呪われ愛らしさを極めた悪役令嬢ちゃんと、猫ちゃんな彼女を分かりにくく溺愛するクールなお兄様の日常。~ついでに負かされるヒロイン~

猫野コロ

文字の大きさ
上 下
8 / 65

第8話 イケメンは見た。胸の高鳴り。一応開かれた扉。

しおりを挟む
 そのイケメンは、しょっちゅう問題が起こる友人宅で、前日あたりから悪魔召喚的なものに失敗した系の珍事件と、それに深くかかわりすぎてどうにかなった系の問題が起こっていることをまったく知らされていなかった。
 
 どうにかなった系の問題――。

 それは、問題を起こしすぎてついに進化した系の、相まみえればどんな客もすぐに自宅方面への用事を突然思い出す、という説を和帽子を奪われた板前が唱えた、帰宅不可避、来訪拒否、呪いに巻き込まれし千代鶴チヨヅル家で一連の事件もそれ以外の事件も連日起こし続け最終的に呪われた張本人、人間をやめたら綿が詰まった千代鶴チヨヅル家の末っ子、ハナにゃんのことである。

 そんな、現在進行形でどうにかなっている生き物が、来客を八つ裂きにするためだけに長時間玄関に待機していることも知らず、彼はクールな長男の部屋で雑談を楽しむついでに約束をキャンセルした理由でも尋ねようかと、実に平和的な思考で、もう封印したほうがいい玄関扉を開いた。

 そしてイケメンは目撃した。

 縦ロールのカツラを被った猫のぬいぐるみが、聴診器、タロットカード、マスク、和帽子、花の活けられていない剣山などが派手に散らばるなか、大理石に座り込み、可愛い猫手に持った油性ペンで『シ ネ ェ』と書いているところを。

「…………」

 彼は咄嗟に扉を閉めた。微かに震える手で、口元を押さえる。
 めったに騒ぐことのない心臓が、尋常じゃない音を立てている。
 
 今のはなんだ。

 シネェ……まさか、死ねか。

 誰へ向けたメッセージだ。
 否、考えるまでもなく、当然、玄関扉を開ける者へだろう。
 であれば、招かれざる客……呼ばれもしないのに来た、『俺』か――?

 そのイケメンは、普段であれば短絡的思考を一旦脇に置き、床に散らばる物体や全体のイメージなどから複数の可能性を思索する、人並み以上に冷静で大人びた、ついでにいうと周囲の人間に対して関心の薄い、冷めた男だった。

 だが、気心の知れた友人宅の玄関を開けるという特別感も緊張感もない、というより逆に友人宅の玄関で神経を尖らせるなどお前は一体何と戦っているんだ、というつまり普通に気を抜いている状態。
 結果ノーガードでくらった衝撃的でセンセーショナルで刺激的というよりもはや殺意的でヅラを被った猫的な一撃。

 その猫的でワタ的な生き物に『殺すぞ』的な想いを見せつけられたイケメンは、現在猛獣の世話で忙しいクールな友人と雑談をしようなどという実に夢見がちな、つい先程までは吞気に予定していたアレコレを一瞬で忘れ、また一瞬たりとも思い出さなかった。

 そして男は――ただ友人宅の玄関扉を開けて閉める、という一生に一度くらいあるかないか、どちらかというとない派が人口の過半数を超える行いをしただけで――震える手で口を押さえたまま、鈍い頭を動かし、自宅方面へ向かう計画をたてた。

 迎えの車を呼ぶことも忘れ、無意識のうちにふらふらと歩き出す。

 斯様にそのイケメンは、二駅ほど離れた己の邸宅への道を進み続け――傅かれることに慣れている彼らしくもなく――ついには自身の足で、たどり着いてしまったのである。

「くそ……、頭から、あの猫と縦ロールが離れない……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...