呪われ愛らしさを極めた悪役令嬢ちゃんと、猫ちゃんな彼女を分かりにくく溺愛するクールなお兄様の日常。~ついでに負かされるヒロイン~

猫野コロ

文字の大きさ
上 下
11 / 65

第11話 それぞれの優しさ。彼との思い出。

しおりを挟む
「こんなものどこで拾ったんだ……」

 次から次へと些細な攻撃をしかけてくる獣の手をつかむ。隠している武器を奪うか。
 刺されたところでどうなるわけでもないが、この弱そうな生き物は違うだろう。自分の暗器で怪我をしそうだ。

 しかし、彼がそう思ったことがヤツには分かったのか、それとも人間にさわられるのが気に食わないのか、すべりのいい猫の手が、カナデの手からシュポッ! と引き抜かれる。

 そして、子猫のように細くとがった爪が、彼の手のひらを引っかいた。
 
「…………」

 悪役令嬢ハナちゃんは叫んだ。

「お血ぃにゃーん!」

 そして、流血する手の平を見て、確信した。
 やつは死ぬ。

 この男は、しょっちゅう千代鶴家長男の部屋に入りびたり、悪役令嬢ちゃんの活動を邪魔する悪い男だった。
 許さぬ、と思ったことも数え切れない。
 毒を盛ったりはしていないが、『どく』と書いた紫色のコースターでこの男のアイスティーを囲んだことはある。

 ――とはいえ直接手を下そうと思ったことはない。
 まさか、手がかすっただけで血が噴き出るなんて。
 たぶん微風ていどで吹き飛び、ベッドから落ちたら即死する部類の人間なのだろう。

 ではハナちゃんの手が当たっても当たらなくても、きっと今日中には、すれ違ったメイドと肩がぶつかってどうにかなったり、ティーカートでどうにかなったり、何もしていないのにどうにかなったりしていたはずだ。
 誰も悪くない。
 つまり悪役令嬢ハナちゃんがついに人を殺ったというわけではない。

 ハナちゃんは口元にきゅっと力を入れると、悪役令嬢らしからぬ、優し気な猫のような顔で決意した。
 兄の友人の最後を看取ってやろう。

「……妙な目つきだな」

 カナデは怪訝な顔で、己が抱えているぬいぐるみを見た。
 猫のぬいぐるみは、弥勒菩薩(みろくぼさつ)のような表情で、そっと両手を合わせた。「にゃーん……」

「なんだか分らんがやめろ」


 男の手がハナちゃんの方へ伸びる。
 彼女はふわふわのお手々を前に出し、実に悪役令嬢らしく『血の出ている人はちょっと……』のポーズをとった。

 そこで、微かに滲むカナデの血と、悪役令嬢の愛らしい肉球が、ふに、とくっつく。

 するとどうしたことか、彼女の真っ白な被毛と美しく巻かれた髪が、強く輝き始めた。

「今度はなんだ……!」

 眩しさで目を閉じる。
 至近距離で発光するなといいたい。

 だが驚いたのは、ヤツが放つ閃光のせいではなかった。

 バン――!

「うちの妹が来ていないか」

『知るかこの土管野郎! いきなりあけるな!』怒りのままに下品な言葉を吐きかけ、こらえ、ふと気付く。
 手の平から伝わるこの感触は――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

処理中です...