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第9話 洞窟の先には。

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 ぶーぶーと文句もんくを言うベッカムくんに「ベッカムくん。やっぱり田舎ってすごいですね。滝の横にかくされた洞窟どうくつなんて、すごく異世界っぽくないですか?」私がいうと、ベッカムくんはむずかしい顔をした。

「えー。そうかもしれないけどさぁ。やっぱりちょっと」

「そうですよねぇ」

 洞窟を発見した興奮のせいか、ちょっとかぶせ気味に相槌あいづちを打ってしまった。何か言いかけていたような。
 振り返ろうとしたけれど、ガサガサとつた退かそうとしていたミィちゃんが、ブチッ! と少々自然破壊をしてしまった音が気になり、視線を彼の手元に戻した。

 ミィちゃんの手からぱらり――と葉っぱが落ちる。
 なかなかいい音がしたが、思ったより被害ひがいは少なかったようだ。
 
「あんまりひっぱたら蔦がかわいそうですね。このまま無理やりくぐりぬけましょう」

「そうだな」

「かわいそうだって思うならほっといてやんなよ」

 田舎探検隊の意見が割れた。しかし、私たちは多数決で勝ったので、冒険を続行する。
 私はせまい所をすり抜ける猫を意識しながら、ガサリ――と吸い込まれるように蔦のカーテンをくぐった。

「あ、やっぱり涼しい。すごい……。私、いま異世界の洞窟にいます」

 感動を伝えるべく、蔦の向こうで暑い思いをしている彼らに洞窟内の様子、というより私の気持ちを語ってみた。

「田中カンナの声がちょっと反響はんきょうしてるような気がしなくもない。崖の中から声がするとかすげー怖いよね」

邪魔じゃま

 ダルそうな声がして、ガサガサ――と洞窟内に入ってきたのは、やっぱりミィちゃんだった。
 りょうもとめて来たようだ。邪魔と言われたベッカムくんが、俺のあつかいがひどい。謝罪しゃざいを要求すると、向こうの世界で抗議こうぎしている。

「あちぃ……」

 薄暗うすぐらい洞窟内には、つややかな黒髪をうっとうしそうに片手でかき上げるイケメン。
 超イケメンなミィちゃんにものすごく似合っているけれど、めていないのは絶対に面倒めんどうだからだ。

「いや残されると逆に怖いじゃん」ふわふわ茶髪のイケメンもすぐに入ってきた。
 言うほど怖がっているように見えない。
 ダルそうで緊張感きんちょうかんがないせいかな。

洞窟どうくつっていうか、あれだよね。トンネル? 隙間すきま?」

「どんどん格下かくさげするのやめてください。それより、せっかくなのであっちに行ってみましょう。洞窟よりもっと異世界かもしれません」

 夢のないことをいう冷めたイケメンなんて、冒険には必要ないのだ。
 私は先頭に立ち、涼しい洞窟をすたすたと歩いた。岩の表面が水に濡れて黒く見える。
 苔は生えていないみたい。向こうまでの距離きょりは五メートルくらいかな? もっとあるかもしれない。見ただけじゃ全然分からないけれど。


 植物をかき分け、通り抜けた先は、鳥肌とりはだが立つほどの緑。岩も、みきも、つたこけもれた、緑のかべがそびえる巨大な穴のそこ。流れのない水がしん――とまっている。
 生れてはじめて見た神秘的しんぴてきで、どこか不気味ぶきみな光景に、おそれを感じているのか、興奮こうふんしているのか、自分でも判断はんだんがつかない。ただどうしようもなくきつけられ、目がはなせなかった。


「田中カンナ、急に静かになって不気味なんだけど。なんか怖いもんでもあった?」

 ふと、夢から覚めたみたいに彼の声が耳に入ってきた。
 ベッカムくんの声だ。自分から怖がりだと申告しんこくしていたくせに、心配してくれているらしい。
 ついでに失礼なことも言われたような。

「えっと、怖く……はないと思うんですけど。感動してだまっちゃいました。自然ってすごいですね」

「いまちょっと間があったよね」

 といいつつ、ベッカムくんも気になるらしい。私は二人の邪魔をしないように、横にけた。 
 
「うわ……何ここ。自然こえー。何かやばいもん出てきそう。沼のヌシとか。夜だったら『ギャー!』って言っちゃうレベルで不気味」

「すげぇっつーよりウルセェ」

 じっくりと堪能たんのうしてほしい、そして一緒に冒険した彼らに同じ感動を味わってもらいたい。
 私の純粋じゅんすいな願いは、うるさいベッカムくんのせいで粉々にくだった。
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