クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~転生赤ちゃんクマちゃんのもふもふ溺愛スローライフ~

猫野コロ

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第379話 人を駄目にするラウンジ。超高級仕様。「クマちゃ……」

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 現在クマちゃん完成したばかりのラウンジで、大人っぽく、格好いい時間を過ごしている。

 クマちゃ……――と。



 まるできらきらと輝く夏色ゼリーのような、美しく透き通った熱帯魚が、心地よさげにスイ――と彼らの前を横切っていった。

『めっちゃ良い感じのアイテム』

 を、とにかく購入しまくり、ああでもないこうでもないと話し合いつつ作り上げたラウンジは、大体三十分ほどでそれなりの形になった。

 青く輝くきらきらのお砂糖でつくられた砂地。あちこちに置かれた巻貝、桜貝のランプ。
 芸術的なオブジェのように葉の形までこだわりぬかれた、海藻とサンゴのきらきら観葉植物セット。素材には透明感と高級感のある『宝石クマちゃんキャンディちゃん』をふんだんに使用。

 広場の床にはなんと、超巨大な円形アクアリウムが埋め込まれている。
 詳細を聞かずともお値段がうっすらと想像できてしまう、超! 豪華な床材。
 というより、豪華すぎるフタ付き水槽である。

 ――因みにそのフタにも『宝石クマちゃんキャンディちゃん。アクアマリンちゃん』がふんだんに、つまり全面に使用されている。素材はキャンディなはずだが、その美しさを見た物は踏むのを躊躇するだろう。『ほ、ほうせき……?』と。

 優しい水色のなかをのぞきこむと、こちらにも『宝石がごろごろと落ちていますね……』と慄くほどあちこちにキラキラが転がっている。純白の砂糖でつくられた海底の砂、色とりどりの砂糖菓子でできたサンゴ。

 輝くソーダのなか、海藻型の極薄ゼリーが、ゆらゆらとゆれている。

「クマちゃん、これめちゃくちゃ綺麗だねぇ……」

 リオは素行不良の青年のような目つきと格好でしゃがみながら、アクアリウムをのぞき、感想を述べた。
 これはヤバいと。サンゴも石も星型のヒトデらしきものも、すべて宝石のように見える。
 本当に飴細工なのだろうか。やたらとキラキラしているが。

「すげぇな」
「クマちゃ、クマちゃ」
 
 人ならざる魔王のように麗しいルークが、色気のある低音でもこもこを褒める。

 クマちゃんの愛らしい声が聞こえる。これは、彼に撫でられて喜んでいるときの声。
 仲良しな皆で過ごす時間が嬉しいのだろう。

「このソファはとてもふしぎで魅力的な手触りだね。いったい何で出来ているのだろう」

 ふに、ともぷに、ともつかない、手放しがたい感触だ。
 ウィルはクマちゃんが購入した『やわらかマシュマロちゃんソファ。ロモコモコ調。貝殻ちゃん風。くつろぎマーメイド妖精クマちゃん付き』に手を置き、それを確かめた。

 半円形と流線形、貝殻を組み合わせたような、海底にふさわしいデザイン。
 そちらも当然気になるが、その美しさを生み出す素材も気になる。

「クマちゃ……」

 では実際にくちゅろいでみましょう……。

 もこもこが真剣な表情で告げたため、彼らは『豪華すぎるラウンジ』で休憩してみることにした。
 確かに、ここで過ごしてみなければ、本当に快適かどうかなど分からぬだろうと。

 ――確かめなくたって見ればわかるよねぇ……――。

 というかすれた言葉は、海へと流すように聞き流された。



「やべー。何、このふわっていうかモニュ……っていうか。いやマジでなにこれ」

 これはもしや、一人掛けでもこもこを抱っこするのが一番しっくりくるソファなのでは。

 だが全く移動する気になれない。一言でいうと、動きたくない。しかし今すぐもこもこをこの手に抱きたい。なんというジレンマ。
 リオは体をもにゅ――と包み込む謎めいたソファにぐんにゃりと身を預け、ぼーっと天井を見上げた。
 キラキラとした、波のような形の。
 平らではないというのに、不思議と落ち着く透き通った天井を。

「うーん。このままずっと、こうしていたいと思ってしまうね……」

 緩やかな波の下、ゼリーの熱帯魚が泳いでいる。ウィルはゆるりと視線を動かした。

 なんて美しくキラキラとした空間だろう。
 ぼんやりと光る水色の天井のおかげで、夜だというのに暗すぎず、明るすぎるということもない。
 あれの素材も『宝石クマちゃんキャンディ。アクアマリンちゃん』なのだろうか。

「あ~、これは……なんというか……。癖になるな……」

 こんなにのんびりとした夜の時間など、もこもこが来るまで過ごしたことはなかった。
 したいと思う余裕も。
 多忙なギルドマスターが、なんともいえぬ感触のソファに深く体をしずめ、ため息を吐く。
 そうして彼は、苦笑しながら渋い声でいった。いかんな、と。


 あまりの心地好さに会話すら忘れてしまう。
 大人達は黙ったまま、ときどき自身の膝によじのぼるマーメイド妖精に手を貸し、ルークのほうから聞こえてくるもこもこの声に耳を澄ませ、とにかくゆったりしたときを楽しんだ。

 ――クマちゃ、クマちゃ……クマちゃーん……、クマちゃ……――。

「クマちゃ……」
『クライブちゃ……』

「あ。ほんとだ……。クマちゃん可愛いねぇ……」

 リオはぐんにゃりしながら我が子を褒めた。声だけでも愛らしい存在であると。

『クマちゃ……』のおかげでようやく死神ヤツの存在を思い出した。 
 言葉遣いのよろしくない冒険者はどうなったのか。すっかり気にするのを忘れていた。
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