呪われ愛らしさを極めた悪役令嬢ちゃんと、猫ちゃんな彼女を分かりにくく溺愛するクールなお兄様の日常。~ついでに負かされるヒロイン~

猫野コロ

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第37話 能力開花?! 人間界を揺るがす猫様ハナにゃん。 ヒロインに迫る危機。

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「にゃーん」

 悪役令嬢ハナにゃんは、珍しく機嫌が良かった。
 強くなったのだから、見られても問題ないと。

 お上品な鳴き声に誘われ、カナデがハナの頭をなで――ようとしたが、肉球でスッと押し返された。さわるにゃ……と。そこまでは許してくれないらしい。

 シオンの手元の学生証を、彼も覗き込む。

「…………」

 カナデの眉間に深い皺が寄る。
 なんだこれは。

 学生証カードにはハナの覚えた特技と、その説明が表示されていた。

 
 特技――聖なる子猫パンチ。【セイクリッド・パウ・ジャッジメント】(聖属性)
 説明:心根の悪い人間に効果大。個人差有。

 特技――子猫の純粋な引っかき。【絶望のフィニッシュクロー】(無属性)
 説明:生き物へのダメージ小。

 特技――子猫の爪とぎ。【ザ・キャット・ワールド・ジャスティス】(聖属性)
 説明:人間への物理ダメージ小。精神ダメージ大。壁、布製品にダメージ大。


「これは猫……いや、ハナ専用ということか。それよりも、シオン――」

「ああ、分かっている」

 カナデの視線が『聖属性』をなぞる。気付いただろう、と。

 いもうとを優しく撫でながら、シオンは答えた。お前の言いたいことは分かっていると。重々しく。

「やはりまだ子猫のようだ。結婚は当分先になるだろう」

 早くて二十年後くらいか――。

「そんな話をしている場合か」

『綿が詰まった生き物と結婚など』
 以前の彼なら鼻で笑いながら言っていたであろうその言葉が、カナデの頭に浮かぶことはなかった。『子猫……? ワクチン接種は――?』という別の言葉なら浮かんだが。

 ――猫との結婚。大いに結構。という意味ではない。愛読書が猫の本になってしまった男は『繊細なおんにゃのこねこちゃん』を傷つけられないのである。たとえその猫が、通常より狂暴だとしても。

 カナデは学生証を猫手でつついているハナを見た。『猫でありながら聖女の資質を持っている件』について考えなければと。

 非常に珍しいそれには、『悪しきモノに対抗しうる力』『いざという時のために』『やばいのがでてきたら倒してくれ』と、育成、保護、といえば聞こえはいいが、要は囲い込む目的で国が作った専門機関まで存在する。

 ――陰で言われているのは『おっさんでも可。顔立ちが整っている人間優遇。女性ならなお良し。美少女なら文句なし』だったか。商業的な香りをぷんぷんさせている。わざわざ名乗り出て囲われに行く人間はほとんどいない。くだらぬ養成機関などハナには関係ないし、入れるつもりもない。たとえ今現在若いのが一人もおらず、熱望されているとしてもだ。

 ともかく持っているのは仕方がない。猫に戦闘をさせた自分達の責任だろう。
 
 問題は『聖属性』を持つものの側には『おかしな企みをする人間』が近付いてくるということだ。まるで対になっているかのように。

 それとも、おかしな企みをする人間がいるから、聖属性を身につけるのか。疑問ではある。ただ、どちらが先かは重要ではない。か弱いハナのまわりにそんなものが存在する。それをどう始末するかが重要なのだ。
 
 シオンにとっては『幼い妹が特別な存在』なのも『おかしな人間は自分が排除する』こともあたりまえなのだろう。

『幼い妹』には何も悟らせずに。
 その幼い妹ハナはというと、「お兄にゃーん」と兄の手元の学生証を叩いている。
 ――戦闘後も落ち着ているようだ。

「おかしな人間か――」

 カナデはハナを狙う『不審者』を思い浮かべた。自分が『処理』されないことに絶対の自信でも持っているのか。確かに『おかしな人間』としかいいようがない。個人か、組織か。目的は――。


「…………」

 お兄様シオンはクールな表情で別のことを考えていた。
 妹の学生証カードを見ながら、ス――と表示を消す。


 Hana Nyan(ハナにゃん)状態一覧。

 呪い状態。――能力値マイナス。
 猫化の呪い。――能力値プラス。
 猫への祝福。学園生への祝福。遺跡の祝福。――能力値プラス。
 赤子への祝福。――敵への攻撃プラス。味方への攻撃マイナス。
 □□令嬢。――エラー。表示できません。


 猫が暴れかねない微妙な情報は伏せる。それは少々お転婆クソガキなところのある妹を持つ兄にとっては自然な行動であった。

◇ 

 本気になった悪役令嬢ハナにゃんが肉球で次々と敵をほふり、じわじわと力を蓄えていたころ。

 男の視線の先、遺跡ダンジョンの通路に、梵字ぼんじのような印がふっと浮かび、すぐに消えた。

「こっちの道のほうがいいんじゃない?」

 サクラは前方の女生徒に声をかけた。
 黒ずくめが推奨する道に誘導するために。

「え? ……えええ?!」

 女生徒ヒロインが振り返り、サクラが見ている道へ視線を向け、何故か驚愕する。

 只者ではないヒロインは焦った。まったく良くない。

(イヤ! そっちってドロドロの敵ばっかいる道じゃない! ヒロインの魅力が下がっちゃう!)

 ヒロインは魅力が命なのだ。それには当然外見の美しさも含まれる。
 汚いドロなんてかけられたら『回復の泉イベント』も『遺跡の住人イベント』も『超レアアイテムゲット』もすべて駄目になってしまう!

「えっと……、アタシの勘が告げています! そちらは危険です!」

(他の道と似ているようで明らかに違う……! アタシの目はごまかせない。苔の形で分かるわ!)
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