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第296話 お悩みを店長へ相談するクマちゃん。可愛すぎるクマちゃんへの答え。「クマちゃ」「めっちゃ可愛い」
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可愛いカエルさんとウサギさんからお告げを受けてしまったクマちゃんは、むむむ、と悩んでしまった。
カエルさんとウサギさんが大人気になり、お客ちゃん達から『クマちゃんよりカエルさんのほうが森の街っぽい色だね』『クマちゃんよりもウサギさんのほうがお耳が長くて素敵だね』と言われてしまったら、どうすればいいのだろうか。
そうしたら、真っ白で可愛いクマちゃんグッズが売れなくなってしまうかもしれない。
大変だ。売れ残りクマちゃんである。
余剰在庫を抱えてしまうかもしれないクマちゃんは、店長のリオちゃんにも相談してみることにした。
◇
ザァ――、と心地よい噴水の音が広がる水のもこもこ宮殿。
興奮冷めやらぬ人々のあいだを縫うように、光の魚がキラキラと泳ぎ、天井の水槽へと帰ってゆく。
保護者達は冒険者やギルド職員からの質問に答えながら、可愛いお顔を桶に突っ込んでいるクマちゃんを見守っていた。
「あの、リオさん。カウンターにあるクマちゃんグッズは、どこで買えるんですか?」
「クマちゃんのレストランだけど、好きなだけ買えるわけじゃないから。来るなら銀貨持ってきたほうがいいんじゃね」
「お菓子のお持ち帰りってやってます? 大きいプリンが欲しいんですけど……」
「あ~、そうだな。白いのに聞かんと分からんが……。まさかお前ら、大量に買う気か?」
ウィルが笑顔で「詳しく知りたいのなら、明日マスターから聞いた方がいいのではない?」と答え、もこもこの店に客が押しかけるのを阻止した。
クライヴのまわりにも勇気のあるギルド職員が寄ってきたが「今日は閉店だ――」の一言で自分達のクッションの山へ戻って行った。
もこもこは桶から顔を上げ、「クマちゃ……」と遠慮がちにリオを呼んだ。
「どしたのクマちゃん。お風呂行く?」
客より我が子な新米ママは、彼らに背を向けもこもこに尋ねた。
考えごとで忙しいもこもこは、お風呂用のおもちゃが入った桶を抱えたまま、彼に質問した。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『可愛いちゃ、動物ちゃん……』
リオちゃんは、可愛いカエルさんとウサギさんについてどう思うちゃんですか……、と。
「何その質問。俺カエルとウサギについて何かを思ったことないんだけど」
今考えろということだろうか。
リオは愛らしいもこもこの潤んだ瞳と見つめ合いながら「カエルとウサギ……」と呟いた。
真っ白でふわふわなクマちゃんをじっと観察する。
子猫のようなお手々が、木製の小さな桶をキュ、と不安そうに掴んでいる。
お目目がいつもよりも潤んでいるようだ。
何かに困っているのだろうか。
可愛い。
もこもこのお口がもふっと膨らんだ。
湿ったお鼻がツヤツヤしている。
可愛い。
リオはゆっくりと頷き、答えを出した。
「クマちゃん白いからなんでも似合うんじゃね?」
ウサギとカエルについて、もこもこの被毛一本ほども考えなかった男が出した答えは、『クマちゃんめっちゃ可愛い』だった。
めっちゃ可愛いクマちゃんが「クマちゃ」と両手の肉球を頬に添えた。
それを見たリオは、「あ」と思いついた。
「お兄さんクマちゃん用の帽子持ってない? カエルとかウサギとか猫の色違いとか」
◇
お兄さんから少し待つよう伝えられた彼らは、興奮していて騒がしい冒険者達を残し、もこもこ露天風呂へと移動した。
もこもこが最初に作った、家族風呂というには大きい露天風呂へ行くと、ちょうど出てきた冒険者達が「お前アヒルさん撫でようとすんのやめろって」「俺は諦めないぜ……」と強敵との戦いに敗れた雰囲気を醸しながら、通りすがりに拳を出してきた。
リオは相手を見ずに無言で拳をぶつけ、ついでに二の腕を殴った。
『クマちゃんのアヒルに勝てるわけないじゃん』と思ったが、わざわざ言うのは面倒だった。
お兄さんからお風呂で遊べるおもちゃセットをもらったクマちゃんが、小さな桶にお湯を入れ、そのなかでちゃぷちゃぷとカエルさんを洗っている。
うっかりルークの隣でシャワーを浴びていたクライヴは、魔王の膝の上で泡々もこもこにされながらお人形さんを洗うもこもこの愛くるしさにやられ、まるで瞬間移動のように、離れた位置のお花のシャワーへ消えた。
「クマちゃん可愛い……濡れてほっそりしてる……」
濡れてほっそりしたもこもこが子猫のようなお手々で人形を洗うなど、死神に耐えられる攻撃ではない。
リオはいつものように、もこもこがもこもこになって洗われるさまを隣で見守りつつ、自身の髪を洗った。
◇
光の花から落ちる癒しのシャワーを浴び、淡く輝く癒しの湯につかり、猫顔のクマ太陽と展望台がキラキラと照らす湖面を、葉で出来たとばりの隙間からまったりと眺めつつ、もこもこがしつこくカエルさんを洗い続ける様子をじっと観察した彼らは、現在もこもこ宮殿前に置かれた巨大クッションでくつろぎ、もこもこがふわふわに乾くのを待っていた。
一面に広がる真っ白な花畑。湖面に浮くクマ太陽が、周囲をぼんやりと明るく照らしている。
ひらり、ひらりと光の蝶が舞い、癒しの力を放つ。
頬に掛かるひとすじの青い髪に蝶がふれ、ウィルは眩しそうに目を細めた。
「ここは夜でも美しいね」
「すげーきれーだけど、クマちゃんしか見てなかった」
肩に蝶をのせた男が、金髪を妖精のように光らせ答えた。
癒しの光で輝く花畑も、幻想的な湖も、ふわりと舞う蝶も美しいが、魔王に被毛を乾かしてもらいながら小さな布でカエルさんを拭くもこもこが気になってしょうがない。
仰向けで温かい風を浴び、ふわふわになった白いお腹の上で、ツルツルした素材のカエルさんが、キュ、と磨かれている。
ルークがもこもこ専用ブラシを動かし、もこもこの小さな舌がチャ――、チャ――、チャ――、と同時に動く。
リオはゆっくりと頷いた。
なるほど。舌とお手々は同時に動かせないらしい。
◇
長く湯につかっても血色が良くならない、高位で高貴なお兄さんがゆるりと手を持ち上げると、リオが座るクッションに闇色の球体が現れた。
「やべーぞわってなる」
夜に見るとなおさら怖いそれから、ふわ、ふわ、ともこもこした何かが連続で落ちてくる。
『やる前にひとこと言って欲しい感じ……』リオは彼に言っても絶対に伝わらない苦情を飲み込み、手に取ったそれを目の前に持ち上げた。
ふわふわで手触りのいい何かから、たらん、ともこもこしたリボンのようなものが垂れている。
両手で広げ、じっくりと観察すると、それは小さなクマちゃんにぴったりの、ウサギさんの被り物だった。
同じ色のものが二つある。膝の上に広げると、こちらは着ぐるみのようだ。
「すげー。めっちゃたくさんあるし。お兄さんありがとー」
さすがはよろず屋お兄さんである。
リオは心から礼を言い「リーダーこれクマちゃんに着せてみて」と白黒ウサギさんの着ぐるみを両手でもふ、と掲げてみせた。
◇
もこもこのお着替えをするなら室内がいいだろうと、彼らは宮殿よりはやや静かな別荘へ移動した。
高級感のある籠に大きなクッションがモフンとのった寝椅子。
同じ素材で作られた一人掛けソファ。たくさんの蓮のランプが飾られた美しい部屋で、それぞれが居心地のいい場所へ腰を下ろす。
薄い紗が隔てるだけの宮殿からは、まだまだ賑やかな声が楽しそうに、ときに切なげに響いている。
背の低いテーブルの中央では、クマちゃんのカエルさんが、強い輝きを放っていた。
「洗いすぎでしょ。ランプ超えてるよね」
「あ~。白いのはさすがだな。この光だけでも、軽い怪我なら治るだろ」
もこもこが念入りに洗ったおかげで、カエルさんは癒しのカエルさんへと変わったようだ。
彼らが感心しているあいだに、クマちゃんのお着替えが終わり「クマちゃ……」とテーブルの上、ちょっと強めに輝いている舞台へと、もこもこが舞い降りた。
「クマちゃんめっちゃ可愛いじゃん! お兄さんすげー。完璧すぎる」
「うーん。愛らし過ぎて隣の広間で興奮している彼らには見せられないね。こちらの部屋で着替えて正解だったと思うよ」
「可愛いな。白いのは本当になんでも似合う。……おいクライヴ、大丈夫か」
「――――」
みんなに褒められたクマちゃんは、白黒ウサギさんの着ぐるみを着たまま、短いお手々を腰に当て、短いあんよをスッと横に出し、最高に格好いいポーズを取った。
「クマちゃ」
首元で結ばれた大き目の赤いリボンが、真っ白でもこもこなお顔をぐっと引き立てている。
頭の上にもこ、と伸びた真っ黒なお耳が、つぶらなお目目のクマちゃんに良く似合っていた。
「あー可愛い。マジ可愛い。カエルさんも見たいけど、これ脱がせんのもったいないよね」
「ずっと見ていたいのに、他のお洋服を着たクマちゃんも気になる。とても贅沢な悩みだね」
「今日はこのままでもいいと思うがな。他にはどんなのがあるんだ」
マスターは一人掛けのソファで息絶えた暗殺者のように下を向くクライヴから、そっと目を逸らした。
「こっちが頭にかぶるウサギ。こっちが全身のカエル。こっちが頭だけのやつで、こっちが黒猫。リボンの色だけ違うやつとか、かなりいっぱいあるっぽい」
リオがもこもこのお着替えを並べ、みんなで「どれも素敵すぎて選べないね……」「ああ」「クマちゃ」「これはなんだ……まさか、靴か?」「クマちゃ」と真剣に話し合う。
全員会議中よりも真面目な表情だった。
クマちゃんはときどきリオから「クマちゃんもっかいさっきのやって」と言われるたびに「クマちゃ」と格好いいポーズをしてみせた。
スーパーモデルらしく美しい歩きを見せつけ「やべー。めっちゃヨチヨチしてんじゃん」「うーん。クマちゃんほど愛らしく歩く生き物は見たことがないね」「ああ」「すべてが可愛いな。お、しっぽは本物か」と保護者達からの称賛を浴びつつ、ヨチ、と立ち止まり、またポーズを決める。
美しい衣に包まれ、声援に応えて「クマちゃ」と腰にお手々を当てながら、商品開発士クマちゃんは一生懸命考えていた。
仲良しのリオちゃんは、可愛いカエルさんとウサギさんよりも、何でも似合うクマちゃんがウサギさんを着たほうが可愛いジャーンと言ってくれた。
今も、ふわふわになったクマちゃんが、ふわふわの衣装を身につけた姿を見て「クマちゃんめっちゃ可愛い」と喜んでいる。
うむ。クマちゃんもとても嬉しい。
口元にお上品にお手々を添え「それも可愛い。すげー。その服っつーかもこもこ。肉球ついてる」と言われたクマちゃんは、ハッと気が付いた。
では、カエルさんとウサギさんのケーキではなく、ウサギさんになったクマちゃんと、カエルさんになったクマちゃんのケーキのほうが可愛くてスゲー、ということだろうか。
すべてを理解したクマちゃんは、うむ、と深く頷いた。
クマちゃんグッズの新商品も、店長オススメの『カエルさんクマちゃん』『ウサギさんクマちゃん』『猫さんクマちゃん』に決まりである。
スーパーモデルクマちゃんは流れるようにヨチ、ヨチ、とポーズを決め、「クマちゃ……」と店長リオへ視線を送った。
数量限定のほうがいいちゃんでしょうか……、と。
もこもこともこもこグッズを愛する男は、余剰在庫を恐れる赤ちゃんクマちゃんの思いに気付かぬまま「クマちゃん可愛いねー」と頷いていた。
カエルさんとウサギさんが大人気になり、お客ちゃん達から『クマちゃんよりカエルさんのほうが森の街っぽい色だね』『クマちゃんよりもウサギさんのほうがお耳が長くて素敵だね』と言われてしまったら、どうすればいいのだろうか。
そうしたら、真っ白で可愛いクマちゃんグッズが売れなくなってしまうかもしれない。
大変だ。売れ残りクマちゃんである。
余剰在庫を抱えてしまうかもしれないクマちゃんは、店長のリオちゃんにも相談してみることにした。
◇
ザァ――、と心地よい噴水の音が広がる水のもこもこ宮殿。
興奮冷めやらぬ人々のあいだを縫うように、光の魚がキラキラと泳ぎ、天井の水槽へと帰ってゆく。
保護者達は冒険者やギルド職員からの質問に答えながら、可愛いお顔を桶に突っ込んでいるクマちゃんを見守っていた。
「あの、リオさん。カウンターにあるクマちゃんグッズは、どこで買えるんですか?」
「クマちゃんのレストランだけど、好きなだけ買えるわけじゃないから。来るなら銀貨持ってきたほうがいいんじゃね」
「お菓子のお持ち帰りってやってます? 大きいプリンが欲しいんですけど……」
「あ~、そうだな。白いのに聞かんと分からんが……。まさかお前ら、大量に買う気か?」
ウィルが笑顔で「詳しく知りたいのなら、明日マスターから聞いた方がいいのではない?」と答え、もこもこの店に客が押しかけるのを阻止した。
クライヴのまわりにも勇気のあるギルド職員が寄ってきたが「今日は閉店だ――」の一言で自分達のクッションの山へ戻って行った。
もこもこは桶から顔を上げ、「クマちゃ……」と遠慮がちにリオを呼んだ。
「どしたのクマちゃん。お風呂行く?」
客より我が子な新米ママは、彼らに背を向けもこもこに尋ねた。
考えごとで忙しいもこもこは、お風呂用のおもちゃが入った桶を抱えたまま、彼に質問した。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『可愛いちゃ、動物ちゃん……』
リオちゃんは、可愛いカエルさんとウサギさんについてどう思うちゃんですか……、と。
「何その質問。俺カエルとウサギについて何かを思ったことないんだけど」
今考えろということだろうか。
リオは愛らしいもこもこの潤んだ瞳と見つめ合いながら「カエルとウサギ……」と呟いた。
真っ白でふわふわなクマちゃんをじっと観察する。
子猫のようなお手々が、木製の小さな桶をキュ、と不安そうに掴んでいる。
お目目がいつもよりも潤んでいるようだ。
何かに困っているのだろうか。
可愛い。
もこもこのお口がもふっと膨らんだ。
湿ったお鼻がツヤツヤしている。
可愛い。
リオはゆっくりと頷き、答えを出した。
「クマちゃん白いからなんでも似合うんじゃね?」
ウサギとカエルについて、もこもこの被毛一本ほども考えなかった男が出した答えは、『クマちゃんめっちゃ可愛い』だった。
めっちゃ可愛いクマちゃんが「クマちゃ」と両手の肉球を頬に添えた。
それを見たリオは、「あ」と思いついた。
「お兄さんクマちゃん用の帽子持ってない? カエルとかウサギとか猫の色違いとか」
◇
お兄さんから少し待つよう伝えられた彼らは、興奮していて騒がしい冒険者達を残し、もこもこ露天風呂へと移動した。
もこもこが最初に作った、家族風呂というには大きい露天風呂へ行くと、ちょうど出てきた冒険者達が「お前アヒルさん撫でようとすんのやめろって」「俺は諦めないぜ……」と強敵との戦いに敗れた雰囲気を醸しながら、通りすがりに拳を出してきた。
リオは相手を見ずに無言で拳をぶつけ、ついでに二の腕を殴った。
『クマちゃんのアヒルに勝てるわけないじゃん』と思ったが、わざわざ言うのは面倒だった。
お兄さんからお風呂で遊べるおもちゃセットをもらったクマちゃんが、小さな桶にお湯を入れ、そのなかでちゃぷちゃぷとカエルさんを洗っている。
うっかりルークの隣でシャワーを浴びていたクライヴは、魔王の膝の上で泡々もこもこにされながらお人形さんを洗うもこもこの愛くるしさにやられ、まるで瞬間移動のように、離れた位置のお花のシャワーへ消えた。
「クマちゃん可愛い……濡れてほっそりしてる……」
濡れてほっそりしたもこもこが子猫のようなお手々で人形を洗うなど、死神に耐えられる攻撃ではない。
リオはいつものように、もこもこがもこもこになって洗われるさまを隣で見守りつつ、自身の髪を洗った。
◇
光の花から落ちる癒しのシャワーを浴び、淡く輝く癒しの湯につかり、猫顔のクマ太陽と展望台がキラキラと照らす湖面を、葉で出来たとばりの隙間からまったりと眺めつつ、もこもこがしつこくカエルさんを洗い続ける様子をじっと観察した彼らは、現在もこもこ宮殿前に置かれた巨大クッションでくつろぎ、もこもこがふわふわに乾くのを待っていた。
一面に広がる真っ白な花畑。湖面に浮くクマ太陽が、周囲をぼんやりと明るく照らしている。
ひらり、ひらりと光の蝶が舞い、癒しの力を放つ。
頬に掛かるひとすじの青い髪に蝶がふれ、ウィルは眩しそうに目を細めた。
「ここは夜でも美しいね」
「すげーきれーだけど、クマちゃんしか見てなかった」
肩に蝶をのせた男が、金髪を妖精のように光らせ答えた。
癒しの光で輝く花畑も、幻想的な湖も、ふわりと舞う蝶も美しいが、魔王に被毛を乾かしてもらいながら小さな布でカエルさんを拭くもこもこが気になってしょうがない。
仰向けで温かい風を浴び、ふわふわになった白いお腹の上で、ツルツルした素材のカエルさんが、キュ、と磨かれている。
ルークがもこもこ専用ブラシを動かし、もこもこの小さな舌がチャ――、チャ――、チャ――、と同時に動く。
リオはゆっくりと頷いた。
なるほど。舌とお手々は同時に動かせないらしい。
◇
長く湯につかっても血色が良くならない、高位で高貴なお兄さんがゆるりと手を持ち上げると、リオが座るクッションに闇色の球体が現れた。
「やべーぞわってなる」
夜に見るとなおさら怖いそれから、ふわ、ふわ、ともこもこした何かが連続で落ちてくる。
『やる前にひとこと言って欲しい感じ……』リオは彼に言っても絶対に伝わらない苦情を飲み込み、手に取ったそれを目の前に持ち上げた。
ふわふわで手触りのいい何かから、たらん、ともこもこしたリボンのようなものが垂れている。
両手で広げ、じっくりと観察すると、それは小さなクマちゃんにぴったりの、ウサギさんの被り物だった。
同じ色のものが二つある。膝の上に広げると、こちらは着ぐるみのようだ。
「すげー。めっちゃたくさんあるし。お兄さんありがとー」
さすがはよろず屋お兄さんである。
リオは心から礼を言い「リーダーこれクマちゃんに着せてみて」と白黒ウサギさんの着ぐるみを両手でもふ、と掲げてみせた。
◇
もこもこのお着替えをするなら室内がいいだろうと、彼らは宮殿よりはやや静かな別荘へ移動した。
高級感のある籠に大きなクッションがモフンとのった寝椅子。
同じ素材で作られた一人掛けソファ。たくさんの蓮のランプが飾られた美しい部屋で、それぞれが居心地のいい場所へ腰を下ろす。
薄い紗が隔てるだけの宮殿からは、まだまだ賑やかな声が楽しそうに、ときに切なげに響いている。
背の低いテーブルの中央では、クマちゃんのカエルさんが、強い輝きを放っていた。
「洗いすぎでしょ。ランプ超えてるよね」
「あ~。白いのはさすがだな。この光だけでも、軽い怪我なら治るだろ」
もこもこが念入りに洗ったおかげで、カエルさんは癒しのカエルさんへと変わったようだ。
彼らが感心しているあいだに、クマちゃんのお着替えが終わり「クマちゃ……」とテーブルの上、ちょっと強めに輝いている舞台へと、もこもこが舞い降りた。
「クマちゃんめっちゃ可愛いじゃん! お兄さんすげー。完璧すぎる」
「うーん。愛らし過ぎて隣の広間で興奮している彼らには見せられないね。こちらの部屋で着替えて正解だったと思うよ」
「可愛いな。白いのは本当になんでも似合う。……おいクライヴ、大丈夫か」
「――――」
みんなに褒められたクマちゃんは、白黒ウサギさんの着ぐるみを着たまま、短いお手々を腰に当て、短いあんよをスッと横に出し、最高に格好いいポーズを取った。
「クマちゃ」
首元で結ばれた大き目の赤いリボンが、真っ白でもこもこなお顔をぐっと引き立てている。
頭の上にもこ、と伸びた真っ黒なお耳が、つぶらなお目目のクマちゃんに良く似合っていた。
「あー可愛い。マジ可愛い。カエルさんも見たいけど、これ脱がせんのもったいないよね」
「ずっと見ていたいのに、他のお洋服を着たクマちゃんも気になる。とても贅沢な悩みだね」
「今日はこのままでもいいと思うがな。他にはどんなのがあるんだ」
マスターは一人掛けのソファで息絶えた暗殺者のように下を向くクライヴから、そっと目を逸らした。
「こっちが頭にかぶるウサギ。こっちが全身のカエル。こっちが頭だけのやつで、こっちが黒猫。リボンの色だけ違うやつとか、かなりいっぱいあるっぽい」
リオがもこもこのお着替えを並べ、みんなで「どれも素敵すぎて選べないね……」「ああ」「クマちゃ」「これはなんだ……まさか、靴か?」「クマちゃ」と真剣に話し合う。
全員会議中よりも真面目な表情だった。
クマちゃんはときどきリオから「クマちゃんもっかいさっきのやって」と言われるたびに「クマちゃ」と格好いいポーズをしてみせた。
スーパーモデルらしく美しい歩きを見せつけ「やべー。めっちゃヨチヨチしてんじゃん」「うーん。クマちゃんほど愛らしく歩く生き物は見たことがないね」「ああ」「すべてが可愛いな。お、しっぽは本物か」と保護者達からの称賛を浴びつつ、ヨチ、と立ち止まり、またポーズを決める。
美しい衣に包まれ、声援に応えて「クマちゃ」と腰にお手々を当てながら、商品開発士クマちゃんは一生懸命考えていた。
仲良しのリオちゃんは、可愛いカエルさんとウサギさんよりも、何でも似合うクマちゃんがウサギさんを着たほうが可愛いジャーンと言ってくれた。
今も、ふわふわになったクマちゃんが、ふわふわの衣装を身につけた姿を見て「クマちゃんめっちゃ可愛い」と喜んでいる。
うむ。クマちゃんもとても嬉しい。
口元にお上品にお手々を添え「それも可愛い。すげー。その服っつーかもこもこ。肉球ついてる」と言われたクマちゃんは、ハッと気が付いた。
では、カエルさんとウサギさんのケーキではなく、ウサギさんになったクマちゃんと、カエルさんになったクマちゃんのケーキのほうが可愛くてスゲー、ということだろうか。
すべてを理解したクマちゃんは、うむ、と深く頷いた。
クマちゃんグッズの新商品も、店長オススメの『カエルさんクマちゃん』『ウサギさんクマちゃん』『猫さんクマちゃん』に決まりである。
スーパーモデルクマちゃんは流れるようにヨチ、ヨチ、とポーズを決め、「クマちゃ……」と店長リオへ視線を送った。
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もこもこともこもこグッズを愛する男は、余剰在庫を恐れる赤ちゃんクマちゃんの思いに気付かぬまま「クマちゃん可愛いねー」と頷いていた。
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