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入学前夜
15 悪食どもめ
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ロクドーは板が四角に抜かれただけの窓から空を見上げる。月が雲に隠れはじめ辺りが薄暗くなっていく。
足元には二十数人分の肉体があった。生きてるか死んでるか、すべてを確かめている余裕はないが、ロクドーの脅威になるものはない。
しかし、それ以外が問題だ。ロクドーのつけた火は、今や砦内の至る所に手を伸ばしつつあった。ロクドーの周囲もまた、赤い炎が餌を待つ蛇の下のようにチロチロと揺れている。
「行くか」
ロクドーは呟くと歩き出した。身体が錨のように重い。このまま座り込めば、もう二度と立てないのではないか。右大腿部の痛みに思わず息を吸い込む。そして、その一吸いで折れた肋骨が肺を刺激した。奥歯を砕けんばかりにかみしめる。
ロクドーは体内に、蛭に似た蟲というものを飼っている。この蟲は生物に寄生するとその生物の血と魔力を吸い体内で増えていく。この蟲は寄生する代わりに、その生物をできるだけ生かそうとする。だから、ロクドーの様にケガを負った際に自身の身体を使い宿主を治療するのだ。だからこそ最初に受けた背の矢傷はふさがっている。
しかし、その治癒も速度が落ちていた。血を失いすぎたからだろう。疲労はピークに達している。重くなる瞼を、拳骨でたたき起こした。
が、そこで再度足音が聞こえた。ロクドーは、壁に手をついた。リィネ達は無事に逃げたのか。逃げきれているとすれば、ここで逃げ出してもいい。しかし、もし。
ロクドーは、大きく息を吸う。肺が大きく広がり、それに伴い激痛が足爪の先に走る。そして、折り返したかのように今度は髪の毛の先まで逆立つような刺激が身体中を駆け巡る。それを無視すると、ロクドーは大声で叫んだ。言葉ではない、威圧を込めただけの咆哮。口の中の鉄臭い物を壁に吐き捨てる。
「すごい声だな」
声の主を見る。いつの間にか現れたその男は、青の服に身を包んでいた。エーリスの馬車に乗っていた金短髪の男である。
男は、編み上げのブーツで転がっていた男の一人の身体を確かめるようにひっくり返した。左肩からわき腹にかけて一閃されている。血は流れつくしたのか、傷口がテラテラと赤く光るだけだ。
「あんた、リック……?」
「あん? リックの知り合いだったのか?」
「いえ、エーリスって娘を助けましてね」
ロクドーは、両足で踏ん張ると、にたりと口端を引き上げる。単なる去勢だ。
「となると、あの化け物倒したのは君か。余計なことを」
そういうと男は、腰から剣を引き抜いた。銀の煌めきにロクドーは目を細める。
「俺は、あんたらの代わりに逃げたあの犬コロをぶっ倒してあげたんですがね」
「あぁ、おかげで俺たちはギルドから追われる身だ。俺はもう終わりだぜ。ここで金稼いでとんずらここうと思ってたのによ、それすらもダメになっちまいやがった」
男は捨て鉢の様に絞り出す。
「勝てるとでも?」
男は剣の切っ先をロクドーに向ける。そして、周囲を見渡した後でロクドーを足先から頭のてっぺんまで嘗め回すようにみた。
そして男は、あざけるように口を開く。
「勝てるとでも?」
瞬間、男は走り出した。ロクドーは片手で刀を横なぎにぶつける。しかしそれはあまりにも遅かった。それを男は屈んで躱す。そして、低い体勢からロクドーの胸を目がけて逆袈裟で切りかかる。
が、ロクドーの一撃は、壁に寄りかかっていた板を砕く。木が軋み板がぶち折れた。その勢いで男に頭上に天井板が崩れ落ちる。
「ちっ」
男は、攻撃を中断。後ろに跳ねる。ロクドーは、渾身で手近にあった燃える木箱を男に蹴り飛ばす。男は空中で制動が効かない。剣でその木箱を弾く。が、瞬時にロクドーは奔った。天井を支えていた柱に蹴りをくれる。嫌な音を立て柱が折れた。そして、それと同時に天井が崩れ始める。突貫によって作られた砦は、幾たびの衝撃と炎の熱により非常にもろくなっていたのだ。
男が反射的に見上げる。ロクドーはその隙をついて男に向かって前進する。
しかし、その前進を倒れ来る壁にさえぎられた。
「くそ」
ロクドーは毒吐きながら、サイドステップでそれを避ける。が、その眼前に男が走りこんでいた。切っ先を地面に走らせていたかと思うと、胸に向かって逆袈裟で切りかかる。
ロクドーは短く息を吐き、それを半身で躱した。しかし、男はそれを読んでいたのか、振り切った剣の勢いを利用し回転。体重の乗ったロクドーの右足を水面蹴る。ロクドーはバランスを崩し、倒れまいと壁の方へ跳ねた。
男はロクドーが体勢を整える前に、その眼前に鋭い突きを撃ち込んだ。一撃目は首を傾けることで避けたが、すぐさま二撃目、三撃目と続く。そして、とうとう捕らえられた。
「とった!」
男の叫び。ロクドーの右腕に剣が深々と突き刺さる。そして、剣が振るわれた。ブチブチと筋肉の引きちぎれる音とともにロクドーの右腕が宙を舞う。紅の弧が美しく描かれた。
が、ロクドーの目にはそんなものは映らない。しまった、心の内で叫びながら、ロクドーは左手で、宙を舞う刀を掴もうとした。が、次いで銀の煌めき。音はない。ロクドーの左腕が宙を舞った。
「終わりだな」
両腕を失ったロクドーはバランスをとることができなかった。前のめりに顔面から地面に崩れ落ちる。鼻を強かに打ち据え、それと同時に後頭部に衝撃が走った。男が頭を踏みつけたのである。
「おい。命乞いの時間だ」
「うっるせぇ」
ロクドーが体をくねらせる。
「ヒルみてぇだな」
そういい男はゲラゲラと笑う。ロクドーは、しかし、それでも身体を動かすことをやめない。
「動くんじゃねぇ! 気持ち悪ぃ!」
ドスッと、ロクドーの腹部につま先が突き刺さる。胃液が上がってきた。口から赤い泡がこぼれる。動け、動け。ロクドーは前進をやめない。
「てめ――」
そこで、男の声が止まった。目を見開いている。視線の先には、ロクドーが切り捨てた男たちの身体があった。そして、その血だまりの中に斬り飛ばしたロクドーの右腕があった。それが動いている。明らかに。そして、その傷口から何かが伸びた。それは赤黒い色をした血管であった。そして蛇のようにくねりながらロクドーに向かう。
「ど、どうなってんだよ……」
ロクドーの方からも血管や神経が伸びていき、両方が接合する。そして、右腕はそれに引っ張られるようにロクドーの身体に食らいつく。中では白い骨が結びつきあい、その周りを筋肉が、皮膚が覆っていく。左腕もまた、同様にくっついていた。
「何でだよ! なんで切れた腕がくっつくんだよ!」
ロクドーは、じっくりと確かめるように体を起き上がらせる。
「血なら、俺のじゃなくても良いたぁ。悪食どもめ」
皮肉気に両手を見つめると、感触を確かめるように握って開いてを繰り返した。
「ば、化け物が…… 化け物が!!」
「ぎゃあぎゃあしつけぇ! カラスか? てめぇ」
男は、剣をロクドーに叩き付ける。それを半身で躱すと、男の足を踏みつける。そして、そのまま男の顎を拳で打ち抜いた。ゴッと、骨と骨のぶつかり合う音が響く。が、男は、身体をのけぞらせたまま剣をロクドーに突きこむ。ロクドーは横っ飛びでそれを躱し、先ほど取りこぼした剣をひっつかんだ。男が体勢を整える。しかし、ロクドーはそれより先に男に刀を投げた。銀光一閃。男の胸に深々と刀が突き刺さった。
男は咳とともに血を吹き出す。一度大きく痙攣をすると、持っていた剣を取り落とした。そして、二、三歩歩いてから前のめりに倒れこんだ。
「さすがにやばかったか……」
広がっていく血だまりを見ながらロクドーは立ち上がった。膝が盛大に笑っている。体中が熱を持ち、全身に悪寒が走る。と、背後に気配。
「おいおい、大丈夫か?」
ロクドーは、反射的に身体を動かそうとして失敗した。身体が倒れそうになったのを抱きとめられる。
悲鳴を上げる首を何とか動かし、その顔を見た。見たことのある禿頭。
「チョーカ…… さん?」
男はロクドーの問いかけに頷く。そして、もう一度辺りを見渡した。
「これ、全部お前さんがやったのか? 凄まじいな」
そう言いながら、支えていたロクドーを比較的まともな形を保っていた木箱の上に座らせた。
「すいませんね。で、あんたは何しに? 記憶が確かなら撤退したはずですが」
「いやいや、してねぇよ。タイミング見てたんだよ。いいもんがあると思ったんだがな」
そういって自身の腰の袋に視線を落とした。そのいいものとやらを見つけたのだろう。
「にしても、よく生きてたな、えっと……」
「ロクドーですよ」
「そうか、名前聞けて良かったぜ」
ロクドーはふん、と鼻で笑う。
「死ぬ方にかけてたわけですね?」
「若いうちからそんなこと気にしてたら、俺みたいになるぜ?」
チョーカは、額をペシリと叩いて大きく笑う。周囲に敵がいる様子はない。
「他のやつらは?」
「四、五人は俺が片付けた。他のは知らん。逃げていくやつらを大勢見たからな。たぶんもういねぇ」
「あいつを見ませんでしたか? 俺と一緒にいた女の」
「リィネな。いたぜ、えらい数の女引き連れて森の中にいたからよ。とりあえず、近くの安全な場所教えといたから安心しとけ」
ロクドーの顔が思わず緩む。全身からも力が抜ける。何とか生き残ったのだろうか。
「お前さんはどうするよ」
「エンドリケリ商店に行きます。マダムに話がある」
そう言うとロクドーは立ち上がろうとして失敗した。脚に上手く力が入らない。と、見かねたのか、チョーカが手を差し出してきた。
「ちょうどいい。俺も話があるからよ。ちょっくら行くか」
ロクドーはチョーカの手を取った。無骨な手がロクドーを引き上げる。どうも、というと外に目を移した。いつの間にか夜と朝の境目が森の端に見えていた。
足元には二十数人分の肉体があった。生きてるか死んでるか、すべてを確かめている余裕はないが、ロクドーの脅威になるものはない。
しかし、それ以外が問題だ。ロクドーのつけた火は、今や砦内の至る所に手を伸ばしつつあった。ロクドーの周囲もまた、赤い炎が餌を待つ蛇の下のようにチロチロと揺れている。
「行くか」
ロクドーは呟くと歩き出した。身体が錨のように重い。このまま座り込めば、もう二度と立てないのではないか。右大腿部の痛みに思わず息を吸い込む。そして、その一吸いで折れた肋骨が肺を刺激した。奥歯を砕けんばかりにかみしめる。
ロクドーは体内に、蛭に似た蟲というものを飼っている。この蟲は生物に寄生するとその生物の血と魔力を吸い体内で増えていく。この蟲は寄生する代わりに、その生物をできるだけ生かそうとする。だから、ロクドーの様にケガを負った際に自身の身体を使い宿主を治療するのだ。だからこそ最初に受けた背の矢傷はふさがっている。
しかし、その治癒も速度が落ちていた。血を失いすぎたからだろう。疲労はピークに達している。重くなる瞼を、拳骨でたたき起こした。
が、そこで再度足音が聞こえた。ロクドーは、壁に手をついた。リィネ達は無事に逃げたのか。逃げきれているとすれば、ここで逃げ出してもいい。しかし、もし。
ロクドーは、大きく息を吸う。肺が大きく広がり、それに伴い激痛が足爪の先に走る。そして、折り返したかのように今度は髪の毛の先まで逆立つような刺激が身体中を駆け巡る。それを無視すると、ロクドーは大声で叫んだ。言葉ではない、威圧を込めただけの咆哮。口の中の鉄臭い物を壁に吐き捨てる。
「すごい声だな」
声の主を見る。いつの間にか現れたその男は、青の服に身を包んでいた。エーリスの馬車に乗っていた金短髪の男である。
男は、編み上げのブーツで転がっていた男の一人の身体を確かめるようにひっくり返した。左肩からわき腹にかけて一閃されている。血は流れつくしたのか、傷口がテラテラと赤く光るだけだ。
「あんた、リック……?」
「あん? リックの知り合いだったのか?」
「いえ、エーリスって娘を助けましてね」
ロクドーは、両足で踏ん張ると、にたりと口端を引き上げる。単なる去勢だ。
「となると、あの化け物倒したのは君か。余計なことを」
そういうと男は、腰から剣を引き抜いた。銀の煌めきにロクドーは目を細める。
「俺は、あんたらの代わりに逃げたあの犬コロをぶっ倒してあげたんですがね」
「あぁ、おかげで俺たちはギルドから追われる身だ。俺はもう終わりだぜ。ここで金稼いでとんずらここうと思ってたのによ、それすらもダメになっちまいやがった」
男は捨て鉢の様に絞り出す。
「勝てるとでも?」
男は剣の切っ先をロクドーに向ける。そして、周囲を見渡した後でロクドーを足先から頭のてっぺんまで嘗め回すようにみた。
そして男は、あざけるように口を開く。
「勝てるとでも?」
瞬間、男は走り出した。ロクドーは片手で刀を横なぎにぶつける。しかしそれはあまりにも遅かった。それを男は屈んで躱す。そして、低い体勢からロクドーの胸を目がけて逆袈裟で切りかかる。
が、ロクドーの一撃は、壁に寄りかかっていた板を砕く。木が軋み板がぶち折れた。その勢いで男に頭上に天井板が崩れ落ちる。
「ちっ」
男は、攻撃を中断。後ろに跳ねる。ロクドーは、渾身で手近にあった燃える木箱を男に蹴り飛ばす。男は空中で制動が効かない。剣でその木箱を弾く。が、瞬時にロクドーは奔った。天井を支えていた柱に蹴りをくれる。嫌な音を立て柱が折れた。そして、それと同時に天井が崩れ始める。突貫によって作られた砦は、幾たびの衝撃と炎の熱により非常にもろくなっていたのだ。
男が反射的に見上げる。ロクドーはその隙をついて男に向かって前進する。
しかし、その前進を倒れ来る壁にさえぎられた。
「くそ」
ロクドーは毒吐きながら、サイドステップでそれを避ける。が、その眼前に男が走りこんでいた。切っ先を地面に走らせていたかと思うと、胸に向かって逆袈裟で切りかかる。
ロクドーは短く息を吐き、それを半身で躱した。しかし、男はそれを読んでいたのか、振り切った剣の勢いを利用し回転。体重の乗ったロクドーの右足を水面蹴る。ロクドーはバランスを崩し、倒れまいと壁の方へ跳ねた。
男はロクドーが体勢を整える前に、その眼前に鋭い突きを撃ち込んだ。一撃目は首を傾けることで避けたが、すぐさま二撃目、三撃目と続く。そして、とうとう捕らえられた。
「とった!」
男の叫び。ロクドーの右腕に剣が深々と突き刺さる。そして、剣が振るわれた。ブチブチと筋肉の引きちぎれる音とともにロクドーの右腕が宙を舞う。紅の弧が美しく描かれた。
が、ロクドーの目にはそんなものは映らない。しまった、心の内で叫びながら、ロクドーは左手で、宙を舞う刀を掴もうとした。が、次いで銀の煌めき。音はない。ロクドーの左腕が宙を舞った。
「終わりだな」
両腕を失ったロクドーはバランスをとることができなかった。前のめりに顔面から地面に崩れ落ちる。鼻を強かに打ち据え、それと同時に後頭部に衝撃が走った。男が頭を踏みつけたのである。
「おい。命乞いの時間だ」
「うっるせぇ」
ロクドーが体をくねらせる。
「ヒルみてぇだな」
そういい男はゲラゲラと笑う。ロクドーは、しかし、それでも身体を動かすことをやめない。
「動くんじゃねぇ! 気持ち悪ぃ!」
ドスッと、ロクドーの腹部につま先が突き刺さる。胃液が上がってきた。口から赤い泡がこぼれる。動け、動け。ロクドーは前進をやめない。
「てめ――」
そこで、男の声が止まった。目を見開いている。視線の先には、ロクドーが切り捨てた男たちの身体があった。そして、その血だまりの中に斬り飛ばしたロクドーの右腕があった。それが動いている。明らかに。そして、その傷口から何かが伸びた。それは赤黒い色をした血管であった。そして蛇のようにくねりながらロクドーに向かう。
「ど、どうなってんだよ……」
ロクドーの方からも血管や神経が伸びていき、両方が接合する。そして、右腕はそれに引っ張られるようにロクドーの身体に食らいつく。中では白い骨が結びつきあい、その周りを筋肉が、皮膚が覆っていく。左腕もまた、同様にくっついていた。
「何でだよ! なんで切れた腕がくっつくんだよ!」
ロクドーは、じっくりと確かめるように体を起き上がらせる。
「血なら、俺のじゃなくても良いたぁ。悪食どもめ」
皮肉気に両手を見つめると、感触を確かめるように握って開いてを繰り返した。
「ば、化け物が…… 化け物が!!」
「ぎゃあぎゃあしつけぇ! カラスか? てめぇ」
男は、剣をロクドーに叩き付ける。それを半身で躱すと、男の足を踏みつける。そして、そのまま男の顎を拳で打ち抜いた。ゴッと、骨と骨のぶつかり合う音が響く。が、男は、身体をのけぞらせたまま剣をロクドーに突きこむ。ロクドーは横っ飛びでそれを躱し、先ほど取りこぼした剣をひっつかんだ。男が体勢を整える。しかし、ロクドーはそれより先に男に刀を投げた。銀光一閃。男の胸に深々と刀が突き刺さった。
男は咳とともに血を吹き出す。一度大きく痙攣をすると、持っていた剣を取り落とした。そして、二、三歩歩いてから前のめりに倒れこんだ。
「さすがにやばかったか……」
広がっていく血だまりを見ながらロクドーは立ち上がった。膝が盛大に笑っている。体中が熱を持ち、全身に悪寒が走る。と、背後に気配。
「おいおい、大丈夫か?」
ロクドーは、反射的に身体を動かそうとして失敗した。身体が倒れそうになったのを抱きとめられる。
悲鳴を上げる首を何とか動かし、その顔を見た。見たことのある禿頭。
「チョーカ…… さん?」
男はロクドーの問いかけに頷く。そして、もう一度辺りを見渡した。
「これ、全部お前さんがやったのか? 凄まじいな」
そう言いながら、支えていたロクドーを比較的まともな形を保っていた木箱の上に座らせた。
「すいませんね。で、あんたは何しに? 記憶が確かなら撤退したはずですが」
「いやいや、してねぇよ。タイミング見てたんだよ。いいもんがあると思ったんだがな」
そういって自身の腰の袋に視線を落とした。そのいいものとやらを見つけたのだろう。
「にしても、よく生きてたな、えっと……」
「ロクドーですよ」
「そうか、名前聞けて良かったぜ」
ロクドーはふん、と鼻で笑う。
「死ぬ方にかけてたわけですね?」
「若いうちからそんなこと気にしてたら、俺みたいになるぜ?」
チョーカは、額をペシリと叩いて大きく笑う。周囲に敵がいる様子はない。
「他のやつらは?」
「四、五人は俺が片付けた。他のは知らん。逃げていくやつらを大勢見たからな。たぶんもういねぇ」
「あいつを見ませんでしたか? 俺と一緒にいた女の」
「リィネな。いたぜ、えらい数の女引き連れて森の中にいたからよ。とりあえず、近くの安全な場所教えといたから安心しとけ」
ロクドーの顔が思わず緩む。全身からも力が抜ける。何とか生き残ったのだろうか。
「お前さんはどうするよ」
「エンドリケリ商店に行きます。マダムに話がある」
そう言うとロクドーは立ち上がろうとして失敗した。脚に上手く力が入らない。と、見かねたのか、チョーカが手を差し出してきた。
「ちょうどいい。俺も話があるからよ。ちょっくら行くか」
ロクドーはチョーカの手を取った。無骨な手がロクドーを引き上げる。どうも、というと外に目を移した。いつの間にか夜と朝の境目が森の端に見えていた。
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