまったく不快感はない。むしろこの違いを楽しんでほしいという職人の思いが伝わってくるような、極上の風味。そして薄いピンク色の中にあるのは――」
「何故グラスに……。食べにくそう……。わたしのそんな気持ちは、完成品とふたりの――を見た瞬間、すぐに消えてしまったのです……」

 女性冒険者達は異様な目つきと雰囲気で、この世で最も貴重なものをいただくかのように、かつてないほど上品な仕草で『パペちゃん』を食し、味の感想を超えた感想を述べていた。

「うま……!! うわ、これ俺たちだけが食ったって知られたら結構やべーよな……」
「確かに。会議でクマちゃんに『ヤバい軽食』を作ってもらったって知られんのも相当まずいが、こっちのヤバさはちょっと違うからな……『ちょこ味』くっそウメェ……」
「『世界一可愛いクマちゃん』が作った『世界一綺麗なお菓子』だろ。しかも味まで世界一。生まれてこの方食ったことないもんばっかだしな……『ぱんぷきん味』の美味さは異常。まさかの酒風味」

 男性冒険者達はもくもくと『パペちゃん』を味わっていた。
 彼らがおそれているのは『クマちゃん大好き人間』と『甘いもの大好き人間』を合体させてしまったかのような危険人物達、『クマちゃんと甘いものと可愛いもの大好き人間達』に今の状況を知られることである。
 その大半は女性冒険者だ。

「オレは本気でこっちに住みたいと考えている。……どうすればいい?」
「もこもこになれ。まずはそこからだ」
「ぬいぐるみ被って可愛くない顔を隠すべき。マスター意外と可愛いもん好きだし、それでいけるだろ」

 ぬいぐるみの頭を被った冒険者がマスターの前に現れる日も近い。


「うーん。水球越しに見ても十分驚かされたけれど、本当に、とても美しいお菓子だね」

「何かいま変なこと言わなかった?」

 ウィルはちょっとだけリオの神経をピピー! とさせる言葉を紡いでから感想を述べはじめた。

「それに、味も。ひとつひとつが極上なのはもちろんだけれど、ソースを絡めたり、二色のクリームを同時に食べるだけで別の風味が楽しめるのはとても面白いね」

「クマちゃ、クマちゃ」

「水球って聞こえた気がするんだけど」

「いちいち細けぇな」

 ウィルがクマちゃんに『パペちゃん』の素晴らしさを語り、彼の喜びを感じ取ったクマちゃんが愛らしく喜ぶ。
 そして、終わった話をほじくりかえそうとした金髪は、もこもこのバックについている魔王様の色気のある声で、甘めに斬り捨てられた。
 普段は無口な男は幼いもこもこの『クマちゃ』を邪魔する者を絶対に許さないのである。

「ん? これは、コーヒーか? さっきの『まっちゃ』も良かったが、こっちも美味いな」

「――――」

 ギルドマスターの彼は酒場のマスターのような顔つきで、真剣に『パペちゃん』を味わっていた。
『てぃらみちゅ』『もんぶらん』『ぱんぷきん』『まっちゃ みるく』『もか びたーちょこ』が、特に気にったようだ。

 ほぼ同時に『もか びたーちょこ』を食べ始めたクライヴは衝撃的な美味さに驚き、膝によじよじヨチヨチとのぼってきたマーメイド妖精ちゃんに心臓をひとつきされた。



「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」

 居心地の良すぎる超高級ラウンジの外に出た彼らは、もこもこした赤子の聞き取りにくい話を真剣に聞いていた。

 クマちゃんは、お菓子の国の国民のために必要なしせちゅを、たくちゃん考えました。
 まずは、『商店街ちゃん』と『飲食店街ちゃん』と『野良妖精クマちゃんお預かりしせちゅ』と『おまちゅり会場ちゃん』と『ちゅーぱーちぇんとうちゃん』と……。

 永遠に続く、赤ちゃんの要望と希望と欲望を詰め込んだ危険な『しせちゅ』紹介。
『ちゃ』と『ちゅ』にまみれたもこもこの長話を止めたのは、真のリオちゃん王だった。

「いやいやいやいや、クマちゃん『まずは』の使いかた間違ってるからね。もう夜だから今日は一個だけにしよ。『商店街ちゃん』のガイとかめっちゃヤバそうだから最後のやつでいいよね。何言ってんのか分かんなかったけど」

 スパーン――! 

 彼の後頭部が妙に良い音を立てる。

「今カタログで殴ったでしょ!」

 己の頭に衝撃と『スパーン!』を感じたリオは目を見開き、自身の背後にいる派手な男を見た。
 敵からの攻撃は防ぐがお友達からの攻撃は防がない思いやり溢るる超高性能ピアスは、派手な男のカタログを防がなかったようだ。

「リオ、僕が君の後ろにいるからといって、『僕が君をカタログで殴った』と決めつけるのはどうかと思うのだけれど」

 ウィルは『困ったな……』という雰囲気で、カタログを持ったまま腕を組み、シャラ――と首を傾げてみせた。

「めっちゃカタログ持ってるじゃん!」

「おや、君の手にあるのもカタログのように見えるのだけれど」

「俺が自分でやるわけないでしょ。やってないっていうなら証拠見せるか犯人連れてくるかしてくれないと」

「うーん。証拠は見せられないけれど、君の後頭部をカタログで強く殴った犯人なら僕だよ」

「普通にやってんじゃん!」

 ――しかも強く! 中途半端にしらばっくれんの止めてほしいんだけど!
 ――ごめんね。突然君のことを黙らせたくなってしまって。

「あ~。それで、結局何を作ることになったんだ?」

 マスターは不毛なやりとりを見なかったことにした。
 ウィルは言葉通り、気遣いの足りないリオの口を封じたかったのだろう。
 気持ちは分からんでもない。暴力は良くないが。

「クマちゃ、クマちゃ……」
『ちゅーぱーちぇんとうちゃ、ちゅくるちゃ……』

 もこもこはうるさい金髪と違い、ゆったりとお上品な『クマちゃ……』でマスターの質問に答えた。

 ええ、クマちゃんがちゅくるのは『ちゅーぱーちぇんとうちゃん』です……と。

「そうか……。なんというか、凄そうな施設だな」

「絶対聞き取れてないやつ」

 スパーン――!

「今殴ったでしょ!」
「リオ、先程君を殴ったのが僕だったからといって、次もそうだと決めつけるのは――」
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