342 / 438
第342話 最初のお菓子のお家ちゃん。クマちゃんの素晴らしい計画と演出。これぞ新築。
しおりを挟む
現在クマちゃんはみなちゃんと一緒に感動シーンちゃんを眺めている――。
うむ、実に心温まる場面ちゃんである。
◇
「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」
『お店ちゃ、いっぱいちゃ、みんなちゃ、カタログちゃ、お家ちゃ、飾るちゃ……』
「耳がやばい」
「リオ、ちょっとあちらの木陰で話したいことがあるのだけれど」
「白き天使の作りし『カタログ』の中には地下牢もあるのではないか――」
ルークに抱えられたもこもこが円卓ちゃん会議を進め、リオが多すぎる『ちゃ』に難癖をつけ、ウィルは優し気に苦笑しながら『ツラ貸せ』と言い、もこもこ異端審問官クライヴは今回の問題について、木陰でシメるなどなまぬるい、赤子の話を聞かぬ異端を甘い地下牢でシメ、檻も閉め、ついでに鍵も閉めよ、とやや甘めに処断した。
「なるほど、素材を集めて、カタログから好きな商品を買って、全員で建物を建てていくのか。それで、その中には店員が必要な店もあると。……おい、ルーク。お前の持ってるカードは、ここで手に入れたのか?」
「ああ」
そして、真面目に赤子の話を聞くマスターは、『菓子でできた店』に勤務する予定の『そのうちやってくるらしい謎の店員』がどこから現れるのか、それは人間なのか、羽はついているのか、さてはリオ似だな、といった怪しい話題を避け、ルークの所持品『ブラックお菓子カード』は誰でも入手可能なのか、という建国に役立ちそうなアイテムについて尋ねた。
それに対し、色気のありすぎる声の男は『生涯ここで菓子を集め続ければ一般の冒険者でもいける可能性がある』などの様々な説明をすべて省き、可能である、とだけ答えた。
◇
「けしからん絵だな……」と某桃色髪の美青年頑固親父が感想を述べたそれと、もこもこが「クマちゃ、クマちゃ」『地図ちゃ、ちゅくるちゃ』と話した『お菓子の国マップ作成計画』は一旦あとにまわし、まずは当初の目的である『クマちゃんリオちゃんハウチュ』を皆で建てる。
カタログのなか、クリーム、イチゴ、チョコレート、クッキーなどで飾られた可愛らしい家の横で、幻影クマちゃんが『買ってくだちゃ……』と彼らを見上げている。
〈お菓子のお家ちゃん、そのいち〉――最大レベル、五――。
お値段。
クッキーちゃん、五個。クマちゃんキャンディ、五個。
白いチョコレートちゃん、一個。
黒いチョコレートちゃん、一個。
イチゴちゃん、二個。
まえに見た時は薄くなっていた『購入ちゃん』の文字が、金色にキラキラと輝いている。
「クマちゃ……!」
『買えるちゃ……!』
クマちゃんは肉球でサッとお口を押さえ、おめめをうるうるさせた。
もこもこを抱えているルークが、丸くて可愛い頭を、赤ちゃん帽の上からもふ、となでる。
「よかったねぇ……。んじゃさっそく押してみよー」
新米ママは可愛い我が子とのアレコレ――主に光の玉を叩き落としたときのとんでもなく遅い、多分あのあいだにパンが一枚食える、というほど鈍いお手々の動き――を思い出し、しみじみと呟いた。
もふ――。ルークがピンクの草むらに、もこもこを降ろす。
「クマちゃ……」
クマちゃんは緊張した様子で、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と本の前、というよりほぼ本の上まで進み、伸ばした肉球で、肉球のボタンをポチッと押した。
――クマちゃーん――。
――お買い上げちゃーん――。
音声と共に、本の中から模型がポン! と飛び出し、半分透き通ったまま、ふよふよと浮かんでいる。
見本の横でヨチヨチしていたちっちゃい幻影クマちゃんは、一生懸命猫かきをしながら、建物が設置されるのを待っているようだ。
「おー、すげー。けど、ちっちゃくね? このまま好きな場所もってけってこと?」
「クマちゃ……」
『運ぶちゃ……』
クマちゃんは重々しく頷いた。
うむ。素敵なお家は素敵な場所に建てなければ。
やはり、畑ちゃんもキラキラの泉ちゃんもある場所がいいだろう。
「クマちゃーん」キュキュキュキュ。
『オーライちゃーん』
カタログの中のクマちゃんと同じように、クマちゃんもお手々を動かした。
お家がふよふよと、目的地のほうへ運ばれてゆく。
「これ俺らが運んだほうがよくね?」リオが尋ねる。『つーかオーライってなんだろ』は心の『オーライ入れ』にそっとしまった。
「そうだね。あの看板のあたりまで運べばいいのかな」
ウィルは風を起こしつつ、可愛すぎるもこもこをチラ、と見た。
猫かき中のもこもこがルークに抱えられ、模型のほうへと移動している。
「クマちゃ……!」
『ここちゃ……!』
そうしてついに、模型が地面にピタリと置かれ、看板がキラキラと光の粒へと代わった。
小さな模型が――クマちゃーん――と巨大化し、もこもこを見守る彼らが、クマちゃんおめでとー、クマちゃんすごいねぇ、と褒める前にそれは起こった。
『クマちゃーん』という音声がどこからか、おそらく空あたりから鳴り響き、パン! パン! パン! と小さな花火が次々とあがる。
そして誰かが、え、どういうこと? え、花火? 見えにく、明るいからじゃね? と余計なことを言って本当に地下牢へ運び込まれてしまい、鍵を掛けられてしまい、長めに放置されてしまい、ついには異端審問官に鎌で殴られてしまう前に、森のあちこちからお菓子の妖精のように愛らしい格好をした幻影クマちゃん達が『クマちゃ……!』と集まってきた。
可愛らしい家のまわりに集まった、頭にクリームやイチゴのケーキ帽を被った幻影お菓子妖精クマちゃん達が、小さなお手々に持った魔法のクラッカーをパン! と鳴らす。
家の周りに色とりどりの花が舞い、祝い菓子が降り、まるで天使の歌声のごとく『クマちゃーん』
――ご家族ちゃんもさぞお喜びちゃんでしょうね……――。
新築祝いの常套句が降ってくる。
そうして彼らが何かを言うまえに、小さな妖精クマちゃん達は『クマちゃ……!』と森のなかへ帰っていった。
「とても素敵な演出だね。心が温かくなるよ」
「ほんとに思ってるか知りたいから一緒にあっちのほう行かない?」
うむ、実に心温まる場面ちゃんである。
◇
「クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ、クマちゃ……」
『お店ちゃ、いっぱいちゃ、みんなちゃ、カタログちゃ、お家ちゃ、飾るちゃ……』
「耳がやばい」
「リオ、ちょっとあちらの木陰で話したいことがあるのだけれど」
「白き天使の作りし『カタログ』の中には地下牢もあるのではないか――」
ルークに抱えられたもこもこが円卓ちゃん会議を進め、リオが多すぎる『ちゃ』に難癖をつけ、ウィルは優し気に苦笑しながら『ツラ貸せ』と言い、もこもこ異端審問官クライヴは今回の問題について、木陰でシメるなどなまぬるい、赤子の話を聞かぬ異端を甘い地下牢でシメ、檻も閉め、ついでに鍵も閉めよ、とやや甘めに処断した。
「なるほど、素材を集めて、カタログから好きな商品を買って、全員で建物を建てていくのか。それで、その中には店員が必要な店もあると。……おい、ルーク。お前の持ってるカードは、ここで手に入れたのか?」
「ああ」
そして、真面目に赤子の話を聞くマスターは、『菓子でできた店』に勤務する予定の『そのうちやってくるらしい謎の店員』がどこから現れるのか、それは人間なのか、羽はついているのか、さてはリオ似だな、といった怪しい話題を避け、ルークの所持品『ブラックお菓子カード』は誰でも入手可能なのか、という建国に役立ちそうなアイテムについて尋ねた。
それに対し、色気のありすぎる声の男は『生涯ここで菓子を集め続ければ一般の冒険者でもいける可能性がある』などの様々な説明をすべて省き、可能である、とだけ答えた。
◇
「けしからん絵だな……」と某桃色髪の美青年頑固親父が感想を述べたそれと、もこもこが「クマちゃ、クマちゃ」『地図ちゃ、ちゅくるちゃ』と話した『お菓子の国マップ作成計画』は一旦あとにまわし、まずは当初の目的である『クマちゃんリオちゃんハウチュ』を皆で建てる。
カタログのなか、クリーム、イチゴ、チョコレート、クッキーなどで飾られた可愛らしい家の横で、幻影クマちゃんが『買ってくだちゃ……』と彼らを見上げている。
〈お菓子のお家ちゃん、そのいち〉――最大レベル、五――。
お値段。
クッキーちゃん、五個。クマちゃんキャンディ、五個。
白いチョコレートちゃん、一個。
黒いチョコレートちゃん、一個。
イチゴちゃん、二個。
まえに見た時は薄くなっていた『購入ちゃん』の文字が、金色にキラキラと輝いている。
「クマちゃ……!」
『買えるちゃ……!』
クマちゃんは肉球でサッとお口を押さえ、おめめをうるうるさせた。
もこもこを抱えているルークが、丸くて可愛い頭を、赤ちゃん帽の上からもふ、となでる。
「よかったねぇ……。んじゃさっそく押してみよー」
新米ママは可愛い我が子とのアレコレ――主に光の玉を叩き落としたときのとんでもなく遅い、多分あのあいだにパンが一枚食える、というほど鈍いお手々の動き――を思い出し、しみじみと呟いた。
もふ――。ルークがピンクの草むらに、もこもこを降ろす。
「クマちゃ……」
クマちゃんは緊張した様子で、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と本の前、というよりほぼ本の上まで進み、伸ばした肉球で、肉球のボタンをポチッと押した。
――クマちゃーん――。
――お買い上げちゃーん――。
音声と共に、本の中から模型がポン! と飛び出し、半分透き通ったまま、ふよふよと浮かんでいる。
見本の横でヨチヨチしていたちっちゃい幻影クマちゃんは、一生懸命猫かきをしながら、建物が設置されるのを待っているようだ。
「おー、すげー。けど、ちっちゃくね? このまま好きな場所もってけってこと?」
「クマちゃ……」
『運ぶちゃ……』
クマちゃんは重々しく頷いた。
うむ。素敵なお家は素敵な場所に建てなければ。
やはり、畑ちゃんもキラキラの泉ちゃんもある場所がいいだろう。
「クマちゃーん」キュキュキュキュ。
『オーライちゃーん』
カタログの中のクマちゃんと同じように、クマちゃんもお手々を動かした。
お家がふよふよと、目的地のほうへ運ばれてゆく。
「これ俺らが運んだほうがよくね?」リオが尋ねる。『つーかオーライってなんだろ』は心の『オーライ入れ』にそっとしまった。
「そうだね。あの看板のあたりまで運べばいいのかな」
ウィルは風を起こしつつ、可愛すぎるもこもこをチラ、と見た。
猫かき中のもこもこがルークに抱えられ、模型のほうへと移動している。
「クマちゃ……!」
『ここちゃ……!』
そうしてついに、模型が地面にピタリと置かれ、看板がキラキラと光の粒へと代わった。
小さな模型が――クマちゃーん――と巨大化し、もこもこを見守る彼らが、クマちゃんおめでとー、クマちゃんすごいねぇ、と褒める前にそれは起こった。
『クマちゃーん』という音声がどこからか、おそらく空あたりから鳴り響き、パン! パン! パン! と小さな花火が次々とあがる。
そして誰かが、え、どういうこと? え、花火? 見えにく、明るいからじゃね? と余計なことを言って本当に地下牢へ運び込まれてしまい、鍵を掛けられてしまい、長めに放置されてしまい、ついには異端審問官に鎌で殴られてしまう前に、森のあちこちからお菓子の妖精のように愛らしい格好をした幻影クマちゃん達が『クマちゃ……!』と集まってきた。
可愛らしい家のまわりに集まった、頭にクリームやイチゴのケーキ帽を被った幻影お菓子妖精クマちゃん達が、小さなお手々に持った魔法のクラッカーをパン! と鳴らす。
家の周りに色とりどりの花が舞い、祝い菓子が降り、まるで天使の歌声のごとく『クマちゃーん』
――ご家族ちゃんもさぞお喜びちゃんでしょうね……――。
新築祝いの常套句が降ってくる。
そうして彼らが何かを言うまえに、小さな妖精クマちゃん達は『クマちゃ……!』と森のなかへ帰っていった。
「とても素敵な演出だね。心が温かくなるよ」
「ほんとに思ってるか知りたいから一緒にあっちのほう行かない?」
100
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。
グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。
しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。
田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる