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第282話 役に立たなそうな変装。役に立ちそうなこん棒。水の街に降り立ったもこもこ冒険ちゃ。
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クマちゃんはうむ、と頷いた。
こん棒の準備はこれでいいだろう。
あとはお出掛けをして幽霊ちゃんを探し『人を驚かせてはいけません』と格好良く注意し、パパちゃんに商品を売るだけである。
おしゃれな服装と素敵な装備品で『最強の冒険ちゃ』になったクマちゃんは、カウンターの上で彼らを見上げた。
早速行きましょう、と。
◇
クマちゃんと彼らは現在、よその街に『お仕事』へ行く準備をしている。
数分前、『クマちゃ……』と両手にこん棒を装備した冒険ちゃと、危険度が計り知れない棒を持った赤ちゃんクマちゃんを知らない街へ連れて行くなどとんでもない! と大事な我が子を赤ちゃん用のベッドへ運び相当早めに就寝させようとしたリオのあいだでひと悶着があった。
当然店内には愛らしい――クマちゃーん――が響き渡った。
『クマちゃん寝なーい』と。
寝たくないもこもこを赤ちゃん用のベッドから救ったのは、派手な男の言葉だった。
『リオ、クマちゃんにも色々な風景を見せてあげたほうがいいのではない?』
新米ママは折れるしかなかった。
『……じゃあクマちゃんが変な奴に目つけられないように変装させよ』
◇
猫のお耳がついた赤ちゃん用のお帽子をすっぽりと被り、あごの下で真っ赤なリボンを結んだもこもこに、彼らは真面目な表情で頷き、感想を述べた。
「すげー可愛い。なんだろ……真っ白な子猫が灰色の猫の帽子被ってる感じ」
「うーん。ふわふわのお耳は隠せたけれど、愛らしさがまったく隠れていないようだね」
「隠せるわけねぇだろ」
「あ~……、そうだな。可愛いが、これは変装になってんのか?」
「愛らしい……。どのような姿でも愛くるしいお前に『魅力を抑えろ』とは、どだい無理な話だったのだ――」
保護者達は理解した。
どちらかというとクマっぽい耳を隠し猫っぽい生き物へ寄せることには成功したが、もこもこの可愛らしさは帽子ごときで隠せるものではなかった。
このまま連れて行くしかなさそうだ。
結論は出たようだ。
高位で高貴なお兄さんはゆったりと席を立ち、優雅な動きで彼らへ手を向けた。
◇
クマちゃんと彼らが闇色の球体で運ばれたのは、森の街の人間が『水の街』と呼んでいる、王都の近くにある街だった。
『水の』と言われるだけあり、水際で生まれたものが成長し、長い時を経て巨大な湖の上まで広がっていったのだろうと、一目見ただけで想像できる、どこを眺めても美しい湖上の街だ。
上空からこの街を見下ろすことができるなら、湖面に浮かぶいくつもの蓮の葉を、たくさんの小さな橋で繋いでいるように見えたかもしれない。
ルークに抱えられたもこもこと彼らがいるのは、飲食店や雑貨屋、食材を売っている店など、様々な建物が並ぶ小島のひとつで、湖を眺めつつ買い物が楽しめる、観光客が喜びそうな場所だ。
湖に面した通りは道幅がかなり広く、疲れた人間が休憩するためか、テーブルや椅子がたくさん置かれているのが見えた。
彼らと同じ場所に立ち、その風景を見れば、ほぼすべての人間が『とても綺麗な街だね』と言うだろう。
だがもこもこの作る幻想的な楽園の美しさで目が肥えてしまった彼らの感想は、非情なものだった。
「え、樹少なくね?」
「クマちゃ……!」
『樹ちゃん……!』
「ねぇな」
「うーん。前に一度来たことがあるけれど、特に変わりはないようだね」
「ほかの地へ移り住むことを勧める」
「お前ら……人前では言うなよ。気持ちは分かるが」
森の無いところへ行った森の街の人間の感想はだいたい『え……。凄く樹が少ないね』という、己の価値基準に沿った、その地の人間が『普通の街が樹の本数で森に勝てるわけないでしょ!』と涙目になりそうなものだが、彼らのそれにはさらにもこもこが可愛い肉球でつくりあげたものがくっついてしまっている。
森の中につくられた『真の水の楽園』を知ってしまった彼らの心は『湖に浮かぶ美しい街』ていどでは動かせなかった。
因みに、彼らは『樹が無い街など街ではない』と思っているわけでも『これだからもこもこのいない街は……』と真の愛らしさと美しさを知らぬ者たちを見くだしているわけでもない。
生まれた時から巨大な樹々に囲まれ、道のど真ん中にも建物の真横にも明らかに通行の邪魔になりそうなところにも樹が生えている場所で育った彼らからすると、『樹が無い。引っ越せ』と思わず言ってしまうのは当然のことなのだ。
◇
南国風中庭村から水の街へと移動して一分。
夕暮れ時、というには少し早い時間。
立ち並ぶ店を背に、隣の小島へと繋がる三十メートル以上はありそうな橋を眺めながら、金髪の男が言った。
「水の街やべー。何で柵つけねーの? ちっちゃい子に優しくなくね? クマちゃん落ちちゃうかもしれないじゃん」
もこもこ依頼掲示板で見た可愛らしい人形劇では気付かなかったが、この街は水路だらけなのに陸にも橋にも『柵』がない。
彼の大事なクマちゃんは泳げないのだ。
美味しい木の実が拾える森も赤ちゃん用の柵も無いとは、なんてもこもこに優しくない街なのか。
リオの発言は彼らの後ろを通り過ぎる水の街の人々が聞いたら『我々の好きにさせてください……』と言われそうなものだったが、振り返る人間はひとりもいなかった。
彼らはもこもこに過保護なお兄さんの力で、他の人間達には見えないように姿と声を隠されていた。
もこもこクッキーのおかげで魔力量が大変なことになっている危険人物たちの好き勝手な発言は続く。
「確かに危険だね」
「帰るか」
「クマちゃ……」
「あ~、白いのは『幽霊』を探したいんだったな……。情報を集めるにしても、ギルドには行けねぇぞ。襲撃と勘違いされかねないからな」
「モンスターの気配はない。やはり樹のない街には凶悪な犯罪者が――」
『情報を集める』というマスターの言葉を聞いたクマちゃんはハッとした。
クマちゃんの作った掲示板の出番である。
うむ。持ち歩くなら少し小さいほうがいいだろうか。
ルークの腕の中のもこもこが「クマちゃ」と愛らしい声を出し、猫のような左手を上げ、何かを招くようにシャララ、と動かした。
自身の贈ったブレスレットの音に気付いたリオが橋からもこもこへ視線を移すと、人目に晒せない剣を佩いた魔王とクマちゃんの前に、もこもこの作った掲示板が半分程度の大きさになったものが浮かんでいた。
「なんかちっちゃくなってる! それ見つかったらヤベーやつじゃん」
「うーん。確かに、これなら情報収集に走り回る必要はないだろうね」
「白いのが呼ぶだけでくるのか……。本当にとんでもねぇな……」
もこもこの願いと癒しの力で発動する不思議な魔法を使って製作されたもこもこ魔道具は、もこもこの部下ちゃん達よりもクマちゃんのお願いを聞いてくれるらしい。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『噂ちゃ、調べるちゃん……』
これで街の噂を調べるちゃんしてみましょう……、という灰色猫耳赤ちゃん帽を被ったもこもこの肉球に従い、彼らは近くにある休憩用のテーブル席へと移動した。
◇
道幅が十数メートルはある、石畳の端。
クマちゃん達は湖のそばに設置された木製のテーブル席で、もこもこ依頼掲示板から情報収集をしていた。
二つの席を繋げて椅子をずらし、湖のほうを向いて座った彼らの前には、全員が見られるようにと大きさを戻された掲示板がある。
先程見た時よりも人形達が忙しそうにちょこちょこ動いているのは、仕事が終わる時間だからだろうか。
『お腹空いた』
『早くしないとお店がしまっちゃう』
『あの男の人、泣いてない?』
『よくわからないけど、苔のせいで給料がどうにかなったみたい』
可愛い人形達の頭上に、それぞれの台詞が浮かんでは消える。
「あの人形、ちょっと気になるかも」
リオが指したのは二人の男の人形だった。
困り顔の人形達は、大きな建物から出てきたばかりらしい。
『ああ、子供達が騒いでいると同僚から聞いた』
『どこかで大人が話しているのを聞いたんだろ』
『早く捕まえないと、幽霊退治が始まるらしい』
『まさか! アレは幽霊なんて可愛いもんじゃないだろう』
『ああ。腕の立つ冒険者でも捕まえられない犯罪者さ』
「クマちゃ!」
『犯罪ちゃちゃん!』
恐ろしい話を聞いてしまったもこもこは悲鳴を上げ、もこもこした口元を両手の肉球でサッと隠した。
「え、これクマちゃんが近付いちゃ駄目なやつじゃん。帰ったほうがよくね?」
「うーん。人形が可愛らしいから緊張感がないけれど、冒険者が動いているのなら騎士の手に負えない事件ということだろうね」
「最近の事件か? 連絡は来てないと思うが……」
「国が止めてんだろ」
「騎士の名誉か――」
この街の冒険者が動いているのであれば森の街に戻って連絡を待ったほうがいいだろう、と話が纏まりかけたとき、掲示板からキュオーという可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
彼らが視線を向けると、どこかの建物の上に下向きの矢印と『犯罪者ちゃん』という濃いピンク色の吹き出しが浮かんでいた。
「えぇ……」
めっちゃそこにいる感じじゃん――。
「クマちゃ……」
リオの嫌そうな声に気付かないもこもこは、震える肉球をおさえ、両手に細長いこん棒を装備し、決意した。
『クマちゃんがんばる……』と。
こん棒の準備はこれでいいだろう。
あとはお出掛けをして幽霊ちゃんを探し『人を驚かせてはいけません』と格好良く注意し、パパちゃんに商品を売るだけである。
おしゃれな服装と素敵な装備品で『最強の冒険ちゃ』になったクマちゃんは、カウンターの上で彼らを見上げた。
早速行きましょう、と。
◇
クマちゃんと彼らは現在、よその街に『お仕事』へ行く準備をしている。
数分前、『クマちゃ……』と両手にこん棒を装備した冒険ちゃと、危険度が計り知れない棒を持った赤ちゃんクマちゃんを知らない街へ連れて行くなどとんでもない! と大事な我が子を赤ちゃん用のベッドへ運び相当早めに就寝させようとしたリオのあいだでひと悶着があった。
当然店内には愛らしい――クマちゃーん――が響き渡った。
『クマちゃん寝なーい』と。
寝たくないもこもこを赤ちゃん用のベッドから救ったのは、派手な男の言葉だった。
『リオ、クマちゃんにも色々な風景を見せてあげたほうがいいのではない?』
新米ママは折れるしかなかった。
『……じゃあクマちゃんが変な奴に目つけられないように変装させよ』
◇
猫のお耳がついた赤ちゃん用のお帽子をすっぽりと被り、あごの下で真っ赤なリボンを結んだもこもこに、彼らは真面目な表情で頷き、感想を述べた。
「すげー可愛い。なんだろ……真っ白な子猫が灰色の猫の帽子被ってる感じ」
「うーん。ふわふわのお耳は隠せたけれど、愛らしさがまったく隠れていないようだね」
「隠せるわけねぇだろ」
「あ~……、そうだな。可愛いが、これは変装になってんのか?」
「愛らしい……。どのような姿でも愛くるしいお前に『魅力を抑えろ』とは、どだい無理な話だったのだ――」
保護者達は理解した。
どちらかというとクマっぽい耳を隠し猫っぽい生き物へ寄せることには成功したが、もこもこの可愛らしさは帽子ごときで隠せるものではなかった。
このまま連れて行くしかなさそうだ。
結論は出たようだ。
高位で高貴なお兄さんはゆったりと席を立ち、優雅な動きで彼らへ手を向けた。
◇
クマちゃんと彼らが闇色の球体で運ばれたのは、森の街の人間が『水の街』と呼んでいる、王都の近くにある街だった。
『水の』と言われるだけあり、水際で生まれたものが成長し、長い時を経て巨大な湖の上まで広がっていったのだろうと、一目見ただけで想像できる、どこを眺めても美しい湖上の街だ。
上空からこの街を見下ろすことができるなら、湖面に浮かぶいくつもの蓮の葉を、たくさんの小さな橋で繋いでいるように見えたかもしれない。
ルークに抱えられたもこもこと彼らがいるのは、飲食店や雑貨屋、食材を売っている店など、様々な建物が並ぶ小島のひとつで、湖を眺めつつ買い物が楽しめる、観光客が喜びそうな場所だ。
湖に面した通りは道幅がかなり広く、疲れた人間が休憩するためか、テーブルや椅子がたくさん置かれているのが見えた。
彼らと同じ場所に立ち、その風景を見れば、ほぼすべての人間が『とても綺麗な街だね』と言うだろう。
だがもこもこの作る幻想的な楽園の美しさで目が肥えてしまった彼らの感想は、非情なものだった。
「え、樹少なくね?」
「クマちゃ……!」
『樹ちゃん……!』
「ねぇな」
「うーん。前に一度来たことがあるけれど、特に変わりはないようだね」
「ほかの地へ移り住むことを勧める」
「お前ら……人前では言うなよ。気持ちは分かるが」
森の無いところへ行った森の街の人間の感想はだいたい『え……。凄く樹が少ないね』という、己の価値基準に沿った、その地の人間が『普通の街が樹の本数で森に勝てるわけないでしょ!』と涙目になりそうなものだが、彼らのそれにはさらにもこもこが可愛い肉球でつくりあげたものがくっついてしまっている。
森の中につくられた『真の水の楽園』を知ってしまった彼らの心は『湖に浮かぶ美しい街』ていどでは動かせなかった。
因みに、彼らは『樹が無い街など街ではない』と思っているわけでも『これだからもこもこのいない街は……』と真の愛らしさと美しさを知らぬ者たちを見くだしているわけでもない。
生まれた時から巨大な樹々に囲まれ、道のど真ん中にも建物の真横にも明らかに通行の邪魔になりそうなところにも樹が生えている場所で育った彼らからすると、『樹が無い。引っ越せ』と思わず言ってしまうのは当然のことなのだ。
◇
南国風中庭村から水の街へと移動して一分。
夕暮れ時、というには少し早い時間。
立ち並ぶ店を背に、隣の小島へと繋がる三十メートル以上はありそうな橋を眺めながら、金髪の男が言った。
「水の街やべー。何で柵つけねーの? ちっちゃい子に優しくなくね? クマちゃん落ちちゃうかもしれないじゃん」
もこもこ依頼掲示板で見た可愛らしい人形劇では気付かなかったが、この街は水路だらけなのに陸にも橋にも『柵』がない。
彼の大事なクマちゃんは泳げないのだ。
美味しい木の実が拾える森も赤ちゃん用の柵も無いとは、なんてもこもこに優しくない街なのか。
リオの発言は彼らの後ろを通り過ぎる水の街の人々が聞いたら『我々の好きにさせてください……』と言われそうなものだったが、振り返る人間はひとりもいなかった。
彼らはもこもこに過保護なお兄さんの力で、他の人間達には見えないように姿と声を隠されていた。
もこもこクッキーのおかげで魔力量が大変なことになっている危険人物たちの好き勝手な発言は続く。
「確かに危険だね」
「帰るか」
「クマちゃ……」
「あ~、白いのは『幽霊』を探したいんだったな……。情報を集めるにしても、ギルドには行けねぇぞ。襲撃と勘違いされかねないからな」
「モンスターの気配はない。やはり樹のない街には凶悪な犯罪者が――」
『情報を集める』というマスターの言葉を聞いたクマちゃんはハッとした。
クマちゃんの作った掲示板の出番である。
うむ。持ち歩くなら少し小さいほうがいいだろうか。
ルークの腕の中のもこもこが「クマちゃ」と愛らしい声を出し、猫のような左手を上げ、何かを招くようにシャララ、と動かした。
自身の贈ったブレスレットの音に気付いたリオが橋からもこもこへ視線を移すと、人目に晒せない剣を佩いた魔王とクマちゃんの前に、もこもこの作った掲示板が半分程度の大きさになったものが浮かんでいた。
「なんかちっちゃくなってる! それ見つかったらヤベーやつじゃん」
「うーん。確かに、これなら情報収集に走り回る必要はないだろうね」
「白いのが呼ぶだけでくるのか……。本当にとんでもねぇな……」
もこもこの願いと癒しの力で発動する不思議な魔法を使って製作されたもこもこ魔道具は、もこもこの部下ちゃん達よりもクマちゃんのお願いを聞いてくれるらしい。
「クマちゃ、クマちゃ……」
『噂ちゃ、調べるちゃん……』
これで街の噂を調べるちゃんしてみましょう……、という灰色猫耳赤ちゃん帽を被ったもこもこの肉球に従い、彼らは近くにある休憩用のテーブル席へと移動した。
◇
道幅が十数メートルはある、石畳の端。
クマちゃん達は湖のそばに設置された木製のテーブル席で、もこもこ依頼掲示板から情報収集をしていた。
二つの席を繋げて椅子をずらし、湖のほうを向いて座った彼らの前には、全員が見られるようにと大きさを戻された掲示板がある。
先程見た時よりも人形達が忙しそうにちょこちょこ動いているのは、仕事が終わる時間だからだろうか。
『お腹空いた』
『早くしないとお店がしまっちゃう』
『あの男の人、泣いてない?』
『よくわからないけど、苔のせいで給料がどうにかなったみたい』
可愛い人形達の頭上に、それぞれの台詞が浮かんでは消える。
「あの人形、ちょっと気になるかも」
リオが指したのは二人の男の人形だった。
困り顔の人形達は、大きな建物から出てきたばかりらしい。
『ああ、子供達が騒いでいると同僚から聞いた』
『どこかで大人が話しているのを聞いたんだろ』
『早く捕まえないと、幽霊退治が始まるらしい』
『まさか! アレは幽霊なんて可愛いもんじゃないだろう』
『ああ。腕の立つ冒険者でも捕まえられない犯罪者さ』
「クマちゃ!」
『犯罪ちゃちゃん!』
恐ろしい話を聞いてしまったもこもこは悲鳴を上げ、もこもこした口元を両手の肉球でサッと隠した。
「え、これクマちゃんが近付いちゃ駄目なやつじゃん。帰ったほうがよくね?」
「うーん。人形が可愛らしいから緊張感がないけれど、冒険者が動いているのなら騎士の手に負えない事件ということだろうね」
「最近の事件か? 連絡は来てないと思うが……」
「国が止めてんだろ」
「騎士の名誉か――」
この街の冒険者が動いているのであれば森の街に戻って連絡を待ったほうがいいだろう、と話が纏まりかけたとき、掲示板からキュオーという可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
彼らが視線を向けると、どこかの建物の上に下向きの矢印と『犯罪者ちゃん』という濃いピンク色の吹き出しが浮かんでいた。
「えぇ……」
めっちゃそこにいる感じじゃん――。
「クマちゃ……」
リオの嫌そうな声に気付かないもこもこは、震える肉球をおさえ、両手に細長いこん棒を装備し、決意した。
『クマちゃんがんばる……』と。
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