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第14話 まさかのトラブル! 頼りになりすぎるイケメン。
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「俺さぁ。虫取りってしたことないんだよね。なんていうかさぁ。虫ってこわくない?」
『夏休みの小学生にふさわしい格好をしたふわふわ茶髪のベッカムくん』が、自分の格好を裏切るような発言をする。
「カブトムシの何がこえーんだよ」
「虫によりますねぇ……。ベッカムくん。その格好あんまり似合わないですね」
私は虫も怖がるベッカムくんを眺めて正直な感想を告げた。
首から下げた緑色の虫カゴと右手の虫取り網は、ダルそうなイケメンとまったく合っていなかった。
高い身長。たぶん染めている髪。もしかするとパーマかもしれないゆるふわウェーブ。イケメンが過ぎる顔。
どれをとっても元気にカブトムシを探しにいく少年には見えない。
「え、そうでもなくない? ほら、俺なんでも似合っちゃうから」と本人は否定している。
首にタオルをかけたミィちゃんの手には虫よけスプレー。
私も首にタオルを巻き、デイジーちゃんが用意してくれた水色の虫カゴと虫取り網を装備している。
三人で目的地へ向かいながら、デイジーちゃんとのやりとりを思い出す。
『たまには若いもんらしい遊びでもしておいで!』と絶対に私達よりも元気なデイジーちゃんにすすめられた私達は、そこら中にいそうなカブトムシを『子供の遊び場っていやぁあそこの森がいいだろうね!』と指定された場所まで探しに行くことになったのだ。
お祭りの準備で忙しいはずなのに、私達のためにご飯を炊いておいてくれたり、私達がつくれそうなおかずを考えておいてくれたり、明るくて優しいデイジーちゃんの企画してくれたイベントを断るなんてできない。
つまり私には『虫取りはちょっと……』という選択肢はなかった。取るかどうかは別として、森に行かないという選択肢は。
虫が大好きというわけでもなさそうなミィちゃんも。虫が怖いベッカムくんも。
このとき私達の気持ちはみんな同じだった。
◇
ミーンというには色々な音が重なりすぎている複雑な蝉の声。
枯れた葉と元気な草が混じり合う土の匂い。木漏れ日が緑と茶色の地面をきらきらと照らしている。
それは確かに、子供の遊び場にちょうどいい、ほとんど樹の密集していない人の手がはいった森だった。
「あ、ベッカムくん。あそこにクワガタちゃんがいますよ」
私は樹を見上げ、分かりやすく指をさした。ほら、あそこですー。
「……あれは狂暴そうだからダメだね。もっと穏やかそうなやつにしよ」
ベッカムくんがさっと私の指している場所を見上げ、すぐに目をそらす。
「うーん? そうですかねぇ。でも、襲われたわけじゃないのに捕まえたらかわいそうですね」
あのクワガタは私達を見ても武器をふりかざしてこなかった。
三人がかりで捕まえるのは良くないだろう。
ミィちゃんはどちらでもいいらしく「あちぃ……」と言いながら腕で汗をぬぐっている。
タオルは使わないのかな。
土で出来た道路をはなれ、木漏れ日のなかをどんどん奥に進んでいると、コツ――と頭に何かが降ってきた。
虫では? 直感的に思った私は本能のまま、犬のようにぶるぶるぶる! と頭を振った。
「え、なに、何事?! 待って待って、あんまり勢いよくあたま振るのよくないと思うよ」
ベッカムくんが驚いたように私を見て、腕をつかんだ。
ミィちゃんが両手でガシ、と私の頭をはさみ、顔を自分の方へ向ける。
「神那」
「ひぇ……」
うっかり変な声がでてしまった。イケボすぎる! それに初めて名前を呼ばれた気がするし、大きな手に顔を固定されているし、目の前には真剣な顔のイケメン。でも今はそれどころではないのだ。
「頭に虫が落ちてきて……」
「それはやばいマジでやばい。俺なら『ギャー!』って叫んでる」
ベッカムくんはその悲劇を想像してしまったみたいに「気絶するかも」と言った。
「虫……?」
ミィちゃんはチラリと私を頭を見て、難しいことを考えているイケメンの顔で「見てやるから頭は振るな」と注意した。
「…………」
私も真剣な顔でこくりと頷いた。森には刺したり体に入り込んだりする虫がいるっておばあちゃんが言ってた。謎の虫を放置するのは危険なのだ。
頭、ポニーテール、顔の左右。タオルを外して首の後ろ。ミィちゃんは私をくるりと回し、危険がひそんでいないことを丁寧に確認してくれた。
よかった。何もいなかったみたい。
ミィちゃんはタオルも念入りに調べたあと、それをベッカムくんに渡した。
二人の目で見たほうが確実であるということらしい。さすが『完璧主義者』っぽいミィちゃん。
虫が怖いベッカムくんも、ヤバい死ぬ、でも虫って虫嫌いの前に現れるんだよね……と言いながらタオルをチェックしてくれている。なんだか申し訳ない。
「ミィちゃん、ベッカムくん、ありがとうございます」
「ああ。いったん戻るぞ」
「うんうん。俺らは虫をナメ過ぎだったよね。わざわざ取ろうとするから狙われるんだって」
勉強になりましたねぇ。
そうかもな。
そもそもさぁ。俺カブトムシとってもどうすればいいのか分かんないからね。デイジーちゃんには『虫取りよりも大切なことを学んだ』って伝えておくわ。
そんなことを話しながら、森から出ようとしていたときだった。
「わぁ!」思わず叫ぶ。足元の土がずるりとすべって体がふわっと……落とし穴?!
「はぁ?!」「神那!」ふたり同時に声をあげ、ベッカムくんとミィちゃんが私の手をグイ! とつかんで引き上げる。だめ! 穴が横にも!
「くそ!」「チッ!」ベッカムくんのあせる声。ミィちゃんの舌打ち。土が顔にぶつかり、目をつぶる私を誰かがギュッと抱え込む。
ズザァ――!
かたい胸に顔を押し付け、悲鳴をこらえた。
そうして私達は、まるでウォータースライダーで流されるみたいに抵抗もできず、斜めに掘られた穴の底まで滑り落ちてしまった。
『夏休みの小学生にふさわしい格好をしたふわふわ茶髪のベッカムくん』が、自分の格好を裏切るような発言をする。
「カブトムシの何がこえーんだよ」
「虫によりますねぇ……。ベッカムくん。その格好あんまり似合わないですね」
私は虫も怖がるベッカムくんを眺めて正直な感想を告げた。
首から下げた緑色の虫カゴと右手の虫取り網は、ダルそうなイケメンとまったく合っていなかった。
高い身長。たぶん染めている髪。もしかするとパーマかもしれないゆるふわウェーブ。イケメンが過ぎる顔。
どれをとっても元気にカブトムシを探しにいく少年には見えない。
「え、そうでもなくない? ほら、俺なんでも似合っちゃうから」と本人は否定している。
首にタオルをかけたミィちゃんの手には虫よけスプレー。
私も首にタオルを巻き、デイジーちゃんが用意してくれた水色の虫カゴと虫取り網を装備している。
三人で目的地へ向かいながら、デイジーちゃんとのやりとりを思い出す。
『たまには若いもんらしい遊びでもしておいで!』と絶対に私達よりも元気なデイジーちゃんにすすめられた私達は、そこら中にいそうなカブトムシを『子供の遊び場っていやぁあそこの森がいいだろうね!』と指定された場所まで探しに行くことになったのだ。
お祭りの準備で忙しいはずなのに、私達のためにご飯を炊いておいてくれたり、私達がつくれそうなおかずを考えておいてくれたり、明るくて優しいデイジーちゃんの企画してくれたイベントを断るなんてできない。
つまり私には『虫取りはちょっと……』という選択肢はなかった。取るかどうかは別として、森に行かないという選択肢は。
虫が大好きというわけでもなさそうなミィちゃんも。虫が怖いベッカムくんも。
このとき私達の気持ちはみんな同じだった。
◇
ミーンというには色々な音が重なりすぎている複雑な蝉の声。
枯れた葉と元気な草が混じり合う土の匂い。木漏れ日が緑と茶色の地面をきらきらと照らしている。
それは確かに、子供の遊び場にちょうどいい、ほとんど樹の密集していない人の手がはいった森だった。
「あ、ベッカムくん。あそこにクワガタちゃんがいますよ」
私は樹を見上げ、分かりやすく指をさした。ほら、あそこですー。
「……あれは狂暴そうだからダメだね。もっと穏やかそうなやつにしよ」
ベッカムくんがさっと私の指している場所を見上げ、すぐに目をそらす。
「うーん? そうですかねぇ。でも、襲われたわけじゃないのに捕まえたらかわいそうですね」
あのクワガタは私達を見ても武器をふりかざしてこなかった。
三人がかりで捕まえるのは良くないだろう。
ミィちゃんはどちらでもいいらしく「あちぃ……」と言いながら腕で汗をぬぐっている。
タオルは使わないのかな。
土で出来た道路をはなれ、木漏れ日のなかをどんどん奥に進んでいると、コツ――と頭に何かが降ってきた。
虫では? 直感的に思った私は本能のまま、犬のようにぶるぶるぶる! と頭を振った。
「え、なに、何事?! 待って待って、あんまり勢いよくあたま振るのよくないと思うよ」
ベッカムくんが驚いたように私を見て、腕をつかんだ。
ミィちゃんが両手でガシ、と私の頭をはさみ、顔を自分の方へ向ける。
「神那」
「ひぇ……」
うっかり変な声がでてしまった。イケボすぎる! それに初めて名前を呼ばれた気がするし、大きな手に顔を固定されているし、目の前には真剣な顔のイケメン。でも今はそれどころではないのだ。
「頭に虫が落ちてきて……」
「それはやばいマジでやばい。俺なら『ギャー!』って叫んでる」
ベッカムくんはその悲劇を想像してしまったみたいに「気絶するかも」と言った。
「虫……?」
ミィちゃんはチラリと私を頭を見て、難しいことを考えているイケメンの顔で「見てやるから頭は振るな」と注意した。
「…………」
私も真剣な顔でこくりと頷いた。森には刺したり体に入り込んだりする虫がいるっておばあちゃんが言ってた。謎の虫を放置するのは危険なのだ。
頭、ポニーテール、顔の左右。タオルを外して首の後ろ。ミィちゃんは私をくるりと回し、危険がひそんでいないことを丁寧に確認してくれた。
よかった。何もいなかったみたい。
ミィちゃんはタオルも念入りに調べたあと、それをベッカムくんに渡した。
二人の目で見たほうが確実であるということらしい。さすが『完璧主義者』っぽいミィちゃん。
虫が怖いベッカムくんも、ヤバい死ぬ、でも虫って虫嫌いの前に現れるんだよね……と言いながらタオルをチェックしてくれている。なんだか申し訳ない。
「ミィちゃん、ベッカムくん、ありがとうございます」
「ああ。いったん戻るぞ」
「うんうん。俺らは虫をナメ過ぎだったよね。わざわざ取ろうとするから狙われるんだって」
勉強になりましたねぇ。
そうかもな。
そもそもさぁ。俺カブトムシとってもどうすればいいのか分かんないからね。デイジーちゃんには『虫取りよりも大切なことを学んだ』って伝えておくわ。
そんなことを話しながら、森から出ようとしていたときだった。
「わぁ!」思わず叫ぶ。足元の土がずるりとすべって体がふわっと……落とし穴?!
「はぁ?!」「神那!」ふたり同時に声をあげ、ベッカムくんとミィちゃんが私の手をグイ! とつかんで引き上げる。だめ! 穴が横にも!
「くそ!」「チッ!」ベッカムくんのあせる声。ミィちゃんの舌打ち。土が顔にぶつかり、目をつぶる私を誰かがギュッと抱え込む。
ズザァ――!
かたい胸に顔を押し付け、悲鳴をこらえた。
そうして私達は、まるでウォータースライダーで流されるみたいに抵抗もできず、斜めに掘られた穴の底まで滑り落ちてしまった。
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