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第1話 カンナとおばあちゃん。突然のむちゃぶり。
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「そういえばねぇ、神那ちゃん。この近所に鈴木さんているでしょう?」
台所から麦茶を持ってきてくれたおばあちゃんがそう言って、私に聞いてくる。
正直なところ『いや知らんけども』という感じだ。
でもそのまま言うのはなんとなく、ぐあいが良くない。私は殊勝な態度で「うん。凄いいるね」と答えた。
「それでねぇ、ちょうど『ミィちゃん』が帰って来てるんだって」
大変だ。『わたくし、ここら辺の鈴木さんのことなら大体知っていますよ、ええ』みたいに答えたせいだろう。おばあちゃんの話が良くない方向へ進んでいる気がする。
『カンナそういうところだよ』愛里亜ちゃんの可愛い声を思い出す。
だからといって、いまさらおばあちゃんに『いや知らんけども』と言うわけにも。引っ込みがつかないってこういうときに使う言葉なのかな。
「おばあちゃん麦茶ありがとう」感謝を伝えるのはだいじ。冷たいそれに口をつけながら、またひとつ、どうしようもない答えを返す。
「そうなんだぁ」
「そうそう。それでねぇ、デイジーちゃんに『あら、実はカンナちゃんも帰って来てるのよ』って話したらね」
聞き逃しにくい。とつぜんのデイジーちゃん。かわいい。頭に白い花がよぎる。
『誰やねん』の使用に制限時間はあるのか。ん? それよりも、これは情報漏洩というやつでは。
こういうとき、ビシッ! とツッコめる人になりたかったな。
「『そらぁちょうどいい。若いもんは若いもん同士で遊ぶのが一番よ。さっさとおいでってカンナに伝えとくれ!』ってねぇ」
デイジーちゃん強そう。『いえ、遠慮します』
言ったらどうなるんだろう。『ハイかイエスで答えな!』
ちょっと怖い想像をしてしまった。
「だからねぇ、『あらぁ、きっとカンナちゃんも大喜びするわぁ。ほらぁ、ここやっぱり田舎だから、毎日暇そうで可哀相だわって思ってたのよぉ』って」
あ、私大喜びで『ミィちゃん』のところに遊びに行く感じなんだ……。
「これねぇ、持っていくお菓子はバッグに入れておいたから、ベッカムくんと三人で食べてね。ゆっくり遊んでいらっしゃい」
こうして私は、優しいおばあちゃんに手作りトートバッグを持たされ、『鈴木ミィちゃん』と『謎のベッカムくん』、会ったことも名前を聞いたこともない二人と遊ぶため、お外へ出かけることになってしまった。
◇
熱い。荒ぶる蝉の音と頭部を焦がす日射しに、負けてしまいそう。
もう帰ってもいいかな。『ミィちゃんいなかったよ』と。
駄目だ、きっとその噓は二分でばれる。おばあちゃんの悲しい顔は見たくない。
『田舎だから』『暇そうで可哀相』
おばあちゃんは言うけれど、私は田舎でぼーっとするのはぜんぜん嫌いじゃない。
ここにいるあいだはスマホも見なくていいかなと思う。
縁側から見える自然いっぱいの景色も好き。
もしかしたら、お母さんがおばあちゃんに何かいったのかな。
どうせ毎年来るんだから『カンナもこっちで同い年のお友達を作ったら』と気を使ってくれたのかも。
数百メートルはある長い道のり。左右には畑。遠くには山。
一番近い隣の家ですら、八十メートルくらいはありそう。
――暑い。帽子を被ってくればよかった。
ひとりでとぼとぼと歩き、おばあちゃんが『一本道だからねぇ。見たらすぐ分かるわよぉ』と言っていた鈴木さんの家を探す。
一本道でも見逃すときは見逃すのでは。
後ろ向きなことを考えながら歩いたせいだろう。いつの間にか、視線が下がっていた。
やば。行き過ぎてないかな。あわてて左右を見た。
ら、なんと、右前方、視界に飛び込む。あるはずのないもの。
「え、け、剣……?」
アスファルトに、立派な剣が突き刺さっている。横には盾も。つきなみな言葉でいうと、ゲームに出てくるやつ。
どういうこと? 剣には鈴木って書いてある。もしかして、デイジーちゃんって日本で冒険しているの?
銃刀法違反――。頭に浮かんだのは、詳しく知らない言葉。だけど、たぶんこの剣は持ってあるいちゃ駄目なやつ。
きっとここは日本じゃないんだ。東京から見れば田舎も異世界でファンタジー。
頭が熱いせいか、いつもより投げやりな気持ちになっていた。自覚がないまま、鈴木さん宅のドアをガラガラと開ける。
よその田舎は知らないけれど『インターホンを押さずに地声で挑む』それがこの近所では主流なのだ。
「こんにちはー。ミィちゃんと遊びに来ましたー」
そして知り合いの家なら勝手に上がり込むまでが主流。――さすがにそこまでの度胸はない。
東京だったら捕まっちゃうのに。田舎って凄い。やっぱり異世界なのかも。
とりとめもないことを考えながら待っていると、トン、トン、とダルそうに階段を降りる音が聞こえた。
そうして、「あい」と妙にいい声も。え、なに、このイケボ。
「『ミィちゃん』は俺だけど……。アンタ、田中カンナ?」
混乱する私にそう言ったひとは、想像していた『ミィちゃん』をはるかに男っぽくして、物凄く格好良くした感じの……、つまり、女の子じゃなくて、どこからどうみても、ただのイケメンだった。
台所から麦茶を持ってきてくれたおばあちゃんがそう言って、私に聞いてくる。
正直なところ『いや知らんけども』という感じだ。
でもそのまま言うのはなんとなく、ぐあいが良くない。私は殊勝な態度で「うん。凄いいるね」と答えた。
「それでねぇ、ちょうど『ミィちゃん』が帰って来てるんだって」
大変だ。『わたくし、ここら辺の鈴木さんのことなら大体知っていますよ、ええ』みたいに答えたせいだろう。おばあちゃんの話が良くない方向へ進んでいる気がする。
『カンナそういうところだよ』愛里亜ちゃんの可愛い声を思い出す。
だからといって、いまさらおばあちゃんに『いや知らんけども』と言うわけにも。引っ込みがつかないってこういうときに使う言葉なのかな。
「おばあちゃん麦茶ありがとう」感謝を伝えるのはだいじ。冷たいそれに口をつけながら、またひとつ、どうしようもない答えを返す。
「そうなんだぁ」
「そうそう。それでねぇ、デイジーちゃんに『あら、実はカンナちゃんも帰って来てるのよ』って話したらね」
聞き逃しにくい。とつぜんのデイジーちゃん。かわいい。頭に白い花がよぎる。
『誰やねん』の使用に制限時間はあるのか。ん? それよりも、これは情報漏洩というやつでは。
こういうとき、ビシッ! とツッコめる人になりたかったな。
「『そらぁちょうどいい。若いもんは若いもん同士で遊ぶのが一番よ。さっさとおいでってカンナに伝えとくれ!』ってねぇ」
デイジーちゃん強そう。『いえ、遠慮します』
言ったらどうなるんだろう。『ハイかイエスで答えな!』
ちょっと怖い想像をしてしまった。
「だからねぇ、『あらぁ、きっとカンナちゃんも大喜びするわぁ。ほらぁ、ここやっぱり田舎だから、毎日暇そうで可哀相だわって思ってたのよぉ』って」
あ、私大喜びで『ミィちゃん』のところに遊びに行く感じなんだ……。
「これねぇ、持っていくお菓子はバッグに入れておいたから、ベッカムくんと三人で食べてね。ゆっくり遊んでいらっしゃい」
こうして私は、優しいおばあちゃんに手作りトートバッグを持たされ、『鈴木ミィちゃん』と『謎のベッカムくん』、会ったことも名前を聞いたこともない二人と遊ぶため、お外へ出かけることになってしまった。
◇
熱い。荒ぶる蝉の音と頭部を焦がす日射しに、負けてしまいそう。
もう帰ってもいいかな。『ミィちゃんいなかったよ』と。
駄目だ、きっとその噓は二分でばれる。おばあちゃんの悲しい顔は見たくない。
『田舎だから』『暇そうで可哀相』
おばあちゃんは言うけれど、私は田舎でぼーっとするのはぜんぜん嫌いじゃない。
ここにいるあいだはスマホも見なくていいかなと思う。
縁側から見える自然いっぱいの景色も好き。
もしかしたら、お母さんがおばあちゃんに何かいったのかな。
どうせ毎年来るんだから『カンナもこっちで同い年のお友達を作ったら』と気を使ってくれたのかも。
数百メートルはある長い道のり。左右には畑。遠くには山。
一番近い隣の家ですら、八十メートルくらいはありそう。
――暑い。帽子を被ってくればよかった。
ひとりでとぼとぼと歩き、おばあちゃんが『一本道だからねぇ。見たらすぐ分かるわよぉ』と言っていた鈴木さんの家を探す。
一本道でも見逃すときは見逃すのでは。
後ろ向きなことを考えながら歩いたせいだろう。いつの間にか、視線が下がっていた。
やば。行き過ぎてないかな。あわてて左右を見た。
ら、なんと、右前方、視界に飛び込む。あるはずのないもの。
「え、け、剣……?」
アスファルトに、立派な剣が突き刺さっている。横には盾も。つきなみな言葉でいうと、ゲームに出てくるやつ。
どういうこと? 剣には鈴木って書いてある。もしかして、デイジーちゃんって日本で冒険しているの?
銃刀法違反――。頭に浮かんだのは、詳しく知らない言葉。だけど、たぶんこの剣は持ってあるいちゃ駄目なやつ。
きっとここは日本じゃないんだ。東京から見れば田舎も異世界でファンタジー。
頭が熱いせいか、いつもより投げやりな気持ちになっていた。自覚がないまま、鈴木さん宅のドアをガラガラと開ける。
よその田舎は知らないけれど『インターホンを押さずに地声で挑む』それがこの近所では主流なのだ。
「こんにちはー。ミィちゃんと遊びに来ましたー」
そして知り合いの家なら勝手に上がり込むまでが主流。――さすがにそこまでの度胸はない。
東京だったら捕まっちゃうのに。田舎って凄い。やっぱり異世界なのかも。
とりとめもないことを考えながら待っていると、トン、トン、とダルそうに階段を降りる音が聞こえた。
そうして、「あい」と妙にいい声も。え、なに、このイケボ。
「『ミィちゃん』は俺だけど……。アンタ、田中カンナ?」
混乱する私にそう言ったひとは、想像していた『ミィちゃん』をはるかに男っぽくして、物凄く格好良くした感じの……、つまり、女の子じゃなくて、どこからどうみても、ただのイケメンだった。
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