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第59話 クマちゃんの兵隊さん
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ルークは興奮で体温が上昇しているクマちゃんを想い、占い師風ヴェールを外そうとしたが、まだ占い師の気分らしいもこもこがピンク色の肉球を顔の前に出し、意を示してきた。
今は結構です、という意味だ。
「俺も外したほうがいいと思うが……」
マスターも興奮中の獣クマちゃんを心配し、外したら楽になるぞと伝えるが、おしゃれにこだわる獣は、やはり可愛い肉球を見せてくる。
皆が心配するなか、高ぶる占い師クマちゃんはルークの長い指をくわえ考えていた。
仲間たちと洞窟を探す。――とても冒険をしている感じがする。
そこには罠があったりなかったり、宝箱があったりなかったりするのだろうか。
もし罠があったらクマちゃんが皆を守らなければ。
洞窟の罠とはどういうものか。実は洞窟ではなくただの穴だった、というのも罠だろうか。
大きな宝箱を開けたら中に小さなおじいさんと亀が入っていたら、それが罠だろうか。
洞窟への期待が高まり、さらに興奮するクマちゃん。
「マスター。その絵もう一回見たいんだけど」
隙間からしか空が見えないほどデカい樹に囲まれ、何か手掛かりが欲しいリオは、カードに描かれたものから情報を得ようと考えた。
「気持ちはわかるが、見てもわからんと思うぞ」
マスターが近付いてきたリオにカードを渡し、何度も確認したが洞窟の外側は描かれていないと伝える。
「リーダー。風で何か探ったり出来るのではない?」
ウィルがルークに視線を向け、長い指でヴェールをつんと引っ張り、またクマちゃんに肉球でお断りされている彼に無茶振りをする。
ルークなら出来そうだな、と思い彼に頼んだが、ウィルには風で洞窟を探すことなど出来ない。
「ああ。――――見つけた」
クマちゃんのヴェールから指を離し、ルークが了解する。
――ザッ――と辺りの葉を揺らす強い風が吹くと、すぐに何かを見つけたらしいルークが、彼の魔法に興奮するクマちゃんを宥め、歩き出す。
クライヴはクマちゃんのヴェールに熱がこもらないよう、もこもこの頭部へ時々冷たい風を送るのに忙しかった。
◇
「これ普通に探してたら絶対見つけられないやつじゃん」
リオが不満げに言うように、ルークが見つけたそれは、彼が〝洞窟〟と聞いて想像していた、崖や急斜面の側面に開いた穴とは全く違うものだった。
地面の隆起がないわけではないが、そこにある洞窟の入り口はほとんど地下へ向け開いている。
横幅約三・五メートル、縦約二メートル程のいびつな、大地が口を開いたような穴は、蔦や樹の根、背の高い植物が複雑に絡み合う天然の網で隠され、うっかり人が乗っても壊れそうにない。
近くに洞窟があるから探そうと言われない限り、大人が飛び跳ねても壊れない頑丈な植物の網と、その下の穴には、一部の人間以外は気が付かないだろう。
――まずはこの洞窟らしき穴に入れるように、植物を退ける必要がある。
ルークが見つけてくれた洞窟の入り口に大興奮のクマちゃんは考えた。
この入り口をどうにかするのは、クマちゃんにも出来る気がする。ずっとくわえていても飽きが来ない、ルークの魅惑の指から口を離し、彼を見つめ、うむ、と頷く。
クマちゃんの理解者ルークは、足場を作るため、問題の場所の手前の草を魔法で刈り取り吹き飛ばす。
そして可愛いもこもこの願い通り、ポフ、と比較的平らな場所にもこもこを降ろし、リュックから出した杖を肉球のついたお手々に持たせ、クライヴに視線で要求する。
すると、もこもこの頭を適温に保つという重大な任務を遂行していたクライヴが、ルークからの要求に応え、持ち歩いていた〈クマちゃんの魔石袋〉を開き、杖を持つクマちゃんの横へ置く。
うむ、と頷いたクマちゃんは、クライヴが開いてくれた袋の中にもこもこのお手々を入れ、洞窟の入り口を覆い隠す植物の網の上へ三つ、魔石を置いていった。
素晴らしい連携でクマちゃんのお世話をする二人のおかげで準備は無事整った。
ふんふんと息の荒いクマちゃんが、いつものように小さな黒い湿った鼻に、キュッと力を入れて杖を振る。
ミシ、ミシ、と音を立て植物は意思を持ったように動き始めた。
蔦や根に隠されていた洞窟の入り口が、徐々に姿を現す。
動く植物達はまるで入り口を飾るように、根はそこを補強するように這い、何かの蕾をつけた蔦がスルスルと、大地に開いた穴を取り囲んでいく。
綺麗に整えられていく洞窟は、最後の仕上げとでもいうように、蔦の蕾がフワリと開き、入り口が真っ白な光る花で可愛らしく装飾された。
「すげーけど、なんかすごい可愛くなったんだけど」
リオの目の前で、不気味に大地に開いていたただの穴だったものが、子供の絵本に出てきそうな、可愛らしい洞窟に変わった。
入り口を囲う白い花が、ポワ、ポワ、と光を浮かべている。
なんというか、可愛らしい。
いかつい冒険者達が入る洞窟には見えない。
「とても愛らしい洞窟だね。先程の薄暗い穴よりずっといいのではない?」
当然、美しいものが好きなウィルには好評である。薄暗い洞窟よりも光る花で飾られた洞窟のほうが美しい。
「ああ。いいんじゃねぇか」
全く可愛い物が似合わない森の魔王のような男が、低く魅惑的な声で、可愛くなってしまった洞窟を褒める。
ルークはクライヴに〈クマちゃんの魔石袋〉を返し、お仕事を終えた植物使いクマちゃんを抱き上げ、ヴェールを、ス、と引こうとし、やはり肉球で断れらた。
いつもの生暖かいもこもこよりも体温が高いが、ヴェールはそのままでいいらしい。
「確かに可愛いが……さっきよりはずっといいだろ。ありがとうな」
クマちゃんの作るものの批判などしないマスターは、当然可愛らしい洞窟を褒める。
「素晴らしい」
再びクマちゃんのもこもこの頭を適温に保つ任務に戻ったクライヴも、時々冷気を送りつつ、絵本に出てきそうな洞窟を称賛した。
マスターが光の魔法――火以外であれば属性は何でも良い――を打ち上げ、他の場所で洞窟を探していた冒険者達に合図を送る。
集合した冒険者とルーク達は、クマちゃんが可愛らしく装飾した洞窟の探索を開始した。
傾斜のきつい入り口から、地下へ進むように中へと入る。
「なんか思ったより暗くない」
クマちゃんの光るお花の蔦が洞窟の奥まで張り巡らされたおかげで、というのも勿論あるが、ところどころ天井から木漏れ日のように光が漏れている。
地面にはやわらかな苔が生え、上を歩くとふかふかとして、まるで絨毯のようだ。
壁には苔や蔦、植物の根や葉、クマちゃんの白くて光る花、どこからか伝ってくる透明な水、茶色の部分よりも緑の方が多いかもしれない。
植物のトンネル、薄暗い通路に天井から漏れる光、濃い緑と土の匂い、チョロチョロと聞こえる水の音。
「洞窟というよりも幻想的な緑のトンネルという感じだね。こういう場所は嫌いじゃないよ」
大雑把なウィルはドロドロした洞窟でも必要なら普通に通るが、美しい洞窟があるならそちらのほうがいい。
洞窟初体験のクマちゃんは、喜びで体温が更に上昇している。
ルークの腕の中でふんふんと彼の指をくわえ考えた。
冒険と言うなら探検隊だろう。クマちゃんはルークの目を見て、うむ、と頷いた。
クマちゃんはいいものを持っていますよ、という意味だ。
ふかふかの苔の絨毯の上に、もふ、と降ろしてもらったクマちゃんは、ルークが目の前で開いてくれたリュックの中からそれを取り出す。
「なにそれ。どこでそんなもん手に入れたの」
クマちゃんが地面に並べたそれらを見てリオが言う。
もこもこの可愛いお手々が、苔の絨毯の上に並べた物。それは木製の玩具の人形で、兵隊さんのような恰好をしている。
そして何故かクマっぽい。クマの兵隊さんである。
武器はもっていないが、お揃いの兵隊風の赤い服、白いズボン、黒いブーツという配色だ。小さい黒い帽子も被っている。
身長は十センチくらいだろうか。
クマちゃんがそれを五つ程並べ、クライヴに魔石を五つ貰い、リュックから杖を取り出すと、小さな黒い鼻の上にキュッと皺をよせ、杖を振った。
まるで命を吹き込まれたように起き上がるクマの兵隊さん達。
そして――彼らはそのまま洞窟の奥へと走り去った。
「…………クマちゃん。兵隊さんどっか行っちゃったみたいだけどいいの?」
リオにはクマちゃんが特に指示を出しているようには見えなかったのだが、あれで問題ないのだろうか。
質問の答えを聞こうと、リオがクマちゃんに視線を向けると、もこもこが苔の上で丸くなっている。可愛い丸い尻尾ともこもこの丸い背中に哀愁が漂う。
やはり、本当は兵隊さんごっこがしたかったのだろう。
やつらが言うことを聞くのか怪しいところだが。
「そのうち戻ってくんだろ」
こまけぇことを気にしない男ルークが、可愛らしく丸くなってしまったクマちゃんを苔の上から掬い上げ、慰めるように撫でる。
森の魔王ルークの基準では、配下が勝手にどこかへ行っても生きているなら問題ないらしい。
「……そうだな、どっかにはいるだろ」
マスターも慰めるように声を掛けるが、このとんでもなく広い森で、身長が十センチの生き物と逸れた場合、何もせずに見つけられるとも思えない。
迂闊なことは言えなかった。
ルークに抱っこされ、慰められているクマちゃんはハッとなった。
こんなことをしている場合ではない。
罠と宝箱を見つけなければ。
キリリとしたクマちゃんは、再び飽きの来ないルークの魅惑の指をくわえ、可愛いもこもこのお手々で洞窟の奥を示した。
「あ、もういいんだ。――じゃあ俺先頭歩くね」
可愛いクマちゃんの口元が、もふ、と膨らんだのを見たリオは、やる気になったもこもこに安堵する。
クマの兵隊さんに逃げられたクマちゃんだったが、優しい仲間達との冒険は問題なく進む。
輝く金髪がまぶしいリオを先頭に、彼らは再び洞窟の奥を目指す――。
今は結構です、という意味だ。
「俺も外したほうがいいと思うが……」
マスターも興奮中の獣クマちゃんを心配し、外したら楽になるぞと伝えるが、おしゃれにこだわる獣は、やはり可愛い肉球を見せてくる。
皆が心配するなか、高ぶる占い師クマちゃんはルークの長い指をくわえ考えていた。
仲間たちと洞窟を探す。――とても冒険をしている感じがする。
そこには罠があったりなかったり、宝箱があったりなかったりするのだろうか。
もし罠があったらクマちゃんが皆を守らなければ。
洞窟の罠とはどういうものか。実は洞窟ではなくただの穴だった、というのも罠だろうか。
大きな宝箱を開けたら中に小さなおじいさんと亀が入っていたら、それが罠だろうか。
洞窟への期待が高まり、さらに興奮するクマちゃん。
「マスター。その絵もう一回見たいんだけど」
隙間からしか空が見えないほどデカい樹に囲まれ、何か手掛かりが欲しいリオは、カードに描かれたものから情報を得ようと考えた。
「気持ちはわかるが、見てもわからんと思うぞ」
マスターが近付いてきたリオにカードを渡し、何度も確認したが洞窟の外側は描かれていないと伝える。
「リーダー。風で何か探ったり出来るのではない?」
ウィルがルークに視線を向け、長い指でヴェールをつんと引っ張り、またクマちゃんに肉球でお断りされている彼に無茶振りをする。
ルークなら出来そうだな、と思い彼に頼んだが、ウィルには風で洞窟を探すことなど出来ない。
「ああ。――――見つけた」
クマちゃんのヴェールから指を離し、ルークが了解する。
――ザッ――と辺りの葉を揺らす強い風が吹くと、すぐに何かを見つけたらしいルークが、彼の魔法に興奮するクマちゃんを宥め、歩き出す。
クライヴはクマちゃんのヴェールに熱がこもらないよう、もこもこの頭部へ時々冷たい風を送るのに忙しかった。
◇
「これ普通に探してたら絶対見つけられないやつじゃん」
リオが不満げに言うように、ルークが見つけたそれは、彼が〝洞窟〟と聞いて想像していた、崖や急斜面の側面に開いた穴とは全く違うものだった。
地面の隆起がないわけではないが、そこにある洞窟の入り口はほとんど地下へ向け開いている。
横幅約三・五メートル、縦約二メートル程のいびつな、大地が口を開いたような穴は、蔦や樹の根、背の高い植物が複雑に絡み合う天然の網で隠され、うっかり人が乗っても壊れそうにない。
近くに洞窟があるから探そうと言われない限り、大人が飛び跳ねても壊れない頑丈な植物の網と、その下の穴には、一部の人間以外は気が付かないだろう。
――まずはこの洞窟らしき穴に入れるように、植物を退ける必要がある。
ルークが見つけてくれた洞窟の入り口に大興奮のクマちゃんは考えた。
この入り口をどうにかするのは、クマちゃんにも出来る気がする。ずっとくわえていても飽きが来ない、ルークの魅惑の指から口を離し、彼を見つめ、うむ、と頷く。
クマちゃんの理解者ルークは、足場を作るため、問題の場所の手前の草を魔法で刈り取り吹き飛ばす。
そして可愛いもこもこの願い通り、ポフ、と比較的平らな場所にもこもこを降ろし、リュックから出した杖を肉球のついたお手々に持たせ、クライヴに視線で要求する。
すると、もこもこの頭を適温に保つという重大な任務を遂行していたクライヴが、ルークからの要求に応え、持ち歩いていた〈クマちゃんの魔石袋〉を開き、杖を持つクマちゃんの横へ置く。
うむ、と頷いたクマちゃんは、クライヴが開いてくれた袋の中にもこもこのお手々を入れ、洞窟の入り口を覆い隠す植物の網の上へ三つ、魔石を置いていった。
素晴らしい連携でクマちゃんのお世話をする二人のおかげで準備は無事整った。
ふんふんと息の荒いクマちゃんが、いつものように小さな黒い湿った鼻に、キュッと力を入れて杖を振る。
ミシ、ミシ、と音を立て植物は意思を持ったように動き始めた。
蔦や根に隠されていた洞窟の入り口が、徐々に姿を現す。
動く植物達はまるで入り口を飾るように、根はそこを補強するように這い、何かの蕾をつけた蔦がスルスルと、大地に開いた穴を取り囲んでいく。
綺麗に整えられていく洞窟は、最後の仕上げとでもいうように、蔦の蕾がフワリと開き、入り口が真っ白な光る花で可愛らしく装飾された。
「すげーけど、なんかすごい可愛くなったんだけど」
リオの目の前で、不気味に大地に開いていたただの穴だったものが、子供の絵本に出てきそうな、可愛らしい洞窟に変わった。
入り口を囲う白い花が、ポワ、ポワ、と光を浮かべている。
なんというか、可愛らしい。
いかつい冒険者達が入る洞窟には見えない。
「とても愛らしい洞窟だね。先程の薄暗い穴よりずっといいのではない?」
当然、美しいものが好きなウィルには好評である。薄暗い洞窟よりも光る花で飾られた洞窟のほうが美しい。
「ああ。いいんじゃねぇか」
全く可愛い物が似合わない森の魔王のような男が、低く魅惑的な声で、可愛くなってしまった洞窟を褒める。
ルークはクライヴに〈クマちゃんの魔石袋〉を返し、お仕事を終えた植物使いクマちゃんを抱き上げ、ヴェールを、ス、と引こうとし、やはり肉球で断れらた。
いつもの生暖かいもこもこよりも体温が高いが、ヴェールはそのままでいいらしい。
「確かに可愛いが……さっきよりはずっといいだろ。ありがとうな」
クマちゃんの作るものの批判などしないマスターは、当然可愛らしい洞窟を褒める。
「素晴らしい」
再びクマちゃんのもこもこの頭を適温に保つ任務に戻ったクライヴも、時々冷気を送りつつ、絵本に出てきそうな洞窟を称賛した。
マスターが光の魔法――火以外であれば属性は何でも良い――を打ち上げ、他の場所で洞窟を探していた冒険者達に合図を送る。
集合した冒険者とルーク達は、クマちゃんが可愛らしく装飾した洞窟の探索を開始した。
傾斜のきつい入り口から、地下へ進むように中へと入る。
「なんか思ったより暗くない」
クマちゃんの光るお花の蔦が洞窟の奥まで張り巡らされたおかげで、というのも勿論あるが、ところどころ天井から木漏れ日のように光が漏れている。
地面にはやわらかな苔が生え、上を歩くとふかふかとして、まるで絨毯のようだ。
壁には苔や蔦、植物の根や葉、クマちゃんの白くて光る花、どこからか伝ってくる透明な水、茶色の部分よりも緑の方が多いかもしれない。
植物のトンネル、薄暗い通路に天井から漏れる光、濃い緑と土の匂い、チョロチョロと聞こえる水の音。
「洞窟というよりも幻想的な緑のトンネルという感じだね。こういう場所は嫌いじゃないよ」
大雑把なウィルはドロドロした洞窟でも必要なら普通に通るが、美しい洞窟があるならそちらのほうがいい。
洞窟初体験のクマちゃんは、喜びで体温が更に上昇している。
ルークの腕の中でふんふんと彼の指をくわえ考えた。
冒険と言うなら探検隊だろう。クマちゃんはルークの目を見て、うむ、と頷いた。
クマちゃんはいいものを持っていますよ、という意味だ。
ふかふかの苔の絨毯の上に、もふ、と降ろしてもらったクマちゃんは、ルークが目の前で開いてくれたリュックの中からそれを取り出す。
「なにそれ。どこでそんなもん手に入れたの」
クマちゃんが地面に並べたそれらを見てリオが言う。
もこもこの可愛いお手々が、苔の絨毯の上に並べた物。それは木製の玩具の人形で、兵隊さんのような恰好をしている。
そして何故かクマっぽい。クマの兵隊さんである。
武器はもっていないが、お揃いの兵隊風の赤い服、白いズボン、黒いブーツという配色だ。小さい黒い帽子も被っている。
身長は十センチくらいだろうか。
クマちゃんがそれを五つ程並べ、クライヴに魔石を五つ貰い、リュックから杖を取り出すと、小さな黒い鼻の上にキュッと皺をよせ、杖を振った。
まるで命を吹き込まれたように起き上がるクマの兵隊さん達。
そして――彼らはそのまま洞窟の奥へと走り去った。
「…………クマちゃん。兵隊さんどっか行っちゃったみたいだけどいいの?」
リオにはクマちゃんが特に指示を出しているようには見えなかったのだが、あれで問題ないのだろうか。
質問の答えを聞こうと、リオがクマちゃんに視線を向けると、もこもこが苔の上で丸くなっている。可愛い丸い尻尾ともこもこの丸い背中に哀愁が漂う。
やはり、本当は兵隊さんごっこがしたかったのだろう。
やつらが言うことを聞くのか怪しいところだが。
「そのうち戻ってくんだろ」
こまけぇことを気にしない男ルークが、可愛らしく丸くなってしまったクマちゃんを苔の上から掬い上げ、慰めるように撫でる。
森の魔王ルークの基準では、配下が勝手にどこかへ行っても生きているなら問題ないらしい。
「……そうだな、どっかにはいるだろ」
マスターも慰めるように声を掛けるが、このとんでもなく広い森で、身長が十センチの生き物と逸れた場合、何もせずに見つけられるとも思えない。
迂闊なことは言えなかった。
ルークに抱っこされ、慰められているクマちゃんはハッとなった。
こんなことをしている場合ではない。
罠と宝箱を見つけなければ。
キリリとしたクマちゃんは、再び飽きの来ないルークの魅惑の指をくわえ、可愛いもこもこのお手々で洞窟の奥を示した。
「あ、もういいんだ。――じゃあ俺先頭歩くね」
可愛いクマちゃんの口元が、もふ、と膨らんだのを見たリオは、やる気になったもこもこに安堵する。
クマの兵隊さんに逃げられたクマちゃんだったが、優しい仲間達との冒険は問題なく進む。
輝く金髪がまぶしいリオを先頭に、彼らは再び洞窟の奥を目指す――。
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