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第350話 天才ガーデニングデザイナークマちゃんの、怒涛の商品紹介。

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 現在クマちゃんは、みつばちちゃんの気持ちになって、みなちゃんに重要なお話をしている。
 うむ、ガーデニングちゃんとは奥深いものなのである。



「何、『採点ちゃん』て」

 リオは『え、なんだろ、このちょっとだけそわっとする感じ』という想いで胸を押さえた。
 
 可愛い妖精クマちゃん達は、すぐにお祝いせず、見守る大人達にふわふわな尻尾を向け、花畑を囲んで頷いている。

「うーん、もしかすると……厳しい状況なのかもしれないね」

「『厳しい状況』の意味が分かんないんだけど! 花畑置いただけでしょ」

「あ~、位置が悪いってことか……?」

「貴様の設置した場所では、壁に……近すぎる――」

「氷の人めっちゃ弱ってんじゃん。花畑買ってる場合じゃなくね?」

「尻尾が最高にふわっふわですね……。美しい俺の美しい髪よりも美しい……」

 仲間達が話をしているあいだ、ルークとお兄さんはもこもこを可愛らしくお着替えさせていた。
『天才ガーデンデザイナークマちゃん』に相応しい愛らしい衣装へと。

 妖精クマちゃん達の話し合いは終了したようだ。
 ヨチヨチ、と素早く彼らのほうを向き、手元の小さな紙にぐしゃ……と何かを書きこんでいる。

「紙ぐしゃってなってるって。何かちっちゃい台置いてあげたほうがいいよね」

「そうだね、この子達の仕事が終わったらカタログを調べてみようか」

 そしてまたひとつ、購入するアイテムが増える。

 そこで、妖精クマちゃん達がヨレヨレの紙を掲げた。

 リオは三匹の妖精ちゃん達のそれに、左から順に目を通した。

 左には、『悲しそうなクマちゃんのお顔』らしき絵が。
 真ん中には、『がんばちゃ』と拙い文字が書かれている。
 右の紙には、『二十クマちゃ』のまわりを、ヨレっとした線が花の形に囲んでいるものが描かれていた。

 使用しているインクが、全員なぜか赤い。花畑だからだろうか。

「え、なんだろ、この悲しい感じ……」

 リオが寂しげな表情で妖精クマちゃん達を見つめると、さらに悲しそうな顔で見つめ返された。

 妖精ちゃん達がごそごそ、と採点の済んだ『悲しい紙』をどこかに仕舞う。
 そうして、代わりにサッと取り出した魔法のクラッカーをパン……、と悲し気に鳴らし――小さな花びらを辺りに散らしながら、森の中へ帰っていった。

『クマちゃ……!』と。

「これは、もう一度やり直したほうがよさそうだね」

「なんだろ……、この気持ち……」



「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」
『クマちゃ、みちゅばちちゃ、お花畑ちゃ、みちゃだめるちゃ……』

 それでは、クマちゃんがみつばちちゃんの気持ちになって、みなちゃんをお助けしたいと思いまちゅ――。

 そういったクマちゃんは、黄色と黒の色合いが可愛らしいミツバチの被り物と、オムツにそっくりな縞々のズボンを身につけていた。
 真っ白でもこもこした体に、くっきりした色味のもこもこ衣装がとんでもなく似合っている。

「もう内容がぜんぜん頭に入ってこないよね」リオの目はオムツにそっくりなズボンへと向けられている。

 なんだこの生き物は可愛すぎるだろう。
 つぶらなお目目と黄色と黒のふわふわのせいで『可愛い』以外の感情が湧いてこない。

「気持ちはわかるけれど、真剣に話を聞かないと、また『二十くまちゃ』になってしまうよ」

「リオ」

 色気のある低い声が、不真面目な金髪の名を呼ぶ。『真面目にやれ』と。

 もしもルーク様の前で『オ』に関する衣装のことを口に出せば、間違いなく、『コツン』どころではない一撃をくらうことになるだろう。

「おい、クライヴ……」


 みちゅばちクマちゃんは天才ガーデニングデザイナーらしく、カタログで商品を購入する際の注意点を教えてくれた。

「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」
『お花ちゃ、飾りちゃ、色合いちゃ……』

 カタログちゃんの商品は、こうすると、可愛い飾りちゃんをちゅいかすることができます。
 色合いちゃんも、可愛くしてくだちゃい。

 ピンク色の草むらに放置されているのか置かれているのか分からぬ巨大な白い本の上にのり、クマちゃんの肉球が花畑の幻影をチョチョチョ! とつつく。

『クマちゃーん』
 ――お花畑ちゃーん――。愛らしい音声が響く。

 すると、幻影のまわりがパァッと光り、みつばちクマちゃんを囲うように、たくさんの小さな花畑がリングのように表示された。
 
 驚いた彼らが声を上げる間もなく、肉球はテチテチテチ! とカタログ上にある、クマちゃんのお顔をタッチする。
 なんと今度は庭を飾るための雑貨がポンポンポンポン! 可愛らしい音を立て、次々と現れた。

 お庭に飾るクマちゃん像は、ポーズもお洋服も様々だ。
 クマちゃん像をデコレーションするための高価そうなブランコ、寝椅子、形や大きさの違う小さなお家、お花のついた鳥かごまである。

「クマちゃ! クマちゃ!」みつばちクマちゃんが肉球でタッチするたびに別のアイテムが出現するところをみると、まだまだ種類は増えそうだ。 

「うわ、あの鳥かごの中、クマちゃん用のクッションとかあるじゃん……、色違いって別売り?」

「あの小さな家は、もしかすると、お庭を妖精クマちゃん達の町みたいにすることもできるということなのかな……」

 存在が芸術的な男ウィルが早速構想を練り始める。

「あ~、これは確かに、最初のあれだとニ十点だろうな。……いや、むしろ採点を甘くしてくれたんじゃねぇか?」
 
 大人達はようやく理解した。
 これは遊びではない。本気で取り組まねばならぬ、絶対に負けられない戦いなのだと。

「まぁ一番クマちゃんを可愛く飾れんのは俺だよね」

「この俺が店長さんに本当の芸術ってものを見せつけてあげますよ……この『至高のクマちゃんペン』で……!」

 彼らの頭の中にはアイスを配っている男とはちみつのことなど、すでになかった。
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