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第298話 愛らし過ぎるもこもこゲームに一喜一憂する彼ら。「クマちゃーん」「いや絶対おかしい」
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クマちゃんはお手々を祈るように合わせ、ウィルちゃんがサイコロを振るのをドキドキしながら見守っていた。
素敵なお洋服が欲しいちゃん……、と。
◇
ゲーム参加者達は無言で、彼の手から離れ、転がるサイコロを見た。
出た目は、四。
可愛らしい音声が『可愛いベッドちゃーん』と、ウィルが獲得したアイテムを知らせてくれた。
テーブルの上、彼の前に置かれた六角形の台座がキラキラと輝き、中央に白くて丸い、ふわふわのコクマちゃん用ベッドが現れた。
小さなクマちゃんはヨチ、ヨチ、とふわふわなそれによじ登り、もこもこ、もこもこ、と居心地を確かめると、真ん中のくぼみに置かれていたリボン型クッション付近でコロン、と仰向けになった。
小さなもこもこが、お耳のついた丸いコクマちゃん用ベッドで、お昼寝中の子猫のような格好をして彼を見上げている。
「…………」
笑顔を消したウィルは口元を押さえ、じっと己のコクマちゃんを見ていた。
愛らしすぎて言うべき言葉が見つからない。
とにかく、同じ型のベッドを用意して、クマちゃんに贈らねばならない。
「クマちゃ……」
ウサギなクマちゃんがお手々の先をくわえ、小さく頷いている。
可愛いベッドは嬉しいが、お洋服では無かったので複雑な心境らしい。
「可愛すぎる……」
リオは真剣な表情のまま、当たりなのかそうでもないのか分からないアイテムの上でもこもこしているコクマちゃんへ視線を送り、お喜びではない表情のクマちゃんをじっと見つめた。
あれほどのものを当てても『クマちゃーん』とお手々を上げてはくれないようだ。
最初はとにかく服、ということか。
「次は俺ですね……」
早くコクマちゃんとウサギ姿のクマちゃんを幸せにしたいギルド職員は、緊張感を漂わせ、素早くサイコロを振った。
出目は二。音声が可愛く『お花畑ちゃーん』と告げる。
台座が輝き、寂れた風景が綺麗なお花畑に変わった。
彼の小さなクマちゃんが、お花をお手々でチョン、チョン、と揺らし、お困りの表情のまま遊び出した。
「……かわいい! これは当たりだと思います」
ギルド職員は台座のコクマちゃんと、つられたようにお手々を動かし、虚空を引っかくウサギなクマちゃんの両方に感動し、自分の運の良さをさりげなく自慢した。
「いやどっちも困った顔してんじゃん」というかすれ声が響くなか、ゴリラちゃんがサイコロを振り、『宝箱ちゃーん』を獲得する。
カリカリ、ぽふん、と箱から出てきたのは、可愛らしいお花の髪飾りだった。
右耳につけられた花飾りで可愛くなったコクマちゃんが、小さなお手々を頬にあて、嬉しそうにしている。
カジノテーブル前で参加者達を見つめ、湿ったお鼻をふんふん、ふんふん、とさせていた着ぐるみクマちゃんも「クマちゃ」とお手々を頬にあて、同じ格好で喜んでいた。
「うーん。やはりお洋服が嬉しいようだね」
ウィルは五の目を出したゴリラちゃんとお花の髪飾りに喜ぶクマちゃんをじっと観察し、遺跡の謎を紐解く冒険者のような表情で呟いた。
可愛いベッドで休憩中の自身のコクマちゃんは文句なしに愛らしいが、可愛いクマちゃんに『クマちゃーん』と言ってもらえるほどの当たりアイテムではないらしい。
「やべー、なんか緊張すんだけど」
リオは自身の前に出現したサイコロを手の平で遊ばせ、頭の中に五を浮かべつつ、それを振った。
カン、カン――。と小さな音が鳴り、出た目は六。
可愛らしい音声が『クマちゃーん』と響く。
『ゴールドラッシュちゃーん』と。
寂れた風景の六角形の横。何もなかったはずの場所が、同じ形に光り輝く。
新たな台座の上に現れたのは、金色に輝く洞窟だった。
お困りの表情のコクマちゃんは、いつの間にかスコップを持たされ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と洞窟の中へ入っていった。
チャリーン――。
効果音が鳴り、ヨチヨチ……、ヨチヨチ……、と出てきたコクマちゃんは、小さな両手に、ピカピカの金塊を抱えている。
が――、なんとあちこちが汚れ、真っ白ではなくなってしまっていた。
いきなり鉱山で働くことになってしまったリオのコクマちゃんは、それを抱えたまま、ヨチヨチ……、ともとの台座へ戻った。
土にあちこちを穢された可哀相なクマちゃんが、寂れた地面に座り、悲し気な表情で、掘ってきたばかりの金塊をコロコロしている。
「ひどい。ひどすぎる。俺のクマちゃん汚れちゃったんだけど!」
大当たり――、と喜び掛けた男の目に映る、最初よりも可哀相なクマちゃん。
いったい何が悪かったのだろう。
人間ならば大喜びするはずの金脈も、クマの赤ちゃんにとっては土ぼこりと変わらぬ、ということなのか。
ゴールドラッシュよりも、可愛いリボンが良かった――。
大きな出目。欲の象徴のようなそれは、癒しのもこもこを穢す罠だったのだ。
一は不明、二はいまいち、三は不明、四は可愛いもこもこ用アイテム、五が衣装入り宝箱、ならば六が大当たりと、普通は考えるだろう。
リオは騙されたような気分で、自身のクマちゃんしか採掘者のいない、誰も殺到していない金色の洞窟を、恨めし気に睨んだ。
「クマちゃ……」
彼の大事な我が子が、お風呂に入れて欲しそうなお顔で、カジノテーブルをカリカリしている。
おしゃれで綺麗好きな赤ちゃんクマちゃんは、わがままを言う事もできずに、突然襲ってきた、被毛を乱すゴールドラッシュに耐えていた。
「クマちゃんごめん。すぐ風呂当てるから待ってて」
リオが見た我が子は、お風呂に入ったばかりでお洋服も新品なもこもこだったが、湿ったお鼻の上には可愛い皺が寄っていた。
『クマちゃん可愛いねー』などと言っている場合ではない。
魔王は何を掴むのか――。金鉱王は森に潜む獣のような眼差しで、隣でサイコロを振った無表情な男を注意深く観察した。
カン、とサイコロが止まり、出た目は一。……ではなく、よく見ると、クマちゃんのお顔だった。
――キュオー――。
『クマちゃーん!』
『衣装セットちゃーん!』
愛らしいお知らせが、欲も希望も無さそうな男へ、大当たりを告げる。
「なにそれずるい! おかしい! 絶対不正でしょ!」
金脈を独占しているが、何故か幸福ではないコクマちゃんを育てているリオが叫び、自身の台座と彼の台座を見比べた。
猫に金貨、赤ちゃんには不要なゴールドラッシュと戦う小さなもこもこが、再びスコップを持たされ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と金脈へ旅立つ。
――チャリーン――。
ヨチヨチ……。小さくても頑張り屋さんなもこもこが、やや大きい金塊を持ち、戻ってきた。
増える資金。増える穢れ。使い道のない金塊でコロコロと遊ぶ、リオのコクマちゃん。
対して、魔王の台座の上のもこもこは、顎下でリボンを結ぶひらひらレース付きお帽子、お揃いのケープ、肉球付きもこもこ手袋、肉球付きもこもこ靴下を身に纏い、恥ずかしそうに両手をもこもこさせていた。
ゲームマスタークマちゃんが「クマちゃーん」と子猫のように愛らしい声を上げ、着ぐるみの肉球をテチテチと叩き合わせ、大喜びしている。
ルークは幸せそうなもこもこを見つめ、微かに目を細めた。
「とても素敵な衣装だね……。僕のクマちゃんにも同じものが当たるといいのだけれど」
誰よりももこもこを幸せにしたい。強い想いが滲む声で、派手な鳥が囀る。
「…………」
高位で高貴なお兄さんがゆったりと手の平を上に向け、ふわりと浮いたサイコロが、テーブルへ舞う。
音も立てずにコロリ、とサイコロが止まり、出た目はクマちゃん。
大当たりを知らせる『クマちゃーん!』と、大喜びするウサギの「クマちゃーん!」に、金髪の叫びが重なった。
「絶対不正! 間違いない。お兄さんなんか力使ったでしょ!」
「――幼きクマの遊び道具で不正など、出来るわけがあるまい」
頭に響く不思議な美声は、お告げのように答えた。
不思議な力を使うお兄さんでも、もこもこ製のサイコロに細工は出来ないらしい。
「それ試したってことだよね」という男のかすれ声に、お兄さんからの答えが返ることはなかった。
◇
さっそく一人の金髪が荒れ気味の一巡目が終わり、それぞれがふたたびサイコロを振ってゆく。
「五か。当たったのは、鞄か? 良かったな」
「……――」
「氷の人温泉二つもいらないでしょ! 一個俺にちょーだい!」
「おや。三の目はアイテムを選べるのかい? 悩んでしまうね。……では、こちらの青いリボンをいただこうかな」
「絶対に六以外でお願いします……。哺乳瓶!! これ以上のアイテムは存在しないでしょうね」
「ギルド職員から喧嘩売られたのはじめてなんだけど。つーかマスターもゴリラちゃんも不正してるでしょ。箱当てすぎ」
参加者達が各自のコクマちゃんの幸福度を少しずつ上げ、リオは他の人間の出目に、心の扉をガタガタさせた。
そして彼の手にサイコロが渡り、運命の時が訪れた。
これで、他の人間がサイコロを振るたびに、被毛を汚す憎い存在『ゴールドラッシュ』から小さなもこもこを救うことができる。
「に、に、に」リオは欲望を丸出しにしながら、サイコロを振った。
ピタリと止まるサイコロの目は六。
嫌な数字だ――。
『クマちゃーん』と可愛らしくお知らせが響く。
『水脈ちゃーん』と。
まさか、そこから温泉を掘り当てろというのか。
出てきたのが温水じゃなければ、冷たいお水でぱちゃぱちゃする可哀相なクマちゃんになってしまう。
彼の可愛いコクマちゃんはあちこちが汚れ、魔王の『早くどうにかしろ』という圧がリオを責める。
温泉天国な死神が、恐ろしい顔で彼を見ていた。
またしてもスコップを持たされてしまった彼のクマちゃんが、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と新しく得た六角形の大地へ旅立ち、お困りの表情で、地面をカリカリした。
「手伝いたいんだけど、クマちゃんこれでスコップ買えない?」
リオはウサギなクマちゃんに尋ねた。
お目目をうるうるさせていたクマちゃんが、仲良しなリオちゃんの優しさに「クマちゃ……!」と感動し、お手々を口元に当てた。
金脈は無駄ではなかった。
ウサギなクマちゃんがカリカリ、とカードを引っかき、金塊の一つが輝くスコップに変わる。
「ありがとー」
リオはお困りなコクマちゃんがカリカリしている地面へ、指先で摘まんだスコップを突き立てた。
六角形の台座がキラキラと輝く。
光が消え、現れたのは湯気の立つ美しい泉と、七色の小さな虹。
小さなお手々でぱちゃ、ぱちゃ、と水面を叩いたもこもこが、ヨチ……、ヨチ……、と、リオの掘った温泉へ、恐る恐るあんよをつけた。
美しい被毛を取り戻し、できたての温泉をぱちゃぱちゃと楽しむ小さなもこもこを見た参加者達が、リオの小さなクマちゃんと、喜びでキュオーと鳴くもこもこへ、あたたかな拍手を贈る。
「良かったな、白いの」
「感動しました……!」
「……――」
「これ以上可愛いクマちゃんを悲しませるなら、食堂へ行って話し合おうと思っていたけれど、無事に解決してほっとしたよ」
「ああ」
「それ絶対話し合いじゃないよね。拳飛んでくるやつでしょ」
癒しのもこもこを幸せにするゲームで不幸なもこもこを生み出すことをギリギリで回避した男の横で、もこもこを幸せにするためならどんな手でも使いそうな魔王が、サイコロを振った。
まるで運命の導きのように『クマちゃんの目』を出した男に、「納得いかないんだけど!」という苦情が飛んだが、魔王は世界中の生き物すべてを魅了する、微かな笑みをみせただけで、彼の心を穏やかにすることはなかった。
◇
魔王の育てた小さなクマちゃんが、魔王城のような城の玉座で、ふわふわつきの真っ赤なケープを纏い、可愛らしい王冠を被り、赤い宝石で飾られた哺乳瓶をチュ、チュ、と吸っている。
周囲の台座には城下町のようなものまでつくられ、クマの兵隊さん達がもこもこ王のおわす謁見の間まで、近隣の台座から集められた可愛いアイテムを運び込んでいた。
「やばい。全然勝てそうにない」
温泉集めでもしているのかと聞きたくなるほど温泉を引き当てる死神と最下位争いをしているリオが、無駄に絢爛な隣の領地を睨みつつ、サイコロを振った。
どんなもこもこでも、自身の育てているもこもこが一番可愛い。
だが、何度も土で汚れ、リオの掘った温泉につかることが一番のしあわせです……、という慎ましい姿を見ていると、『ク、クマちゃんごめん! 早くなんとかするから!』という気にさせられるのだ。
サイコロを振って出た目は三。
愛らしい音声と共に、もこもこのカジノテーブルから二枚のカードが宙に舞い、彼の手元で選択を迫る。
よく見なくても分かる。
金塊をどうするか選べ、という選択肢だった。
一枚は金塊と宝箱を交換してくれるクマちゃんの絵。
一枚は、リオが金塊を温泉に投げ捨てている絵。
「いや二枚目おかしいでしょ」というリオの前を、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と可愛らしいウサギが行き来する。
ウサギを着たもこもこは、ときどき立ち止まり、お手々を口元にあて、うるんだ瞳で彼を見ていた。
三番の選択肢である。
「えぇ……」
可愛すぎる。他に選びようがない。リオは思わず声を漏らした。
可愛すぎる選択肢は、彼の肯定的ではない声を聞き、もこもこもこもこと震え、ヨチ、と立ち去ろうとした。
「待って待って。クマちゃんこれ持ってっていいよ」
リオはもこもこを引き留め、両手でもふ、と抱き上げた。
だが参加者達からの刺すような視線に、すぐにもふ、とテーブルへ戻す。
勝敗が決まるまでは、もこもこをもこもこするなということだろう。
チップを入手したもこもこは、ヨチヨチ、ヨチヨチ、とカジノテーブルへ戻って行った。
◇
もこもこにチップを渡すと特別な宝箱を貰えるらしい。
リオのコクマちゃんは無事可愛い衣装を手に入れ、温泉天国な死神も、輝く箱から出てきた、輝く衣装を身につけたコクマちゃんに、無事もがき苦しんだ。
どうにかして、己のクマちゃんを魔王よりも幸せに――。
参加者達が焦るなか、リオが「温泉……! なんだろ……この今じゃない感じ。クマちゃんは喜んでるけど……」ともどかしい想いを吐き出し、サイコロが魔王へ渡る。
カン、と転がり、出た目は六。
クマちゃんではない目を出した魔王に、参加者達がざわつく。
「不幸になるやつ来た」
「リーダーが失敗をするとは思えないのだけれど」
「まぁ、お前の金脈は、出た順番が悪かったってだけだろう」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『領地ちゃ、選ぶちゃん……』
ウサギさんなもこもこが、潤む瞳で彼を見つめ、選択を迫る。
台座の一つを選ぶちゃん……、と。
無表情な男は迷うことなく、幻想的な花畑が広がる台座を指した。
「えぇ……」
疑い悩みやすい男の想いが、声となり、口から零れる。
少しは『どうしようかな……』という人間らしい感情を持って欲しい、と。
『クマちゃーん』
彼の選んだ台座が強く輝き、愛らしい案内が、彼の獲得したものを知らせてくれた。
『とくべつなお人形ちゃーん』と。
特別に可愛いもこもこの人形だろうか。
彼らが魔王のクマちゃんを見守っていると、小さなもこもこの玉座の前に青白い魔法陣が展開され、輝きの中から、銀髪に黒服の美麗な男が現れた。
どこかの無表情にそっくりな男はスタスタと玉座へ近付き、彼を見上げるもこもこを抱き上げると、彼のために用意されたとしか思えないその場所へ、当然のように腰を下ろした。
――キュオー――。
愛らしい声が高らかに響く。
それは世界で一番幸せな、もこもこの鳴き声だった。
◇
優勝した彼のもとへ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と駆けつける途中で、彼の魔法でふわりと攫われたもこもこが「クマちゃ」と、大好きな彼の腕の中へ飛び込んで行った。
「いやこんなの勝てるわけないじゃん。俺のクマちゃんさっきやっと服もらったとこなんだけど!」
「うーん。確かに、とても豪華に暮らしているね。でも、彼が勝ったのは、最後に手に入れた、リーダーそっくりな人形のおかげなのではない? 人形の彼が迎えに行ったことで、小さなクマちゃんは本当の意味で幸せになったのだと思うよ」
「だろうな。白いのの望むアイテムを手に入れつつ、広げた土地のどこかにある特別な宝を探せってことか。随分と凝った遊びだな」
赤ちゃんクマちゃんの愛らしさを存分に楽しめるだけでなく、選択によっては永遠に終わることの無い、恐ろしい遊びである。
「俺のクマちゃん……。幸せにしてあげたかったんだけど……」
リオは自身の育てた小さなクマちゃんを悲し気に見つめた。
たった三十分ほどだったが、勝者が決まったということはお別れなのだろう。
優勝したルークの腕のなかで、仲良しな彼の言葉を聞いてしまったクマちゃんは、ハッとした。
リオちゃんは、クマちゃんをもっと幸せにしたいらしい。
クマちゃんはうむ、と深く頷いた。
彼の優しい気持ちだけで十分に幸せだが、幸せはたくさんあっても困らないだろう。
◇
参加者達が自分達の育てたもこもこを眺めながら「次のゲームでは、もっと幸せにしてあげるからね」「いや俺のほうが勝つし」「おいお前ら、まさか続けてやる気か?」と話していると、ウサギを着たもこもこの声が聞こえてきた。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、嬉しいちゃん……』
リオちゃん、ありがとうございます。クマちゃんはとっても嬉しいちゃんです……。では、次のサイコロはお兄ちゃんですね……、と。
「え、それって続けて戦えってこと? まさかチケット貰えないの最後の一人だけってことじゃないよね」
リオは最後の一人になりそうな予感に震えた。
こうなったら死神だけでも倒すしかない。
「お。それなら皆チケットが手に入るな」
やり直しよりも嬉しいらしいマスターが、ニヤリと男らしい笑みを見せた。
「自分が勝てそうだからってそういうの良くないと思うんだけど!」
参加者達が次々と自身の人形を手に入れ、愛らしいもこもこを迎えに行くなか、残った男達は最後まで勇敢に戦った。
クマちゃんもキュ、と切なげにお鼻を鳴らしながら、両手にふさふさな玉飾りを持ち、一生懸命応援し続けた。
「クマちゃ……! クマちゃ……!」
「え、何それめっちゃ可愛いんだけど。……ありがとクマちゃん。絶対に俺が勝つから……!」
「……――」
「おいクライヴ、大丈夫か」
素敵なお洋服が欲しいちゃん……、と。
◇
ゲーム参加者達は無言で、彼の手から離れ、転がるサイコロを見た。
出た目は、四。
可愛らしい音声が『可愛いベッドちゃーん』と、ウィルが獲得したアイテムを知らせてくれた。
テーブルの上、彼の前に置かれた六角形の台座がキラキラと輝き、中央に白くて丸い、ふわふわのコクマちゃん用ベッドが現れた。
小さなクマちゃんはヨチ、ヨチ、とふわふわなそれによじ登り、もこもこ、もこもこ、と居心地を確かめると、真ん中のくぼみに置かれていたリボン型クッション付近でコロン、と仰向けになった。
小さなもこもこが、お耳のついた丸いコクマちゃん用ベッドで、お昼寝中の子猫のような格好をして彼を見上げている。
「…………」
笑顔を消したウィルは口元を押さえ、じっと己のコクマちゃんを見ていた。
愛らしすぎて言うべき言葉が見つからない。
とにかく、同じ型のベッドを用意して、クマちゃんに贈らねばならない。
「クマちゃ……」
ウサギなクマちゃんがお手々の先をくわえ、小さく頷いている。
可愛いベッドは嬉しいが、お洋服では無かったので複雑な心境らしい。
「可愛すぎる……」
リオは真剣な表情のまま、当たりなのかそうでもないのか分からないアイテムの上でもこもこしているコクマちゃんへ視線を送り、お喜びではない表情のクマちゃんをじっと見つめた。
あれほどのものを当てても『クマちゃーん』とお手々を上げてはくれないようだ。
最初はとにかく服、ということか。
「次は俺ですね……」
早くコクマちゃんとウサギ姿のクマちゃんを幸せにしたいギルド職員は、緊張感を漂わせ、素早くサイコロを振った。
出目は二。音声が可愛く『お花畑ちゃーん』と告げる。
台座が輝き、寂れた風景が綺麗なお花畑に変わった。
彼の小さなクマちゃんが、お花をお手々でチョン、チョン、と揺らし、お困りの表情のまま遊び出した。
「……かわいい! これは当たりだと思います」
ギルド職員は台座のコクマちゃんと、つられたようにお手々を動かし、虚空を引っかくウサギなクマちゃんの両方に感動し、自分の運の良さをさりげなく自慢した。
「いやどっちも困った顔してんじゃん」というかすれ声が響くなか、ゴリラちゃんがサイコロを振り、『宝箱ちゃーん』を獲得する。
カリカリ、ぽふん、と箱から出てきたのは、可愛らしいお花の髪飾りだった。
右耳につけられた花飾りで可愛くなったコクマちゃんが、小さなお手々を頬にあて、嬉しそうにしている。
カジノテーブル前で参加者達を見つめ、湿ったお鼻をふんふん、ふんふん、とさせていた着ぐるみクマちゃんも「クマちゃ」とお手々を頬にあて、同じ格好で喜んでいた。
「うーん。やはりお洋服が嬉しいようだね」
ウィルは五の目を出したゴリラちゃんとお花の髪飾りに喜ぶクマちゃんをじっと観察し、遺跡の謎を紐解く冒険者のような表情で呟いた。
可愛いベッドで休憩中の自身のコクマちゃんは文句なしに愛らしいが、可愛いクマちゃんに『クマちゃーん』と言ってもらえるほどの当たりアイテムではないらしい。
「やべー、なんか緊張すんだけど」
リオは自身の前に出現したサイコロを手の平で遊ばせ、頭の中に五を浮かべつつ、それを振った。
カン、カン――。と小さな音が鳴り、出た目は六。
可愛らしい音声が『クマちゃーん』と響く。
『ゴールドラッシュちゃーん』と。
寂れた風景の六角形の横。何もなかったはずの場所が、同じ形に光り輝く。
新たな台座の上に現れたのは、金色に輝く洞窟だった。
お困りの表情のコクマちゃんは、いつの間にかスコップを持たされ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と洞窟の中へ入っていった。
チャリーン――。
効果音が鳴り、ヨチヨチ……、ヨチヨチ……、と出てきたコクマちゃんは、小さな両手に、ピカピカの金塊を抱えている。
が――、なんとあちこちが汚れ、真っ白ではなくなってしまっていた。
いきなり鉱山で働くことになってしまったリオのコクマちゃんは、それを抱えたまま、ヨチヨチ……、ともとの台座へ戻った。
土にあちこちを穢された可哀相なクマちゃんが、寂れた地面に座り、悲し気な表情で、掘ってきたばかりの金塊をコロコロしている。
「ひどい。ひどすぎる。俺のクマちゃん汚れちゃったんだけど!」
大当たり――、と喜び掛けた男の目に映る、最初よりも可哀相なクマちゃん。
いったい何が悪かったのだろう。
人間ならば大喜びするはずの金脈も、クマの赤ちゃんにとっては土ぼこりと変わらぬ、ということなのか。
ゴールドラッシュよりも、可愛いリボンが良かった――。
大きな出目。欲の象徴のようなそれは、癒しのもこもこを穢す罠だったのだ。
一は不明、二はいまいち、三は不明、四は可愛いもこもこ用アイテム、五が衣装入り宝箱、ならば六が大当たりと、普通は考えるだろう。
リオは騙されたような気分で、自身のクマちゃんしか採掘者のいない、誰も殺到していない金色の洞窟を、恨めし気に睨んだ。
「クマちゃ……」
彼の大事な我が子が、お風呂に入れて欲しそうなお顔で、カジノテーブルをカリカリしている。
おしゃれで綺麗好きな赤ちゃんクマちゃんは、わがままを言う事もできずに、突然襲ってきた、被毛を乱すゴールドラッシュに耐えていた。
「クマちゃんごめん。すぐ風呂当てるから待ってて」
リオが見た我が子は、お風呂に入ったばかりでお洋服も新品なもこもこだったが、湿ったお鼻の上には可愛い皺が寄っていた。
『クマちゃん可愛いねー』などと言っている場合ではない。
魔王は何を掴むのか――。金鉱王は森に潜む獣のような眼差しで、隣でサイコロを振った無表情な男を注意深く観察した。
カン、とサイコロが止まり、出た目は一。……ではなく、よく見ると、クマちゃんのお顔だった。
――キュオー――。
『クマちゃーん!』
『衣装セットちゃーん!』
愛らしいお知らせが、欲も希望も無さそうな男へ、大当たりを告げる。
「なにそれずるい! おかしい! 絶対不正でしょ!」
金脈を独占しているが、何故か幸福ではないコクマちゃんを育てているリオが叫び、自身の台座と彼の台座を見比べた。
猫に金貨、赤ちゃんには不要なゴールドラッシュと戦う小さなもこもこが、再びスコップを持たされ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と金脈へ旅立つ。
――チャリーン――。
ヨチヨチ……。小さくても頑張り屋さんなもこもこが、やや大きい金塊を持ち、戻ってきた。
増える資金。増える穢れ。使い道のない金塊でコロコロと遊ぶ、リオのコクマちゃん。
対して、魔王の台座の上のもこもこは、顎下でリボンを結ぶひらひらレース付きお帽子、お揃いのケープ、肉球付きもこもこ手袋、肉球付きもこもこ靴下を身に纏い、恥ずかしそうに両手をもこもこさせていた。
ゲームマスタークマちゃんが「クマちゃーん」と子猫のように愛らしい声を上げ、着ぐるみの肉球をテチテチと叩き合わせ、大喜びしている。
ルークは幸せそうなもこもこを見つめ、微かに目を細めた。
「とても素敵な衣装だね……。僕のクマちゃんにも同じものが当たるといいのだけれど」
誰よりももこもこを幸せにしたい。強い想いが滲む声で、派手な鳥が囀る。
「…………」
高位で高貴なお兄さんがゆったりと手の平を上に向け、ふわりと浮いたサイコロが、テーブルへ舞う。
音も立てずにコロリ、とサイコロが止まり、出た目はクマちゃん。
大当たりを知らせる『クマちゃーん!』と、大喜びするウサギの「クマちゃーん!」に、金髪の叫びが重なった。
「絶対不正! 間違いない。お兄さんなんか力使ったでしょ!」
「――幼きクマの遊び道具で不正など、出来るわけがあるまい」
頭に響く不思議な美声は、お告げのように答えた。
不思議な力を使うお兄さんでも、もこもこ製のサイコロに細工は出来ないらしい。
「それ試したってことだよね」という男のかすれ声に、お兄さんからの答えが返ることはなかった。
◇
さっそく一人の金髪が荒れ気味の一巡目が終わり、それぞれがふたたびサイコロを振ってゆく。
「五か。当たったのは、鞄か? 良かったな」
「……――」
「氷の人温泉二つもいらないでしょ! 一個俺にちょーだい!」
「おや。三の目はアイテムを選べるのかい? 悩んでしまうね。……では、こちらの青いリボンをいただこうかな」
「絶対に六以外でお願いします……。哺乳瓶!! これ以上のアイテムは存在しないでしょうね」
「ギルド職員から喧嘩売られたのはじめてなんだけど。つーかマスターもゴリラちゃんも不正してるでしょ。箱当てすぎ」
参加者達が各自のコクマちゃんの幸福度を少しずつ上げ、リオは他の人間の出目に、心の扉をガタガタさせた。
そして彼の手にサイコロが渡り、運命の時が訪れた。
これで、他の人間がサイコロを振るたびに、被毛を汚す憎い存在『ゴールドラッシュ』から小さなもこもこを救うことができる。
「に、に、に」リオは欲望を丸出しにしながら、サイコロを振った。
ピタリと止まるサイコロの目は六。
嫌な数字だ――。
『クマちゃーん』と可愛らしくお知らせが響く。
『水脈ちゃーん』と。
まさか、そこから温泉を掘り当てろというのか。
出てきたのが温水じゃなければ、冷たいお水でぱちゃぱちゃする可哀相なクマちゃんになってしまう。
彼の可愛いコクマちゃんはあちこちが汚れ、魔王の『早くどうにかしろ』という圧がリオを責める。
温泉天国な死神が、恐ろしい顔で彼を見ていた。
またしてもスコップを持たされてしまった彼のクマちゃんが、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と新しく得た六角形の大地へ旅立ち、お困りの表情で、地面をカリカリした。
「手伝いたいんだけど、クマちゃんこれでスコップ買えない?」
リオはウサギなクマちゃんに尋ねた。
お目目をうるうるさせていたクマちゃんが、仲良しなリオちゃんの優しさに「クマちゃ……!」と感動し、お手々を口元に当てた。
金脈は無駄ではなかった。
ウサギなクマちゃんがカリカリ、とカードを引っかき、金塊の一つが輝くスコップに変わる。
「ありがとー」
リオはお困りなコクマちゃんがカリカリしている地面へ、指先で摘まんだスコップを突き立てた。
六角形の台座がキラキラと輝く。
光が消え、現れたのは湯気の立つ美しい泉と、七色の小さな虹。
小さなお手々でぱちゃ、ぱちゃ、と水面を叩いたもこもこが、ヨチ……、ヨチ……、と、リオの掘った温泉へ、恐る恐るあんよをつけた。
美しい被毛を取り戻し、できたての温泉をぱちゃぱちゃと楽しむ小さなもこもこを見た参加者達が、リオの小さなクマちゃんと、喜びでキュオーと鳴くもこもこへ、あたたかな拍手を贈る。
「良かったな、白いの」
「感動しました……!」
「……――」
「これ以上可愛いクマちゃんを悲しませるなら、食堂へ行って話し合おうと思っていたけれど、無事に解決してほっとしたよ」
「ああ」
「それ絶対話し合いじゃないよね。拳飛んでくるやつでしょ」
癒しのもこもこを幸せにするゲームで不幸なもこもこを生み出すことをギリギリで回避した男の横で、もこもこを幸せにするためならどんな手でも使いそうな魔王が、サイコロを振った。
まるで運命の導きのように『クマちゃんの目』を出した男に、「納得いかないんだけど!」という苦情が飛んだが、魔王は世界中の生き物すべてを魅了する、微かな笑みをみせただけで、彼の心を穏やかにすることはなかった。
◇
魔王の育てた小さなクマちゃんが、魔王城のような城の玉座で、ふわふわつきの真っ赤なケープを纏い、可愛らしい王冠を被り、赤い宝石で飾られた哺乳瓶をチュ、チュ、と吸っている。
周囲の台座には城下町のようなものまでつくられ、クマの兵隊さん達がもこもこ王のおわす謁見の間まで、近隣の台座から集められた可愛いアイテムを運び込んでいた。
「やばい。全然勝てそうにない」
温泉集めでもしているのかと聞きたくなるほど温泉を引き当てる死神と最下位争いをしているリオが、無駄に絢爛な隣の領地を睨みつつ、サイコロを振った。
どんなもこもこでも、自身の育てているもこもこが一番可愛い。
だが、何度も土で汚れ、リオの掘った温泉につかることが一番のしあわせです……、という慎ましい姿を見ていると、『ク、クマちゃんごめん! 早くなんとかするから!』という気にさせられるのだ。
サイコロを振って出た目は三。
愛らしい音声と共に、もこもこのカジノテーブルから二枚のカードが宙に舞い、彼の手元で選択を迫る。
よく見なくても分かる。
金塊をどうするか選べ、という選択肢だった。
一枚は金塊と宝箱を交換してくれるクマちゃんの絵。
一枚は、リオが金塊を温泉に投げ捨てている絵。
「いや二枚目おかしいでしょ」というリオの前を、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と可愛らしいウサギが行き来する。
ウサギを着たもこもこは、ときどき立ち止まり、お手々を口元にあて、うるんだ瞳で彼を見ていた。
三番の選択肢である。
「えぇ……」
可愛すぎる。他に選びようがない。リオは思わず声を漏らした。
可愛すぎる選択肢は、彼の肯定的ではない声を聞き、もこもこもこもこと震え、ヨチ、と立ち去ろうとした。
「待って待って。クマちゃんこれ持ってっていいよ」
リオはもこもこを引き留め、両手でもふ、と抱き上げた。
だが参加者達からの刺すような視線に、すぐにもふ、とテーブルへ戻す。
勝敗が決まるまでは、もこもこをもこもこするなということだろう。
チップを入手したもこもこは、ヨチヨチ、ヨチヨチ、とカジノテーブルへ戻って行った。
◇
もこもこにチップを渡すと特別な宝箱を貰えるらしい。
リオのコクマちゃんは無事可愛い衣装を手に入れ、温泉天国な死神も、輝く箱から出てきた、輝く衣装を身につけたコクマちゃんに、無事もがき苦しんだ。
どうにかして、己のクマちゃんを魔王よりも幸せに――。
参加者達が焦るなか、リオが「温泉……! なんだろ……この今じゃない感じ。クマちゃんは喜んでるけど……」ともどかしい想いを吐き出し、サイコロが魔王へ渡る。
カン、と転がり、出た目は六。
クマちゃんではない目を出した魔王に、参加者達がざわつく。
「不幸になるやつ来た」
「リーダーが失敗をするとは思えないのだけれど」
「まぁ、お前の金脈は、出た順番が悪かったってだけだろう」
「クマちゃ、クマちゃ……」
『領地ちゃ、選ぶちゃん……』
ウサギさんなもこもこが、潤む瞳で彼を見つめ、選択を迫る。
台座の一つを選ぶちゃん……、と。
無表情な男は迷うことなく、幻想的な花畑が広がる台座を指した。
「えぇ……」
疑い悩みやすい男の想いが、声となり、口から零れる。
少しは『どうしようかな……』という人間らしい感情を持って欲しい、と。
『クマちゃーん』
彼の選んだ台座が強く輝き、愛らしい案内が、彼の獲得したものを知らせてくれた。
『とくべつなお人形ちゃーん』と。
特別に可愛いもこもこの人形だろうか。
彼らが魔王のクマちゃんを見守っていると、小さなもこもこの玉座の前に青白い魔法陣が展開され、輝きの中から、銀髪に黒服の美麗な男が現れた。
どこかの無表情にそっくりな男はスタスタと玉座へ近付き、彼を見上げるもこもこを抱き上げると、彼のために用意されたとしか思えないその場所へ、当然のように腰を下ろした。
――キュオー――。
愛らしい声が高らかに響く。
それは世界で一番幸せな、もこもこの鳴き声だった。
◇
優勝した彼のもとへ、ヨチヨチ、ヨチヨチ、と駆けつける途中で、彼の魔法でふわりと攫われたもこもこが「クマちゃ」と、大好きな彼の腕の中へ飛び込んで行った。
「いやこんなの勝てるわけないじゃん。俺のクマちゃんさっきやっと服もらったとこなんだけど!」
「うーん。確かに、とても豪華に暮らしているね。でも、彼が勝ったのは、最後に手に入れた、リーダーそっくりな人形のおかげなのではない? 人形の彼が迎えに行ったことで、小さなクマちゃんは本当の意味で幸せになったのだと思うよ」
「だろうな。白いのの望むアイテムを手に入れつつ、広げた土地のどこかにある特別な宝を探せってことか。随分と凝った遊びだな」
赤ちゃんクマちゃんの愛らしさを存分に楽しめるだけでなく、選択によっては永遠に終わることの無い、恐ろしい遊びである。
「俺のクマちゃん……。幸せにしてあげたかったんだけど……」
リオは自身の育てた小さなクマちゃんを悲し気に見つめた。
たった三十分ほどだったが、勝者が決まったということはお別れなのだろう。
優勝したルークの腕のなかで、仲良しな彼の言葉を聞いてしまったクマちゃんは、ハッとした。
リオちゃんは、クマちゃんをもっと幸せにしたいらしい。
クマちゃんはうむ、と深く頷いた。
彼の優しい気持ちだけで十分に幸せだが、幸せはたくさんあっても困らないだろう。
◇
参加者達が自分達の育てたもこもこを眺めながら「次のゲームでは、もっと幸せにしてあげるからね」「いや俺のほうが勝つし」「おいお前ら、まさか続けてやる気か?」と話していると、ウサギを着たもこもこの声が聞こえてきた。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『リオちゃ、嬉しいちゃん……』
リオちゃん、ありがとうございます。クマちゃんはとっても嬉しいちゃんです……。では、次のサイコロはお兄ちゃんですね……、と。
「え、それって続けて戦えってこと? まさかチケット貰えないの最後の一人だけってことじゃないよね」
リオは最後の一人になりそうな予感に震えた。
こうなったら死神だけでも倒すしかない。
「お。それなら皆チケットが手に入るな」
やり直しよりも嬉しいらしいマスターが、ニヤリと男らしい笑みを見せた。
「自分が勝てそうだからってそういうの良くないと思うんだけど!」
参加者達が次々と自身の人形を手に入れ、愛らしいもこもこを迎えに行くなか、残った男達は最後まで勇敢に戦った。
クマちゃんもキュ、と切なげにお鼻を鳴らしながら、両手にふさふさな玉飾りを持ち、一生懸命応援し続けた。
「クマちゃ……! クマちゃ……!」
「え、何それめっちゃ可愛いんだけど。……ありがとクマちゃん。絶対に俺が勝つから……!」
「……――」
「おいクライヴ、大丈夫か」
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