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第196話 素晴らしく「クマちゃ」な解決法。
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もこもこしたリポーターは子猫のような愛らしい声で「――クマちゃ――」と頷いた。
『――良いちゃん――』と。
よい反応ですね……、という意味のようだ。
驚く現地人リオのようすがお気に召したらしい。
撮影用の魔道具に赤いランプが点いている。
『クマちゃんニュース』は狙った獲物を逃がさない。
「何その言い方。今それどころじゃないでしょ」
クマちゃんニュースに狙われていることを知らない新米ママは、自身の腕の中で『クマちゃ……』と頷いている我が子を『メッ!』と叱った。
驚く人間を見て喜ぶもこもこは悪いもこもこの始まりである。
リオちゃんはお怒りちゃんだ。
話を聞いていないリポーターがチャチャッと舌を鳴らし、もこもこしたお口を斜めに開いた。
滑舌を確かめるのに忙しいらしい。
「……つーかこれ消さないとやばくね? お兄さんあのハタキ貸して欲しいんだけど」
リオは困ったもこもこを叱ることを諦め、小さな綿ボコリのようなもやもやを消すことにした。
よろず屋のように何でも持っている――魔道具の前で腕を組み、瞳を閉じている――お兄さんへ視線を向ける。
小さなもやのある地面には草が無い。だが放っておいたら周辺の樹や野草が枯れてしまうかもしれない。
クマちゃんの魔道具を借りたいが、お兄さんは動かない。
どこに仕舞ったか考えているのか。それとも――。
「お兄さん……まさか、立ったまま寝てるわけじゃ――」
ないよね――。
リオは言いかけた言葉を無理やり飲み込む。そして『もう少し待とう』とせっかちな自分を反省した。
――今のうちにマスターへ報告する内容を纏めよう。
街外れの民家に住む不眠症患者たちは、このもやもやにやられたのだろうか。
「もやめっちゃヤベーじゃん」彼はリポーターの頬を指先で撫で、心のもやもやを吐き出した。
リオ達が無事なのは、癒しの力を持つクマちゃんのおかげか。
頬がもこもこだ。さわるととても癒される。
「――クマちゃ――」リポーターの声が響く。可愛い我が子も彼の指で癒されているようだ。
しかし、こんな小さなもやもやにそこまでの力が? もしや他にもまだあるのか、と見た目ほどチャラくない彼が珍しく真面目に考えていたときだった。
左手の肉球に集音魔道具を持ったもこもこリポーターが、子猫のような声で話し始めてしまった。
「――クマちゃ、クマちゃ――」
『――便利ちゃん、こちらちゃん――』
そんなときに便利なのがこちらの商品です――、という意味のようだ。
リポーターはもこもこした右手に先端がもこもこした草を握っている。
「それネコが遊ぶやつじゃね? その草便利に使ってる奴見たことないんだけど」
もこもこが喜ぶ雑草として有名な『便利ちゃん』を見たリオは、もこもこしたリポーターに『クマちゃん、あとで遊んであげるから……』という優しい視線を向けた。
もこもこへの偏見を感じ取ったリポーターがつぶらなお目目をキッと吊り上げ、ストレスが溜まった獣のような顔で現地人の指を『クマちゃ!』する。
放送事故の気配だ。
クマちゃんニュースがニュースに取り上げられてしまうかもしれない。
「ごめんクマちゃんその草ネコが遊ぶやつじゃんとかもう言わないから」
『ネコが遊ぶ草』改め『誰も遊ばない草』を受け取った新米ママリオちゃんが、純粋なもこもこをあやすように撫で、もこっと丸め込む。
小さな黒い湿った鼻の上に皺が寄ったままのリポーターは「――クマちゃ……――」と大人のもこもこらしい大人な対応をした。
『――もっとちゃ……――』
もっとたくさん撫でて下さい……、と。
◇
「ここで振ればいいの?」
小さなもやもやの前で片膝を突いたリオが、地面に立ち彼を見上げているリポーターに尋ねた。
集音用の魔道具をもこもこのお手々で握っているリポーターが「――クマちゃ――」と頷いた。
『――どうぞちゃん――』と。
どうぞお試しください、という意味のようだ。
「ハタキみたいなもん?」
金髪の現地人が綿ボコリのようなもやの上で『誰も遊ばない草』を左右に振った。
もこもこしたリポーターが彼の手元へスッと近付く。
「何かクマちゃん距離おかしくね?」
現地人リオは、綿ボコリから目を離さずに尋ねた。『近くね?』と。
もこもこした何かが彼の手に当たっている。
シュッ――。
揺れる『誰も遊ばない草』
ふんふんふんふん――。
忍び寄るもこ影。
――ボッ――。
肉球を離れる集音魔道具。
「なんか落ちたんだけど」よそ見をする現地人。
「クマちゃ――」隙をつくリポーター。
興奮したリポーターが地面に転がり、先端がもこもこした草を肉球で『クマちゃ』している。
――『誰も遊ばない草』が『誰かがクマちゃする草』に進化した。
「いやめちゃくちゃ遊んでんじゃん!」
細かい現地人リオちゃんは「そこに転がっちゃ駄目でしょ!」とかすれた声で細かく我が子を叱った。
『――良いちゃん――』と。
よい反応ですね……、という意味のようだ。
驚く現地人リオのようすがお気に召したらしい。
撮影用の魔道具に赤いランプが点いている。
『クマちゃんニュース』は狙った獲物を逃がさない。
「何その言い方。今それどころじゃないでしょ」
クマちゃんニュースに狙われていることを知らない新米ママは、自身の腕の中で『クマちゃ……』と頷いている我が子を『メッ!』と叱った。
驚く人間を見て喜ぶもこもこは悪いもこもこの始まりである。
リオちゃんはお怒りちゃんだ。
話を聞いていないリポーターがチャチャッと舌を鳴らし、もこもこしたお口を斜めに開いた。
滑舌を確かめるのに忙しいらしい。
「……つーかこれ消さないとやばくね? お兄さんあのハタキ貸して欲しいんだけど」
リオは困ったもこもこを叱ることを諦め、小さな綿ボコリのようなもやもやを消すことにした。
よろず屋のように何でも持っている――魔道具の前で腕を組み、瞳を閉じている――お兄さんへ視線を向ける。
小さなもやのある地面には草が無い。だが放っておいたら周辺の樹や野草が枯れてしまうかもしれない。
クマちゃんの魔道具を借りたいが、お兄さんは動かない。
どこに仕舞ったか考えているのか。それとも――。
「お兄さん……まさか、立ったまま寝てるわけじゃ――」
ないよね――。
リオは言いかけた言葉を無理やり飲み込む。そして『もう少し待とう』とせっかちな自分を反省した。
――今のうちにマスターへ報告する内容を纏めよう。
街外れの民家に住む不眠症患者たちは、このもやもやにやられたのだろうか。
「もやめっちゃヤベーじゃん」彼はリポーターの頬を指先で撫で、心のもやもやを吐き出した。
リオ達が無事なのは、癒しの力を持つクマちゃんのおかげか。
頬がもこもこだ。さわるととても癒される。
「――クマちゃ――」リポーターの声が響く。可愛い我が子も彼の指で癒されているようだ。
しかし、こんな小さなもやもやにそこまでの力が? もしや他にもまだあるのか、と見た目ほどチャラくない彼が珍しく真面目に考えていたときだった。
左手の肉球に集音魔道具を持ったもこもこリポーターが、子猫のような声で話し始めてしまった。
「――クマちゃ、クマちゃ――」
『――便利ちゃん、こちらちゃん――』
そんなときに便利なのがこちらの商品です――、という意味のようだ。
リポーターはもこもこした右手に先端がもこもこした草を握っている。
「それネコが遊ぶやつじゃね? その草便利に使ってる奴見たことないんだけど」
もこもこが喜ぶ雑草として有名な『便利ちゃん』を見たリオは、もこもこしたリポーターに『クマちゃん、あとで遊んであげるから……』という優しい視線を向けた。
もこもこへの偏見を感じ取ったリポーターがつぶらなお目目をキッと吊り上げ、ストレスが溜まった獣のような顔で現地人の指を『クマちゃ!』する。
放送事故の気配だ。
クマちゃんニュースがニュースに取り上げられてしまうかもしれない。
「ごめんクマちゃんその草ネコが遊ぶやつじゃんとかもう言わないから」
『ネコが遊ぶ草』改め『誰も遊ばない草』を受け取った新米ママリオちゃんが、純粋なもこもこをあやすように撫で、もこっと丸め込む。
小さな黒い湿った鼻の上に皺が寄ったままのリポーターは「――クマちゃ……――」と大人のもこもこらしい大人な対応をした。
『――もっとちゃ……――』
もっとたくさん撫でて下さい……、と。
◇
「ここで振ればいいの?」
小さなもやもやの前で片膝を突いたリオが、地面に立ち彼を見上げているリポーターに尋ねた。
集音用の魔道具をもこもこのお手々で握っているリポーターが「――クマちゃ――」と頷いた。
『――どうぞちゃん――』と。
どうぞお試しください、という意味のようだ。
「ハタキみたいなもん?」
金髪の現地人が綿ボコリのようなもやの上で『誰も遊ばない草』を左右に振った。
もこもこしたリポーターが彼の手元へスッと近付く。
「何かクマちゃん距離おかしくね?」
現地人リオは、綿ボコリから目を離さずに尋ねた。『近くね?』と。
もこもこした何かが彼の手に当たっている。
シュッ――。
揺れる『誰も遊ばない草』
ふんふんふんふん――。
忍び寄るもこ影。
――ボッ――。
肉球を離れる集音魔道具。
「なんか落ちたんだけど」よそ見をする現地人。
「クマちゃ――」隙をつくリポーター。
興奮したリポーターが地面に転がり、先端がもこもこした草を肉球で『クマちゃ』している。
――『誰も遊ばない草』が『誰かがクマちゃする草』に進化した。
「いやめちゃくちゃ遊んでんじゃん!」
細かい現地人リオちゃんは「そこに転がっちゃ駄目でしょ!」とかすれた声で細かく我が子を叱った。
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