37 / 65
第37話 能力開花?! 人間界を揺るがす猫様ハナにゃん。 ヒロインに迫る危機。
しおりを挟む
「にゃーん」
悪役令嬢ハナにゃんは、珍しく機嫌が良かった。
強くなったのだから、見られても問題ないと。
お上品な鳴き声に誘われ、カナデがハナの頭をなで――ようとしたが、肉球でスッと押し返された。さわるにゃ……と。そこまでは許してくれないらしい。
シオンの手元の学生証を、彼も覗き込む。
「…………」
カナデの眉間に深い皺が寄る。
なんだこれは。
学生証にはハナの覚えた特技と、その説明が表示されていた。
特技――聖なる子猫パンチ。【セイクリッド・パウ・ジャッジメント】(聖属性)
説明:心根の悪い人間に効果大。個人差有。
特技――子猫の純粋な引っかき。【絶望のフィニッシュクロー】(無属性)
説明:生き物へのダメージ小。
特技――子猫の爪とぎ。【ザ・キャット・ワールド・ジャスティス】(聖属性)
説明:人間への物理ダメージ小。精神ダメージ大。壁、布製品にダメージ大。
「これは猫……いや、ハナ専用ということか。それよりも、シオン――」
「ああ、分かっている」
カナデの視線が『聖属性』をなぞる。気付いただろう、と。
猫を優しく撫でながら、シオンは答えた。お前の言いたいことは分かっていると。重々しく。
「やはりまだ子猫のようだ。結婚は当分先になるだろう」
早くて二十年後くらいか――。
「そんな話をしている場合か」
『綿が詰まった生き物と結婚など』
以前の彼なら鼻で笑いながら言っていたであろうその言葉が、カナデの頭に浮かぶことはなかった。『子猫……? ワクチン接種は――?』という別の言葉なら浮かんだが。
――猫との結婚。大いに結構。という意味ではない。愛読書が猫の本になってしまった男は『繊細なおんにゃのこねこちゃん』を傷つけられないのである。たとえその猫が、通常より狂暴だとしても。
カナデは学生証を猫手でつついているハナを見た。『猫でありながら聖女の資質を持っている件』について考えなければと。
非常に珍しいそれには、『悪しきモノに対抗しうる力』『いざという時のために』『やばいのがでてきたら倒してくれ』と、育成、保護、といえば聞こえはいいが、要は囲い込む目的で国が作った専門機関まで存在する。
――陰で言われているのは『おっさんでも可。顔立ちが整っている人間優遇。女性ならなお良し。美少女なら文句なし』だったか。商業的な香りをぷんぷんさせている。わざわざ名乗り出て囲われに行く人間はほとんどいない。くだらぬ養成機関などハナには関係ないし、入れるつもりもない。たとえ今現在若いのが一人もおらず、熱望されているとしてもだ。
ともかく持っているのは仕方がない。猫に戦闘をさせた自分達の責任だろう。
問題は『聖属性』を持つものの側には『おかしな企みをする人間』が近付いてくるということだ。まるで対になっているかのように。
それとも、おかしな企みをする人間がいるから、聖属性を身につけるのか。疑問ではある。ただ、どちらが先かは重要ではない。か弱い猫のまわりにそんなものが存在する。それをどう始末するかが重要なのだ。
シオンにとっては『幼い妹が特別な存在』なのも『おかしな人間は自分が排除する』こともあたりまえなのだろう。
『幼い妹』には何も悟らせずに。
その幼い妹はというと、「お兄にゃーん」と兄の手元の学生証を叩いている。
――戦闘後も落ち着ているようだ。
「おかしな人間か――」
カナデは猫を狙う『不審者』を思い浮かべた。自分が『処理』されないことに絶対の自信でも持っているのか。確かに『おかしな人間』としかいいようがない。個人か、組織か。目的は――。
「…………」
お兄様はクールな表情で別のことを考えていた。
妹の学生証を見ながら、ス――と表示を消す。
Hana Nyan(ハナにゃん)状態一覧。
呪い状態。――能力値マイナス。
猫化の呪い。――能力値プラス。
猫への祝福。学園生への祝福。遺跡の祝福。――能力値プラス。
赤子への祝福。――敵への攻撃プラス。味方への攻撃マイナス。
□□令嬢。――エラー。表示できません。
猫が暴れかねない微妙な情報は伏せる。それは少々お転婆なところのある妹を持つ兄にとっては自然な行動であった。
◇
本気になった悪役令嬢ハナにゃんが肉球で次々と敵を屠り、じわじわと力を蓄えていたころ。
男の視線の先、遺跡の通路に、梵字のような印がふっと浮かび、すぐに消えた。
「こっちの道のほうがいいんじゃない?」
サクラは前方の女生徒に声をかけた。
黒ずくめが推奨する道に誘導するために。
「え? ……えええ?!」
女生徒が振り返り、サクラが見ている道へ視線を向け、何故か驚愕する。
只者ではないヒロインは焦った。まったく良くない。
(イヤ! そっちってドロドロの敵ばっかいる道じゃない! ヒロインの魅力が下がっちゃう!)
ヒロインは魅力が命なのだ。それには当然外見の美しさも含まれる。
汚いドロなんてかけられたら『回復の泉イベント』も『遺跡の住人イベント』も『超レアアイテムゲット』もすべて駄目になってしまう!
「えっと……、アタシの勘が告げています! そちらは危険です!」
(他の道と似ているようで明らかに違う……! アタシの目はごまかせない。苔の形で分かるわ!)
悪役令嬢ハナにゃんは、珍しく機嫌が良かった。
強くなったのだから、見られても問題ないと。
お上品な鳴き声に誘われ、カナデがハナの頭をなで――ようとしたが、肉球でスッと押し返された。さわるにゃ……と。そこまでは許してくれないらしい。
シオンの手元の学生証を、彼も覗き込む。
「…………」
カナデの眉間に深い皺が寄る。
なんだこれは。
学生証にはハナの覚えた特技と、その説明が表示されていた。
特技――聖なる子猫パンチ。【セイクリッド・パウ・ジャッジメント】(聖属性)
説明:心根の悪い人間に効果大。個人差有。
特技――子猫の純粋な引っかき。【絶望のフィニッシュクロー】(無属性)
説明:生き物へのダメージ小。
特技――子猫の爪とぎ。【ザ・キャット・ワールド・ジャスティス】(聖属性)
説明:人間への物理ダメージ小。精神ダメージ大。壁、布製品にダメージ大。
「これは猫……いや、ハナ専用ということか。それよりも、シオン――」
「ああ、分かっている」
カナデの視線が『聖属性』をなぞる。気付いただろう、と。
猫を優しく撫でながら、シオンは答えた。お前の言いたいことは分かっていると。重々しく。
「やはりまだ子猫のようだ。結婚は当分先になるだろう」
早くて二十年後くらいか――。
「そんな話をしている場合か」
『綿が詰まった生き物と結婚など』
以前の彼なら鼻で笑いながら言っていたであろうその言葉が、カナデの頭に浮かぶことはなかった。『子猫……? ワクチン接種は――?』という別の言葉なら浮かんだが。
――猫との結婚。大いに結構。という意味ではない。愛読書が猫の本になってしまった男は『繊細なおんにゃのこねこちゃん』を傷つけられないのである。たとえその猫が、通常より狂暴だとしても。
カナデは学生証を猫手でつついているハナを見た。『猫でありながら聖女の資質を持っている件』について考えなければと。
非常に珍しいそれには、『悪しきモノに対抗しうる力』『いざという時のために』『やばいのがでてきたら倒してくれ』と、育成、保護、といえば聞こえはいいが、要は囲い込む目的で国が作った専門機関まで存在する。
――陰で言われているのは『おっさんでも可。顔立ちが整っている人間優遇。女性ならなお良し。美少女なら文句なし』だったか。商業的な香りをぷんぷんさせている。わざわざ名乗り出て囲われに行く人間はほとんどいない。くだらぬ養成機関などハナには関係ないし、入れるつもりもない。たとえ今現在若いのが一人もおらず、熱望されているとしてもだ。
ともかく持っているのは仕方がない。猫に戦闘をさせた自分達の責任だろう。
問題は『聖属性』を持つものの側には『おかしな企みをする人間』が近付いてくるということだ。まるで対になっているかのように。
それとも、おかしな企みをする人間がいるから、聖属性を身につけるのか。疑問ではある。ただ、どちらが先かは重要ではない。か弱い猫のまわりにそんなものが存在する。それをどう始末するかが重要なのだ。
シオンにとっては『幼い妹が特別な存在』なのも『おかしな人間は自分が排除する』こともあたりまえなのだろう。
『幼い妹』には何も悟らせずに。
その幼い妹はというと、「お兄にゃーん」と兄の手元の学生証を叩いている。
――戦闘後も落ち着ているようだ。
「おかしな人間か――」
カナデは猫を狙う『不審者』を思い浮かべた。自分が『処理』されないことに絶対の自信でも持っているのか。確かに『おかしな人間』としかいいようがない。個人か、組織か。目的は――。
「…………」
お兄様はクールな表情で別のことを考えていた。
妹の学生証を見ながら、ス――と表示を消す。
Hana Nyan(ハナにゃん)状態一覧。
呪い状態。――能力値マイナス。
猫化の呪い。――能力値プラス。
猫への祝福。学園生への祝福。遺跡の祝福。――能力値プラス。
赤子への祝福。――敵への攻撃プラス。味方への攻撃マイナス。
□□令嬢。――エラー。表示できません。
猫が暴れかねない微妙な情報は伏せる。それは少々お転婆なところのある妹を持つ兄にとっては自然な行動であった。
◇
本気になった悪役令嬢ハナにゃんが肉球で次々と敵を屠り、じわじわと力を蓄えていたころ。
男の視線の先、遺跡の通路に、梵字のような印がふっと浮かび、すぐに消えた。
「こっちの道のほうがいいんじゃない?」
サクラは前方の女生徒に声をかけた。
黒ずくめが推奨する道に誘導するために。
「え? ……えええ?!」
女生徒が振り返り、サクラが見ている道へ視線を向け、何故か驚愕する。
只者ではないヒロインは焦った。まったく良くない。
(イヤ! そっちってドロドロの敵ばっかいる道じゃない! ヒロインの魅力が下がっちゃう!)
ヒロインは魅力が命なのだ。それには当然外見の美しさも含まれる。
汚いドロなんてかけられたら『回復の泉イベント』も『遺跡の住人イベント』も『超レアアイテムゲット』もすべて駄目になってしまう!
「えっと……、アタシの勘が告げています! そちらは危険です!」
(他の道と似ているようで明らかに違う……! アタシの目はごまかせない。苔の形で分かるわ!)
20
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!
Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜!
【第2章スタート】【第1章完結約30万字】
王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。
主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。
それは、54歳主婦の記憶だった。
その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。
異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。
領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。
1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します!
2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ
恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。
<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました
あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。
転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!?
しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!!
破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。
そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて!
しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。
攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……!
「貴女の心は、美しい」
「ベルは、僕だけの義妹」
「この力を、君に捧げる」
王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。
※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる