上 下
68 / 87
第3章 修学旅行で何も起こらないなんて誰が決めた? 前半:〇〇が黙っているわけがない

第12話 出産前の最終決戦 Side政信&ちとせ Part5

しおりを挟む

 話し合いも佳境に入った。
 攻める方針はもう決定済み。

「ああ、そうだ、予告したとおりだけど――」
「また生配信でやるんだろ?いいぞ、前回みたいに顔が映らなきゃ俺としては大丈夫だ」
「私も大丈夫。むしろちとせちゃんと政信くんがつらい思いしているのを見るほうが嫌だもん」
「俺が?つらい?」
「ちとせちゃんがときどき表情が曇るでしょ?」
「そうだな。ちとせに何かあったんじゃないかとは思っているけど」
「ちとせちゃんが感情を出すのって政信くんの前だけくらいだし、他の人の前だと政信くんに関すること以外ではあまり出さないの。だから多分そうだと思うんだけど」
「……つらい、か……」

 正直言ってあまり心当たりがあるわけではない。
 が、少なからず心当たりはある。

「……政信、あまり自覚ないかもしれないけど」
「うん?」
「最近ね、政信って夜にうなされてるの。多分悪夢を見ていると思うんだけど」
「悪夢、か……。正直あまり心当たりないぞ?」
「そう。……でも昨日の夜だってうなされてたよ?『いかないで、もう見放さないで』って」
「そうか……。やっぱりまだ引きずっているのかな?」
「そうだと思う。だからね、いくらでも甘えていいんだよ?いや、甘えて」

 このときちとせは隠していたことがあった。
 夢の中でうなされていた、とは言ったが、実際はそんなレベルじゃなかったのだ。

 そもそも政信の心の傷は完治したと言える状態ではないという状態から、政信とちとせは同じ部屋(ベッド)で寝ている。

 うなされている政信の頭をやさしく撫でて、「大丈夫、私は政信から離れないから」と語っているうちにうなされなくなり、すぅすぅと寝息を立て始め。
 安心して眠りについてからわずか数時間後に政信は恐ろしい行動に出たのだ。

 なにかを呟いたかと思うと、おもむろに起き上がり窓へと近寄る政信。
 そのまま窓を開け放ち、足をかけた。
 さすがのちとせも一瞬驚き、すぐに止めに入る。

 しかし、夢と現実が混同しているのか、政信の力は凄まじいものだった。

 そしてそのまま反対の足もかける政信。
 どこからどう見ても飛び降り自殺を図っているようにしか見えない。
 ちとせは慌てて全力で抱きかかえ、なんとかベッドに戻すことに成功する。
 そのまま正面から抱きかかえ、耳元でやさしく語りかけていく。

「大丈夫、私はずっと政信のそばにいるよ。安心して。それにみんな政信のこと信じてるから」

 しばらく抱きしめているうちに落ち着きを取り戻し、また深い眠りについたものの。
 あのとき感じた悲しみと怒りは忘れることはない。

 愛しの政信をそこまで追い詰めた千春・邦彦への怒りは、最早抑えようがないほどに成長していた。
 そして、政信をもうこんな風にしないように、精一杯自分の想いを伝えていこうと決心した。

 それ故、ちとせは今回がじつはとっても楽しみだった。
 合法的にボッコボコにする大チャンス。
 向こうが先に手を出せば、あとは正当防衛の名のもとに全てが許される。
 殺しでもしないかぎり、ではあるが。

 と、そんなことを考えているとは露も知らない政信は話を進め。

「じゃあ今週の土曜日、政信の家にお邪魔するでいいんだな?」
「ああ。それで行こう。今回はちとせの親もそうだが、うちの親も参加するらしいしな」
「まじで?」
「ホントらしい。お腹大丈夫なのかって聞いたら、することもないし、むしろうちの息子を傷つけたやつだから、たとえ親友の子でも許さないって」
「それ、ちとせちゃんのご両親は許可してるの?」
「むしろ大賛成してたよ。……だから心配は無用だね」

 自分の子供だろうと容赦しないという発言にもとれるそれに、怯える武弥たちだった。
しおりを挟む

処理中です...