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入学前夜
8 おばちゃんじゃない。マダムだ
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「私がエンドリケリ商店のマダム・エンドリケリだ。悪かったね。わざわざ。膝が悪くてあまりうろつけないんだよ」
ロングの黒髪を総髪にした女性が、高価そうなワークデスクの向こう側に座っていた。
眉は細くそり上げられている。
口にはこれでもかというほど赤い紅が塗られていた。
年齢は七十代だろうか。
ロクドーが予想していると、マダムの鋭い視線が向けられる。
「六十四だ。女の年齢を推測するたぁ失礼なガキだね」
「え、心読めるの?」
リィネはロクドーにその正誤を問うように視線を送った。
なぜか思わず口を押えているが、もしビビったとしても押さえるのはそこじゃない。
ロクドーは、当たりだと言わんばかりに手を上げて、それに答えた。
「私が何年この仕事やってると思ってるんだい。顔見りゃだいたい何考えてるかわかるよ。特にお前みたいな生意気なガキならなおさらね」
「そいつは失礼しました。もちっと若いと思ったんで驚きましたよ」
心にもないお世辞を述べる。
それが伝わったのか、マダムはフンと鼻を鳴らした。
「でだ、俺達はあんたを紹介された。しかし、あんた達は俺達を紹介されたと言った」
「あ、そうだ。おばちゃん。どういうこと?」
「おばちゃんじゃない。マダムだ」
マダムはそこで二人を見る。
値踏みのような視線に居心地の悪さを感じた。
「お前らだろ? トロスを片付けたってのは」
トロス、といわれ少し悩んでいると、リィネがポンと手を叩いた。
「あの火吐く犬か! そうだよ、倒したんはウチ達だよ」
「でかいのだけだがな。他に小さいのもいたが、そいつらを倒したのは別の奴らだつか何でそれ知ってる? 俺たちのことであの店が知ってることは決闘をしたことだけのはずだ」
ロクドーは片眉を上げて問う。
「今朝一人の商人が市場で大量にトロスの毛皮を売りさばいた。妙な商売が行われたんだ。調べるのは当然だろうが」
なるほど、と口だけ動かし、マダムは目を細める。
そして、値踏みが完了したのか、口を開いた。
「私が貸してる部屋の相場だがだいたい、安くても十三万Rだ」
十三万R。
ギルドにていただいた破格の依頼料が十二Rである。
ギルドの受付の人は一日運よく稼げても1万Rがいいところだと言っていた。
ロクドーはその金額と、その胸部に添えつけられた二つの球体を思い出していた。
「そんな高いの無理やん。学校もいかんといけんし」
「ちなみにここらで部屋を借りようと思えば、安くて四万Rというところか。部屋は狭くなるし、場所も悪いがな」
「野宿よりましか……」
リィネが落胆した声をこぼす。
しかし、ロクドーは唇端を引き上げた。
「それはお眼鏡にかなったってことですかね?」
「眼鏡?」
リィネが首をかしげ、ロクドーの視線の先を追う。
マダムもまた似たような笑顔を浮かべていた。
「ガキのわりに勘は良さそうだね。その通りさ。仕事をやろう。もし成功すればうちが持ってる屋敷のうち一つを八万Rで貸そうじゃないか」
マダムの提示。
「おお! すっごい安い!」
しかし、ロクドーの顔は渋くなる。
「こっちは学生。そんなん払えるわけないでしょうが。五千」
ありえない金額。リィネの顔が引きつる。
「ふん、ガキらしく物の価値がわからんようだな。六万」
「一万三千」
「五万」
「二万八千」
「四万二千」
「三万五千でどうですかね」
マダムは、呆れたように片眉をひそめる。
「四万だ。こんな金額どこにも言うなよ。他に貸してるやつが聞いたら腰を抜かす」
「さように」
マダムは机から書類を取り出し、羽ペンを走らせ始めた。
それを見ていたリィネがロクドーにそっと寄ってきた。
「そんなに安くしてもらっていいん?」
「知らん。安くなるならしてもらうさ」
書き終わったのか、マダムは走らせていた筆をおく。
ロクドーはその紙を手に取り読み始めた。
「字の読み書きは? 名前くらいなら書けると思うが」
「ご安心を。小さな文字で使用料十万Rと書いてることまで読めてますよ」
「ほう、ある程度の教養はあるようだね」
マダムは、もう一枚引き出しから紙を取り出した。
ロクドーは、新たな契約書に目を通すとそれをマダムに手渡す。
「で? 俺たちに任せる仕事ってのは?」
「少し待て」
そういったと同時に背後の扉が開いた。
先ほどのメイドである。
「この二人も仕事に加わる。ドレッツには話してあるから、連れていけ。それでわかる」
メイドは深々とお辞儀をすると、二人に目配せをした。
そして、先立って歩き出す。二人もそれについて部屋を出て行った。
ロングの黒髪を総髪にした女性が、高価そうなワークデスクの向こう側に座っていた。
眉は細くそり上げられている。
口にはこれでもかというほど赤い紅が塗られていた。
年齢は七十代だろうか。
ロクドーが予想していると、マダムの鋭い視線が向けられる。
「六十四だ。女の年齢を推測するたぁ失礼なガキだね」
「え、心読めるの?」
リィネはロクドーにその正誤を問うように視線を送った。
なぜか思わず口を押えているが、もしビビったとしても押さえるのはそこじゃない。
ロクドーは、当たりだと言わんばかりに手を上げて、それに答えた。
「私が何年この仕事やってると思ってるんだい。顔見りゃだいたい何考えてるかわかるよ。特にお前みたいな生意気なガキならなおさらね」
「そいつは失礼しました。もちっと若いと思ったんで驚きましたよ」
心にもないお世辞を述べる。
それが伝わったのか、マダムはフンと鼻を鳴らした。
「でだ、俺達はあんたを紹介された。しかし、あんた達は俺達を紹介されたと言った」
「あ、そうだ。おばちゃん。どういうこと?」
「おばちゃんじゃない。マダムだ」
マダムはそこで二人を見る。
値踏みのような視線に居心地の悪さを感じた。
「お前らだろ? トロスを片付けたってのは」
トロス、といわれ少し悩んでいると、リィネがポンと手を叩いた。
「あの火吐く犬か! そうだよ、倒したんはウチ達だよ」
「でかいのだけだがな。他に小さいのもいたが、そいつらを倒したのは別の奴らだつか何でそれ知ってる? 俺たちのことであの店が知ってることは決闘をしたことだけのはずだ」
ロクドーは片眉を上げて問う。
「今朝一人の商人が市場で大量にトロスの毛皮を売りさばいた。妙な商売が行われたんだ。調べるのは当然だろうが」
なるほど、と口だけ動かし、マダムは目を細める。
そして、値踏みが完了したのか、口を開いた。
「私が貸してる部屋の相場だがだいたい、安くても十三万Rだ」
十三万R。
ギルドにていただいた破格の依頼料が十二Rである。
ギルドの受付の人は一日運よく稼げても1万Rがいいところだと言っていた。
ロクドーはその金額と、その胸部に添えつけられた二つの球体を思い出していた。
「そんな高いの無理やん。学校もいかんといけんし」
「ちなみにここらで部屋を借りようと思えば、安くて四万Rというところか。部屋は狭くなるし、場所も悪いがな」
「野宿よりましか……」
リィネが落胆した声をこぼす。
しかし、ロクドーは唇端を引き上げた。
「それはお眼鏡にかなったってことですかね?」
「眼鏡?」
リィネが首をかしげ、ロクドーの視線の先を追う。
マダムもまた似たような笑顔を浮かべていた。
「ガキのわりに勘は良さそうだね。その通りさ。仕事をやろう。もし成功すればうちが持ってる屋敷のうち一つを八万Rで貸そうじゃないか」
マダムの提示。
「おお! すっごい安い!」
しかし、ロクドーの顔は渋くなる。
「こっちは学生。そんなん払えるわけないでしょうが。五千」
ありえない金額。リィネの顔が引きつる。
「ふん、ガキらしく物の価値がわからんようだな。六万」
「一万三千」
「五万」
「二万八千」
「四万二千」
「三万五千でどうですかね」
マダムは、呆れたように片眉をひそめる。
「四万だ。こんな金額どこにも言うなよ。他に貸してるやつが聞いたら腰を抜かす」
「さように」
マダムは机から書類を取り出し、羽ペンを走らせ始めた。
それを見ていたリィネがロクドーにそっと寄ってきた。
「そんなに安くしてもらっていいん?」
「知らん。安くなるならしてもらうさ」
書き終わったのか、マダムは走らせていた筆をおく。
ロクドーはその紙を手に取り読み始めた。
「字の読み書きは? 名前くらいなら書けると思うが」
「ご安心を。小さな文字で使用料十万Rと書いてることまで読めてますよ」
「ほう、ある程度の教養はあるようだね」
マダムは、もう一枚引き出しから紙を取り出した。
ロクドーは、新たな契約書に目を通すとそれをマダムに手渡す。
「で? 俺たちに任せる仕事ってのは?」
「少し待て」
そういったと同時に背後の扉が開いた。
先ほどのメイドである。
「この二人も仕事に加わる。ドレッツには話してあるから、連れていけ。それでわかる」
メイドは深々とお辞儀をすると、二人に目配せをした。
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