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第3章 修学旅行で何も起こらないなんて誰が決めた? 前半:〇〇が黙っているわけがない

第2話 修学旅行事前準備-1 その2

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 それから30分後。

「だから、そっち入れちゃうとこっち行けないんだってば!」
「でもここは譲れないよ!翌日行けばいいでしょ?」
「かといって翌日に回すことも出来ないの!そもそも朝早くからやってるわけ無いでしょ!」
「でも……」
「でもじゃない!ここだけ経路上から大きくはずれるから入れたら移動時間が滅茶苦茶かかるからどう頑張っても入れられない。それとも伏見稲荷大社を1時間で頂上まで行って降りてこれるって言うなら別だけどね?」
「そっか……。でもこっちだって離れてるよね?」
「こっちは片道徒歩10分圏内!そっちは片道電車で30~50分!違いがありすぎる!」

 口論を続ける政信とちとせの姿があった。
 一方の武弥と彩希は呆れて何も言えない。

 自主研修の予定を組んだのはよい。
 幸い、3日目は姫路城と宮島のみという単純ルートで決まった。
 問題は2日目である。
 当初の予定通り行こうとした場合、順番を入れ替えたとしても、清水寺、伏見稲荷大社、東映太秦映画村、北野異人館街の全てを回るというのは不可能なのである。
 新幹線という最強兵器を使えば相当早足ではあるものの行けなくはない。
 だが、そんな駆け足で見学とか死んでも嫌だし、そもそも京都~神戸で新幹線とか、そもそもJR線を使うということはできない。
 時間を短縮といってもほとんど変わらないのに、わざわざ運賃だけで私鉄の倍、さらに特急券なんて買いたくもない。
 で、東映太秦映画村と北野異人館街のどっちかを削らなくてはならないという結果になったわけである。
 そこでどっちを削るか問題が勃発し、かれこれ10分以上この有様というわけだ。

 しかしその戦いも決着がつこうとしていた。

「ちとせ、東映太秦映画村にしたとして、長くいられても1時間だよ?それでもいいって言うならいいけど?」
「1時間?それだけ?」
「だってここどっちかというと嵐山のほうで、ほかは京都の東側で結構離れているから、移動時間が長いんだよ」
「もし北野異人館街だったら?」
「清水と伏見稲荷でたっぷり時間をとっても北野に1時間いられる計算になるよ」
「たしか北野は行っても、今回はラインとスタバだけだったよね?」
「そう。お金払うならまた今度ゆっくり来ればいいし。そのときに太秦半日とか1日とかいればいいんじゃないか?どうせそのくらい時間取れるだろうし」
「そっか。そうすればいいね。じゃあ今回は北野にしよっか」
「そうだな。それにそのほうが無難だし」
「無難って?」
「言わなきゃ聖地巡礼ってバレなさそうだろ。どこもかしこもそこそこ定番のところだ。北野だけは微妙だけど、文化財とかになってるところもあるし」
「ほぇ~、そこまで考えてたんだ?」
「当たり前だろ、先生にバレてみろ、あとが怖いじゃん」
「ふふっ。これでこそ政信だね」
「?」

 急にニコニコ(ニヤニヤ?というか蕩けた?)顔になったちとせがしんみりとつぶやく。

「いや、これでこそ私が好きになった政信だなって。こうやって何も言わずに、さり気なく気遣いがあるところとか、ね?」
「ちとせ……」

 あまり目立たないことでもちゃんと見てくれてるんだ、という実感がわき、幸せな気分になっていく。

 が、それは許されなかった。

「ちとせちゃん、政信くん、一応授業中だからね?ふたりっきりじゃないからね?」
「おいおい、イチャイチャすんのも大概にしろよ、そこの新婚夫婦」

 そのセリフに、改めて尋問が(場合によっては拷問が)必要だなと感じる俺だった。




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 あれ、新しいあだ名が付いているんだけど……?

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