上 下
351 / 438

第351話 可愛いみつばちクマちゃんのガーデニング講座

しおりを挟む
 現在クマちゃんは、お困りのみなちゃんにアドバイチュをしている。



『クマちゃんリオちゃんハウチュ』の左隣。
 ピンク色の草むらが広がる場所をながめ、ざっくりと己の持ち場を決める。

「俺めっちゃ壁際じゃん」

 リオは職人のように難しい表情で腕組みをした。
 だが最初にこの場所に花畑を置いたのは自分である。
 菓子の家の壁とも仲良くやっていかねばなるまい。


 仲良しのリオちゃんがお困りちゃんのようだ。
 察知した天才ガーデニングデザイナークマちゃんは、ハッとしたようにお口を押さえ、魔王ルークと共に、彼のそばへと近付いた。

 うむ。まずは『壁ちゃん用のアイテム』もたくちゃんありますよ、と紹介しよう。
『わー、これ格好いいジャーン。クマちゃん最高ダネー』と喜んでくれるだろう。

「クマちゃ……」
『リオちゃ……』

 可愛い声で我が子に呼ばれた新米ママが、柔らかい表情で振り向く。

「なに、クマちゃん。どしたの」

 すると、もこもこを抱えたルークが、右手にのせたカタログをみつばちクマちゃんの目の前にスッとよせた。
 
 嫌な予感しかしない。

「クマちゃ、クマちゃ……」 
『リオちゃ、壁ちゃ……』

 だが可愛いみつばちが、彼の名前を呼びながら、肉球でカタログをテチテチしている。
 そうして、『リオちゃ、みてくだちゃ……』と潤んだ瞳で見上げてくるのだ。

「えぇ……」

 断れる人間などいないだろう。
 それに、心優しいもこもこは、リオが壁際の飾りつけで困っていると察してくれたに違いない。
 ――壁際の飾りつけもなにも、まだ花畑をひとつ置いただけなのだが。

 カタログに近付くと、建物らしきもの、というには壁のない何かの立体映像が映っている。

「なにこれ」

「クマちゃ、クマちゃ……」
『お菓子ちゃ、サンルームちゃ……』

 こちらは、壁際に設置するのにぴったりな、お菓子のサンルームちゃんです……。
 色々なアイテムちゃんがありまちゅ……。

 みつばちの被り物をした可愛いクマちゃんが、そう言って深く頷き、肉球でクマちゃんマークをテチテチテチ! とタッチする。

『サンルーム!』リオの心の中で甲高い声が響く。なんというお洒落な響き。
 そこら中すべてがサンルームのような空間で過ごす森の街の人間には縁のない言葉だ。
 森の街風に言うと『あそこの日除け』『屋根だけあるとこ』『日陰』『木陰』だろうか。

「クマちゃ……! クマちゃ……!」

 テチテチテチ! 

 肉球により次々と増えていく『サンルームちゃん』を素早く閲覧してゆく。
 白、焦げ茶、薄茶といった落ち着いた色の柱はチョコレートとクッキーだろうか。
 菓子の家と合わせるならば焦げ茶か――。否、白……。否、薄茶も捨てがたい。
 なるほどこれはキャンディの柱。

「クマちゃ……! クマちゃ……!」
 
 植物の蔦が巻き付いた柱もある。あれは、ドーム型? 中に置くベッドはケーキ……。
 菓子の家とくっついたものが非常に気になる。あれを購入すると『サンルームちゃん』から出入りできるのでは。
 蔓バラにそっくりな菓子の柱。あれに可愛いクマちゃん像を合わせると――。

 リオの心のサンルームはどんどん豪華になっていった。
 買い物に迷ったことなどなかった男が、危険な『カタログちゃん』の迷路に迷い込んでゆく。

「クマちゃ……! クマちゃ……!」テチテチテチ! 

 目を限界まで細め、思い悩む。
 クマちゃん像の数は減らしたくない。
 屋根にも置ける『サンルームちゃん』は必須だろう。
 
「クマちゃ……! クマちゃ……!」

 柱に『クマちゃん像』を飾れそうな棚が付いている素晴らしい商品を見たリオは、分かった、と頷いた。

「クマちゃん一旦お手々止めよ。そんなに買ったら俺の『お菓子カード』パキーンて割れちゃうから」

 大事なことは『欲しいものを増やしすぎるな』ということだ。



「何から購入すべきか――」

 庭造りなどしたことがない死神にも、子猫のようなクマのみつばちちゃんは忍び寄る。

「クマちゃ……」
『クライヴちゃ……』

「白き天使――」

 可愛いもこもこの気配を感じ取った男が、赤子に凍てつく眼差しを送る。
 なんという愛らしさだ、と。

 もこもこもこもこ震えるみつばちちゃんを抱えたルークは、視線で『赤子のカタログ』を見るよう告げた。

「……――」

 幼きもこもこは彼のためにアイテムを選んできてくれたらしい。
 クライヴは震えるみつばちへ視線を向けぬよう気を付け、カタログも見過ぎないよう細心の注意を払って、さっとそれに目を通した。

「……素晴らしい――」

 心臓に負担をかけぬよう一瞬視界に入れただけでも、まぶたの裏に焼き付くほど芸術的なアイテムの数々。
 氷の結晶によく似た美しい花も、飴でつくられているのだろうか。それとも氷菓子か――。
 青や水色の花と合わせて置けば、さぞや素晴らしい花畑が完成するに違いない。

 もこもこへの愛に苦しむ男が胸を押さえていると、可愛いみつばちがそっと「クマちゃ……」とクライヴに心配そうな声をかけてきた。

『問題ない――』

 告げようとした彼の目に、もこもこの選んだもこもこアイテムが映る。
 あれは、『もこもこ像がふわふわの帽子とマフラー、肉球手袋を――』

 そうして、ふらついた彼をルークがささえ、彼の肩にそっと、ピンク色の肉球がのせられた。

「クマちゃ……!」

 だいじょうぶちゃんですか……! と。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...