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第152話 クマちゃん的発想
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猫のようなお手々に魔法のキノコを持ったクマちゃんは考えていた。
うむ。魔法を掛けなければいけない場所がたくさんある。
それに、完成した後で細かな修正が必要になることもあるだろう。
やはり、杖と共にキノコも使わなければ。
高級感を演出するなら、照明にもこだわりたい。
照明……。
クマちゃんはハッと気が付いた。
そうだった。簡単に大きな照明をつくる、素晴らしい方法があるのだった。
リオがクマちゃん製――気持ち良すぎて起き上がるのが嫌になる――籠ソファに横になったまま、怪しいキノコを持ったクマちゃんをじっと観察していると、もこもこはルークの体の上からヨチヨチと降り、床のクッションの海で「クマちゃ……」と溺れてしまった。
すぐに助け出そうとしたが、彼が動くよりも魔王が起き上がりクマちゃんを床からさらう方が早かった。
「え、クマちゃん外行くの?」
ルークがもこもこを抱いたまま入り口側へ移動するのを見て、リオは慌てて起き上がった。
冒険者もギルド職員も、外の巨大クッションの上にたくさん転がっているが、自分達が付いていた方が安全だ。
「ここか」
魅惑的な低音がクッションだらけの室内に響く。
ルークは外には出ず、赤地に白い水玉柄のキノコを持ったクマちゃんを壁際に降ろした。
クマちゃんがキュオ――、と寂しそうに鳴き、幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と彼に告げた。
『ヘルメットちゃ……』と。
もこもこはヘルメットが欲しいらしい。
ルークはクマちゃんの『クマちゃ……』に反応し、それだけ出して又目を閉じたお兄さんの闇色の球体へ手を突っ込み、もこもこに黄色いヘルメットを装備させている。
リオは自身の寝転がるソファの後ろで何かが行われる予感に、警戒しつつ起き上がった。
危険だ。寝ていては逃げ遅れる可能性もある。
彼はひょうたんの断面のような――それを潰し、さらに半分に切ったような形の背凭れに片腕をかけると、自身の顎をのせ、もこもこをじっと視線で追った。
ウィルとクライヴも立ち上がり、その場から見守ることにしたようだ。
ソファの上のお兄さんは仰向けで、みぞおちのあたりで両手をゆるく組み、完全に目を瞑っている。
――ゴリラちゃんがクッションの中に埋もれたままだが、それでいいのだろうか。
床に大事なキノコを置いたヘルメットクマちゃんが、ふんふんふんふんと小さな黒い湿った鼻を鳴らし、ちょっとだけ背伸びをして、後ろ足の肉球も最高に愛らしいことを彼らに見せつけながら、外に出るドアと、クマ顔型の窓の間の壁を、カリカリ、カリカリ、と引っかき出した。
リオの口から思わず「可愛い……」と悔しそうな声が漏れる。
――カリカリ、「クマちゃ……」カリカリ、「クマちゃ……」カリカリ――。
カリカリしながら何かを調べているのかもしれないが、無駄に愛らしい。
もこもこの愛らしさに弱い氷の紳士に危険が迫っている。
もこもこ調査なのかもこもこ点検なのか分からない、カリカリ――は、無事終わったらしい。
深く頷いたクマちゃんが幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と呟き、お手々の先をくわえると、すぐにスポンサーが駆けつけた。
外見も声も視線も氷の結晶のように美しく冷たいが、心は優しい氷の紳士がもこもこの側のクッションを退かし、側に片膝を突いた。
彼はいつものように、ベルトから下げている冒険者用の道具入れから、魔石を取り出す。
しかし、クライヴがそれを床に置く前に、人間が何かを持つと必ず『それは何ですか? もしや私の物では?』と湿った鼻を突っ込んでくる猫のように、もこもこが彼の手に可愛い肉球をのせ、ふんふんふんふん、と魔石の匂いを嗅いできた。
――氷の紳士は呼吸を止め、気配を消している。
「クマちゃん氷の人苦しそうなんだけど」
珍しくリオがクライヴを心配している。
魔石の匂いか、又は別の何かに納得したらしい天才現場職人。
床からキノコを拾い上げ「クマちゃん……」と深く頷き、呼吸を止めている彼の手を、猫のようなもこもこの左手でキュムッと掴み、右手の肉球で握っている赤と白のそれで、黒革の上の魔石を、ポキュッ、と一生懸命叩き出した。
――ポキュッポキュッ、「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
室内に妙な音と可愛らしい声が響いている。
黄色いヘルメットを装備した天才現場職人は、非常に真剣な表情だ。
『クマちゃ……、頑張って……』と自分を励ましている愛らしい声からも、作業の大変さが伝わってくる。
――氷の紳士の気配が更に薄くなる。
「全然何してんのか分かんねー……」
リオには愛くるしさで氷の男の息の根を止めようとしているように見える。
目的が達成されてしまわないか、非常に心配だ。
しかし、彼が『クマちゃん一旦それ止めた方が……』とクライヴを助け出す前に、黒革に包まれた彼の手に載せられた魔石に変化があった。
複数の紺と青が複雑に混じり合うそれが、一瞬だけ透明に輝き、光の粉のようにパンッ――とはじけ、舞ったかと思うと、猫に似たお手々が持っていた不思議な音の出るキノコに、キラキラと吸収されていった。
「マジで何なのそれ」
あの獣は怪しいキノコで魔石を吸収して何をするつもりなのだろうか。
怪し過ぎる。それに、魔道具を動かすのに必須である魔石を、数度叩くだけでまるごと吸収してしまうなど、ギルドの研究員に見つかったら『クマちゃん、駄目!』と即刻取り上げられそうな危険なキノコだ。
リオの知るあのキノコが出来ることといえば、メモを取る事と、椅子の背もたれを縮ませることくらいで――と彼が考えている間に、もこもこはクライヴに次の魔石をおねだりし、ポキュポキュを再開してしまった。
――ポキュッポキュッ、「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
本もこは大変そうだが、見ている方は和んだり苦しんだりするだけの、彼らが代わってあげることもできない妙な作業が終わり、天才現場職人が動きだした。
リオは気配の薄い氷の紳士へ、スッと視線を投げる。
――生きてはいるようだ。
真面目な表情で頷き、視線をもこもこへ戻した。
先程カリカリしていた場所を今度はキノコで叩くらしい。
可愛さが余って若干憎らしいもこもこが、ちょっとだけ背伸びをして、後ろ足の肉球も最高に可愛いことを、再び彼らに見せつけている。
現場職人の大変そうな声と、おかしな音が部屋の中に響く。
――ふんふん……「クマちゃ……」ポキュッポキュッ……「クマちゃ……」ふんふん……ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ふんふん……ふんふん、ポキュッポキュッ――。
「とても大変そうだね……僕が変わってあげられたらいいのだけれど……」
南国の鳥のような男が、リオの座っている大きなソファの側へ歩いて来た。
彼の纏う装飾品が風に揺れ、シャラシャラと美しい音を奏でる。
クッションを退けるのに風の魔法を使ったらしい。
もこもこが作る飲み物や食べ物のおかげで、彼の魔法はどんどん緻密になってゆく。
フワッと舞ったクッションが、先程までルークの寝ていたソファの上に綺麗に退けられたが――いくつかお兄さんの顔の上に載ってしまった。場所が足りなかったせいだろう。
リオは急いで見なかったことにした。
南国のイカれ鳥の共犯だと思われたくない。おそらく神聖な存在であるお兄さんになんてことを――。
チャラそうな外見のわりに真面目な金髪が、若干ドキドキしながら視線を頑張るもこもこへ戻した時、それは起こった。
――ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――ドォンッ!
濃い木の色のドア、真っ白な壁と、そこから直接生えている植物、クマの形の可愛い窓。
すべてが一瞬で無くなり、壁に大穴が開いた。
「えぇ……めっちゃ穴あいたじゃん……」
リオの切なげなかすれ声が、然程大きくはない部屋から、広い花畑へと消えていった。
なんだろうか、このやるせなさと既視感は。
あの愛らしいもこもこに、壁を叩いて穴を開けることを教えた奴が憎い。
小さい子というのは、大人のすることを何でも真似してしまうものなのだ。
リオは自身の言葉遣いを棚に上げ、隣で「おや、上のほうはクマの耳の形になっているようだね。可愛いキノコで叩くだけで穴の形を芸術的に整えることができるなんて、とても不思議で興味深いよ」と感心している吞気な鳥男をキッと睨みつけた。
「すげぇな」
もこもこのやることならなんでも褒めてしまう悪い男は、初めからクマちゃんを結界で護っていたらしく、爆発に巻き込まれることも、大きな音に驚くこともなく無事だったもこもこを抱き上げ、褒められて喜ぶ可愛いもこもこを〈甘くておいしい牛乳・改〉のように甘やかしている。
クマちゃんは大好きな彼に優しく撫でてもらいながら、ハッと気が付いた。
今日はたくさん作るものがあるのだ。
ずっと彼の腕の中にいたいが、早くルーク達がゆっくりふわふわの場所で休めるように、クマちゃんが頑張らねば。
クマちゃんは大好きな彼の腕を肉球でキュムッと押し、床へモフワリと降ろしてもらう。
彼の手が離れていくときに、少しだけ切ない声が出てしまったが、大人なクマちゃんはこれくらいで泣いたりしない。
出来たばかりの穴を美しく整え、景色を楽しめる素敵な空間にしなくては。
きっと、動く風景画を眺めながら寛ぐことの出来る、素晴らしいお部屋になるだろう。
リオが切ない瞳でもこもこ製籠ソファの背もたれを掴み、上と両端以外が無くなった元・壁、現・少しクマっぽい形の大穴を眺めていると、悪い大人を真似る赤ちゃんクマちゃんがヨチヨチとルークから離れ、動き出してしまった。
「クマちゃんめっちゃ頑張ってんね……」
切なげな男がかすれ声で呟いているが、天才現場職人には聞こえていない。
もこもこは鞄から何かを取り出したり、クライヴに魔石を用意して貰ったり、忙しそうにもこもこしたあと、小さな黒い湿った鼻の上にキュッと皺を寄せ、肉球が付いたもこもこのお手々で真っ白な杖を振った。
半円の大穴にフワリと透ける白い布が飾られてゆく。
中央と両端に小さな蔦花がシュルシュルと巻き付き、壁を一面覆う程大きな、薄い素材のカーテンに変わった。
床に広がるほど長く、反対側が透けて見えるほど薄いカーテンの側に、本物の睡蓮で作られたような上品なランプが飾られ、真っ白な布を淡いピンク色や水色、薄紫に照らした。
両脇に垂らし、ゆったりと束ねられた、透ける紗の向こうに、ひらひらと魔法の蝶が飛ぶ。
曲線を描く薄布はまるで額縁のように、夜でも美しい輝く花畑と、色とりどりの光を映し込む鏡のような湖を、さりげなく囲っていた。
悲しい大穴は異国情緒が漂う、素敵な大窓へと変わったらしい。
ガラスも窓枠もないが、このままのほうが美しいのは間違いないだろう。
隠してしまうのが惜しいと思うほど、ユラユラ、ひらひらと動く景色が彼らの視線を惹きつける。
「――とても綺麗だね……。――確かに、窓や壁でさえぎるよりも、この紗のように繊細な布とお花で囲うほうが、クマちゃんの作ってくれた世界一美しい花畑と湖が良く見えるね。素晴らしい発想だと思うよ」
もこもこにやっかいな照明の付け方を教えたイカれ男が感動したようにため息を漏らし、安全な建物を破壊し大事な壁を一面取り払った天才現場職人兼インテリアデザイナーを称賛する。
本物の睡蓮のようなランプに照らされたヘルメットクマちゃんが、派手な南国の鳥の言葉に喜び「クマちゃ……」ともこもこのお口に両手の肉球をサッと当て、つぶらな瞳で彼を見つめた。
意外と真面目な金髪は、うっかりぼーっと眺めてしまっていた穴の向こうの美麗な景色からハッと目を離し、危険な思想を持つ者達へ、キッと視線を移す。
まるで、動く絵画のようだ――と一瞬思ったのは気のせいに違いない。
危険だ。
美しいものが大好きな過激な男と、お花や湖が大好きな、人間の常識を知らない子猫のようなクマちゃんの心が、通じ合ってしまった。
このままだとすべての建物が、常識が無く綺麗なものが大好きな奴らの拳とキノコで、ぼこぼこにされてしまう。
壁の大穴を覗いて『やったー! 向こうが良く見えるよ!』と言っている場合ではないのだ。
酒場と街を『やったー!』される前に、奴らを止めなくては。
「いや綺麗とかの前に壁なくなっちゃったじゃん」
リオは見つめ合い目で語り合うもこもことイカれ鳥に、急いで声をかけた。
「細けぇな」
しかし、彼に答えたのは、普段はほとんど喋らない魔王のような男だ。
魅惑的な低い声は、口を開くと碌なことを言わない。
かすれた勇者は孤独に戦う。
しかし細かい彼の「壁が無くなったのは全然細かくないと思うんだけど!」は、無神経な男の「カーテンがあんだろ」には勝てなかった。
普通の人間は、やはり無神経な人間には勝てないのだ。
孤独な男は揺れる薄布を見つめ――カーテンは、壁じゃない――、と思ったが、それを言っても『細けぇな』に戻るだけだ。
クマちゃんのように鼻の上に皺を寄せたリオは、すべてを諦め、美しい景色をぼーっと眺めることにした。
◇
皆がふわふわと休憩するお部屋を美しく整えたクマちゃんは、追加でお部屋のあちこちに睡蓮のランプを飾り、何故か、クッションに埋まっていたお兄ちゃんを、大丈夫ですか? と起こし、テーブルを出してもらった。
プクッとしたハートで購入しようとしたのだが、これはこの部屋にあったものらしく、無料でいいと断られた。
酒場のものと似ているが、テーブルとはみんな同じに見えるもののようだ。
うむ、これを丁度いい高さにして、皆の飲み物を置く場所にするのがいいだろう。
美しい夜景を眺めながら、ふわふわの場所で寛ぎ、美味しい飲み物を飲む。
完璧である。
リオちゃんはすごく疲れているから、最初に配ってあげなければ。
クマちゃんは魔法のキノコを肉球でキュッと握りしめた。
ヘルメットを被ったもこもこが、中央に置かれたテーブルの脚をポキュッポキュッ「クマちゃ……」と一生懸命叩く。
「めっちゃ怖いんだけど……」
リオがもこもこを警戒する。
しかし、今度は心臓に悪いことは起こらず、テーブルの脚が縮んだだけだ。
少し低くなったテーブルの下から、もこもこがヨチヨチと出てくる。
ルークが出てきたもこもこを抱え、テーブルの上に乗せた。
――ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
ぬいぐるみのようにテーブルの上に座った愛らしいもこもこが、一生懸命テーブルをポキュポキュしている。
ソファよりもやや低くなったそれは、寝転がったままでも景色を眺められるように、というもこもこの気遣いだろう。
「俺も夜景見る。ソファの位置変えたい」という、何故か悲し気な瞳の金髪に『めんどくせぇ』とも『細けぇ』とも言わず、魔法で模様替えをする魔王のような男。
忙しそうなもこもこをテーブルからさらい、魔法で天井付近まで持ち上げたクマちゃん製籠ソファを、大穴を囲い、全員が夜景を楽しめるように置き直す。
寝椅子を部屋の奥に――若干斜めに――二つ。穴の左側にも、わずかに斜めに一つ。右側に一人掛けを三つ。
そして、模様替えの終わったソファの上にポフポフ、モフモフ、とクッションが落ちてきた。
「リーダーありがとー」
不の感情が長く続かない、大抵いつも幸せな金髪は楽しそうに礼を言い、部屋の奥、大穴の右側にある寝椅子に、クッションを抱えモフッ――、と寝転がる。
「ありがとうリーダー」
ウィルはルークに笑みを向けると、リオの隣の一人掛けソファにゆったりと腰を下ろした。
シャラ――、と涼やかな音が鳴る。
クライヴは視線だけでルークに礼を伝えると、道具入れに手をかけ、誰かの命を狙う暗殺者のような格好でウィルの隣のソファに座った。
お兄さんが再びもこもこ製ソファにフワ――、と横になり、みぞおちのあたりでゆるく両手を組んだ。
景色を楽しむよりも、もこもこ製ソファで横になっていたいらしい。
ゴリラちゃんはいつの間にか、リオのソファにのっている。
ルークは再び動きたくなくなるソファへ寝転がり、自身の腹の上でもこもこを愛でていたが、彼の愛しのクマちゃんは今日は忙しいらしく、すぐにヨチヨチと降りていってしまった。
彼が視線で赤ちゃんクマちゃんを追うと、テーブルの上によじよじと登ったもこもこが、鞄をごそごそしている。
もこもこが両手で取り出したのは〈甘くておいしい牛乳・改〉だ。
ゴト……。
もこもこはテーブルにそれを置くと、幼く愛らしい声で「クマちゃん、クマちゃん」と言った。
『リオちゃん、どうぞちゃ』と。
ぼーっとテーブルの上の愛らしいもこもこと、美しいがもやもやする夜景を眺めていたリオは、ハッとして起き上がった。
もこもこが彼らのために頑張ってくれていたことに、ようやく気が付いたのだ。
ふわふわで心地の良い空間も、猫のような小さなお手々で一生懸命開けてくれた、大穴から見える美しい夜景も、たった今リオに『どうぞちゃ』と言ってくれた、甘すぎるが元気になる牛乳も、すべて、彼らのためのものだったらしい。
「――クマちゃんありがとー!!」
リオはテーブルの上のもこもこを両手でもふっと掴み、抱き上げ、硬そうなヘルメットをスポッと脱がせると、愛らしいクマちゃんの丸くて可愛い頭に頬擦りをした。
もこもこは幼く愛らしい声で「クマちゃ」とリオの名を呼び、お返しのように彼の頬にピチョッと湿った鼻をくっつける。
彼は「もーマジでクマちゃん鼻濡れてて可愛い」ともこもこを撫でまわした。
「君たちはとても仲良しだね」
ウィルは優し気な瞳で一人と一匹を眺めた。
リオは何故か、クマちゃんの行動を警戒することがある。
しかし、それはいつも無駄に終わっているようだ。
クマちゃんが悪いことをすることなど無いのだから、そんなに神経を尖らせなくても――と思うが、そういう性分なのだろう。
愛らしく心優しい、癒しのもこもこクマちゃんが、お疲れかもしれない大人達へ〈甘くておいしい牛乳・改〉を配る。
受け取った者はそれぞれ喜び、ごく一部の人間は喜びすぎて苦しんだ。
美しい夜景の見える別荘は大穴と共に完成し、天才現場職人兼インテリアデザイナークマちゃんの、高級感のある建物づくりは進んでゆく。
うむ。魔法を掛けなければいけない場所がたくさんある。
それに、完成した後で細かな修正が必要になることもあるだろう。
やはり、杖と共にキノコも使わなければ。
高級感を演出するなら、照明にもこだわりたい。
照明……。
クマちゃんはハッと気が付いた。
そうだった。簡単に大きな照明をつくる、素晴らしい方法があるのだった。
リオがクマちゃん製――気持ち良すぎて起き上がるのが嫌になる――籠ソファに横になったまま、怪しいキノコを持ったクマちゃんをじっと観察していると、もこもこはルークの体の上からヨチヨチと降り、床のクッションの海で「クマちゃ……」と溺れてしまった。
すぐに助け出そうとしたが、彼が動くよりも魔王が起き上がりクマちゃんを床からさらう方が早かった。
「え、クマちゃん外行くの?」
ルークがもこもこを抱いたまま入り口側へ移動するのを見て、リオは慌てて起き上がった。
冒険者もギルド職員も、外の巨大クッションの上にたくさん転がっているが、自分達が付いていた方が安全だ。
「ここか」
魅惑的な低音がクッションだらけの室内に響く。
ルークは外には出ず、赤地に白い水玉柄のキノコを持ったクマちゃんを壁際に降ろした。
クマちゃんがキュオ――、と寂しそうに鳴き、幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と彼に告げた。
『ヘルメットちゃ……』と。
もこもこはヘルメットが欲しいらしい。
ルークはクマちゃんの『クマちゃ……』に反応し、それだけ出して又目を閉じたお兄さんの闇色の球体へ手を突っ込み、もこもこに黄色いヘルメットを装備させている。
リオは自身の寝転がるソファの後ろで何かが行われる予感に、警戒しつつ起き上がった。
危険だ。寝ていては逃げ遅れる可能性もある。
彼はひょうたんの断面のような――それを潰し、さらに半分に切ったような形の背凭れに片腕をかけると、自身の顎をのせ、もこもこをじっと視線で追った。
ウィルとクライヴも立ち上がり、その場から見守ることにしたようだ。
ソファの上のお兄さんは仰向けで、みぞおちのあたりで両手をゆるく組み、完全に目を瞑っている。
――ゴリラちゃんがクッションの中に埋もれたままだが、それでいいのだろうか。
床に大事なキノコを置いたヘルメットクマちゃんが、ふんふんふんふんと小さな黒い湿った鼻を鳴らし、ちょっとだけ背伸びをして、後ろ足の肉球も最高に愛らしいことを彼らに見せつけながら、外に出るドアと、クマ顔型の窓の間の壁を、カリカリ、カリカリ、と引っかき出した。
リオの口から思わず「可愛い……」と悔しそうな声が漏れる。
――カリカリ、「クマちゃ……」カリカリ、「クマちゃ……」カリカリ――。
カリカリしながら何かを調べているのかもしれないが、無駄に愛らしい。
もこもこの愛らしさに弱い氷の紳士に危険が迫っている。
もこもこ調査なのかもこもこ点検なのか分からない、カリカリ――は、無事終わったらしい。
深く頷いたクマちゃんが幼く愛らしい声で「クマちゃ……」と呟き、お手々の先をくわえると、すぐにスポンサーが駆けつけた。
外見も声も視線も氷の結晶のように美しく冷たいが、心は優しい氷の紳士がもこもこの側のクッションを退かし、側に片膝を突いた。
彼はいつものように、ベルトから下げている冒険者用の道具入れから、魔石を取り出す。
しかし、クライヴがそれを床に置く前に、人間が何かを持つと必ず『それは何ですか? もしや私の物では?』と湿った鼻を突っ込んでくる猫のように、もこもこが彼の手に可愛い肉球をのせ、ふんふんふんふん、と魔石の匂いを嗅いできた。
――氷の紳士は呼吸を止め、気配を消している。
「クマちゃん氷の人苦しそうなんだけど」
珍しくリオがクライヴを心配している。
魔石の匂いか、又は別の何かに納得したらしい天才現場職人。
床からキノコを拾い上げ「クマちゃん……」と深く頷き、呼吸を止めている彼の手を、猫のようなもこもこの左手でキュムッと掴み、右手の肉球で握っている赤と白のそれで、黒革の上の魔石を、ポキュッ、と一生懸命叩き出した。
――ポキュッポキュッ、「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
室内に妙な音と可愛らしい声が響いている。
黄色いヘルメットを装備した天才現場職人は、非常に真剣な表情だ。
『クマちゃ……、頑張って……』と自分を励ましている愛らしい声からも、作業の大変さが伝わってくる。
――氷の紳士の気配が更に薄くなる。
「全然何してんのか分かんねー……」
リオには愛くるしさで氷の男の息の根を止めようとしているように見える。
目的が達成されてしまわないか、非常に心配だ。
しかし、彼が『クマちゃん一旦それ止めた方が……』とクライヴを助け出す前に、黒革に包まれた彼の手に載せられた魔石に変化があった。
複数の紺と青が複雑に混じり合うそれが、一瞬だけ透明に輝き、光の粉のようにパンッ――とはじけ、舞ったかと思うと、猫に似たお手々が持っていた不思議な音の出るキノコに、キラキラと吸収されていった。
「マジで何なのそれ」
あの獣は怪しいキノコで魔石を吸収して何をするつもりなのだろうか。
怪し過ぎる。それに、魔道具を動かすのに必須である魔石を、数度叩くだけでまるごと吸収してしまうなど、ギルドの研究員に見つかったら『クマちゃん、駄目!』と即刻取り上げられそうな危険なキノコだ。
リオの知るあのキノコが出来ることといえば、メモを取る事と、椅子の背もたれを縮ませることくらいで――と彼が考えている間に、もこもこはクライヴに次の魔石をおねだりし、ポキュポキュを再開してしまった。
――ポキュッポキュッ、「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
本もこは大変そうだが、見ている方は和んだり苦しんだりするだけの、彼らが代わってあげることもできない妙な作業が終わり、天才現場職人が動きだした。
リオは気配の薄い氷の紳士へ、スッと視線を投げる。
――生きてはいるようだ。
真面目な表情で頷き、視線をもこもこへ戻した。
先程カリカリしていた場所を今度はキノコで叩くらしい。
可愛さが余って若干憎らしいもこもこが、ちょっとだけ背伸びをして、後ろ足の肉球も最高に可愛いことを、再び彼らに見せつけている。
現場職人の大変そうな声と、おかしな音が部屋の中に響く。
――ふんふん……「クマちゃ……」ポキュッポキュッ……「クマちゃ……」ふんふん……ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ふんふん……ふんふん、ポキュッポキュッ――。
「とても大変そうだね……僕が変わってあげられたらいいのだけれど……」
南国の鳥のような男が、リオの座っている大きなソファの側へ歩いて来た。
彼の纏う装飾品が風に揺れ、シャラシャラと美しい音を奏でる。
クッションを退けるのに風の魔法を使ったらしい。
もこもこが作る飲み物や食べ物のおかげで、彼の魔法はどんどん緻密になってゆく。
フワッと舞ったクッションが、先程までルークの寝ていたソファの上に綺麗に退けられたが――いくつかお兄さんの顔の上に載ってしまった。場所が足りなかったせいだろう。
リオは急いで見なかったことにした。
南国のイカれ鳥の共犯だと思われたくない。おそらく神聖な存在であるお兄さんになんてことを――。
チャラそうな外見のわりに真面目な金髪が、若干ドキドキしながら視線を頑張るもこもこへ戻した時、それは起こった。
――ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――ドォンッ!
濃い木の色のドア、真っ白な壁と、そこから直接生えている植物、クマの形の可愛い窓。
すべてが一瞬で無くなり、壁に大穴が開いた。
「えぇ……めっちゃ穴あいたじゃん……」
リオの切なげなかすれ声が、然程大きくはない部屋から、広い花畑へと消えていった。
なんだろうか、このやるせなさと既視感は。
あの愛らしいもこもこに、壁を叩いて穴を開けることを教えた奴が憎い。
小さい子というのは、大人のすることを何でも真似してしまうものなのだ。
リオは自身の言葉遣いを棚に上げ、隣で「おや、上のほうはクマの耳の形になっているようだね。可愛いキノコで叩くだけで穴の形を芸術的に整えることができるなんて、とても不思議で興味深いよ」と感心している吞気な鳥男をキッと睨みつけた。
「すげぇな」
もこもこのやることならなんでも褒めてしまう悪い男は、初めからクマちゃんを結界で護っていたらしく、爆発に巻き込まれることも、大きな音に驚くこともなく無事だったもこもこを抱き上げ、褒められて喜ぶ可愛いもこもこを〈甘くておいしい牛乳・改〉のように甘やかしている。
クマちゃんは大好きな彼に優しく撫でてもらいながら、ハッと気が付いた。
今日はたくさん作るものがあるのだ。
ずっと彼の腕の中にいたいが、早くルーク達がゆっくりふわふわの場所で休めるように、クマちゃんが頑張らねば。
クマちゃんは大好きな彼の腕を肉球でキュムッと押し、床へモフワリと降ろしてもらう。
彼の手が離れていくときに、少しだけ切ない声が出てしまったが、大人なクマちゃんはこれくらいで泣いたりしない。
出来たばかりの穴を美しく整え、景色を楽しめる素敵な空間にしなくては。
きっと、動く風景画を眺めながら寛ぐことの出来る、素晴らしいお部屋になるだろう。
リオが切ない瞳でもこもこ製籠ソファの背もたれを掴み、上と両端以外が無くなった元・壁、現・少しクマっぽい形の大穴を眺めていると、悪い大人を真似る赤ちゃんクマちゃんがヨチヨチとルークから離れ、動き出してしまった。
「クマちゃんめっちゃ頑張ってんね……」
切なげな男がかすれ声で呟いているが、天才現場職人には聞こえていない。
もこもこは鞄から何かを取り出したり、クライヴに魔石を用意して貰ったり、忙しそうにもこもこしたあと、小さな黒い湿った鼻の上にキュッと皺を寄せ、肉球が付いたもこもこのお手々で真っ白な杖を振った。
半円の大穴にフワリと透ける白い布が飾られてゆく。
中央と両端に小さな蔦花がシュルシュルと巻き付き、壁を一面覆う程大きな、薄い素材のカーテンに変わった。
床に広がるほど長く、反対側が透けて見えるほど薄いカーテンの側に、本物の睡蓮で作られたような上品なランプが飾られ、真っ白な布を淡いピンク色や水色、薄紫に照らした。
両脇に垂らし、ゆったりと束ねられた、透ける紗の向こうに、ひらひらと魔法の蝶が飛ぶ。
曲線を描く薄布はまるで額縁のように、夜でも美しい輝く花畑と、色とりどりの光を映し込む鏡のような湖を、さりげなく囲っていた。
悲しい大穴は異国情緒が漂う、素敵な大窓へと変わったらしい。
ガラスも窓枠もないが、このままのほうが美しいのは間違いないだろう。
隠してしまうのが惜しいと思うほど、ユラユラ、ひらひらと動く景色が彼らの視線を惹きつける。
「――とても綺麗だね……。――確かに、窓や壁でさえぎるよりも、この紗のように繊細な布とお花で囲うほうが、クマちゃんの作ってくれた世界一美しい花畑と湖が良く見えるね。素晴らしい発想だと思うよ」
もこもこにやっかいな照明の付け方を教えたイカれ男が感動したようにため息を漏らし、安全な建物を破壊し大事な壁を一面取り払った天才現場職人兼インテリアデザイナーを称賛する。
本物の睡蓮のようなランプに照らされたヘルメットクマちゃんが、派手な南国の鳥の言葉に喜び「クマちゃ……」ともこもこのお口に両手の肉球をサッと当て、つぶらな瞳で彼を見つめた。
意外と真面目な金髪は、うっかりぼーっと眺めてしまっていた穴の向こうの美麗な景色からハッと目を離し、危険な思想を持つ者達へ、キッと視線を移す。
まるで、動く絵画のようだ――と一瞬思ったのは気のせいに違いない。
危険だ。
美しいものが大好きな過激な男と、お花や湖が大好きな、人間の常識を知らない子猫のようなクマちゃんの心が、通じ合ってしまった。
このままだとすべての建物が、常識が無く綺麗なものが大好きな奴らの拳とキノコで、ぼこぼこにされてしまう。
壁の大穴を覗いて『やったー! 向こうが良く見えるよ!』と言っている場合ではないのだ。
酒場と街を『やったー!』される前に、奴らを止めなくては。
「いや綺麗とかの前に壁なくなっちゃったじゃん」
リオは見つめ合い目で語り合うもこもことイカれ鳥に、急いで声をかけた。
「細けぇな」
しかし、彼に答えたのは、普段はほとんど喋らない魔王のような男だ。
魅惑的な低い声は、口を開くと碌なことを言わない。
かすれた勇者は孤独に戦う。
しかし細かい彼の「壁が無くなったのは全然細かくないと思うんだけど!」は、無神経な男の「カーテンがあんだろ」には勝てなかった。
普通の人間は、やはり無神経な人間には勝てないのだ。
孤独な男は揺れる薄布を見つめ――カーテンは、壁じゃない――、と思ったが、それを言っても『細けぇな』に戻るだけだ。
クマちゃんのように鼻の上に皺を寄せたリオは、すべてを諦め、美しい景色をぼーっと眺めることにした。
◇
皆がふわふわと休憩するお部屋を美しく整えたクマちゃんは、追加でお部屋のあちこちに睡蓮のランプを飾り、何故か、クッションに埋まっていたお兄ちゃんを、大丈夫ですか? と起こし、テーブルを出してもらった。
プクッとしたハートで購入しようとしたのだが、これはこの部屋にあったものらしく、無料でいいと断られた。
酒場のものと似ているが、テーブルとはみんな同じに見えるもののようだ。
うむ、これを丁度いい高さにして、皆の飲み物を置く場所にするのがいいだろう。
美しい夜景を眺めながら、ふわふわの場所で寛ぎ、美味しい飲み物を飲む。
完璧である。
リオちゃんはすごく疲れているから、最初に配ってあげなければ。
クマちゃんは魔法のキノコを肉球でキュッと握りしめた。
ヘルメットを被ったもこもこが、中央に置かれたテーブルの脚をポキュッポキュッ「クマちゃ……」と一生懸命叩く。
「めっちゃ怖いんだけど……」
リオがもこもこを警戒する。
しかし、今度は心臓に悪いことは起こらず、テーブルの脚が縮んだだけだ。
少し低くなったテーブルの下から、もこもこがヨチヨチと出てくる。
ルークが出てきたもこもこを抱え、テーブルの上に乗せた。
――ポキュッポキュッ「クマちゃ……」ポキュッポキュッ――。
ぬいぐるみのようにテーブルの上に座った愛らしいもこもこが、一生懸命テーブルをポキュポキュしている。
ソファよりもやや低くなったそれは、寝転がったままでも景色を眺められるように、というもこもこの気遣いだろう。
「俺も夜景見る。ソファの位置変えたい」という、何故か悲し気な瞳の金髪に『めんどくせぇ』とも『細けぇ』とも言わず、魔法で模様替えをする魔王のような男。
忙しそうなもこもこをテーブルからさらい、魔法で天井付近まで持ち上げたクマちゃん製籠ソファを、大穴を囲い、全員が夜景を楽しめるように置き直す。
寝椅子を部屋の奥に――若干斜めに――二つ。穴の左側にも、わずかに斜めに一つ。右側に一人掛けを三つ。
そして、模様替えの終わったソファの上にポフポフ、モフモフ、とクッションが落ちてきた。
「リーダーありがとー」
不の感情が長く続かない、大抵いつも幸せな金髪は楽しそうに礼を言い、部屋の奥、大穴の右側にある寝椅子に、クッションを抱えモフッ――、と寝転がる。
「ありがとうリーダー」
ウィルはルークに笑みを向けると、リオの隣の一人掛けソファにゆったりと腰を下ろした。
シャラ――、と涼やかな音が鳴る。
クライヴは視線だけでルークに礼を伝えると、道具入れに手をかけ、誰かの命を狙う暗殺者のような格好でウィルの隣のソファに座った。
お兄さんが再びもこもこ製ソファにフワ――、と横になり、みぞおちのあたりでゆるく両手を組んだ。
景色を楽しむよりも、もこもこ製ソファで横になっていたいらしい。
ゴリラちゃんはいつの間にか、リオのソファにのっている。
ルークは再び動きたくなくなるソファへ寝転がり、自身の腹の上でもこもこを愛でていたが、彼の愛しのクマちゃんは今日は忙しいらしく、すぐにヨチヨチと降りていってしまった。
彼が視線で赤ちゃんクマちゃんを追うと、テーブルの上によじよじと登ったもこもこが、鞄をごそごそしている。
もこもこが両手で取り出したのは〈甘くておいしい牛乳・改〉だ。
ゴト……。
もこもこはテーブルにそれを置くと、幼く愛らしい声で「クマちゃん、クマちゃん」と言った。
『リオちゃん、どうぞちゃ』と。
ぼーっとテーブルの上の愛らしいもこもこと、美しいがもやもやする夜景を眺めていたリオは、ハッとして起き上がった。
もこもこが彼らのために頑張ってくれていたことに、ようやく気が付いたのだ。
ふわふわで心地の良い空間も、猫のような小さなお手々で一生懸命開けてくれた、大穴から見える美しい夜景も、たった今リオに『どうぞちゃ』と言ってくれた、甘すぎるが元気になる牛乳も、すべて、彼らのためのものだったらしい。
「――クマちゃんありがとー!!」
リオはテーブルの上のもこもこを両手でもふっと掴み、抱き上げ、硬そうなヘルメットをスポッと脱がせると、愛らしいクマちゃんの丸くて可愛い頭に頬擦りをした。
もこもこは幼く愛らしい声で「クマちゃ」とリオの名を呼び、お返しのように彼の頬にピチョッと湿った鼻をくっつける。
彼は「もーマジでクマちゃん鼻濡れてて可愛い」ともこもこを撫でまわした。
「君たちはとても仲良しだね」
ウィルは優し気な瞳で一人と一匹を眺めた。
リオは何故か、クマちゃんの行動を警戒することがある。
しかし、それはいつも無駄に終わっているようだ。
クマちゃんが悪いことをすることなど無いのだから、そんなに神経を尖らせなくても――と思うが、そういう性分なのだろう。
愛らしく心優しい、癒しのもこもこクマちゃんが、お疲れかもしれない大人達へ〈甘くておいしい牛乳・改〉を配る。
受け取った者はそれぞれ喜び、ごく一部の人間は喜びすぎて苦しんだ。
美しい夜景の見える別荘は大穴と共に完成し、天才現場職人兼インテリアデザイナークマちゃんの、高級感のある建物づくりは進んでゆく。
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