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第353話 マスターと可愛いもこもこの、穏やかで優しいひととき。

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 現在クマちゃんは、マチュターにぴったりなアイテムちゃんを選んでいる。

 うむ。格好良すぎて驚いているようだ。



「では、僕はこの『妖精クマちゃん用の小さなドア』をリオにも勧めてくるよ」

 ウィルはそう言うと、南国の鳥のように鮮やかな羽飾りをシャラ――と靡かせ、リオが担当する花畑の方向へ歩いて行った。 

 クマちゃんが彼の背中を見つめ、うむ、と頷く。
 とても素晴らしい考えである。
 お花畑にドアをたくちゃん置いたら、幻影の妖精ちゃん達の移動が楽になるだろう。


 ルークはふわふわなみつばちの頭を優しく撫で、次のターゲットのもとへスタスタと移動した。
 
「お、これも良く似合ってるな」

 マスターの目が、花畑に置く可愛いもこもこ像を見つめ、優しく細まる。
 どの衣装を着たもこもこも、甲乙つけがたい。
 
 カタログから視線を離せなくなっている彼の背後にも、もこもこした影が『クマちゃ……』と近付く。

「クマちゃ……」
『まちゅた……』  
 
「ん? 俺のも選んでくれるのか?」

 男の渋い声が、愛しい者へ向ける、穏やかで甘い響きを帯びる。

 この赤ん坊はさきほどからあちこちへ可愛い顔を出し、心をがっちり掴むアイテム、そして自身の愛らしさで人間を癒しているようだ。
 ルークの腕からふわふわなみつばちをもふ、と受け取る。

「可愛いな」

 思わず苦笑が漏れた。

「クマちゃ……」

 どうやら、まちゅたも……、と言ってくれているらしい。
 つい、吹き出すように笑ってしまった。

「ふ……、ありがとうな。お前には負けるが」

 こんな会話、金髪の耳に入れば何を言われるか分からん。
 奴の持ち場と離れていて良かった。

 純粋なもこもこは、彼を見上げ嬉しそうにしている。『まちゅた、たのち?』と。
 本当に、唸るほど可愛らしい。
 毎日顔を合わせているというのに、愛おしさは増すばかりであった。


「クマちゃ……! クマちゃ……!」

 テチテチテチ!

 マスターは、もこもこが誰より上手に操るカタログへ視線をやり、『これを買わない人間はいねぇだろうなぁ……』とたそがれていた。

 なんと、この赤ん坊が彼のために選んでくれた商品達は、小さなクマの妖精達が、ままごとのような手付きで飲み物を入れてくれる、小さなバーだったのだ。

 いや、カフェかもしれんが、重要なのはそこじゃない。
 内心かぶりを振る。

 テーブル、椅子、棚、カウンターテーブル、パラソル、ひさし、屋根、そのすべてが、クッキーや飴細工、チョコレート、クリームなどを使用し、本物のように仕立て上げられている。
 好みのデザインのパーツを、自由に組み合わせて置けるらしい。
 小さなクマ妖精の幻影は、それぞれのよさを見せつけるように、ヨチヨチ! と素早い動きでグラスを取りに行ったり、ふいに何かをごそごそしたりする。 

 そのうえ、彼の服装を真似ているつもりなのか、よだれかけの柄が白いシャツとベストなのだから、可愛らし過ぎて参ってしまう。
 彼はしていないが――小さなその子達はその上から蝶ネクタイをつけ、ときおり、きゅ、とちっちゃな猫手で首元を整えている。
 それがまた、なんともいえず、彼の胸を甘く締め付けてくるのだ。

 ――クライヴならすべてに目を通す前に本を閉じ、速やかに立ち去るに違いない。

「あ~、ありがとうな、白いの。本当に最高の商品だ。お前は目利きも凄いな」

 脱帽だ――。マスターは可愛くて仕方のない赤ん坊に降参し、明るく笑った。



 ギルドマスターの近くに寄る習性でもあるのか、近くの草むらでギルド職員がペンを天に掲げ、美しいポーズを取っている。
 まるで祈りを捧げる像のように制止している男の背後にも、可愛さでマスターを参らせたみつばちちゃんは『クマちゃ……』と忍び寄っていた。
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