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第380話 超絶リラクゼーションラウンジ。心優しいクマちゃんの、ご相談ちゃん受付窓口。

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 現在クマちゃんは、皆ちゃんからのご相談ちゃんにのっている。

 ええ、そういうお悩みちゃんでしたら、こうするのが良いちゃんかと――。



 さきほどまでは存在しなかった超豪華なラウンジで、超愛らしい生き物たちがもこもこ……『クマちゃ……』と人間達を駄目にしている。
 アクアリウムに付いてきた『宝石クマちゃんゼリーちゃんのキラキラ熱帯魚ちゃん』が、彼の前をスィ――と横切った。

 危険を感じた死神クライヴの顔つきが、まるで敵を八つ裂きにする死神のように険しくなる。――なんだ、この恐ろしい空間は――と。

 だがぐんにゃりしているリオの口からは、『顔めっちゃヤバいじゃん……』といった、いつもの余計な一言は出てこなかった。
 黙ったまま、だらだらとしていたいのだ。このモニュ……とした、不思議でくせになる感触のソファでぐんにゃりしながら。

「あいつはどうした、クライヴ。菓子集めのやり方でも教えてきたのか」

 マフィアのトップのような、渋い格好で座っていたマスターが『口の悪い冒険者の末路』について尋ねる。『やっちまえ』と言っていたからといって、殺ってはいないだろうと。

「――奴は、菓子の家で泣いている」

 クライヴはそう答え、恐ろしい目つきでマスターの膝を見た。
 ヨチヨチとよじのぼるマーメイド妖精クマちゃん、二匹目を。

「それは、もしかして『家具が買えずに泣いている』ということなのかな……」

 いつもよりゆったりした涼やかな声が、説明が足りない男の言葉から、思いつく事柄を述べる。
 意外と優しい君が叩きのめした、なんてことはないだろうから、と。

 そうしてシャラ――、と腕を持ち上げ、自身の膝にのりたがる愛らしい妖精の手助けをする。

「クマちゃ……!」

 クライヴの話、というよりウィルの解説に驚いたクマちゃんは、可愛らしいお手々をサッと、もこもこのお口へ当てた。

 それは大変ちゃ……! と。



「ううっ……。『クマウニーちゃんベッド付きおもちもちベッドちゃん』の素材が足りねぇ……」

 途方にくれた男が、よろよろと『クマちゃんリオちゃんハウス前』に戻ってくる。
 誰か手に入れた奴はいないか……出来れば情報をくれ……! と。

 あちこちで『クマちゃ』しているもこもこ達に「お前も可愛いな……うちにくるか……? いや、ベッドすら買えねぇ家なんてお断りか……」自虐的な言葉をかけつつ、到着した目的地。
 宴会場――ではなく無人の円卓前。

 あたりの様子は明らかに、彼がいた時とは違っていた。

「な、なんだ……あの〝すげぇ金持ち以外お断り〟みてぇな建物」

 デカすぎて全体像がつかめない。屋根……というにはキラキラしている何かに覆われた施設が増えている。まさか、宝石か? 壁も柱もなくどうやって浮かんでいるんだ。

 凄すぎて若干近寄りがたい。王族の所有物だろうか……。
 菓子の国の王族――? そして閃く。まさか、あそこにもこもこした赤子が!

「踏んでいいのか……これ全部宝石じゃねぇのか……」

 背筋がざわざわするんだが……。
 精鋭といっても浴びるほどの金貨など持ってない男は、自分には一生かかっても購入できそうもない贅沢なそれらに気が遠くなったり驚嘆したりしながら、愛らしい声の聞こえる場所まで歩いていった。

「クマちゃーん」に導かれるがまま。



 ――キュイー……――ピヨピヨピヨ……――キュイー……――ピヨピヨピヨ……――クマちゃーん……――。

 ポコポコポコ……――ポコポコポコ……――。

 いつでも爆睡できそうなイルカの鳴き声。
 あいだに挟まれるヒヨコのピヨ声。
 イルカの呼吸孔からでる気泡のような不思議で心地好い音色が、海底を模したラウンジに、クマちゃーんと響いている。

「クマちゃ……、クマちゃ……」
『おベッドちゃ、クマウニーちゃ……』

 そうでちゅか、クマウニーちゃんおベッドちゃん付きのおベッドちゃんは、絶対に必要ちゃんでちゅね……。

 男の相談を真剣な表情で『クマちゃ……』する赤子が、短いお手々をお腹の前で合わせ、相槌を打つ。

『クマちゃ……』と。

「…………」

 やわらかマシュマロソファに沈む相談者は無言で、ガクリ……と頭を前へ傾かせ、ビクンと跳ねた。

「…………ぅお! やべぇ……一瞬寝てた……」

 危うく『ちゃわやかレモチャワー』を落とすところだった。
 男は刺激を求め、爽やかなそれを、ぐいっと喉に流し込んだ。「なんだこれクソうめぇ……」

「……相談に来たくせにクマちゃんの話の途中で寝るとかナメすぎでしょ」

 冷えたグラスを握ったままぼーっとしていた新米ママは、お目目をうるうるさせている我が子に気付き、甘めに警告した。まぁそうなるよね……と。

 現在彼らは『超豪華な海底風ラウンジ』で、心優しいクマちゃんの『クマちゃ……』に従い、泣きながら駆け込んでくる冒険者達の相談にのっていた。

 泣いている途中で『な、なにこの豪華すぎる空間……?! ほ、ほうせき……?!』と慄きガクガクする人間がいたため、心優しすぎるクマちゃんが『リラックチュ』する音楽とやらを流したのだが、心地好すぎるせいか、絶賛する人間より失神する人間のほうが多い。

「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」
『お取引所ちゃ、素材ちゃ、クマウニーちゃ、色々ちゃ……』

『おもちもちクマちゃんだいふくちゃん。ふわふわクリーム入り』はお取引所ちゃんでご購入いただけまちゅ。『クマウニーちゃんベッドちゃん』は、種類ちゃんが『たくちゃん』なので、今から『見本ちゃん』をお見せいたちまちゅ……。

 お目目をうるうるさせたクマちゃんはそう言って、テーブルの上で頷いた。
 クマちゃんは頑張りまちゅ……と。

「え、ベッド見せてくれんの?」

 カタログの立体映像ではなく、実際に見せてくれるらしい。
 それは相談者でなくとも気になるところだ。
 リオはぐんにゃりしていた体を起こし、若干姿勢を正した。

 ――クマちゃーん――。
 ――お買い上げちゃーん――。 

 肉球ボタンを押したのは、琥珀色の酒が入ったグラスを置いた魔王だ。
『ブラックお菓子カード』をお持ちの魔王様に買えぬものなどない。

 クマちゃんの横に現れたのは、もち……とした円形の何か。
 クッションというには球体に近い。ボールというにはムニ……と潰れている。
 薄いピンク色。その表面に、粉雪のような白。
 とてもやわらかそうだ。が、素材を言い当てられる者はいない。

「クマちゃ……」

 こちらのベッドちゃんは、二通りちゃんの寝方ができまちゅ。
 
「二通りの寝方……?」

 リオの頭に仰向けのクマちゃんとうつ伏せのクマちゃんが浮かぶ。

「クマちゃ……」

 もこもこがもちっとした何かに両手の肉球をかけた。
 猫っぽいお手々が、もち……と沈み込む。
 しかし、微妙にベッドの背が高い。そしてクマちゃんのあんよが短い。

 もちっとしたものの側面に、もちっとくっついている、子猫のような生き物。
 きゅお……、きゅお……、と困ったように湿ったお鼻が鳴る。

 ――マシュマロソファに座り、うっすら気配を消していた死神の気配が、完全に消えた。

「え、なんだろ……このめっちゃ手伝いたいのに『もうちょっと……もうちょっとだけ見てから……』ってなる感じ」

「……おい、クライヴ大丈夫か……。リオ、馬鹿なことを言ってないで手を貸してやれ」

 忙しいマスターがクライヴの膝から妖精を一匹引き取りつつ、リオに指示を出す。
 一番近いのはお前だろうと。

「ごめんクマちゃんすぐ助けるから。あー、たしかにこれは『もち』って感じ。なんか寝てるっていうより抱き着いてるっていう雰囲気だけど」

 納得したリオが、もち……とした猫用ベッドのようなものから、子猫のようなクマちゃんを下ろす。もふ……と。「もちって何だろ……」と言いながら。

「大体わかった感じ。要は『もちっとしたものの上で寝るクマちゃんもめっちゃ可愛い』ってことでしょ。別の寝方は?」
「クマちゃ……」

 リオが尋ねると、こちらをちゅこち持ち上げてくだちゃい、と答えが返ってくる。

「こんなかんじ?」

『ちゅこち』……。うちの子めっちゃ可愛いじゃん……。
 赤子の喃語なんごに深く頷きつつ、もちっとした猫ベッド的『妖精クマちゃん用ベッド』を半分持ち上げる。
 手触りはもち……。重さはふわ……。非常に気になる素材だ。

 ヨチヨチしたクマちゃんが、その下にもこもこ……と入り込み、お手々を前に伸ばしたままうつ伏せになる。

「クマちゃ……」

 どうぞちゃ……と。

「…………」

 リオは眉間に深く皺をよせ、そっと、掴んでいるものをのせた。
 うつ伏せクマちゃんの上に。もち……と。

「…………」

 ――キュイー……――ピヨピヨピヨ……――キュイー……――ピヨピヨピヨ……――クマちゃーん……――。

 ポコポコポコ……――ポコポコポコ……――。

 彼らはクマちゃんおすすめの『リラックチュ』する音楽を聞きながら、子猫の後頭部のようなもこもこ頭を、じっと眺め続けた。

 なにこれ可愛いめっちゃ挟まってる……と。
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